○アバン・オープニング
明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。鬼の人たちの戦いもかなり大変になってきたみたいで、日々色んな研究がされてるみたいです。そして今日も」
○オープニング曲『輝』
○サブタイトル
三十五之巻『救い出す天使』
○提供ナレーション 梅宮万紗子
○林の中・奥の沼地
大きな木の下に座っている、トドロキと女。
肩越しにトドロキを見つめる女の顔は、既に姫の顔になっている。
ハッと気がついたように腕時計を見るトドロキ。
トドロキ「あ……、そろそろ帰んなきゃ!」
女の顔が、元の顔に戻る。
美しい女「え、今来たばかりなのに……」
トドロキ「し、仕事がありますから……」
首を傾げながら立ち上がるトドロキ。
美しい女「もっと、一緒にいたいのに……」
トドロキ「え、ああ、その……、また明日来るッスから!」
そう言って、躓きながら小走りに帰っていくトドロキ。
美しい女「待ってるわよ!」
背中に受ける女の声にニヤけながらも、咳払いをして自分を取り戻そうとするトドロキ。
○同・林の入口
雷神のところまで戻ったトドロキ。
顔をパンパンと叩く。
トドロキ「イカンイカン! なんかおかしいぞ俺は! こんな事してる場合じゃないんだ! ……でも」
俯いて暗い表情になるトドロキ。
と思うと、頭を振り回す。
トドロキ「ああ、もう! どうすりゃいいんだ俺はぁ~!!」
叫ぶトドロキ。
そして、暮れていく山の空……。
○たちばな・店舗前
カラッと晴れた朝。
太陽の光がまぶしい。
○同・地下作戦室
勢地郎、机上の資料をまとめている。
ザンキ、PCに向かって先日のカマイタチ戦の様子をサンプリング分析中。
ディスクに内容を記録すると、それをPCのドライブから取り出してケースにしまい込む。
ザンキ「……OKです」
勢地郎「(ザンキの方へ歩み寄り)いやあ、悪いねぇザンキ君。また、オフの日に来てもらっちゃって」
ザンキ「いえいえ、お安い御用ですよ」
そこへ、お盆を持った日菜佳が入ってくる。
日菜佳「お茶が入りましたよ~」
勢地郎「ああ、ありがとう」
ザンキ、ちょっとびっくりしたような表情で日菜佳を見て、
ザンキ「あれ、日菜佳ちゃん、いたんだ?」
日菜佳「(机の上に湯飲みを置きながら)え? 何でですか?」
ザンキ「(しまった!という顔つきで)あ、いや、何でも……」
勢地郎「……ところで、トドロキ君は、今日は?」
ザンキ「いや……、それがですね……」
ちょっと困り顔のザンキ。
そこで、日菜佳が会話に割って入る。
日菜佳「トドロキ君、最近オフになっても単身で魔化魍調査に行ってるみたいなんですけど……、ザンキさん、体壊さないようによく見ておいてくださいね!」
ザンキ「(焦った表情で)わ、分かった」
日菜佳、ちょっと怒ったような仕草で出ていく。
勢地郎とザンキが顔を見合わせて、
勢地郎「(小声で)トドロキ君、どうかしたのかい?」
ザンキ「いえ……、今日は朝から用事があるからってはしゃいでたもんですから、てっきり日菜佳ちゃんとデートなのかと」
勢地郎「あ、そう。最近は、会ってないみたいだけどねぇ……」
ザンキ「そうですか……」
ドアの向こうで二人の会話を聞いていた日菜佳。
不安げな表情で階段を上っていく。
○同・居間
日菜佳、居間に入り、座ったり立ったり落ち着かない様子。
やがて意を決したように携帯電話を取り出し、バタッと座り込んでトドロキに電話をかける。
○林の中・奥の沼地&たちばな・居間
結局、今日も美しい女と会っているトドロキ。
二人はいつもの木の下で語らい合っている。
会話もはずみ、お互いに笑い合うトドロキと美しい女。
その時、ふいにトドロキの携帯電話が鳴る。
トドロキ「ああ……、す、すいません……」
携帯電話を取り出すトドロキ、『日菜佳』の着信通知を見て、一瞬焦りを隠せない。
トドロキ「ちょ……、ちょっと待ってていただけますか!?」
美しい女から離れて別の木の陰へ移動するトドロキ。
恐る恐る電話に出る。
トドロキ「(裏返った声で)あ、も……、もしもし!?」
× × ×
画面、交互に日菜佳、トドロキ。
日菜佳「あ、トドロキ君? ご、ごめんなさい、仕事中……です
よね?」
× × ×
トドロキ「あ、そ……そのぅ、ちょっと今日は、……む、昔の同僚に会ってまして、はい!」
× × ×
日菜佳「ああ! そうなんですか、ごめんなさい! いや~、どうしてるのかな~なんて思っちゃったりしたもんですから」
× × ×
トドロキ「あ……あ、すいません! あ、いや、ありがとうございます!」
汗だくのトドロキ。
どうにもいたたまれなくなって、
トドロキ「……じゃあ切りますんで、お気遣いどうもです!」
ためらいながらも電話を切るトドロキ。
そして溜め息一つ……。
× × ×
不自然に切られた電話を見て考え込む日菜佳。
日菜佳「ふ~ん……」
そこへ、香須実がバタバタと音を立てて入ってくる。
香須実「ちょっと日菜佳、何やってんの! 店の方、混んできたわよ!」
日菜佳「ああ、はい! ゴメンナサイ!」
慌てて出ていく日菜佳。
× × ×
一方、トドロキの方も、複雑な表情をしたまま美しい女のもとに戻っていく。
トドロキの姿を確認するや、にこやかにウインクする女。
その途端に、元のニヤけ顔に戻ってしまうトドロキ。
再び木の下に座り直し、二人の甘い時間が流れていく……。
○城南高校・校門前の道
校門近くの壁沿い、竜巻にもたれて立っているイブキ。
明日夢とひとみが校門から出てくる。
イブキ、そこに気付いて声をかける。
イブキ「……明日夢君!」
イブキに気付く明日夢。
明日夢「あ、イブキさん!」
イブキに近付く明日夢。
軽く会釈するひとみ。
それに応えるイブキ。
イブキ「明日夢君、今日、たちばなのバイトの日だよね?」
明日夢「はい、今から行くところですけど」
イブキ「ちょっと、代わりに手伝ってほしいことがあるんだ」
明日夢「え、何ですか?」
イブキ「こっちの病院に移ってたあきらが今日退院するんで、一緒に来てほしいんだけどな。……ああ、たちばなの許可は、もう取ってあるんだ」
明日夢「あ、分かりました! ……良かったですね、早く退院できて」
ひとみ、びっくりしたような表情で、
ひとみ「え? 天美さん、入院してたの?」
明日夢、ちょっと戸惑った様子で、
明日夢「あ、言ってなかったっけ? ……そうなんだ、ちょっと、……体調崩してたって感じで……」
ひとみ「そうなの……」
表情が曇るひとみ。
イブキ「じゃ、後ろに乗って。ゴメンね、ひとみちゃん。明日夢君、借りちゃって」
ひとみ「あ……、いえいえそんな!」
バタバタと手を振るひとみ。
明日夢、イブキのバイクの後ろにまたがり、ヘルメットを被る。
イブキ、ヘルメットを被って竜巻を発進させる。
明日夢を後ろに乗せた竜巻が、その場を走り去る。
それを見送るひとみ。
その表情は一転、また曇っていく……。
《CM》
○たちばな
机を拭く勢地郎と日菜佳。
入口の扉が開き、ザンキが入ってくる。
ザンキに気付く日菜佳。
日菜佳「あ、ザンキさん! おはようございますぅ!」
ザンキ「ああ、おはよう。……おやっさん、すいません」
勢地郎の方へ行くザンキ。
ザンキ「トドロキのやつが急にどうしても休みが欲しいって言い出したもんで……、シフト調整、できますか?」
ピクッと反応する日菜佳。
勢地郎「珍しいねぇ、いつもジッとしてられないタイプのトドロキ君が。ま、シフトの方は、ヒビキが今日フリーになっているので、そっちへ廻ってもらうと問題はないんだけど……」
そう言いながら、チラッと日菜佳を見る勢地郎。
日菜佳「……ザンキさん、何かありますよコレは!」
ザンキ「え?」
勢地郎「確かに、今までのトドロキ君にはないパターンだねぇ」
ザンキ「何かって……」
日菜佳「分かりませんが……、これは女の勘です。さ、急ぎますよ!」
日菜佳、そう言いながらエプロンをはずしてザンキの傍に駆け寄る。
そしてザンキの腕を引っ張って、外へ出ようとする。
ザンキ「おいおい!」
日菜佳、構わずザンキを外へ連れ出そうとする。
そこへ、入口の扉が開いてヒビキが入ってきて、日菜佳とぶつかる。
ヒビキ「ただい……、おっと! ……日菜佳ちゃん?」
ヒビキとぶつかった鼻を押さえて、しかめっ面の日菜佳。
日菜佳「ふにゅ~……、(サッと振り返り)ザンキさん! さ、急いで!」
ザンキの手を引っ張って外へ出ていく日菜佳。
ヒビキ、その様子を不思議そうに見送って、
ヒビキ「……何なんですか?」
勢地郎「えっと……」
答えづらそうな勢地郎。
○トドロキの自宅前
雷神ではなく、自家用車で出掛けようとしているトドロキ。
物陰からそれを覗いているザンキと日菜佳。
トドロキ、自家用車に乗り込んで発車。
ザンキと日菜佳、それを見て素早くトドロキの自宅前へ走る。
駐車してある雷神に合鍵を差し込んでドアを開けるザンキ。
二人、無言で雷神に乗り込む。
そして、静かに発車。
○トドロキの車を追う雷神
トドロキの車を尾行する雷神。
中では、鬼気迫る表情の日菜佳。
その横で圧倒されるように運転するザンキ。
見つからないように、何台か別の車を挟んで慎重に雷神を走らせるザンキ。
○林の入口
トドロキの車が例の林の入口に停車。
車から降りて、いそいそと林の中へと降りていくトドロキ。
後方からやってきた雷神。
トドロキの車の傍に停車。
ザンキ「ここは……」
ザンキと日菜佳、雷神から降りる。
そしてトドロキを追って林の中へと降りかける。
と、そこでザンキの携帯電話が鳴る。
電話に出るザンキ。
ザンキ「もしもし。……はい、……はあ、なるほど、分かりました」
ザンキ、電話を切ると雷神に戻ってバックラックを開け、
トドロキの烈雷を取り出す。
烈雷を肩にかけ、雷神のバックラックを閉めるザンキ。
日菜佳「(振り向いて)ザンキさん?」
ザンキ「行くぞ!」
勢いよく土手を降りていくザンキ。
日菜佳「あっ」
慌ててそれを追う日菜佳。
○林の中・奥の沼地
笑顔で林の中を走るトドロキ。
そして、例の木の下へやってくると、やはり今日も美しい女が座っていた。
トドロキ「やあ!」
軽く手を挙げて美しい女に近付くトドロキ。
美しい女は、喜びいっぱいの表情でトドロキに近付く。
ザンキと日菜佳が少し離れた木の陰へとやってくる。
美しい女が、トドロキに抱きつく。
ニタニタと笑うトドロキ。
別の木の陰からそれを見た日菜佳、みるみる顔が紅潮して、
日菜佳「ト……、トドロキ君!!」
飛び出していこうとする日菜佳を、ザンキが腕を引っ張って止める。
ザンキ「待て!」
日菜佳「だって……!!」
ザンキ「いいから待つんだ、日菜佳ちゃん」
ザンキ、日菜佳を何とか諌める。
一方、大きな木の下にゆっくりと座るトドロキと美しい女。
そして和やかに話し始める。
トドロキ「いやあ、今日も会えて嬉しいッスよ~!」
ニヤけた顔で、照れ隠しに足元の草をむしり取るトドロキ。
美しい女「私もよ、トドロキさん……」
そう言いながら、トドロキの首筋に顔を近付ける美しい女。
と、その時、女の顔がグニャグニャッと変形し、右半分が姫、左半分が童子の顔になった!
そして、ギラつく目つきで口を大きく開ける童子姫!
素早く黄金狼を放つザンキ。
童子姫の顔面にとり付く黄金狼。
童子姫「うっ!」
よろけて倒れる童子姫。
トドロキ「え?」
振り向くトドロキ。
変化した女の顔を見てのけぞる。
トドロキ「う、うわあああああああ!!」
ザンキ、木の陰から飛び出して、
ザンキ「トドロキ! 変身しろ!!」
トドロキ「(声のする方を振り向き)ザ、ザンキさん……!?」
黄金狼が再び童子姫を襲うも、叩き落とされる。
そして童子姫は、さらに首から下もドロドロのナメクジのような体に変形し、二倍ほどの大きさに膨れ上がった!
トドロキ、ようやく状況を把握して、たどたどしく音錠を鳴らす。
雷鳴が轟き、トドロキが変身!
ザンキ、轟鬼に烈雷を投げる。
キャッチする轟鬼。
しかしまだ戸惑っている。
轟鬼「何で!? 何で!? 何で!?」
ザンキ「轟鬼! いいから音撃だ!」
轟鬼「う、うわ~~~~!!」
無我夢中で童子姫が変化したバケモノに向かっていく轟鬼。
烈雷の剣撃で切り裂く。
ひるんだところ、胴体に烈雷を思いっきり突き刺す!
轟鬼「お……、音撃斬・雷電激震!」
多少乱調気味の音撃の音色。
その威力が、徐々にバケモノの体内に浸透していく。
そして、爆発!
顔の変身を解いて、ガックリとヒザをつくトドロキ。
ザンキ、近寄って、
ザンキ「危なかった」
トドロキ「(茫然自失の表情から)ど、どういうことなんスか!? ザンキさん!」
ザンキ「あれはな、男を誘惑してエサにするタカオンナという伝説の魔化魍だ。おまけに、童子であり、姫でもあり、同時に魔化魍でもあったとは末恐ろしいヤツ……」
茫然としているトドロキ。
そこへ日菜佳が近付いてくる。
トドロキ「ひ、日菜佳さん!」
ザンキ「トドロキ! 日菜佳ちゃんによく礼を言っておけよ。彼女がいなかったら、お前は助かってなかったかもしれない」
日菜佳「トドロキ君……」
トドロキ「日菜佳さん……」
互いに近寄る二人。
と、そこで日菜佳がトドロキの頬に一発平手打ち!
トドロキ「痛て!!」
頬を押さえて尻餅をつくトドロキ。
日菜佳「トドロキ君! 今度こんな事になったら、もう知りませんからね!!」
頬を押さえたままのトドロキ、自分の情けなさに大いに落ち込む。
ザンキ「トドロキ! 俺が教えた鬼の心得を言ってみろ!」
トドロキ、スクッと立ち上がり、
トドロキ「……は、はい! ……一つ! 常に平常心で事にあたるべし! 一つ! 常に力まず、自然体を心掛けるべし! 一つ! 常に周囲に気を配り、視野を広く持つべし! 一つ! 常に笑顔を忘れず、女性には……、(日菜佳を見て)優しく接するべし!」
ニコリと微笑む日菜佳。
ザンキ「フッ……」
微笑み合う三人。
沼地に差し込む日の光は、澱んでいたそれまでの空気を吹き飛ばすかのような晴れやかなものに……。
○三十五之巻 完
○エンディング曲『少年よ』
○次回予告
山の中腹で戦う裁鬼。
裁鬼「ノツゴか……、十年ぶりだな」
たちばなで話す猛士の面々。
香須実「……ひとみちゃん! ね、まあ座って、お茶でもどう?」
たちばな地下で話す猛士の面々。
ヒビキ「シュキって、まさかあの……」
三十六之巻『飢える鬼』
○提供ナレーション 梅宮万紗子