真・響鬼   作:三澤未命

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三十四之巻『恋する姫』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。鬼の人たちの戦いもかなり大変になってきたみたいで、日々色んな研究がされてるみたいです。そして今日も」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十四之巻『恋する姫』

 

○提供ナレーション 梅宮万紗子

 

○トドロキの自宅前

 ガレージの中で、雷神のバックラックに荷物を積み込んでいるトドロキ。

 積み終えて、ラックをバタンと閉める。

ザンキ「よし、行くぞ」

 ザンキ、そう言って助手席のドアを開いて雷神に乗り込む。

トドロキ「はい!」

 トドロキ、小走りに運転席に向かってドアを開ける。

 助手席に乗り込んだザンキがふと気付いたように、運転席でシートベルトを締めようとしているトドロキに話しかける。

ザンキ「……ちょっと待て。ん~、今日から俺が運転する」

トドロキ「え!? 何でですか!?」

ザンキ「俺は、もうお前のサポーターなんだぞ? よく考えたら、運転なんて俺の仕事だ。今まで気付かなくて悪かった」

 車を降りようとするザンキ。

トドロキ「ちょっ、待ってくださいザンキさん! いいッスよ、ザンキさんにそんな事させられないッスよ! 運転は自分がやりますから……」

ザンキ「バカ言うな。さっさと降りろ!」

 車を降りて運転席に向かうザンキ。

 戸惑いながらも運転席から助手席に移動するトドロキ。

 困った表情だが、内心は喜びいっぱいのトドロキ。

 ザンキ、運転席に乗り込み、雷神を発車させる。

 

○目的地へ向かう道

 疾走する雷神。

 トドロキ、ザンキの運転する姿を横目で見て、満足そうな笑みを浮かべる。

 と、信号で急ブレーキがかかり、思わず前のめりになるトドロキ。

トドロキ「うわーーお!」

 トドロキ、若干言いにくそうに、

トドロキ「……ザンキさん、運転荒いッスね」

ザンキ「そうか? そいつはスマンな」

 信号が青に変わり、急発進する雷神。

 今度は座席に張り付くようになるトドロキ。

トドロキ「エェェェ……?」

 ちょっと不安げなトドロキ。

 

○山道の途中

 山道を走る雷神。

 崖道から視界が開け、左側に林が見えてくる。

 道路の少し広くなった部分に、雷神を停車させるザンキ。

 ザンキとトドロキが雷神から降りる。

ザンキ「この辺りだな。おやっさんが言ってた謎の気配があるところってのは」

トドロキ「……なんか、気味悪いッスねぇ」

 そう言いながら、腰からディスクアニマルを数枚取り出すトドロキ。

 音錠を鳴らし、ディスクをアニマル形態に変化させる。

 順々に林の中に入ってい緑大猿たち。

トドロキ「頼むッスよ!」

 

○たちばな

 バイトに来ている明日夢。

 店頭で、日菜佳とともに忙しく動き回っている。

 明日夢、先日のコンクールで自信をつけたのか、その動きは溌剌とした感じだ。

 会計を済ませた客が店から出ていく。

明日夢「(机を拭きながら、その客の方を見て)ありがとうございました!」

 日菜佳、明日夢の方へ近付く。

日菜佳「……明日夢どの~、なんか元気いっぱいでござるね~」

明日夢「そ、そうですか?」

 笑顔で答える明日夢。

日菜佳「いやいや、やっぱり人間、元気が一番! 元気があれば、何でもできる!ってね!」

明日夢「何ですか、ソレ?」

日菜佳「え? あ~、いやいや! じゃ、これ奥に持っていっといてくれる?」

 日菜佳、そう言って明日夢に食器の乗ったお盆を渡す。

明日夢「分かりました!」

 お盆を持って、奥の台所へ行く明日夢。

 

○同・台所

 お盆を持った明日夢が入ってくる。

 と、そこには戸棚からお菓子をツマミ食いしているみどりの姿が。

明日夢「あ、みどりさん」

 みどり、その声に振り返る。

みどり「(片手にお菓子を持ったままで)見~た~な~?」

 そう言って、みどりは持っていたお菓子をパクッと口に入れて、戸棚を静かに閉める。

 ムシャムシャゴックンとお菓子を飲み込むと、口に人差し指を当てて、明日夢に口止めのサインを送るみどり。

 クスッと笑う明日夢、みどりの横を通ってお盆を流し台の置く。

みどり「……そうだ! ねぇねぇ明日夢君、ちょっと一緒に来て」

明日夢「え? 何ですか?」

みどり「いいから、いいから」

 みどり、そう言いながら、明日夢の手を取って台所を出ていく。

 

○同・地下研究室

 みどり、先日見事に完成した新型の音撃棒・烈火を明日夢に見せる。

みどり「これ見て~。私の会心の一作!」

 烈火を手に取る明日夢。

明日夢「これって……」

みどり「うん、見た目はね、普通の音撃棒と変わらないんだけどねぇ、この先から出る炎が長~く伸びて、ムチのようにしなる剣になるのよ~!」

明日夢「へぇ~」

 烈火を持ち上げて興味深そうに見つめる明日夢。

みどり「もっとも、ヒビキ君くらいの段位者でないと使いこなせないんだけどね」

 フムフムと感心する明日夢。

みどり「他にもね~、今色々と研究中のがあるのよ~」

 そう言ってガサゴソと机をまさぐるみどり。

 机の上の資料がバラバラと崩れ落ちる。

 その、風貌とは裏腹ながさつな動作を見て、思わず吹き出す明日夢。

 

○林の中

 ベースキャンプを張っているザンキとトドロキ。

 ザンキ、地図をチェックするトドロキに話しかける。

ザンキ「トドロキ……、お前も一人前になったな」

トドロキ「え? やだなあザンキさん! 俺なんかまだまだッスよ~! ……でも、確かに最近、もう俺がしっかりしなきゃいけないんだな~なんて思ったりもしますけどねぇ。……あ、ちょっと偉そうだったッスか?」

 微笑むザンキ。

 そこへ、緑大猿が戻ってくる。

 ピョンと飛んでディスク化し、それをトドロキがキャッチ。

 音錠でディスクを再生するトドロキ。

トドロキ「(ディスクを読み取って)あ、当たりッス!」

ザンキ「よし、行ってこい!」

トドロキ「はい!」

 トドロキ、烈雷を肩にかけ、緑大猿の後について颯爽と飛び出していく。

 

○同・奥の沼地

 林の奥、中央に小さな沼がある場所。

 その周り、木々が立ち並ぶ辺りをトドロキが歩く。

 と、一本の大きな木の陰で、一人の美しい女性が頭をおさえてしゃがみ込んでいる。

 近付いて、声をかけるトドロキ。

トドロキ「だ、大丈夫ですか?」

美しい女「うう……」

 頭をおさえてる苦しむ女。

 トドロキが抱き起こし、

トドロキ「怪我は、ありませんか!?」

美しい女「……大丈夫です。なんか変な生き物がいきなり出てきたので、驚いてしまって……」

 顔を上げた女。

 その白い肌が、沼地の妖しい空気とそこに差し込む光でさらに艶かしく輝く。

 ドキッとするトドロキ。

トドロキ「この辺りは危険ですよ。早く離れた方がいいです!」

美しい女「ありがとう。……優しいお方」

 照れたような仕草をする女。

 それを見て、思わず赤くなるトドロキ。

トドロキ「え! あ、いやあ……。その、送りますよ。さ、行きましょう」

美しい女「いえ、大丈夫です。家はすぐそこですので……。ありがとうございました」

 そう言って、ゆっくりと立ち上がる女。

 トドロキに深々と礼をして、振り向き、静かに木と木の間に消えていく。

 トドロキ、その姿をポーッとした表情で見送る。

 しばらくして、ハッと気がついたようにブルブルッと顔を揺らし、小走りにその場を離れる。

 

○同・ベースキャンプの地

 小走りにキャンプ地に戻ってくるトドロキ。

トドロキ「……すいません、どうも逃げられちまったみたいで」

ザンキ「そうか。じゃ、もう少し移動してみよう」

トドロキ「はい!」

 素早く荷物を車に積み込む二人。

 緑大猿が一匹ピョンピョン飛び跳ねていたが、気にせずトドロキはこれを回収してバッグに詰め込む。

トドロキ「よっしゃ!」

 雷神に乗り込むトドロキ。

 ザンキの運転で発進する雷神。

 

《CM》

 

○たちばな・地下研究室

 実験用のディスクアニマルを興味深く見つめる明日夢。

明日夢「天美さんは、もうこのディスクを読み取ったりできるんですよね」

みどり「うん。あきらクンは今、序の六段っていう段位にいるの。そこまでいくと、もう鬼の一歩手前だから、基本的な能力はほとんどついてるのよね」

明日夢「……鍛えてるってわけですね」

みどり「(笑って)そうね。でもねぇ、私たちだって、こういったサポートを通じてしっかり鍛えてるのよ~」

 みどりの声を聞きながら、机の上の道具を恐る恐る触っていく明日夢。

 みどり、その様子を見ながら、

みどり「……明日夢君はさあ、将来の夢ってあるの?」

明日夢「え? あ、そうですねぇ。今はまだこれといって……」

みどり「やっぱり、音楽関係?」

明日夢「まあ、好きですけど……。でも、その道で将来やってくかどうかなんて、正直なとこ、今は考えられないですねぇ」

みどり「……ヒビキ君の弟子になろう、とは思わないのかな?」

明日夢「え!? 僕がですか!?」

みどり「明日夢君自身、こうやって猛士の事を色々知っちゃって……、ヒビキ君も、明日夢君のこと、いっつも気にかけてるみたいだもんね」

明日夢「僕には、無理ですよ~。それに、ヒビキさん、僕のこと弟子にする気はないみたいですし……」

みどり「そうかなあ……。私にはそうは思えないけどなあ……」

 その時、明日夢の携帯が鳴る。

明日夢「(電話に出て)はい! あ、日菜佳さん。……す、すいません! すぐ戻ります!」

 慌てて電話を閉じる明日夢。

明日夢「店番してたの、すっかり忘れてました! ……すいません、失礼します!」

 そう言って駆け足で戻っていく明日夢。

 何とも言えぬ笑顔で、明日夢の後姿を見送るみどり。

 

○謎の洋館

 実験器具が並ぶ机の前に座っている、和服姿の男女。

 女が、試験管の中に残った焦げクズのようなものを見ながら、それを振り回して呟く。

女「ダメだったようねぇ……」

 一方、机の上の大きな箱の中を覗き込む男。

男「いや、実験は失敗したわけじゃないよ。……今度は応用編だ」

女「うまくいくといいけど」

 そう言って、女は持っていた試験管をポイッとゴミ箱に捨てる。

 箱の中をジッと見つめて、ニヤリと笑う男。

 洋館の外では、大ガラスの鳴き声がこだまする……。

 

○たちばな

 客のいない店頭。

 テーブルで談笑するヒビキとザンキ。

 入口の扉がガラガラと開き、トドロキが入ってくる。

トドロキ「こんにちは~」

ヒビキ「お~トドロキィ、どうした?」

トドロキ「あ、ちょっと雷神のETCカードを交換に……」

ザンキ「お前、今日はオフじゃないのか?」

トドロキ「あ、いや……、どうも気になる地域がありますんで、調べておきたいな~と思いまして……」

 そう言いながら奥へ引っ込んでいくトドロキ。

 その姿を、キョトンとした表情で見つめるヒビキとザンキ。

ザンキ「あいつ、ここんとこ休みなしに動き回ってるんだよなあ」

ヒビキ「ま、今が一番動きたい時なんじゃないんですか?」

ザンキ「それならいいんだが……」

 ちょっと心配そうな眼差しのザンキ。

   ×   ×   ×

トドロキ「(奥から聞こえる声)ありがとうございました!」

 暖簾をくぐって、奥から出てくるトドロキ。

 続いて出てきた勢地郎。

トドロキ「じゃ、ちょっと行ってきます!」

 勢地郎に挨拶し、ヒビキとザンキに軽く会釈をして出ていくトドロキ。

勢地郎「トドロキ君、張り切ってるねぇ」

ザンキ「ええ。つぶれなきゃいいんですが」

勢地郎「ま、若い内はあれくらい元気がないとね。……それはそうと、ちょっと来てくれないかなあ、二人とも」

 勢地郎、そう言って、ヒビキとザンキを誘って地下へと向かう。

 ヒビキとザンキ、不思議そうに顔を見合わせ、立ち上がって勢地郎の後を追う。

 

○同・地下作戦室

 勢地郎、地下の部屋に入り、PCのキーボードを叩く。

 後ろから、続いてヒビキとザンキが部屋に入ってくる。

勢地郎「こないだ調べてもらったところなんだけど……」

 モニターを覗くヒビキとザンキ。

 勢地郎、机上の古い書物をパラパラとめくる。

勢地郎「この現象、どうもこれに似てるような気がするんだけどねぇ……」

 そう言って、机上の書物に目を遣る勢地郎。

 ヒビキとザンキもそこに目を移す。

ヒビキ「……タカオンナ?」

 顔を見合わせる三人。

 

○走る雷神

 沼地のある林に向かって、雷神をかっ飛ばすトドロキ。

 かなりのスピードで走る雷神。

 

○雷神の中

 トドロキが鼻歌を歌いながら運転。

 その表情はとてもにこやかだ。

 

○走る雷神

 トドロキの気持ちの高揚をそのまま表すかのような雷神の走り。

 目的地に一直線。

 

○たちばな

 閉店準備中の明日夢と日菜佳。

 日菜佳、レジで精算作業をしている。

 一方、明日夢は店頭の椅子を順々に机の上へ。

明日夢「(椅子をひと通り上げ終わって、額の汗を拭いながら)ふぅ……」

 レジから日菜佳が近寄る。

日菜佳「お疲れさま~!」

明日夢「お疲れ様です」

 ここで電話が鳴る。

日菜佳「ハイハイハイ」

 電話に走り寄る日菜佳。

日菜佳「はい、たちばなです。……あ、イブキさん? ……はい、そうですか、分かりました。あ、ところで、あきらクンの様子はどうですか? ……(ニコリと笑って)ああ、そうですかあ、そりゃあ良かった。はい、じゃあ父上に言っておきます。はい、どうも~」

 電話を切る日菜佳。

明日夢「(ちょっと不安げな表情で)天美さん、どうかしたんですか?」

日菜佳「(ハッとして)あ、ああ~、あの、ちょっとねぇ……」

 日菜佳、ちょっと考えた上で、

日菜佳「……まあ、明日夢君ならいいっか。実はね、あきらクン、こないだちょっと大変な目に遭って今入院中なのよ~」

明日夢「ええっ!? そうなんですか!」

日菜佳「うん、でももう大丈夫みたいで、そろそろ退院できそうだって」

明日夢「そうですか……」

 ホッとした表情になる明日夢。

 

○沼地のある林

 林の入口で雷神を停車させるトドロキ。

 車から降りて、いそいそと林の中へ降りていく。

 林の中を歩くトドロキ。

 そして、中央に沼地のある林の奥へと入り込み、大きな木の下に座っている美しい女を見つけると、そこへ駆け寄って声をかける。

トドロキ「こ、こんにちは!」

美しい女「(顔を上げて)うふ……、やっぱり来てくださった」

トドロキ「……いやあ! たまたま仕事場が近くなんもんで」

 そう言いながら、美しい女の横に座るトドロキ。

美しい女「嬉しいわ。お仕事の合い間にこうやって毎日会いに来てくれるなんて」

 トドロキに寄り添う女。

 女、トドロキの腕に抱きつき、頬をトドロキの肩にあてる。

 至福の表情のトドロキ。

 肩越しにトドロキを見る女。

 次の瞬間、その顔がなんと姫の顔に変化する!

 そしてわずかに上がる、その口元……。

 

○三十四之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 電話で話すトドロキと日菜佳。

日菜佳「ごめんなさい、……いや~、どうしてるかな~なんて、ちょっと思ったりしたもんですから」

 学校の前で話すイブキ、明日夢、そしてひとみ。

ひとみ「え? 天美さん、入院してたの?」

 沼地の木の下で女と会うトドロキ。

トドロキ「いやあ、今日も会えて嬉しいッスよ~」

 三十五之巻『救い出す天使』

 

○提供ナレーション 梅宮万紗子


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