真・響鬼   作:三澤未命

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三十二之巻『弾ける鼓』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。鬼の人たちの活躍は日々続いているようで、天美さんもどうやら無事だったようです。そして僕は……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十二之巻『弾ける鼓』

 

○提供ナレーション 川口真五

 

○吉野本部・病室

 ベッドに寝ているあきら。

 ノックとともに静かにドアが開き、イブキが入ってくる。

イブキ「どう? 具合は」

 あきら、イブキの方を向いて、

あきら「大丈夫です」

 イブキ、あきらの傍に座る。

あきら「……本当にすいませんでした、イブキさん」

イブキ「まだ言ってる。あきらのせいじゃないって」

あきら「でも、私のためにイブキさんや本部の方たちに迷惑をかけてしまって……」

イブキ「もういいって」

 優しく語りかけるイブキ。

 安心したような表情になるあきら、笑顔のままで天井を見ながら、

あきら「……イブキさんが助けてくれたって聞いた時、私、ホントに嬉しかったです。……イブキさんの弟子で、ホントに良かったな、って」

 照れるイブキ。

あきら「でも、これでまた段位アップが先になっちゃいましたね。一歩後退かなあ」

イブキ「焦ることないんだよ。あきらは、ここまで本当に順調に来てるんだから。全然遅れてやしないんだから。今は、体を治すことだけを考えて、ね」

あきら「……はい。ありがとうございます」

 病室には、秋の日差しがまぶしく差し込む……。

 

○城南高校・廊下

 廊下を早足に歩く明日夢。

 前を歩く桐矢に近付き、後ろから声をかける。

明日夢「……桐矢君!」

 振り返る桐矢。

桐矢「(不機嫌な表情で)なんだ、安達か」

明日夢「桐矢君、俺思うんだけど……、やっぱり、君がドラムをやるべきだよ!」

桐矢「ああ? 何言ってんだ。俺は手首折ってるんだぜ? できるわけないじゃん!」

明日夢「……でも、お父さんに見てもらえる最後のチャンスなんだろ?」

 桐矢、明日夢から目をそらして、

桐矢「フン、あんな忙しい親父が来てくれるもんか! (明日夢を睨みながら)もういいんだよ、どーでも! 俺の事はほっといてくれ!」

 踵を返して走り去る桐矢。

 明日夢、その後ろ姿を悲しげに見つめ続ける。

 

○たちばな・地下作戦室

 壁の穴から日菜佳の手が出てきて、ブラブラと揺れる。

香須実「ハイハイハイ」

 そこへ近寄っていく香須実。

 その手を取って、香須実が日菜佳を引き上げる。

日菜佳「あ~もう埃っぽいったら!」

 壁から出てきた日菜佳、そう言いながら服をパタパタとはたく。

勢地郎「(机上の資料をパラパラとめくりながら)もうこんなところかい?」

日菜佳「ん~、あとはもう、技術書の類とか歴史のご本ばっかですね~」

ヒビキ「これだけ探しても、手掛かりなしですか……」

勢地郎「う~ん、あまりに特殊なケースばかりだしねぇ……。あと、もう一つ気になっているのは、今朝方石割君から連絡があった奥多摩の妙な現象なんだ」

ヒビキ「……と言いますと?」

勢地郎「なんでも人がズタズタに切り刻まれてはいるんだけど、傷跡がどれも妙に整っていて、血の跡が一切ないっていうんだよねぇ……」

ヒビキ「どっかで聞いたような話ですね」

勢地郎「ともかく、サバキ君が無理できる状態じゃないので、君たちもそっちの調査に行ってもらえるかなあ」

香須実「OKOK! ウチらのチームは何でも屋ってね。あ、不知火号は戻ってんの?」

勢地郎「ああ、さっき本部の滝君が運んできてくれたよ」

ヒビキ「おーし! じゃ、行きますか!」

 立ち上がるヒビキ。

 

○同・店舗前

 店の前をうろうろする明日夢。

 入るか入るまいか迷っている様子。

 その時、入り口からヒビキと香須実が出てくる。

 ヒビキが明日夢に気付く。

ヒビキ「お、少年! どうした?」

明日夢「あ、いえ……」

 明日夢の悩んでいるふうな表情を察知したヒビキだったが、

ヒビキ「……あ、悪いな、少年。ちょっと仕事なんだ。……そうだ! 夜までには帰れると思うからさ、今晩一緒にメシでも食うか?」

 みるみる笑顔になる明日夢。

明日夢「……は、はい!」

 不知火の横でイライラする香須実。

香須実「……ちょっと! 行きますよ!」

 ヒビキ、香須実の方を振り返りながら、

ヒビキ「じゃーな! 行ってきます」

 いつものポーズとともに、不知火に乗り込んでいくヒビキ。

 助手席に座ったヒビキ。

 香須実は運転席ですまし顔。

香須実「……ヒビキさ~ん、そんなに気になるんだったら、明日夢君のこと、弟子にしちゃったら~?」

ヒビキ「(ごまかすように)何言ってんの。さ、仕事仕事!」

香須実「(柔和な笑みを浮かべながら)ハイハイ。それじゃあ、レッツゴー!」

 急発進する不知火。

 助手席で大きく揺れ動いておっかなびっくりのヒビキ。

 

○謎の洋館

 奇妙な実験器具が並ぶ一室。

 和服姿の男が、机上の大きな箱を覗いている。

男「今度の実験は、うまくいきそうだ」

 そこへ、和服姿の女が近付く。

女「実験のための実験のせいで、結構生態系壊してるわよ?」

男「どうってことないさ。この実験がうまくいけば……」

 二人で大きな箱の中を見つめ、ニヤニヤと笑い合う。

 

○明日夢の自宅・玄関

 呼び鈴が鳴り、明日夢の母・郁子が玄関へ走っていく。

 郁子がドアを開けると、そこにはにこやかな表情のヒビキが立っていた。

ヒビキ「こんばんは~」

郁子「ヒビキさ~ん、お待ちしておりましたよ! もうね、ヒビキさんが来てくれるってんで、ご馳走作って待ってましたのよ~。ま、どうぞどうぞ! さあ、どうぞ!」

 ヒビキを手招きしながら家の中へ迎え入れる郁子。

 ヒビキ、会釈を繰り返しながら、玄関から上がる。

 と、台所から廊下に顔を出す明日夢。

 ヒビキ、明日夢の姿を確認し、

ヒビキ「よっ」

 明日夢、ペコリと頭を下げる。

 

○同・リビング

 ご馳走が並ぶテーブル。

ヒビキ「おっ、凄いですね~。さっすがお母さん!」

 そう言いながら席に座るヒビキ。

郁子「もう、いや~ねぇ! さあさ、たっくさん食べてくださいね~! ……明日夢もホラ、早く座りなさい!」

明日夢「あ、うん……」

 席につく明日夢。

ヒビキ「(両手を合わせて)いただきます」

郁子「どうぞどうぞ!」

 食べ始めるヒビキ。

ヒビキ「……ん~、いけますね、この鯖の煮付け!」

郁子「あら、いやだ! そうでしょう、ホホホホッ」

 照れ笑いする郁子。

 そんな郁子をしょうがないなといった表情で見つめながら、無言で箸を動かす明日夢。

 ヒビキ、そんな明日夢の暗い表情を気にしながらも、郁子の話に相槌を打って適度に笑う。

 

○同・明日夢の部屋

 ベッドの上で力なく座っている明日夢。

 部屋の端に座っているヒビキ。

ヒビキ「……そっかあ。つらい立場だな~、少年も」

明日夢「なんか、素直に喜べない感じって言うか……、正直、練習にも身が入んなくって。……情けないですね、僕」

ヒビキ「ま、そうやって他人の事を考えて引いちゃうところが、少年の優しいところなんだろうけどな」

 ヒビキ、立ち上がって本棚の前の置物を触りながら、

ヒビキ「……お前は俺の代わり、か。少年の友達もうまいこと言うね」

明日夢「え?」

ヒビキ「少年。少年はさ、彼の代わりなんだよ。彼の代わりに堂々とドラムを叩いてやればいいんじゃないかな。……引くばっかりが、人のためになることじゃないぜ?」

明日夢「はあ……」

 まだ吹っ切れない明日夢の様子を、ヒビキは楽しむように見つめる。

ヒビキ「で、明日が本番ってわけだ」

 考え込んだ様子の明日夢。

ヒビキ「(横を向いたまま)少年! 今晩、泊まっていいか?」

明日夢「え!? ……は、はい!」

 笑顔を見せる明日夢。

 そして、夜は更けていく……。

 

《CM》

 

○明日夢の自宅・台所

 明日夢に持たせるための弁当を作っている郁子。

 

○同・明日夢の部屋

 ベッドで寝ている明日夢。

 床の布団で寝ていたヒビキ、パチッと目を開けて、ゆっくりと起き上がる。

 寝ている明日夢の方を見て、笑顔で無言のポーズ。

 

○同・廊下

 明日夢の部屋からそっと出るヒビキ。

 廊下を、音を立てないように気を遣いながら歩く。

 と、台所から出てきた郁子とバッタリ。

郁子「あら、ヒビキさん! おはよ……」

ヒビキ「(口に人差し指を縦に当てながら小声で)少年、まだ寝てますから……。じゃ、仕事がありますんで、行きますね」

郁子「(小声で)まあまあ、なんにもお構いもしませんで」

ヒビキ「(小声で)いえいえ、ごちそうさまでした」

 玄関へと歩き、靴を履くヒビキ。

 立ち上がり、ドアを開ける。

ヒビキ「では」

郁子「(ニコニコした表情で)行ってらっしゃいませ!」

 満足そうにヒビキを見送る郁子。

 

○たちばな・店舗前

 不知火にもたれかかって、時計をチラチラ見る香須実。

 そこへ、ヒビキが走り寄ってくる。

ヒビキ「よっ、お待たせしました」

香須実「(からかうように)おやおや、朝帰りですか~?」

 ニヤニヤと笑いながらヒビキの顔を覗き込む香須実。

ヒビキ「そういう言い方はないでしょ? 少年とね、男と男の話ですよ」

 そう言いながら、不知火の助手席に乗り込んでいくヒビキ。

香須実「(笑いながら)あらあら、そーですか」

ヒビキ「(車内で)香須実さん! 何やってんの!」

香須実「あ、ハイハイ!」

 運転席に乗り込んでいく香須実。

 

○明日夢の部屋

 目覚まし時計が鳴る。

 飛び起きる明日夢。

 ふと床の方を見ると、布団が隅の方にキチンとたたまれて置いてある。

明日夢「ヒビキさん……」

 ベッドから降りて、部屋のドアを開けて叫ぶ明日夢。

明日夢「母さん! ヒビキさんは!?」

郁子「(台所から)お仕事があるって、朝早くに出かけたわよ!」

明日夢「そっか……」

 ドアにもたれて佇む明日夢。

 と、そこへ郁子が近寄って、

郁子「明日夢~! アンタも急がなきゃ、遅れるわよ! 今日は大事な日なんだから」

明日夢「あ、そうだね! ……よし!」

 全身に気合いを入れて、着替えを始める明日夢。

 

○奥多摩の森

 ベースキャンプを張っているヒビキと香須実。

 地図を見つめて考え込む。

ヒビキ「……やっぱり、もう少し奥の方かなあ」

香須実「そろそろ移動する?」

ヒビキ「ん、そうだな」

 そこへ帰ってきた浅葱鷲。

 クルッとディスク化して、それをヒビキがキャッチ。

 音角で再生するヒビキ。

ヒビキ「(ディスクを読み取り)お、来た来た!」

香須実「当たり?」

ヒビキ「(頷いて)よし、行ってくるか!」

 駆け出すヒビキ。

 その横で、火打ち石を打つ香須実。

    ×   ×   ×

 森の中を走るヒビキ。

 すると、前後左右に高速移動する童子と姫の姿が……。

童子・姫「鬼……、鬼……、鬼……、鬼……(エコー気味に)」

 ヒビキの周りを、複数の声が取り囲む。

ヒビキ「出たな」

 ヒビキ、音角を鳴らして額に当てる。

 全身が炎に包まれて、鬼に変化!

 響鬼、烈火を腰から抜いて、童子たちに立ち向かう。

 どうやら、童子と姫はそれぞれ三体ずついるようだ。

 響鬼、童子たちを追いかけるが、いつもより速い動きで動き回る童子たちに今一つついていけない。

響鬼「……しょうがねーな。響鬼・紅!」

 精神を集中させて響鬼が紅に変化!

 高速移動する童子たちに素早い動きで追いつく。

響鬼「ハァァァァァァァ」

 パワーアップした烈火の先端に炎を宿す響鬼。

響鬼「ハァ!」

 炎を童子たちに投げつける響鬼。

 

○コンクール会場・楽屋

 出番を待つ部員たちでザワつく楽屋。

 明日夢、緊張を隠せない様子でソワソワと貧乏揺すり。

 そこへ、ひとみが入ってくる。

ひとみ「安達君!」

明日夢「……や、やあ」

ひとみ「頑張ってね! ……あ、緊張してるんじゃない?」

明日夢「そ、そんなことないよ」

ひとみ「……桐矢君、来てるよ」

明日夢「え?」

 明日夢、立ち上がって楽屋を出て、まだまばらにしか人がいない客席を見渡し、最後列にふてくされたように座っている桐矢を見つける。

明日夢「桐矢君……」

 明日夢、ポケットからヒビキに貰ったコンパスを取り出してジッと見つめる。

 そして、スッと顔を上げて客席の方へと歩き出す。

 

○奥多摩の森

 烈火で次々と童子や姫たちを叩いていく響鬼。

 六体いた童子&姫の内、四体を倒したところで、残りの二体が一目散に逃げ始める。

響鬼「逃がすか!」

 なおも追う響鬼。

 と、突如眼前に現れた巨大な魔化魍。

 三ツ首の獣の姿をしている。

 一瞬たじろぐ響鬼。

 大きく吠える魔化魍。

 

○コンクール会場・客席

 明日夢、最後列に座っている桐矢の下へ歩み寄る。

明日夢「桐矢君」

 明日夢に気付き、チラッと顔を上げる桐矢。

明日夢「よく見ててよね。俺、がんばるからさ」

 桐矢、そんな明日夢の言葉を無視して前の椅子の背もたれに顔を埋める。

 明日夢、そんな桐矢を責めることなく、キリッとした表情で振り返り、楽屋へと戻っていく。

 

○吉野本部

 本部の出入口近辺で、握手しているイブキと結城。

イブキ「それでは、あとはよろしくお願いします」

結城「分かりました」

 結城と笑顔で別れたイブキ、外へ出ていくと、そこにはバイクに跨った小暮の姿が。

小暮「イブキ、送ってやるよ」

 そう言って、ヘルメットをイブキに渡す小暮。

イブキ「(ヘルメットを受け取りながら)小暮さん……」

小暮「体調整えて、追試にやって来い」

 そう言いながらヘルメットを被る小暮。

 微笑むイブキ。

 

○コンクール会場

 いっぱいに埋まった客席。

 そこには、ひとみと一緒に郁子の顔も見える。

 そして、ボーッとステージを見つめる桐矢の姿。

アナウンス「次は、城南高校の演奏です」

 演奏が始まり、明日夢も真剣な表情でドラムを叩く。

 ちょっと心配そうな表情で明日夢を見つめるひとみと郁子。

 桐矢、相変らず心ここにあらずといった様相で座っている。

 と、その時、桐矢の横に一人の大柄な男が立った。

大柄な男「……いい演奏だな。京介」

 桐矢、その声に驚いて振り返る。

桐矢「お、親父! 来てくれたのか!? でも、俺は……」

桐矢の父「いや、あれはお前だよ。あの子はな、自分自身はもとより、お前のために一心不乱にドラムを叩いているんだ。私はそう思うよ?」

 父の言葉に、改めて明日夢の姿を真剣に見つめる桐矢。

桐矢「……安達」

 汗を流しながら、必死でドラムを叩く明日夢。

 それを見つめて、キッと唇を噛み締める桐矢。

桐矢の父「いい友達を持ったじゃないか、京介」

桐矢「……ウン」

 桐矢の頬をつたう、一筋の涙。

 溌剌とドラムを叩き続ける明日夢。

 見せ場のパートで絶妙なドラムライン!

 そして、シンバルを溌剌と叩き上げる明日夢の表情は生き生きと……。

 

○三十二之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 たちばな地下で話し合う猛士の面々。

勢地郎「カマイタチだ。古来より日本の妖怪伝説としては有名だねぇ」

 ひとみとともに下校する明日夢。

ひとみ「次は秋季大会の応援だからさ~、チアと一緒にやれるよね~」

 キャンプ中のヒビキたち。

ヒビキ「俺たち三人揃えば、向かうところ敵なし!ってな」

 三十三之巻『煌く刃』

 

○提供ナレーション 川口真五


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