真・響鬼   作:三澤未命

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三十一之巻『超える魂』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。そして僕は、ドラムを叩けるようになって嬉しい反面、色々あってちょっと複雑な心境です」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十一之巻『超える魂』

 

○提供ナレーション 松田賢二

 

○秩父の検定道場内

 時計を見る小暮。

小暮「……もうこれ以上待つわけにはいかんな。天美あきら! 本日の変身検定、失格とする!」

イブキ「そんな……。きっと、何かあったんだ! ……あきら!」

 道場を飛び出していくイブキ。

 

○湖のほとり

 バケガニの腹から出てきた七、八体のバケネコの子供が、たじろぐ轟鬼に向かって一斉に襲いかかる!

轟鬼「くっそ~~~」

 烈雷を振り回して戦う轟鬼だが、いかんせん動きが追いつかない。

 ザンキ、そこに走り寄り、轟鬼に声をかける。

ザンキ「轟鬼ーっ! これを使え!」

 そう言ってザンキは、緑の音撃棒を轟鬼に向かって投げる。

 前方に転がり込んで、それをキャッチする轟鬼。

轟鬼「……オ~~ッシ!」

 轟鬼、音撃棒でバケネコたちに立ち向かうが、苦戦は変わらない。

 そこに割って入る一つの影!

 鋭鬼だ!

鋭鬼「大丈夫か! 轟鬼!」

轟鬼「え、鋭鬼さん!」

 鋭鬼、バケネコたちに向かって音撃棒・緑勝を振り回していく。

ザンキ「轟鬼!」

 ザンキ、轟鬼に音撃鼓を投げる。

 轟鬼、それをキャッチし、再度バケネコたちに立ち向かう!

 緑勝の攻撃によろめくバケネコに、音撃鼓・白緑を取り付ける鋭鬼。

 大きく拡大する白緑!

鋭鬼「必殺必中の型!」

 鋭鬼、華麗なバチさばきでバケネコを粉砕!

 そして、すぐさま次の獲物に攻撃を仕掛ける鋭鬼。

 轟鬼も、苦戦しながらも数体のバケネコを粉砕!

 そして、二人でバケネコの子供を殲滅。

鋭鬼「フゥ……」

 ひと息ついて二人が振り返ると、既にバケガニは姿を消していた……。

鋭鬼「逃げられたか」

轟鬼「……鋭鬼さん! ありがとうございました!」

鋭鬼「オゥ。……しかし、カニとネコの合体とは、何てひでぇセンスだ」

 そこへ聞こえてきた、バイクのエンジン音。

 ヒビキが凱火で駆けつけてきた。

 凱火を止めてヘルメットを脱ぐヒビキ。

ヒビキ「お待たせ! ……あれ?」

ザンキ「(呆れた顔つきで)おせーよ」

 

○トンネルの中

 暗いトンネルを、フラフラとした足取りで歩くひとつの影。

 あきらだ。

 全身汗だらけで、虚ろな目つき。

 意識があるかないか分からないような状態で、そのままトンネルを出ていく。

 

○道路を走る竜巻

 秩父の道場を後にしたイブキが、あきらのマンションへと続く道を竜巻でかっ飛ばす。

 

○トンネル近辺

 あきらがフラフラと徘徊する。

 と、竜巻で走行していたイブキが、夢遊病者のように歩くあきらを発見。

イブキ「……あきら!」

 竜巻を停車させてヘルメットを脱ぎ、あきらの方へと走っていくイブキ。

 イブキ、あきらを捕まえて激しく体を揺さぶる。

イブキ「あきら! どうしたんだ!!」

 何の反応も示さないあきら。

 その手足には、プツプツと黒い斑点があちらこちらに浮かび上がっていた……。

 

○たちばな・居間

 布団の上に横たわるあきら。

 全身汗びっしょりで、ぜいぜいと息を吐いている。

 傍らで、神妙な面持ちであきらを見る勢地郎とイブキ。

 入口からは、香須実と日菜佳も心配そうに見つめている。

勢地郎「……これは、よくは分からないが、あきらの体に異質な物質が入り込んでいるような……」

イブキ「どうすればいいんですか!?」

勢地郎「分からない……。とにかく、すぐに本部の医療機関に運んだ方が良さそうだな」

イブキ「はい! ……香須実さん! 車、借してください!」

香須実「わ、分かった……!!」

 香須実、不知火のキーをポケットから出してイブキに渡す。

 

○城南高校・昼休みの屋上

 一人、スティックさばきのイメージ・トレーニングをしている明日夢。

 そこへ、桐矢が近付いていくる。

桐矢「安達!」

 桐矢に気付いて顔を上げる明日夢。

明日夢「あ、桐矢君……」

桐矢「良かったなぁ。俺がドジッちまったおかげでドラム叩けるようになって」

明日夢「そんな……」

 後ろめたい気持ちになっていく明日夢。

 桐矢、ネット越しに外を見ながら、

桐矢「まあせいぜい頑張るがいいけどさ、俺の穴埋めようなんて、生意気な事考えてんじゃねーぞ」

明日夢「桐矢君……。(幾分強めの口調で)俺、なんとか、部のためにやってみるからさ!」

桐矢「(明日夢の方へ振り向き)調子に乗ってんじゃねーよ。お前は、俺の代わりなだけだからな。いいか? 代わりなだけだ。分かったな!」

明日夢「…………」

 不機嫌な様相で立ち去る桐矢。

 明日夢、またしても深く落ち込んでしまう……。

 

○同・ブラスバンド部部室

 課題曲の練習も佳境に入っている様子。

 そんな中、ドラムを叩く明日夢は桐矢の先程の言葉が頭を巡って、練習に集中できない。

 明日夢、案の定また失敗して、スティックを落としてしまう。

部長「安達何やってんだ! やる気がないなら、やめちまえよ!」

 スティックを拾いながら、部長の厳しい言葉に泣きそうな顔になる明日夢。

 周りの部員も、同情めいた目で明日夢を見つめる。

 

○下校途中の道

 明日夢、一人落ち込んで歩く。

 その後ろから、ひとみが声をかける。

ひとみ「安達君!」

明日夢「(振り返り)あ、ああ……」

ひとみ「元気出しなよ。……あたし、思うんだけど、桐矢君のこと気にするのは分かるんだけどさ、安達君にとってはチャンスなんだから、思いっきり自分を出せばそれでいいんじゃないかなあ」

明日夢「……分かってるよ! そんなこと」

ひとみ「あ、怒った?(と言いながら、顔を覗き込む)」

明日夢「(ハッとして)ゴメン……」

ひとみ「(前を向き直って)……桐矢君にしたら、これが最後だからねぇ。残念だとは思うんだけど」

明日夢「え? 最後って?」

ひとみ「あれ、知らなかったの? 桐矢君、お父さんの仕事の都合で、来週アメリカに引っ越しちゃうんだって。今度のコンクールが最後だから、お父さんに見に来てもらうんだって張り切ってたもんね」

明日夢「……そうだったのか」

 考え込む明日夢。

 

○たちばな・地下作戦室

 心配そうな表情で黙って座っている、勢地郎、香須実、日菜佳。

 そこへ、ヒビキとトドロキが階段を駆け下りて入ってくる。

ヒビキ「あきらがどうしたって!?」

香須実「(ハッと顔を上げて)分かんない、分かんないの……」

ヒビキ「香須実さん、落ち着いて(と言いながら勢地郎の方を見る)」

勢地郎「……多分、クグツの仕業だと思うんだが、何か異物質というか魔化魍エキスのようなものが体に入り込んでいるようなんだ。イブキ君が、さっき本部の医療機関に連れて行ったよ」

トドロキ「ど、どうしようヒビキさん!」

 むやみにジタバタとするトドロキ。

ヒビキ「トドロキも落ち着けって! イブキがついてりゃ大丈夫だ。俺たちは、今俺たちに出来ることをやるだけだ」

トドロキ「……え?」

勢地郎「(立ち上がって)そうだ。君たちには、あの奇妙なバケガニを一刻も早く始末してもらわなきゃいかん。増殖されたりしたら、事が厄介だぞ」

トドロキ「今、出来ること……」

日菜佳「トドロキ君!」

 トドロキ、顔を上げて拳を奮わせる。

トドロキ「よぉ~し! 行きますよヒビキさん! ……待ってろよカニネコめぇ!」

 トドロキ、勇んで階段を駆け上がっていく。

ヒビキ「おいちょっと! 全く……」

 トドロキの熱の入りように少し呆れた様子のヒビキ。

香須実「……ヒビキさん」

ヒビキ「ん?」

香須実「私も……行きます! 私は、ヒビキさんのサポーターですから」

 香須実の真剣な様子を受けて、微笑むヒビキ。

ヒビキ「よし。じゃ、行くか!」

 立ち上がるヒビキ。

勢地郎「頼んだよ」

ヒビキ「りょ~かい! シュッ!」

 ポーズを決めて、階段を駆け上がるヒビキと香須実。

 

《CM》

 

○吉野本部医療機関の一室

 イブキと医療スタッフの一人・結城が、レントゲン写真を見つめながら話す。

結城「体内の数箇所に、見たこともないエキスが固まって映っています」

 そう言ってレントゲン写真の影を指差す結城。

 手足や胸、腹の辺りに醜い影が映っている。

イブキ「……どうすればいいんですか!? 治るんですか!?」

結城「……正直なところ、私には何とも言えません。ただ……」

イブキ「ただ?」

結城「この物質の特徴として、どうも音に敏感に反応しているようなんです。だから、もしかすると音撃で浄化することができるかもしれません。非常に危険ですが……」

イブキ「やってください! 今すぐに!」

結城「いや、これはあくまで理論上の仮説ですよ! 実際、どうやって浄化すべきなのか……」

 困惑の表情の結城。

 うなだれるイブキ。

 イブキ、歯を食いしばってカッと目を見開き、

イブキ「……僕が、やります!」

結城「(驚いて)ダメです! あなたの音撃では力が強すぎて、天美さんの肉体が耐え切れない!」

イブキ「しかし、他に方法が……」

 と、ドアが開いて小暮が入ってきた。

 あきらの事を聞きつけて、ここ吉野までやってきたようだ。

小暮「議論しているヒマはないだろ! おい結城! 鬼石の原石から浄化媒体を作るんだ!」

結城「(慌てて)は、はい!」

 外へと駆け出していく結城。

 小暮、イブキの方へ振り向き、

小暮「……イブキ。お前、弟子の力を信じられるか!?」

イブキ「はい!」

小暮「自分の力を……、信じられるか!?」

イブキ「……はい!」

 頷く小暮。

 

○湖のほとり

 ベースキャンプを張っているヒビキ、トドロキ、ザンキ、そして香須実。

 そこへ、トドロキが撒いた青磁蛙が帰ってくる。

トドロキ「おっ!」

 トドロキの方へ跳ね飛んで、ディスク化する青磁蛙。

 トドロキ、ディスクを再生して、

トドロキ「……来ました! ヒビキさん!」

ヒビキ「よ~っし、行くか!」

 勢い良く走り出すヒビキとトドロキ。

香須実「頑張って!」

 火打ち石を打つ香須実。

 

○吉野本部医療施設の一室

 実験器具が数多く置かれた部屋。

 そこで、結城が他のスタッフとともに鬼石の原石を精密機械でカッティング作業中。

 小さくカットされた鬼石がいくつか台の上に乗せられて、そこに光線を当てていくスタッフ。

 真剣な表情でモニターを見つめる結城。

 厳しい表情で首を横に振り、他のスタッフに何やら指示を送る。

 

○湖のほとり

 湖から飛び出すバケガニ。

 身構えるヒビキとトドロキ。

ヒビキ「(バケガニを見据えながら)トドロキ!」

トドロキ「はい!」

 ヒビキとトドロキが、同時に変身!

 バケガニの腹が膨らみ、またしても生まれ出るバケネコの子供ら!

 バケネコに立ち向かう響鬼、そして一方、バケガニの方へ向かっていく轟鬼!

 

○吉野本部医療施設の一室

 引き続き、レーザーメスによって鬼石のカッティングをする結城。

 カットした鬼石を頭上に掲げて、ジッと透かし見る。

 結城、鬼石を台の上に乗せる。

 そこに当てられる光線。

 モニターを見つめる結城。

 ニコッと笑い、他のスタッフにOKのサインを出す。

 

○湖のほとり

 烈火を両手に持って手を広げ、気合いを溜める響鬼。

響鬼「ハァァァァァァァァ!」

 炎に包まれて、紅に変化する響鬼。

 烈火の先端に炎を宿し、バケネコに打ち込んでいく!

 一方、轟鬼は真っ直ぐにバケガニの下へ走る。

轟鬼「イヤァァァァァァァ!」

 轟鬼、烈雷でバケガニの足を次々と切り裂いていく!

 

○吉野本部医療施設の廊下

 数人の医療スタッフが、ストレッチャーに乗せられた麻酔で眠っているあきらを運ぶ。

 その後ろから、結城がツカツカと早足で歩く。

 

○同・防音響特別室内

 医療スタッフ数人が、あきらをストレッチャーから起こして、壁に貼り付けるように固定していく。

 そして、あきらの体の数箇所(レントゲンで異物質が認められた箇所)に、完成したばかりの小さな鬼石の粒を取り付けていく。

 少し離れたところには、既に変身している威吹鬼が佇む。

 結城、室内上部のモニター室に入り、あきらの体にレントゲン光線を当てる。

 モニターに映し出されるあきらの輪郭。

 体中の黒い斑点が痛々しい。

結城「威吹鬼さん、準備OKです!」

 ゆっくりと烈風を構える威吹鬼。

威吹鬼「……いきます!」

 静かに烈風を奏ではじめる威吹鬼。

 あきらの体がビクビクッと反応する。

 徐々に強くなる烈風の威力。

 あきらの手足から微量の血が吹き出す。

 モニターを見つめる結城。

結城「イブキさん、強すぎます! もう少し弱めて!」

 烈風の力を弱める威吹鬼。

 しかし、今度は逆に反応がなくなる。

結城「今度は弱過ぎです! あと、ちょっと高過ぎる感じです! ……ダブルフラットで!」

 必死で調律する威吹鬼。

 変身体であるにも関わらず、全身から汗が噴き出している。

 

○湖のほとり

 バケネコに、次々と烈火を打ちつけていく響鬼。

響鬼「ハァ! ハァ!」

 順々に四散していくバケネコたち。

轟鬼「エイ! エ~イ!」

 轟鬼の方も、必死でバケガニを烈雷で攻撃している。

 

○吉野本部・防音響特別室内

 威吹鬼、あきらに向けて音撃を続ける。

 映し出されるモニター。

 あきらの体から、徐々に消えていく異物質の影。

 音撃を続ける威吹鬼。

 そして、ついにレントゲン上から影が消えた。

結城「ストップ!」

 烈風を口から離す威吹鬼。

結城「(モニターであきらのレントゲン映像を確認して)成功です! 浄化できましたよ! 威吹鬼さん!」

 顔の変身を解いて膝から崩れ落ちるイブキ。

 精も根も尽き果てたようで、今は言葉もない。

 二次治療のために、大急ぎであきらを運び出す他の医療スタッフ数人。

 モニター室で、ホッと胸をなでおろす結城。

 その様子を、後ろで見つめていた小暮。

小暮「天美あきらか……。覚えておくぞ」

 

○湖のほとり

 バケネコを全て粉砕した響鬼。

 轟鬼、足を斬り落とされてバランスを崩したバケガニの腹に潜り込み、烈雷を突き刺す!

轟鬼「音撃斬・雷電激震!」

 鳴り響く烈雷の音色。

 バケガニの全身に音撃の波動が伝道。

 そして、爆発!

轟鬼「(烈雷を振りかざして)よし!」

 とその時、頭上の土手際に香須実が走り寄ってきた。

香須実「(携帯電話を片手に持って)ヒビキさん! トドロキさん! ……あ、あきらクン、助かったって!」

 そのまま膝をついて泣き崩れる香須実。

 顔の変身を解くトドロキとヒビキ。

トドロキ「うぅ! 良かった! (顔をクシャクシャにして)良かった~~~!!」

 涙声でうずくまるトドロキ。

ヒビキ「信じる力、それが生きる力ってことなんだよな。イブキ、あきら」

トドロキ「ヒビキさ~~~ん!」

 ヒビキに抱きついて泣きじゃくるトドロキ。

 にこやかなヒビキの表情。

 そして、土手際には跪いてむせぶ香須実と、安堵の笑みを浮かべるザンキ……。

 

○三十一之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 学校の廊下で言い合う明日夢と桐矢。

明日夢「やっぱり、君がドラムをやるべきだよ!」

 たちばな地下で話し合う猛士の面々。

勢地郎「なんでも、人をズタズタに切り刻んではいるが……」

 明日夢の部屋で話すヒビキと明日夢。

ヒビキ「まあ、他人の事を考えて引いちゃうところが、少年の優しいところなんだろうけどな」

 三十二之巻『弾ける鼓』

 

○提供ナレーション 松田賢二


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