真・響鬼   作:三澤未命

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四十七之巻『語る絆」

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。心配していた天美さんもなんとか助かって、ホッとしたのも束の間、鬼の人たちには最後の大仕事が残っているようです。そして僕も……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十七之巻『語る絆』

 

○提供ナレーション 栩原楽人

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲んで話す勢地郎、みどり、明日夢の三人。

勢地郎「……ヒビキとは、明日夢君自身の将来について、何か話はしたのかい?」

明日夢「いえ、ヒビキさんは何も……。ずっと前に、僕のことを弟子にするつもりはないって言ってましたし……」

 顔を見合わせながら、苦笑いする勢地郎とみどり。

勢地郎「ヒビキはね、ずっと明日夢君のことを見ているよ。鬼の弟子だとか、そういうことに関係なくね……」

 黙って頷く明日夢。

勢地郎「君が鬼を目指すかどうか……なんてのは、自分の意志で決断するもんだ。だから私達は何も言わないよ。……まあね、人のためになる仕事ってのは、世の中にはたくさんあるんだよね。鬼の仕事ってのは、その内の一つに過ぎないんだ。……ただ、他の仕事よりちょっとだけ危険が伴うけどね」

 真剣な表情で勢地郎の話を聞く明日夢。

みどり「明日夢君の人生だからね~。ま、私達は、歓迎するけどぉ……」

勢地郎「みどり!」

 厳しい目でみどりを見遣る勢地郎。

みどり「(舌を出して)あ、ゴメンナサイ」

明日夢「ア、アハハ……」

 和やかに笑い合う三人。

 

○吉野本部・病室

 ベッドの上のあきら。

 ボーッとした表情で、天井を見つめている。

 そこへ、病室のドアが開いてイブキが静かに入ってくる。

イブキ「……あきら。どうかな、具合は」

 あきら、イブキの方をチラッと向いて、

あきら「イブキさん……、はい、大丈夫ですよ……」

イブキ「そう……」

 言葉少なにベッドの横に座るイブキ。

 ふと、テーブルの上にある鬼笛に気付いて、取り繕うように片付けんとする。

 あきら、イブキの様子に気付き、天井を見つめたまま、

あきら「イブキさん。私に気を遣っていただかなくても、いいですよ……」

イブキ「……え!?」

あきら「私、分かってます。私はもう、力を失ってしまったんですね……」

イブキ「あきら……」

 悲しげな表情であきらを見るイブキ。

あきら「命を助けていただいたんですから、感謝しなくちゃいけないですよね……」

 次第に涙声になるあきら。

 何も言ってやることのできないイブキ。

 あきら、目をつぶり、

あきら「ごめんなさい、イブキさん……。しばらく、一人にさせてください……」

 あきらの頬を流れる大粒の涙。

 イブキ、歯を食いしばって立ち上がり、病室から静かに出ていく。

 

○洋館付近・山のふもと

 走ってきた不知火、砂塵を上げて停車。

 そこから降りてくるヒビキとフブキ。

 無言のまま、ヒビキは音角を響かせ、フブキは音笛を鳴らして変身動作に入る。

 炎と吹雪が同時に巻き起こり、二人が同時に鬼に変化!

 響鬼、腰から烈火をはずし、両腕に構える。

響鬼「……よし!」

 そこへ、左右から三人の男たちが近付いてきた。

 他の太鼓の鬼たちだ。

鋭鬼「来たぜ」

剛鬼「お待たせしました」

弾鬼「今度は俺の出番、あるんだろーな?」

 太鼓四人衆、並び立つ!

吹雪鬼「しっかりやんなさいよ」

 その声に振り向く弾鬼。

弾鬼「ゲッ! アンタも一緒か……」

響鬼「……行くぞ」

 いざ、洋館へと向かって歩き出す響鬼たち。

 

○謎の洋館

二階の部屋に座っている和服姿の男女。

男、何かにピクッと反応して、

男「……来たな? …………行け!」

男の目が、ピカッと光る。

 

○洋館前の林の中

 洋館に向かって小走りに進む響鬼たち。

 と、その眼前に立ち塞がったゴズキ&メズキ!

響鬼「おいでなすったか」

 襲ってくるゴズキ&メズキ!

 そして、響鬼たちと格闘戦になる!

 ゴズキには響鬼と弾鬼が、メズキには剛鬼と鋭鬼が立ち向かう!

 そして、両者のスキを伺い身構える吹雪鬼。

 やはりパワーで押される響鬼たち。

 四人の鬼は、ゴズキ&メズキの槍攻撃に傷つきながら吹っ飛ばされる。

響鬼「……クッ! やっぱりダメか。仕方ないな」

 響鬼、他の三人の鬼に目で合図する。

 四人の太鼓の戦士は、それぞれ音撃棒を体の前で交差させて気合いを溜める。

響鬼「ハァァァァァァァァ……!!」

 次第に変化していく四人の鬼の体。

響鬼「響鬼・紅(くれない)!」

弾鬼「弾鬼・新橋(しんばし)!」

剛鬼「剛鬼・瑠璃紺(るりこん)!」

鋭鬼「鋭鬼・天鵞絨(びろうど)!」

 響鬼は燃え盛る赤に、弾鬼は鮮やかな青に、剛鬼は透き通るような紺色に、そして鋭鬼は深みのある緑に全身を変化させた!

 強化形態だ!!

 そして、それぞれの音撃棒の先端に炎を宿し、ゴズキ&メズキに再び向かっていく!

響鬼「ハッ! ハッ!」

 四人の太鼓戦士の強力な威力を持つ音撃打が、ゴズキ&メズキに打ち込まれていく!

 その度にバチバチッ、バチバチッと皮膚が焼け焦げていくゴズキ&メズキ。

 徐々に動きが鈍くなってくる。

 そこを吹雪鬼が見逃さず、フルート型音撃管を縦に構え、ゴズキ&メズキに向かい鬼針を発射!

 ゴズキ&メズキ、それぞれの胸元に命中する鬼針!

 吹雪鬼、音撃管を横に持ち替える。

吹雪鬼「音撃射・流麗縛身」

 超音波のような音色を奏でる吹雪鬼。

 その音波を受け、ゴズキ&メズキの体がブルブルと震え出し、一瞬の金縛り状態となった!

響鬼「よし、今だ!」

 ゴズキ、そしてメズキに飛び込んでいく太鼓の戦士たち!

響鬼「灼熱真紅の型!」

弾鬼「破砕千岩の型!」

剛鬼「青炎剛打の型!」

鋭鬼「必中木賊の型!」

 ゴズキの前方から響鬼が、後方から弾鬼が、そしてメズキの前方から剛鬼が、後方から鋭鬼が必殺の音撃打!

 驚異の音撃五重奏だ!!

 強化音撃の波動がゴズキとメズキの全身に巡り、バッと炎に包まれたかと思うと、そのまま爆発!!

 ついに、ゴズキ&メズキを粉砕した!

弾鬼「やったぜ!」

 音撃棒を振り回す弾鬼。

 と、その時!

 五人は頭上に微妙な邪気を感じる。

 軽く頭を押さえる響鬼。

響鬼「……何だ?」

 見上げると、前方の木の枝に、和服姿の男女の姿が!

女「よくも……、よくも……」

男「……タダで済むとは思うなよ」

 

○たちばな・地下作戦室

 勢地郎とみどりのいる部屋に、香須実が駆け込んでくる。

香須実「……今、イブキ君から連絡があったんだけど! あきらクンが……、あきらクンが……!!」

 慌てる香須実に驚く勢地郎。

勢地郎「あきらがどうかしたのかい!?」

香須実「力を、失ってしまったって……」

みどり「そう……」

 香須実、冷静に受け止めるみどりの方を向き直り、

香須実「みどりさん! あなたみんな分かってて……、何だってそんな……!!」

みどり「あきらクンを救うためには、仕方なかったのよ……」

 香須実、ハッと口を押さえて、

香須実「……ごめん。……そう、そうよね。でなきゃ、助かってなかった……」

 涙を流す香須実。

 みどりは、必死に涙をこらえている。

勢地郎「……これで、あきらの張り詰めた糸が切れてしまうかどうかは、本人次第だ。……もしやめる、ということにっても、それも仕方ないことだろう……」

 沈黙する三人……。

 

《CM》

 

○吉野本部・治療施設の通路

 壁にもたれて話すイブキとバンキ。

バンキ「イブキ、命が助かっただけでも、良かったじゃないか」

イブキ「……はい」

 涙声のイブキ。

バンキ「あきらは……、鬼を目指すことをやめるって言うと思うか?」

イブキ「分かりません……。でも、僕は、あきらをどうやって励ましてやったらいいのか……」

 頭を抱えて下を向いてしまうイブキ。

バンキ「イブキ……」

 バンキもまた、イブキをなぐさめる術がなかった……。

 

○洋館前の林の中

 響鬼たちの前に現れた和服姿の男女。

 木の枝の上で身構えると、その体が邪悪な空気に包まれていき、二人の姿を変えていく!

 妖しく蠢く靄の中から姿を現した男は、尻尾が九本に分かれた狐のような姿に、そして女は、般若のような顔をした、人と獣のハーフのような姿に変化!

響鬼「とうとう正体を現したな」

弾鬼「あれが、おやっさんの言ってた……」

響鬼「キュウビと……、タマモだ」

 素早い動きで飛び降り、響鬼たちに襲いかかるタマモ!

 そしてキュウビは、地上の響鬼らを狙って口から炎の玉を吐く!

 音撃棒をタマモに打ち込んでいく響鬼たち。

 そして、音撃管で鬼針をキュウビに吹射する吹雪鬼。

 しかし、いずれも手応えなく、その体をすり抜けてしまう!

響鬼「何ィ~!?」

鋭鬼「どういうこった!?」

 なおも攻撃の手を緩めないキュウビとタマモ。

 不利と見た響鬼は、已む無く退陣命令を出す。

響鬼「いかん! 一旦退くぞ!!」

 断腸の思いで、敵に背中を見せる響鬼たち。

 恥も外聞もなく、全速力でその場から逃亡する!

 しかし、何故か追いかけてこないキュウビとタマモ。

弾鬼「……何だ!? やっこさんら、追っかけてこねーぞ!?」

響鬼「よく分からんが、こっちにとっちゃ好都合。……もっぺん出直しだ!」

 マシンの駐車場所へと、五人の鬼たちが駆けていく。

 

○たちばな・店舗前

 店の前で立ち尽くすひとみ。

 あきらを心配する気持ちと、明日夢が鬼を目指さんと葛藤している不安感が入り混じり、店に入るのを躊躇している。

 と、そこへトドロキが現れる。

 トドロキ、ひとみの姿を見つけて、

トドロキ「……ひとみ!」

ひとみ「(振り返り)あ、お兄ちゃん……」

トドロキ「(ひとみに近付き)どうしたんだよ、入んないのか?」

ひとみ「……うん、ちょっと……」

 悩んでいる様子のひとみ。

 トドロキ、頭を掻きながら、

トドロキ「ひ、ひとみ! ちょっと……、歩こうか」

ひとみ「え……?」

 ひとみを散歩に誘ったトドロキ、一人でサッサと歩き出す。

ひとみ「あ……」

 ひとみ、小走りにその後を追う。

 

○土手沿いの道

 並んで歩くトドロキとひとみ。

 ひとみは相変らず暗い表情。

 一方、トドロキは何と切り出せば良いのか考えあぐねて困惑の表情。

 トドロキ、意を決したように口を開く。

トドロキ「……ザ、ザンキさん、だいぶ良くなってきたんだ! もうすぐ退院だって」

ひとみ「そう……」

トドロキ「あ、いや……、その、……あきらクンのことなら大丈夫だって! イブキさんがついてりゃ、絶対大丈夫!」

ひとみ「うん……」

 しばらくの沈黙。

ひとみ「……ねえ、お兄ちゃん」

トドロキ「んん?」

ひとみ「お兄ちゃんは、どうして鬼になろうと思ったの?」

トドロキ「あ、ああ……。そうだなあ。なんて言うか、もっとこう、ストレートに人助けがしたくなったって言うか……。もちろん警官だって人助けする仕事なんだけど、猛士っていう組織の存在を知っちゃったら、もう後戻りできなくなってたって感じで、気が付いたらザンキさんに無理矢理弟子入りしてた気がするなあ……」

ひとみ「怖くないの?」

トドロキ「そりゃあ、怖いさ。(ここでようやく、ひとみが明日夢のことを考えていることに気付き)あ! その……、怖いことから逃げちゃダメなんだよ! ザンキさんに言わせれば、俺なんかまだまだなんだけど、人間を守るって大義名分があるんだから、怖くても逃げちゃダメなんだ。……まあ、自分に後悔したくないってのが、結局一番なのかもしれないけど」

ひとみ「後悔、か……」

 顔を上げるひとみ。

トドロキ「自分の道をしっかり歩いていけってね! あ、これはザンキさんの受け売りだけどね」

 笑うトドロキ。

 そして、つられて微笑むひとみ。

ひとみ「……ありがと。お兄ちゃん」

トドロキ「え!? いや~、俺は何も……。ハハハハ」

 照れて頭を掻くトドロキ。

 

○吉野本部・病室

 ベッドの上で、目を潤ませながら今までのイブキとの修行の生活を思い出すあきら。

 辛いことも、楽しいことも、いつもイブキと一緒に過ごしてきた……。

 あきらの目から、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。

 そこへ、ノックとともに、イブキがゆっくりと入ってきた。

 あきら、目をこすってドアの方へ顔を向ける。

あきら「……イブキさん」

 イブキ、あきらにニッコリと笑いかけるが、その表情はぎこちない。

 そして、力なくあきらのベッドの横に座る。

あきら「イブキさん、私は……、私は……」

イブキ「……あきら、今は何も考えずにゆっくりとお休み。まずは体を治さなくっちゃね……」

 あきら、悲しげな表情とともに首を壁の方に向けて、沈黙する。

 イブキも、その仕草を見て沈黙してしまう。

 重苦しい空気が流れる室内……。

 あきら、目を閉じて溜まっていた涙を流し切る。

 そして、カッと目を見開いて、口を真一文字に結ぶ。

あきら「……イブキさん、もし良かったら」

イブキ「……え?」

あきら「もし良かったら……、(イブキの方にクルッと向き直り)私をもう一度、弟子にしてください!」

イブキ「あ……、あきら……」

あきら「私、一からやり直します。私の修行は……、私の修行はまだ終わっていないのです!!」

イブキ「…………」

 喜びと感動で涙を抑え切れないイブキ。

 照れ隠しに下を向き、

イブキ「……何を言ってるんだ」

あきら「え?」

イブキ「……僕は、君を破門にした覚えはないぞ?」

 明るい表情になるあきら。

イブキ「もう一度、一緒に頑張ろう」

 そう言って、あきらの右手をギュッと握るイブキ。

あきら「イブキさん……」

 見つめ合う師弟。

 その絆は、海よりも深く……。

 

○明日夢の部屋

 ベッドに寝転んで、ヒビキから貰ったコンパスを見つめる明日夢。

 明日夢の頭の中に、出会ってから今までのヒビキの言葉が浮かんでくる……。

「自分を信じること、それが、少年が少年であるための第一歩なんじゃないかな」

「鍛え足りなきゃ、鍛えるだけだ」

「男と男の話って言うかさ」

「少年は、俺と似たところがあるのかもしれないな」

「だから俺たちは、鍛えてるってことなんだけどさ」

「生きてりゃ何度も転んで、その度に色々なキズやアザを作ることになる。その都度這い上がらなければいけないわけだから、心を強く持っていないと」

そして、今一度オーバーラップする、ヒビキの言葉。

「自分を信じること、それが第一歩なんじゃないかな」

 ガバッと上半身を起こす明日夢。

明日夢「……よし!」

 明日夢、何かを固く決心したように、コンパスをジッと見つめる……。

 

○四十七之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 たちばな地下で話す猛士の面々

ダンキ「ヤツらの体に触れられなかったってのは、一体……」

 公園で話す明日夢とひとみ。

ひとみ「安達君は、大人になったんだね」

 たちばな地下で話す猛士の面々。

ヒビキ「お~し! んじゃあ、一丁やりますか!!」

 最終之巻『君の響き』

 

○提供ナレーション 栩原楽人

 


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