真・響鬼   作:三澤未命

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四十六之巻『探る鬼道』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。今日も鬼の人たちの激しい戦いが続いています。自分の事で思い悩んでいた僕でしたが、今は天美さんの身がとても心配で……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十六之巻『探る鬼道』

 

○提供ナレーション 栩原楽人

 

○吉野本部・緊急医療室前

 廊下の椅子にジッと座っているイブキとバンキ。

 イブキは、あきらの容態が気にかかっていてもたってもいられない様子。

イブキ「あきら……」

 一心不乱に祈るイブキ。

バンキ「大丈夫、きっと助かる。……お前の狙いは正確だった。信じるんだ、医療スタッフの腕を、あきらの精神力を……」

 緊急医療室のドアをジッと見据えたままイブキを励ますバンキ。

 

○たちばな・店舗前

『臨時休業』の貼り紙が貼られたままの入口の扉。

 

○同・地下作戦室

 勢地郎、香須実、日菜佳が心配そうな表情で座っている。

 と、ヒビキが階段を駆け下りてくる。

 その方向へ、三人が一斉に振り向く。

ヒビキ「……連絡は?」

香須実「まだです……」

ヒビキ「そっか……」

 壁の時計を見るヒビキ。

ヒビキ「あれから、もう十時間か……」

 何も手につかない様子の四人。

 

○吉野本部・緊急治療室前

 椅子から動かないイブキとバンキ。

 その時、治療室のドアが開き、中からあきらの寝かされたストレッチャーが、数人の医療スタッフの手によって運び出されてきた。

 立ち上がるイブキ。

イブキ「あ……、あきら!」

 ストレッチャーに駆け寄るイブキ。

 そこに寝かされたあきら、酸素マスクと点滴チューブで覆われている。

 治療室から出てきた医療チーフに、バンキが話しかける。

バンキ「……どうなんですか!?」

医療チーフ「やるべきことはやったよ。傷は深いが、見事に急所を外した攻撃だったので致命傷ではない。多分、朝には意識も戻るだろう」

 イブキ、医療チーフの方を振り向き、

イブキ「じゃあ……、助かったんですね!?」

 医療チーフ、イブキの肩をポンと叩き、

医療チーフ「さすがに君の弟子だな。よく鍛えられてある」

 安心して肩から崩れ落ちるイブキ。

 そして、ホッした表情で微笑むバンキ。

 

○たちばな・地下作戦室

 勢地郎、香須実、日菜佳、そしてヒビキがおのおの黙ってソワソワとした様子。

 と、ふいに電話が鳴る。

 全員が電話の方に体を動かし、日菜佳がバタバタッと受話器を取る。

日菜佳「はい、たちばな……あ、バンキさん! はい! ……はい……そうですか……、分かりました」

 涙ぐみながら、ゆっくりと受話器を置く日菜佳。

香須実「(不安そうに)な、何だって!?」

日菜佳「(泣き顔で顔を上げて)助かったって……」

 ホッとする他の者。

香須実「良かった……、良かった……」

 ヘナヘナと机の上に崩れ落ちる香須実。

 電話口では、日菜佳が受話器を握ったままオンオンと泣きじゃくっている。

 勢地郎、ウンウンと頷きながら、親指で軽く目頭を拭う。

ヒビキ「……よし!」

 上方を見上げて微笑むヒビキ。

ヒビキ「少年にも……、連絡してやってくれよ」

 そう言って、階段を駆け上がっていくヒビキ。

香須実「……は、はい! ……そうだ、明日夢君!」

 日菜佳が泣きじゃくる電話口へと近付く香須実。

 勢地郎、ちょっと考え込んだ表情で、

勢地郎「それはそうと……、なんか忘れているような……」

 

○明日夢の部屋

 携帯電話で話している明日夢。

明日夢「そうですか! ……ああ、良かったです。……はい! あ、持田にも連絡しておきます」

 電話を切る明日夢。

 目を瞑って、大きく溜め息を一つ。

 そして、ひとみに電話をかけ始める。

 

○謎の洋館

 二階の部屋で、イラつきながらウロウロと歩き回っている和服姿の男。

 その傍らには、和服姿の女。

男「……迂闊だったな。まさか奴らに謀られるとは」

女「こちらの手駒もあと二体。打つ手はあって?」

 男、部屋の壁に手を当て、ジッと壁を見つめる。

 一瞬、壁がボーッとボヤけていったかと思うと、また元に戻る。

男「……我々の力も衰え始めている。奴らにこの場所を知られたのは……、マズいな」

女「ここから離れにくいだけに……ね」

男「まあ、必ず奴らは、またここにやってくる。その時、一気に始末するしかないな」

 そう言った男の顔が微妙に歪み、一瞬獣の顔を覗かせた。

 

○たちばな・地下作戦室

 中央の机の上に資料を広げる勢地郎。

 それを見つめるヒビキ、香須実、そして日菜佳。

勢地郎「吉野からの資料、古来から伝わる伝説を総合的に分析すると、やはり闇の鬼を操る邪悪な力が存在することは間違いないな。そして、イブキ君が突き止めた渋川の古い洋館、この位置は……」

日菜佳「日本でも、特別な場所ですね?」

ヒビキ「特別?」

勢地郎「そう。いわゆる『日本のへそ』だ」

香須実「日本の……、へそ……」

勢地郎「そうだ。いくつかの説はあるが、東経百三十九度、北緯三十六度二十九分の地点にあるということで、ここが日本の中心地とされている。洋館の位置からすると若干のズレはあるが、この日本の中心に邪悪な自然の力が長い年月をかけて集まって、極度に高い知能を持った何かが発生したと考えられるんだなあ」

ヒビキ「それは、魔化魍なのですか?」

勢地郎「魔化魍は魔化魍だろう。しかし、いかにも特殊な条件の下で発生した力だ。果たして、通常の音撃の力で清められるかどうか……」

 ヒビキ、立ち上がり、

ヒビキ「……ま、データがない以上、とりあえず当たってみないことには何とも言えないですね」

香須実「あ、ゴズキとメズキの方は?」

 ヒビキ、香須実の方へ振り向いて、

ヒビキ「おお、あいつらはな、俺たち太鼓の鬼の責任として絶対始末する。ま、ダンキたちにも協力してもらうって」

勢地郎「……あ!」

 机を叩いて立ち上がる勢地郎。

日菜佳「……なんスか?」

勢地郎「こないだから、なんか忘れていると思ってたら……、ダンキ君と……」

香須実「……ああっ!」

 同じく机を叩いて立ち上がる香須実。

 

○日光のとある寺

 境内で焚き火をしているダンキとショウキ。

ショウキ「……まだですかねぇ、俺たちの出番は……」

ダンキ「まあ慌てんなって。ヒーローの出番は、最後の最後って、相場が決まってんだよ!」

 既に八つのフォーメーションを完成させて、臨戦態勢万全のダンキとショウキであった。

 

《CM》

 

○吉野本部・病室

 ベッドで眠るあきら。

 その横で、あきらの右手を握り締めながらウトウトを眠るイブキ。

 と、そのあきらの右手の指が、ピクッと動く。

 浅い眠りのため、即座に反応して目を覚ますイブキ。

 ピクピクッと、あきらの右手が動く。

イブキ「……あ、あきら! あきら!!」

 イブキ、あきらの顔に見入る。

 そして、あきらの目が、少しずつ開いていく。

 目を開いたあきら、見守るイブキに気付き、

あきら「……イ……、イブ……」

 喋ろうとするあきらの口元をそっと押さえるイブキ。

イブキ「まだ話さなくていいよ。……僕が、ずっと傍にいるからね」

 あきら、安心したように微笑みながら、再び眠りに落ちていく……。

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲む勢地郎、ヒビキ、トドロキ、フブキ。

勢地郎「吉野からの連絡はまだないが、そうグズグズしてもいられない状況だ。通常業務の方は、トウキ君とショウキ君にもう少し踏ん張ってもらうとして……、やっぱり少し手が足りないので、トドロキ君には、そっちに廻ってもらおうかな」

トドロキ「はい!」

勢地郎「ヒビキには、あの二匹を退治するために太鼓隊を率いてもらおう。恐らく強化形態が必要となるだろうから、キツいだろうけど頑張ってくれ」

ヒビキ「りょ~かい。シュッ!」

 ポーズをとるヒビキ。

勢地郎「フブキ君は、ヒビキたちのサポートで」

 ガクッと肩を落とすヒビキ。

ヒビキ「ま、またですか……」

フブキ「何なの? ヒビキ君」

 ヒビキ、フブキの言葉を敢えて無視するように立ち上がる。

ヒビキ「……よ~し! 行くぞトドロキ!」

トドロキ「……あ、はい!」

 腕を振り回しながら階段を上がっていくヒビキ。

 その後を追うトドロキ。

フブキ「フッ……」

 微笑を浮かべて立ち上がり、ゆっくりと部屋を出ていくフブキ。

 

○同・店頭

 ヒビキ、トドロキ、フブキが地下から上がってくる。

 そこへ、入口の扉が開いて明日夢が入ってくる。

明日夢「……おはようございます」

 ヒビキ、明日夢に気付いて、

ヒビキ「おお、少年~! なんか久しぶりだなあ」

明日夢「あ、そうですね」

 嬉しそうに、目を合わせるヒビキと明日夢。

ヒビキ「で……、どした? しばらく店は休みだぞ?」

 楽しそうに問いかけるヒビキ。

明日夢「……あ、その、ちょっと今日は勢地郎おじさんに……」

 そう言って、奥を指差しながら歩を進める明日夢。

ヒビキ「そ、そっか……」

 自分に用じゃないのがちょっぴり残念そうなヒビキ。

 明日夢、奥への入口付近に立っていたフブキに遠慮気味に会釈をして、暖簾をくぐって中へ入っていく。

 ちょっとふくれっ面のヒビキ。

 フブキが話しかけながら、その前を横切る。

フブキ「……あのコ、いい目をしてるわね」

 ヒビキ、目を輝かせながらフブキの後を追う。

ヒビキ「あ! 分かりますぅ? さっすがフブキさん! いや、俺もね、前からこう……」

 ヒビキの言葉を聞いているのかいないのか、まっすぐ外へ出ていくフブキ。

 それにヒビキも続く。

トドロキ「……ア、アハ」

 トドロキ、その後を追って、にこやかに駆け足で外へ出ていく。

 

○同・地下作戦室

 勢地郎とみどりのいる部屋に、明日夢が入ってくる。

明日夢「……す、すいません」

 明日夢に気付いて顔を上げる勢地郎。

勢地郎「やあ」

みどり「明日夢君! どうしたの?」

明日夢「……あ、いやその……」

 モジモジと口ごもる明日夢、みどりに勧められて椅子に座る。

勢地郎「どうした? ……なんか、悩みでも……、あるのかい?」

 そう言いながら、ポットのお湯でお茶を入れて明日夢の方へ持ってくる勢地郎。

明日夢「……あ、どうも」

 明日夢、椅子に座ってお茶をすする。

 その様子を興味深く見つめるみどり。

明日夢「……おじさん! その、……鬼になるっていうことは、どういうことなんでしょうか?」

勢地郎「え?」

みどり「明日夢君! 君、ひょっとして!」

 身を乗り出すみどり。

明日夢「あ、いや! 別にそういうことじゃなくて……。その、鬼には一体何が大切なのかなって……。皆さんの生き方ってのをもっと知りたいって言うか……」

 勢地郎、ちょっと考えて、

勢地郎「……明日夢君、鬼っていうのはね、自然を愛し、人を愛するってことが大切なんだと思うよ」

明日夢「自然を愛し、人を愛する……」

勢地郎「そう。魔化魍ってのは、我々人間にとっては敵とみなされる存在なんだが、根本的に罪はないんだよ。まあ、ここ最近は悪意を持った何かが動いている様子はあるんだが、もともとは自然と人の濁った部分が傑出したものなんだよね」

みどり「だから、私たちが清めている、ってわけね」

 黙って聴いている明日夢。

勢地郎「鬼はね、その使命を果たすためには常に透き通った心を持っていなければダメなんだ。もちろん、鍛えた上でね」

 勢地郎の言葉を真剣な表情で噛み締める明日夢……。

 

○吉野本部・病室

 ベッドの上のあきら。

 以前、倒れてイブキに助けられた時のこと、今回再び魔化魍に取り憑かれて幽閉されたこと、そして、その危機をまたしてもイブキをはじめとする猛士の仲間たちが救ってくれたこと、そうした一つ一つの出来事を噛み締めて、瞼を閉じる。

 次第に感謝の気持ちが溢れてきて、それが涙となって頬をつたう。

 と、枕元にあった円形のディスクアニマルに手を触れ、彼らにも感謝の意を込めて顔に近付ける。

 祈るようにディスクアニマルを額に当てるあきら。

 と、一瞬不審な表情になる。

あきら「……え?」

 あきら、まだ自由がきかない上半身を必死で起こし、ベッドの上部に置いてあった鬼笛を取って唇に当てる。

 静かに鬼笛を吹くあきら。

 しかし、何故か音が出ない。

あきら「そ、そんな……」

 

○同・医療チーフの部屋

 机を挟み、向き合って話しているイブキと医療チーフ。

イブキ「先生、本当にありがとうございました」

 改めて頭を下げるイブキ。

医療チーフ「うむ。……しかし、大変なのはこれからだぞ」

イブキ「え?」

 立ち上がって、窓の方へ歩を進める医療チーフ。

 窓から外を眺めながら、

医療チーフ「天美さんの体から、魔化魍を完全浄化することは出来た。しかし、それと引き換えに、彼女は今まで培った能力を全て失ってしまったんだ……」

イブキ「な、何ですって……!?」

 驚いて椅子から立ち上がるイブキ。

医療チーフ「鬼と魔化魍の体質というのは、根本的には同種のものだ。あの鬼石は、そうした超常能力を無効化させる効果を持っていたので、魔化魍の核を追い出すとともに、天美さんの体を、普通の人間の体に戻してしまったんだ」

イブキ「そんなこと……」

 拳を握り締めたまま、沈黙してしまうイブキ……。

 

○四十六之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 病室で話すイブキとあきら。

あきら「ごめんなさい、イブキさん……。しばらく、一人にさせてください……」

 洋館近辺で戦う太鼓の戦士たち。

響鬼「おいでなすったか」

 たちばな地下で話す勢地郎たち。

勢地郎「もしやめる……ということになれば、それも仕方ないだろう……」

 四十七之巻『語る絆』

 

○提供ナレーション 栩原楽人


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