真・響鬼   作:三澤未命

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四十四之巻『秘める決意』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。大変な戦いの中、またしても天美さんの身に何かが起こっているようです。そして、いつか出会った努さんとまた顔を合わせ……」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 四十四之巻『秘める決意』

 

○提供ナレーション 秋山奈々

 

○たちばな

 テーブルの上の食器を片付ける努と明日夢。

努「君は、鬼を目指すことにしたのかい?」

明日夢「……え!?」

 ピクッと動くひとみ、悲しげな表情のまま明日夢の方を見る。

 明日夢、ゆっくりと持っていた湯呑みをテーブルに置く。

明日夢「……まだ、そう決めたわけじゃありません。でも……、ちょっと迷っているのは確かです。自分がやりたいことは何なのかなあ、人生を賭けるべきものって、何なのかなあって」

ひとみ「(悲しげな表情で)安達君……」

 努、手を止めて、

努「……僕は、中途半端な状態で方向転換した身だから偉そうなことは言えないけど、夢って、一人で追うもんじゃないのかもしれないね」

明日夢「……え?」

努「独りよがりな夢は、逆に色んなものを失うことになりかねない。自分を見てくれている人のことを考えるのも、大事なことなんだよね」

 再び食器を片付け始める努。

努「世の中、一人で生きてるわけじゃないからね。みんな、どこかで誰かに支えられて何かを実現していくもんなんだと思うんだよね。……だから、僕は元猛士として、こういうボランティア的なサポートは、これからもやっていこうと思ってるんだ。心を鍛えてくれた恩返しの印としてね」

 お盆を持って台所へと向かう努。

 明日夢、下を向いて考え込む。

 そして、その明日夢を見て目を潤ませるひとみ……。

 

○碓氷峠・下り道

 たちばなへ戻らんと疾走するイブキ、トドロキ、バンキの三台のマシン。

    ×   ×   ×

《回想・碓氷峠頂上》

 キャンプを中止してテントを片付けているイブキ、トドロキ、バンキの三人。

トドロキ「一旦戻るって……、せっかくここまで来たのに、どうしてなんですか? イブキさん」

イブキ「ちょっと、考えがあるんです。それに……」

バンキ「小型の魔化魍に対して、このフォーメーションではキツいからなあ」

 イブキ、バンキの言葉に頷いて、黙々とキャンプ道具を片付ける。

《回想・ここまで》

    ×   ×   ×

 竜巻で疾走するイブキ。

イブキ「(待ってろよ、あきら。必ず助け出してやるからな!)」

 

○謎の洋館・玄関口

 玄関から入ってくるあきら。

 その後ろを、和服姿の男女が続く。

 廊下を歩く三人。

 そのまた後ろには、あきらのディスクアニマルたちが、ソロリソロリとついてくる。

あきら「ワレハ……、ワレハ……」

 脂汗をかいて、フラフラと歩くあきら。

 自我をアメヒメに支配されつつあるが、まだ細胞の融合が不完全なためか、イブキの言葉が脳裏をよぎる。

イブキ「あ、あきら! ……僕が、僕が分からないのか!?」

あきら「ウゥ……!!」

 頭を押さえてしゃがみ込むあきら。

 その両脇を、和服姿の男女が抱えてあきらを起こし、そのまま歩いていく。

 

○同・暗い一室

 ドアを開けて部屋に入る和服姿の男女。

 あきらを中央のベッドに寝かせる。

 その周りでは、ディスクアニマル達が動き回る。

男「お前らは、あっちへ行ってろ!」

 ディスクアニマルを一喝する男。

 ビクッと飛び跳ねて、部屋の隅に移動していく二匹の浅葱鷲、二匹の鈍色蛇、そして、一匹の黄赤獅子……。

 

○たちばな・地下作戦室

 PCの前に座る香須実と日菜佳。

 中央の机周りには、勢地郎、ヒビキ、イブキ、トドロキ、バンキの姿。

 そして部屋の隅には、フブキが足を組んで座っている。

勢地郎「闇の鬼一体の始末はできた……と。オンモラキはまだ姿を現さないので、このまま様子を見るとして、問題はゴズキとメズキだが……」

バンキ「小型の魔化魍なだけに、やはり弦や管の武器では限界がありますね」

ヒビキ「俺の出番ってわけだな?」

バンキ「……しかし、何しろ予測のつかない状況ですので、三タイプの攻撃陣で臨むべきではないかと……」

勢地郎「そうか。じゃ、ヒビキはトドロキ君に代わって……」

イブキ「いえ、トドロキさんには現場に行ってもらいましょう。……バンキさん、あなたには、ここに残ってやってもらいたいことがあるのです」

バンキ「(イブキの方を向いて)何だ?」

イブキ「あきらを助けるために、みどりさんが今頑張ってくれているんですが、一人ではちょっと厳しそうなので……」

バンキ「分かった。頭脳労働に廻れってことだな?」

 ニコッとするイブキ。

勢地郎「……で、そのあきらの居場所なんだが……」

 そう言って、机の引き出しから小型電波受像機を取り出す勢地郎。

 受像機を机の上に置く。

トドロキ「それは……」

勢地郎「イブキ君が、あきらのディスクアニマルの中に、一匹自分のディスクアニマルを紛れ込ませたんだ。通信機能を搭載した黄赤獅子をね」

トドロキ「そいつはすげぇ! さっすがイブキさん!」

イブキ「そろそろ、いい頃ですね」

勢地郎「うむ」

 小型電波受像機のスイッチを入れる勢地郎。

 画面は真っ暗だが、そのデータが転送されたPCモニターに映し出されたマップに、電波は捕らえられている。

 モニターに点滅する一つの光。

勢地郎「(モニターを見て)ここは……、渋川だなあ」

ヒビキ「そこに、奴らの本拠が……」

 その時、受像機の映像が突然ブチッと切れた。

トドロキ「あっ!」

イブキ「……恐らく、ディスク型に戻されたんでしょう。アニマル型でないと、カメラは働きませんからね」

 立ち上がるヒビキ。

ヒビキ「とにかく、相手の居場所が分かったんだ。その馬ヅラと牛ヅラの妨害には遭うだろうが、一刻も早くあきらを救い出すんだ!」

トドロキ「よっしゃあ!」

 拳を握り締めるトドロキ。

勢地郎「で、フブキ君だが……、今回はヒビキ達と同行してもらう」

ヒビキ「ええ!?」

 必要以上に驚くヒビキ。

フブキ「何よ、ヒビキ君」

 足を組んで座ったまま呟くフブキ。

ヒビキ「あ、いや別に……」

 横を向くヒビキ。

勢地郎「通常業務の助っ人として帰ってきてもらったわけだが、特殊な状況なんで、サポートにね」

フブキ「香須実さんの代わりに、私が運転してさしあげるわ。ねぇ、ヒビキ君」

 いたずらな笑みをヒビキに投げかけるフブキ。

 少々困り顔のヒビキ。

 

《CM》

 

○城南高校

 休み時間、校舎の陰で話す明日夢とひとみ。

ひとみ「安達君……、やっぱり、ヒビキさんの……弟子に?」

明日夢「まだ決めたわけじゃないけど……」

ひとみ「ねぇ、やめなよ安達君! ……危ないよ。何もそこまでしなくても……」

 目を潤ませるひとみ。

 明日夢、ひとみの顔を見て一瞬たじろぐが、口をキッと結び直して、

明日夢「……ドラム叩いてると、ホント楽しいんだ。楽しいんだけど、もっとこう、なんて言うか、人のために何かできる男になりたいなあって……」

 さらに泣きそうな顔になるひとみ。

明日夢「……でもね、正直なところ、怖いんだ。ザンキさんも今入院中だし、天美さんなんて……。俺に、そんな覚悟ができるのかどうか……」

ひとみ「う……、う……」

 ひとみ、口を押さえて走り去っていく。

明日夢「も、持田!」

 一人立ちすくむ明日夢。

 壁にあてていた手をギュッと握りしめ、その拳を見る……。

 

○渋川方面へと向かう道

 イブキの竜巻を先頭にして、ヒビキの不知火、そしてトドロキの雷神が道路を走る。

 

○不知火の中&竜巻を運転するイブキ

 運転席にはフブキ。

 そして助手席にヒビキ。

ヒビキ「しかしフブキさん、その、アレですねぇ……。相変らずお忙しそうで……」

フブキ「私ほど世界的なフルート奏者になると、色んな国から引く手あまたなのです」

ヒビキ「あら、そうですか」

 呆れ顔のヒビキ。

 気を使って話を振ったのに邪険にされ、ちょっとふくれっ面に。

 フブキ、そんなヒビキの様子を横目で見てわずかに微笑む。

 しばらく沈黙の後、

フブキ「でも……」

ヒビキ「ん?」

フブキ「その分、こっちに迷惑かけ過ぎてんのも事実よね……」

 クールな中にも、一抹の不安を感じさせるフブキの表情。

 ヒビキ、そんな珍しい顔を見せるフブキに思わず見入る。

フブキ「音楽か鬼か……。どっちも捨てられないし、両立できると思ってたからここまでやってきたけど……、そろそろ潮時かもしれないわね」

ヒビキ「フブキ……さん?」

 不思議そうな表情で、フブキを見るヒビキ。

 その時、フブキの目が前方上空にに何かを捕らえた。

フブキ「あ、あれは!」

 前方上空に、不自然な動きをする小さな塊が見え、次の瞬間、それは近くの林の中へと急降下していった。

フブキ「ヒビキ君!」

 頷くヒビキ。

 目の前の無線機を取り出して、

ヒビキ「イブキ!」

    ×   ×   ×

 画面、ここから交互にイブキ、ヒビキ。

イブキ「……はい!」

 ヘルメットに装着されている無線機で話すイブキ。

    ×   ×   ×

ヒビキ「例の鳥さんだ。左の林に寄り道するぞ」

    ×   ×   ×

イブキ「分かりました!」

 三台のマシンが、公道から離れて林の中へと入っていく。

 

○たちばな・地下研究室

 あきら救出のための武器開発に没頭中のみどりとバンキ。

 みどり、特殊なスコープを頭から被り、PCのキーボードを叩く。

 バンキ、部屋の端で音撃管を構えて、三メートルほど離れた場所に置いた五十センチくらいの塊に狙いを定める。

バンキ「……いきます」

 バンキ、標的の物体に向けて鬼石を打ち込む。

 鬼石を撃ち込まれた物体は、ジワジワと変色し始め、その途中でパカンと破裂してしまう。

みどり「ダメ、か……」

 スコープを頭からはずすみどり。

 バンキ、破裂した物質に近付いて、その破片を凝視する。

バンキ「もう少し、内容物の比率を変えてみましょう。組合せは合っているはずです」

みどり「そうね」

 再びPCのモニターに見入るみどり。

 バンキ、音撃管を机に置きながら、

バンキ「以前のように、部分的な浄化では絶対に不十分。ってことは」

みどり「(キーボードを叩きながら)取り憑いた魔化魍の核そのものを消滅させなければいけないわけね」

バンキ「心臓の横……。危険……ですがね」

みどり「……でも、それしかあきらクンを救う方法はないわ。イブキ君ならきっとやってくれる。だから、私たちが一刻も早く」

バンキ「そうですね」

 バンキ、砕けた破片を拾い集め、分析器に流し込む。

 静かに研究に没頭していく二人……。

 

○明日夢の自宅

 自分の部屋のベッドに寝転ぶ明日夢。

 ドラムのスティックを空中でリズミカルに揺らす。

 そして、次第にゆっくりした手の動きになって、バタンとベッドに手を下ろす。

明日夢「はぁ……」

 と、廊下から郁子の声。

郁子「明日夢~、行ってくるからね~!」

 明日夢、ベッドから跳ね起きる。

 ドアを開けて廊下に顔を出す明日夢。

明日夢「あ……、母さん!」

郁子「(玄関でバタバタと靴を履きながら)え? 何?」

明日夢「……あ、いや、何でもない。行ってらっしゃい!」

郁子「は~い、行ってきます!」

 玄関のドアを開けて出ていく郁子。

 明日夢、ゆっくりとドアを閉めて再び部屋に入り、ドアにもたれて溜め息一つ。

 そして、ポケットからヒビキに貰ったコンパスを取り出して、ジッと見つめる。

 明日夢の脳裏に浮かぶ、周囲の言葉。

ひとみ「……危ないよ。何もそこまでしなくても……」

努「自分を見てくれている人のことを考えるのも、大事なことなんだよね」

 口を真一文字に結んで俯く明日夢。

子供「ありがとう! お兄ちゃん」

 そこでふと浮かんだ、トラックに轢かれそうになったところを助けた子供の声。

 未だ、迷いの中にある明日夢……。

 

○日光のとある寺

 野外でトレーニング中のダンキとショウキ。

ダンキ「……よし! ここで俺が!」

 ジャンプして音撃棒・那智黒を振り回すダンキ。

 ダンキ、着地して音撃管・台風を構えているショウキの下へ歩く。

ダンキ「これでフォーメーションCも完成だな。……オンモラキめ~、いつで来いって!」

 と、ショウキが背後の気配にピクリを眉を動かす。

ショウキ「出たか!?」

 振り返って上空を見上げるショウキ。

 そこには一匹のカラスが……。

 依然、イメージトレーニングに余念のない二人であった。

 

○四十四之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 オンモラキと戦う響鬼達。

響鬼「いかんな……。轟鬼! 何とか足止めするんだ!」

 謎の洋館で佇むあきら。

あきら「コノカラダハ、モウワレノモノ」

 あきらと対峙する威吹鬼。

威吹鬼「あきら! 目を覚ますんだ!!」

 四十五之巻『散渦する妖魔』

 

○提供ナレーション 秋山奈々


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