○アバン・オープニング
明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。鬼の人たちの過酷な戦いは続いています。そんな中、海外から帰ってきた鬼の人もいるようで……」
○オープニング曲『輝』
○サブタイトル
四十三之巻『変わりゆく身』
○提供ナレーション 伊藤慎
○碓氷峠
峠道を走るイブキ、トドロキ、バンキのマシン。
イブキ「(浅間山周辺が中心と考えるならば、確かにこの辺りも怪しい。……風が、何かを教えてくれる)」
風を感じることに長けているイブキを先頭に、峠道を疾走する三台のマシン。
○同・頂上付近
峠の頂上までやって来て、三人がそれぞれのマシンから降りる。
イブキ「とりあえず、この辺で様子を伺いましょう」
トドロキ「OKッス!」
トドロキ、音錠を鳴らしてディスクアニマルを放つ。
イブキ「じゃ、僕は向こうの方を……」
そう言って、イブキはトドロキがディスクアニマルを放った方と逆方向へと歩いていく。
残ったトドロキとバンキ、雷神からテント道具を取り出して、組み立て始める。
バンキ、地面に杭を打ちながら、
バンキ「……トドロキさん」
トドロキ、テントを広げながらバンキの方を向いて、
トドロキ「え?」
バンキ「ザンキさんの具合、どうですか?」
トドロキ「……あ、いやあ、命に別状なくって、ホンットに良かったッス。しばらくは、ゆっくり休んでもらいますよ」
バンキ「そうですか……」
手早くテントを組んで、道具を仕舞っていくトドロキ。
トドロキ「……でも、バンキさんは偉いッスよね~。鬼の仕事しながら、ちゃんと大学にも通ってるなんて」
バンキ「そんなことないです。……実際、大学通い続けるかどうかは、かなり迷ったんですよね。でも、やりたい研究もあるし、サバキさんにも、一旦入ったからにはキッチリ卒業しろって言われましたんで……」
トドロキ「いいんじゃないッスか? 師匠の言葉は、ありがたいもんですよ。俺も、ザンキさんは一生自分の人生の師匠だと思ってますから」
バンキ「フフ……、トドロキさんらしいですね」
その時、トドロキとバンキの前に妙な風が吹く。
ただならぬ気配を感じたトドロキとバンキ、互いに音撃弦を持って身構える。
と、近くの林の中から現れた、ゴズキとメズキ!
二匹は余裕の佇まいで立ちはだかっている。
トドロキ「ヤロゥ……」
トドロキ、音錠を鳴らして額へと持っていく。
バンキも同じように音錠を鳴らし、額へと持っていく。
トドロキが腕を頭上に上げると雷鳴が轟き、バンキは腕をサッと横に振り下げると体中が暗闇に包まれた!
そして、二人同時に鬼に変化!
轟鬼と蛮鬼、二人の鬼が二匹の魔化魍に向かって走る!
○たちばな
バイト中の明日夢とひとみ。
店内を忙しく動き回る。
その時、入口の扉が開いて、努が入ってくる。
努「こんにちは」
明日夢、扉の方を見て、
明日夢「いらっしゃいませ! ……あ」
努「やあ、久しぶりだね」
明日夢「ご、ご無沙汰してます」
隣で会釈するひとみ。
努、これに応えながら、奥へと歩いていく。
日菜佳、奥から出てくる。
日菜佳「……あ、努君! ゴメンね~、忙しいトコ!」
努「いえいえ、僕でお役に立てるなら」
奥へと入っていく努。
日菜佳「じゃ、明日夢君、ひとみちゃん。悪いんだけどぉ、今日もお店の方、よろしくね!」
明日夢・ひとみ「はい!」
ひとみ、机を拭きながら、
ひとみ「ホントに大変そうね……。でも、あたし達にできるのは店番くらいだし、だからこそしっかりやらなくっちゃね!」
明日夢「……う、うん、そうだね」
食器を片付けながら、少し考え込んだ表情の明日夢。
○碓氷峠・頂上付近の林
イブキ、歩きながら鬼笛を吹き、ディスクアニマルを放つ。
と、突如異様な邪気を感じる。
周りをキョロキョロと見回すイブキ、突如鋭い圧迫感を感じ、頭を押さえる。
イブキ「……こ、これは!?」
イブキ、ふと木と木の間の陰を見ると、いつか見た和服姿の男女の姿が!
イブキ「あ、あいつらは!」
イブキ、頭を押さえながら男女の方へと走る。
しかし、近くまで行くと忽然と姿を消す男女。
周囲を見渡すイブキ。
男女の姿はどこにも見当たらない。
イブキ「……くそっ!」
イブキ、ふと背後に気配を感じて振り向く。
すると、そこにはあきらの姿が!
イブキ「あ、あきら……!!」
あきら、服装はオンモラキに連れ去られた時のままだが、その肌はドス黒く変色し、瞳の色は真っ黄色になっている。
イブキがあきらに近付く。
と、あきらは鬼笛を腰からはずし、ゆっくりと口元へ。
あきら「ワレハ、アメヒメ……。ソナタニハ……、シヲ」
鬼笛を吹くあきら。
腰からディスクアニマルが飛び出し、イブキを襲う!
イブキ「うっ! ……やめるんだ、あきら!」
ディスクアニマルの執拗な攻撃。
しかし、イブキはそれを叩き落すわけにもいかず、なすがままに傷つけられる。
イブキ「……あ、あきら! ……僕が、僕が分からないのか!?」
あきら、イブキの声を全く聞こうともせず、そのまま無表情でディスクアニマルを操り続ける。
イブキ「くっそ……」
イブキ、ディスクアニマルに攻撃されながらも、腰から鬼笛を外してひと吹き!
鬼笛を額に持っていく。
イブキの体が疾風で包まれ、その風圧でディスクアニマル達が吹き飛ばされる。
二、三歩後ずさりするあきら。
吹き飛ばされたディスクアニマル達は、そのあきらの下へ戻っていく。
と、その時、あきらの後ろに和服姿の男女が現れる!
変身した威吹鬼、またしても襲う邪気に耐えられず、思わずその場にうずくまってしまう。
威吹鬼「ううっ……!!」
和服姿の男が手を振る。
すると、その場にバッと砂煙が立ちこめる。
目眩ましに遭った威吹鬼、しゃがみ込みながらも鬼笛を口元へ。
そして、砂煙が止んだ後には、もう三人の姿はなかった。
威吹鬼、静かに立ち上がり、右手に持っていた鬼笛を腰に収める。
《CM》
○碓氷峠・頂上付近のベースキャンプ地
ゴズキ&メズキと戦う轟鬼と蛮鬼。
烈雷を振り回す轟鬼。
一方蛮鬼は、細型のベース音撃弦・刀弦響で対抗するが、二匹の魔化魍の重い槍攻撃に押されっぱなし。
人型魔化魍だけに、剣撃モードでの戦闘となる轟鬼と蛮鬼。
やはり決定的なダメージは与えられず、逆にパワーで吹っ飛ばされる。
轟鬼・蛮鬼「うわああああああ!」
倒れた二人に、ゴズキ&メズキの槍が襲う!
と、その時、ゴズキ&メズキの背中に烈風の銃弾が撃ち込まれる!
一瞬ひるむゴズキとメズキ。
後方から、威吹鬼が烈風を構えて走ってくる。
威吹鬼「轟鬼さん! 蛮鬼さん!」
さらにゴズキ&メズキに向かって射撃する威吹鬼。
ゴズキ&メズキに打ち込まれる鬼石。
威吹鬼、立ち止まってベルトから鳴風をはずして、烈風にセット。
ゴズキ&メズキに向かって、力強く烈風を吹き鳴らす!
ゴズキ&メズキに向かって延びる疾風一閃の波動。
鬼石が撃ち込まれた箇所が部分的に破壊されて、ゴズキ&メズキの皮膚が弾けるが、体全体には音撃波が伝わらない。
今度は、轟鬼と蛮鬼が二体に向かって音撃弦を突き刺しにかかる!
轟鬼「うおおおおおぉらぁぁぁぁ!」
しかし、ダメージが浅いゴズキとメズキは、それを許さずなんなく撥ね退ける。
轟鬼・蛮鬼「うわっ!」
ゴズキ&メズキに撥ね退けられて吹っ飛ぶ轟鬼と蛮鬼。
ゴズキ&メズキは、ひと吠えすると大きくジャンプして、木と木の間をすり抜けて逃亡していった……。
威吹鬼、その様子を見て、ジッとその場に佇む。
○森の奥・沼地
森の中を歩くヒビキとゴウキ。
沼地の前で立ち止まり、
ヒビキ「この辺だな?」
周りを見渡すヒビキとゴウキ。
と、ゴウキが気配に気付き、
ゴウキ「……ヒビキさん。あそこ!」
ゴウキ、右手前方に見える小さな沼地を指差す。
と、その沼の表面がブクブクと泡立ち、濁った水の中からドロタボウが現れた!
ヒビキ「……ったく、どうなってんだ」
音角を鳴らして額へ持っていくヒビキ。
ゴウキも同様の動きを。
二人の額に鬼の紋章が浮かび上がったその時、後方の沼から現れた二匹のドロタボウがヒビキとゴウキの背後から襲いかかる!
瞬間、炎に包まれるヒビキとゴウキ。
思わず体を離すドロタボウたち。
変化した響鬼、剛鬼がともに音撃棒を構える。
響鬼「なんでコイツらがまだ出るんだ?」
剛鬼「生態系が壊れてるってことですかね」
沼から次々に現れるドロタボウ!
あっという間に数十体のドロタボウに囲まれた響鬼と剛鬼。
響鬼「しょうがねーな。……剛鬼!」
剛鬼「はい」
響鬼、剛鬼、ともに音撃棒を持った手を広げて全身に力を込める。
次第に色づいていく二人の体。
響鬼は真っ赤に、そして剛鬼は鮮やかな紺色に……。
響鬼「響鬼・紅(くれない)!」
剛鬼「剛鬼・瑠璃紺(るりこん)!」
強化形態と化した二人は、それぞれの音撃棒の先に炎を宿して、ドロタボウに向かっていく!
響鬼「ハァ! ハァ!」
剛鬼「ヤッ! フン!」
襲いかかるドロタボウたちに、次々と強化音撃打を繰り出していく響鬼と剛鬼。
ドロタボウに打ちつける度に広がる音撃の波紋!
増え続けるドロタボウを、打っては次々と粉砕させていく響鬼と剛鬼!
と、沼地の奥に四つん這いになった一際大きなドロタボウを発見!
響鬼「アイツが親玉だな?」
響鬼、その大きめのドロタボウに向かって飛びつく!
響鬼「(空中をジャンプした状態で)灼熱真紅の型~!!」
着地と同時にドロタボウの親玉に音撃の連打を浴びせかける響鬼!
その間、剛鬼は無数にいたドロタボウを次々に粉砕!
そして、響鬼が最後の一打!
響鬼「ハァーーー、ハァ!!」
四散するドロタボウの親玉。
響鬼「フゥ……」
ひざまづく響鬼のもとへ、無数のドロタボウを倒し切った剛鬼が近寄る。
剛鬼「お疲れ様です」
響鬼「おう、お疲れ! ……たく、仕事が増えるったらありゃしねーな」
剛鬼「全くですね」
響鬼、ゆっくりと立ち上がる。
剛鬼「あとは一人で大丈夫ですんで」
響鬼「そうか、じゃ、頼んだぜ」
響鬼、剛鬼にシュッのポーズを送って背中を向ける。
走り去る響鬼。
剛鬼、強化形態を解いて溜め息一つ。
そして、クルリと振り向いて歩き出す。
○たちばな
閉店作業中の明日夢とひとみ。
二人で店内の椅子をひっくり返して、机の上に上げている。
奥から日菜佳が出てくる。
日菜佳「あ~、ゴメンね~、二人とも! ホンットに任せっぱなしで……」
明日夢「いえいえ、いいんですよそんなの」
日菜佳「あ、私たちもひと段落ついたから、みんなでお茶しましょうか! ね、そうしよう!」
そう言って台所へ向かう日菜佳。
ひとみ「あ、あたし手伝います!」
一緒に台所へ行くひとみ。
奥から、勢地郎、香須実、そして努が出てくる。
明日夢「お疲れ様です!」
香須実「いえいえそっちこそ! ……ごめんなさいね~」
明日夢「僕らにできるのは、このくらいですから」
微笑みながら、椅子に座る勢地郎、香須実、努。
お盆を持って出てくる日菜佳とひとみ。
日菜佳「ハイハイ、お待たせしました~」
テーブルにお茶を置いていく日菜佳とひとみ。
そして着席して、溜め息をつく日菜佳。
明日夢「調べもの……ですか?」
勢地郎「ああ。過去に例のない事態になっているもんだから、色んな方向から分析していくしかなくてねぇ……」
明日夢「ヒビキさん達も、ず~っと出っ放しですもんね」
勢地郎「そうなんだよ。イレギュラーな事態な上に、どうも生態系が狂ってるようで、未だに夏の魔化魍も出てきちゃったりしてるもんだからねぇ」
努「シフトを見ると……、トウキさんとエイキさんが関東中走り回ってる感じですね」
香須実「フブキさんが帰国を早めてくれたのも、こういう状況だからってことね」
勢地郎「東北支部からも応援してもらってる状態だけど、みんな休みなしで頑張ってくれてるよ」
お茶をすする勢地郎。
ひとみ「天美さんも、ずっとイブキさんと一緒なんですね?」
お茶を飲む手が止まる勢地郎、香須実、日菜佳。
複雑な表情でお互いの顔を見合わせる三人。
明日夢「え? どうかしたんですか?」
香須実「……う~ん、言わないでおこうかとも思ったんだけど、こういう状況だしね。……あきらクン、今行方不明なのよ」
明日夢・ひとみ「ええ!?」
香須実「前に話したわよね、魔化魍のエキスを体内に入れられて大変だったこと。イブキ君の音撃浄化で治ったと思ってたら、完治してなかったみたいで……」
日菜佳「(泣き顔で)……今は、心を失った状態で何者かにさらわれている状態なんです……」
ひとみ「そんな……」
涙が溢れてくるひとみ。
と、ふいに日菜佳の携帯電話が鳴る。
慌てて電話に出る日菜佳。
日菜佳「はい、もしもし! ああ、ヒビキさん!? ……父上、ヒビキさん」
勢地郎に電話を渡す日菜佳。
勢地郎「……ああ、私だ。……よし、分かった」
電話を切って日菜佳に返す勢地郎。
勢地郎「もうすぐ戻ってこれるそうだ。早速今後の対策を練り直そう」
勢地郎、珍しく厳しい表情のまま立ち上がり、再び地下へと足を進める。
その後を追う香須実。
努「あ、ここは僕が片付けておきますから」
日菜佳「……あ、ゴメンね~努君。じゃ、頼みます!」
そう言って、日菜佳も地下へと下りていく。
あきらのことでショックを受けている明日夢とひとみを気遣い、食器を片付け始める努。
明日夢「……あ、ごめんなさい! 俺、やります!」
努、明日夢とともに、食器を片付けながら、
努「君は、鬼を目指すことにしたのかい?」
明日夢「……え!?」
ピクッと動くひとみ、悲しげな表情のまま、明日夢を見る。
明日夢、所在無げな様子で食器をテーブルに置く。
沈黙する三人……。
○四十三之巻 完
○エンディング曲『少年よ』
○次回予告
たちばなで話す明日夢と努。
努「独りよがりな夢は、逆に色んなものを失うことにもなりかねない」
たちばな地下で話す猛士の面々。
勢地郎「で、そのあきらの居場所だが……」
不知火の中で話すヒビキとフブキ。
フブキ「私ほど世界的なフルート奏者になると、色んな国から引く手あまたなのです」
四十四之巻『秘める決意』
○提供ナレーション 伊藤慎