真・響鬼   作:三澤未命

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三十九之巻『始まる謀略』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。今日も鬼の人たちの戦いは続いています。僕も、そろそろ自分の将来を真剣に考えなくっちゃいけないなあと感じてきましたが、なかなか難しいものです」

 

○オープニング曲『輝』

○サブタイトル

 三十九之巻『始まる謀略』

 

○提供ナレーション 下條アトム

 

○たちばな

 開店準備中の香須実と日菜佳。

 入口の扉が開き、明日夢とひとみが入ってくる。

明日夢・ひとみ「おはようございま~す!」

香須実「あ、おはよう!」

日菜佳「おはようございますぅ! 明日夢君、ひとみちゃん!」

 二人に駆け寄る日菜佳。

ひとみ「今日から、どうぞよろしくお願いします!」

日菜佳「ハイハイ、頼りにしてますよ~。ささっ、着替えて着替えて!」

 日菜佳、明日夢とひとみを奥に連れていく。

 それをにこやかに見つめる香須実。

明日夢「俺、こっちで着替えるよ」

 そう言って、自分の作務衣を持って台所へと行く明日夢。

ひとみ「ありがと」

 笑って、居間の襖を閉めるひとみ。

 店頭から日菜佳の声。

日菜佳「でも、ひとみちゃん、部活の方は大丈夫なの~?」

ひとみ「(着替えながら)あ、大丈夫です。ただ、大会前とかは、土日でも来れない日が出てきちゃいますけど……」

日菜佳「ああ、いいのいいの! ちょっとでも来てくれたら、ウチは助かりますし~」

 先に着替え終わった明日夢が、着ていた服を持って居間の襖越しに声をかける。

明日夢「着替えた?」

ひとみ「……うん、……もういいよ」

 襖を開けて中へ入る明日夢。

 そこへ、勢地郎も入ってくる。

勢地郎「やあ、ひとみちゃん。よろしく頼むよ」

ひとみ「はい!」

 明日夢、自分の服をハンガーに掛けて、

明日夢「じゃ、俺、おもて掃いてくるから」

 先に出ていく明日夢。

 ひとみ、その後を出ていこうとしたところを日菜佳に止められて、

日菜佳「良かったですねぇひとみちゃん。明日夢君と一緒にいられる時間が増えて」

ひとみ「え!? 何言ってんですか、日菜佳さん、もう!」

 顔を真っ赤にしながら店に出ていくひとみ。

 日菜佳、後ろで微笑む勢地郎に近付き、

日菜佳「それにしても父上、大丈夫なんですかぁ? 二人もバイト雇ってしまわれて」

 勢地郎、ちょっと戸惑った様子で、

勢地郎「え、まあ、吉野への経費請求を増やせるはずだし……、ね」

 そうは言ったものの、部外者二人のために本部から経費が下りるはずもなく、内心冷や汗の勢地郎だった。

 

○謎の洋館

 不気味な実験器具が並ぶ一室。

 和服姿の男が、椅子に座って机上の大きな箱を眺める。

 その後方に立つ和服姿の女。

男「ふぅ……」

 箱を静かに閉じる男。

男「実験は……、終わった」

女「……まだ、不安要素は残ってるんじゃないの?」

男「しかし、我々にもあまり時間がない。そろそろ動かないと」

女「いよいよね?」

男「そう。…………鬼退治だ」

 立ち上がる男。

 そして寄り添う女。

 二人の目が、ギラッと光る。

 

○たちばな・地下作戦室

 机を囲む勢地郎、ヒビキ、ザンキ。

勢地郎「吉野からの連絡によると、シュキは一命を取り留めたそうだ。まだ意識は戻っていないみたいだが、どうやら快方には向かっているらしい」

ヒビキ「そうですか……」

ザンキ「意識が戻ったら、その後は……」

勢地郎「さあ、それは本部の判断だから、なんとも、ね……」

 下を向いて考え込むヒビキ。

勢地郎「……それよりも気になるのは、シュキの体が奪われてから、シュキの代わりに吉野に拘留されていたのが魔化魍・キジムナーだったということだ」

ザンキ「何ですって!?」

 上を向くヒビキ。

勢地郎「キジムナーは、人に化けて惑わすことで有名な魔化魍だ。幸い、本部常駐の鬼がすぐに倒したということなんだが、一体どうやって入り込んだのか……」

ザンキ「おまけに、シュキを逃がして、そのシュキに化けていたとなると……」

ヒビキ「何者かの悪意……ってわけですか」

勢地郎「(頷いて)吉野の予測が当たっているとすれば……、こりゃあ、結構大変だなあ」

 そこへ、バタバタと入ってくる日菜佳。

日菜佳「父上! 大変です! サバキさんがやられたって……」

勢地郎「何だって!?」

 表情を変える三人。

日菜佳「石割君が病院へ運んだってことですから、そっちの方は大丈夫だと思うんですけど、なんせ見たこともない魔化魍だって……」

ザンキ「……で、場所は!?」

 上着を着始めるザンキ。

日菜佳「松原湖です!」

ザンキ「ヒビキ!」

ヒビキ「了解!」

 ザンキとヒビキ、勢いよく階段を駆け上がる。

 

○駐車場

 不知火に乗り込むザンキとヒビキ。

ザンキ「トドロキのやつは、家にいるはずだな……」

 携帯電話を取り出し、トドロキに電話しようとするザンキ。

ヒビキ「ザンキさん、あいつずっと出ずっぱりだから、今日は休ませてやりましょうよ」

ザンキ「そうか、……そうだな」

 ザンキ、携帯電話を仕舞って、

ザンキ「よし! 行くぞヒビキ!」

ヒビキ「りょーかい!」

 ザンキの運転で発車する不知火。

 

○不知火の中&たちばな・地下作戦室

 松原湖へ向かう不知火のの中、ヒビキが助手席で勢地郎と携帯電話で通話中。

ヒビキ「ドドメキ……ですか?」

    ×   ×   ×

 画面、交互に勢地郎、ヒビキ。

勢地郎「(PCのモニターを見ながら)石割君から転送されてきたデータによると、魔化魍の特徴はウミヘビのような形態で、全身に無数の目があるということだ。……これは、古文書に載っているドドメキの可能性が高いなあ」

    ×   ×   ×

ヒビキ「で、そいつはどういうタイプの?」

    ×   ×   ×

勢地郎「(机の上の資料を見ながら)それがだねぇ、明治時代に一例出現例があるだけで、その時は倒す前に姿をくらましてしまったということらしいんだなあ。……まあ、今日のところは探りを入れる程度にしといてくれ。……あ、近くにゴウキ君がいたので、先に向かってもらったよ」

    ×   ×   ×

ヒビキ「分かりました」

 電話を切るヒビキ。

ザンキ「何だって?」

ヒビキ「昔出た時は、倒せなかったみたいですね。とりあえず、今日は無理するなってことです」

ザンキ「そうか」

 ヒビキ、厳しい表情で遠い目になる。

 ザンキ、その様子を横目で見て、

ザンキ「……ヒビキ」

ヒビキ「……は、はい?」

ザンキ「気持ちは分からんでもないが、いつまでも引きずっていてはイカンぞ」

ヒビキ「(微笑んで)分かってます。どうもすいません、気ィ遣わせちゃって。……俺一人がもがいたところで、どうしようもないことですからね。俺たちは、俺たちの出来ることをやるしかない、ですよね」

ザンキ「そうだな」

 松原湖へ向けて、一直線に走る不知火。

 

○たちばな

 まだ客のいない店内。

 明日夢とひとみが机を拭いている。

明日夢「……けど、なんで持田までバイト始めちゃったわけ?」

ひとみ「え? う~ん、そうねぇ……。安達君と、一緒だよ」

明日夢「え?」

ひとみ「安達君さあ、人助けになることがしたいって言ってたじゃない?」

明日夢「そ、そうだっけ?」

ひとみ「私もね、あの人たちのために何か手助けできないもんかな~って、思ったんだ」

明日夢「そっか」

 嬉しそうな表情の明日夢。

ひとみ「(言いにくそうに)ちょっと、気になるんだけどさ」

明日夢「え? 何?」

ひとみ「天美さん、イブキさんの弟子だったんだよね……」

明日夢「そうだよ」

ひとみ「……安達君、もしかしてヒビキさんの弟子になろうとか思ってる?」

明日夢「え!? ……いや、思ってないよ! ……俺にはとても無理だって」

 ひとみ、ホッとした表情で、

ひとみ「良かった! そうよね、いくら何でもそこまではねぇ」

明日夢「そ、そうだよ……」

 否定はしたものの、自分の中で迷いが生じ始めている明日夢であった。

 

《CM》

 

○松原湖

 魔化魍・ドドメキと対峙している剛鬼。

 ドドメキは、巨大なウミヘビのような形態で、全身に無数の目がついている。

 見るからに不気味だ。

剛鬼「ムゥ……」

 音撃棒・剛力を構えて、ドドメキに立ち向かう剛鬼。

 しかし、近付いた途端に、ドドメキの無数の目がビカッと光って、剛鬼の目を眩ませる!

剛鬼「ウッ……」

 目を覆って後ずさりする剛鬼。

 と、ドドメキの尻尾が勢いよく剛鬼を襲う!

 大きくはじき飛ばされる剛鬼!

剛鬼「ウワッ!」

 吹っ飛んで倒れこむ剛鬼。

 と、そこへ、ヒビキとザンキの乗った不知火が到着。

 車から降りて剛鬼に駆け寄るヒビキ。

ヒビキ「剛鬼! 大丈夫か!?」

 ヒビキ、ドドメキをひと目見て、

ヒビキ「うわっ! 気持ちワリーやつだな。で、バチは有効か?」

剛鬼「それ以前の問題ですね」

ヒビキ「何だって?」

 ドドメキの目が、またしても光る!

ヒビキ「ウッ!」

 思わず顔を伏せるヒビキ。

ヒビキ「何だ、そういうことか。よし!」

 ヒビキ、音角を鳴らして額に近付ける。

 炎に包まれ、ヒビキが鬼に変化!

 響鬼、大きく息を吸い、ドドメキめがけて口から炎を噴射!

 炎に包まれて悶えるドドメキ。

響鬼「よ~し、今だ!」

 燃え盛るドドメキに飛びつく響鬼。

 ところが、その瞬間、ドドメキの体が中心から裂け始める。

 裂け目は、ドドメキの体全体に渡って広がっていく。

 ユラユラと揺れ始めるドドメキの体。

響鬼「お~とっとっと」

 バランスを崩してコケそうになる響鬼。

 ついにはドドメキの全身の皮が剥がれ、中から艶やかなドドメキ本体がポーンと飛び出した!

響鬼「うわああああああ!」

 反動で放り出される響鬼。

 ドドメキはそのまま湖の中へ姿を消し、後には焼け焦げた皮だけが残った。

 吹っ飛び転んだ響鬼、その光景を見て、

響鬼「……だ、脱皮しやがった」

 後方で立ち尽くす剛鬼。

 そして、ザンキが車から採集器具を取り出して、剥がれ落ちたドドメキの皮へと近付いていく。

 響鬼と剛鬼も、顔の変身を解除しながらそこへ歩を進める。

 しゃがみ込んで、ドドメキの皮をジッと観察するザンキ。

ヒビキ「(ザンキの後方から)ったく、なんてヤツだ」

ゴウキ「このパターンは、初めてですね」

ザンキ「……とりあえず採集しとくか」

 ザンキ、焼け焦げた皮を採集スプーンですくって、細胞サンプルをシリンダーに入れていく……。

 

○たちばな・店舗前

 バイトを終えて帰ろうとしている明日夢とひとみ。

 自転車に乗り込む二人。

ひとみ「じゃ、また明日ね」

明日夢「うん、お疲れさん!」

 ひとみ、明日夢に手を振りながら走り去る。

 明日夢、その後姿をにこやかに見送り、ゆっくりと自転車を押しながら歩き始める。

 

○帰り道

 自転車を押しながら考え込む明日夢。

明日夢「ヒビキさん……」

 楽器店の前でふと立ち止まり、ウィンドウに飾ってあるドラムセットをまじまじと見つめる。

 明日夢の脳裏に、先日のコンクールの光景が思い出される。

明日夢「せっかく掴んだチャンスだしなあ」

 再び、自転車を押して歩き始める。

明日夢「部活と両立は……、とても無理だよなあ。天美さんなんて、学校もろくに来れてないし……」

 と、目の前をサッカーボールが転がっていき、その後ろを小さな子供が追いかける。

 道路に転がっていくサッカーボール。

 そして、それを追って走る子供。

明日夢「あっ……」

 明日夢、一瞬迷った後、意を決したかのように自転車を放り出し、子供の方へと走っていく!

 左方向から走ってくるトラック!

 明日夢、必死で子供に追いつき、その身体を夢中で抱えてしゃがみ込む!

 間一髪、目の前を通り過ぎるトラック。

 反対側の歩道に転がるサッカーボール。

 明日夢、ほっとして子供を抱える手を緩める。

 子供、轢かれそうなったことを自覚したのか、少し体を震わせる。

 が、すぐに笑顔になって明日夢の方を向き、

子供「……あ、ありがとう! お兄ちゃん」

 子供、道路の左右をキョロキョロと見渡し、反対側の歩道へ走ってボールを取りに行く。

 明日夢、満足そうな表情を浮かべて立ち上がる。

 そして、まだ子供を助けた感触の残る自分の両手を見つめて、その場に立ち尽くしてジッと考え込む……。

 

○謎の洋館

 二階の窓から外を眺める和服姿の男。

 後ろから、和服姿の女が声をかける。

女「何体集まったの?」

男「全部で四体」

女「素敵だこと……」

男「……で、あっちの方は?」

女「もうすぐよ。異変が起きるまでは、まだ時間がかかるわね」

男「楽しみだ」

 男はそう言って振り返り、部屋の隅に掛かっていた黒と白の衣裳を指差す。

 黒と白の衣裳は、みるみる肉厚を増していき、黒クグツと白クグツにその姿を変えた。

男「……準備を、怠るなよ」

 そう言いながら、黒クグツと白クグツは滑るような足取りで部屋を出ていく。

 再び、外へと視線を移す男と女。

 洋館の外では、妖しい風がピュウピュウと吹きすさぶ……。

 

○三十九之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 たちばな地下で話す勢地郎とヒビキ。

ヒビキ「オンモラキ?」

 食事中の明日夢と郁子。

明日夢「……母さんは、夢ってあった?」

 対策を練るヒビキ、ダンキ、ショウキ。

ヒビキ「ドドメキの方も単体だって話だしなあ……」

 四十之巻『迫る邪道』

 

○提供ナレーション 下條アトム


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