真・響鬼   作:三澤未命

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三十之巻『闇への予感』

○アバン・オープニング

明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。そんな中、色んな事で落ち込んでいた僕でしたが、『人生は失うことばかりじゃない』というヒビキさんの言葉で、何か迷いが吹っ切れたような気がします」

 

○オープニング曲『輝』

 

○サブタイトル

 三十之巻『闇への予感』

 

○提供ナレーション 松田賢二

 

○明日夢の自宅

明日夢「行ってきま~す!」

 自宅の玄関から勢い良く飛び出していく明日夢。

 自転車に乗り、爽やかな顔つきで学校への道程を走り出す。

 

○学校へと続く道

 道の途中で、こちらも自転車に乗ったひとみに出会う。

ひとみ「おはよう!」

明日夢「あ、おはよ!」

 二人並んで自転車で走る。

 少しスピードを緩める二人。

ひとみ「元気そうだね」

明日夢「え? まあね」

 にこやかな表情の明日夢。

ひとみ「良かった……」

明日夢「え?」

ひとみ「ううん! ……で、今日は何個?」

明日夢「全部で十二個!」

ひとみ「(苦笑いしながら)お腹コワさないでよ~?」

明日夢「なんせ、絶好調なもんで!」

 笑いながら自転車を走らせていく二人。

 

○城南高校

 放課後、校内にこだまするチャイム。

 廊下を、帰宅する者、部活に向かう者が行き交う。

 

○同・ブラスバンド部部室

 コンクールを間近に控え、各部員がそれぞれ自分のパートを個人練習中。

 その中、明日夢も懸命にホイッスルの練習をしている。

 全員の練習を見渡していた部長が、明日夢に近付いていく。

部長「安達」

明日夢「は、はい」

部長「ちょっと、来てくれないか」

明日夢「はい……」

 明日夢、不安げな表情で部長の後に続く。

 部長、部室の端で立ち止まって明日夢の方に振り向く。

部長「実はさぁ、今回ドラムやることになってた桐矢が手首を折っちゃってさ。お前、代わりに頼めるか?」

明日夢「(一瞬戸惑いながらも、喜びの表情に変わり)は、はい!」

部長「コンクールも迫ってきて大変な時期だけど、みんなに追いつけるように頑張ってくれよな。まあ、お前ならやれるだろうと思ってさ。……ホラ」

 机の上にあったスティックを明日夢に手渡す部長。

 明日夢、それを受け取ってキラキラと目を輝かせる。

明日夢「頑張ります!」

 軽く頷いて、その場を去る部長。

 明日夢、スティックを見ながら嬉しそうな表情。

 と、ふと部室のドア付近で暗い表情で佇んでいる桐矢の姿を見つける。

 明日夢の視線に気付き、踵を返して部室から出て行く桐矢。

 明日夢、それを見て表情が少し曇る。

 

○森の中

 茜鷹の後を追って森の中を走るヒビキ。

 木の上に止まって、ひと鳴きする茜鷹。

ヒビキ「この辺か?」

 ヒビキ、辺りを見渡す。

 すると、五メートルほど先の廃屋の影から、童子と姫が現れた。

 童子と姫は、白っぽい衣裳を纏い、腰からは金色の尻尾が見える。

ヒビキ「まだまだ夏は続くってわけか」

 ヒビキ、音角を鳴らして静かに額に持っていく。

 炎に包まれ、鬼に変身!

 響鬼、童子と姫に向かって走るも、奇声を上げて逃げる童子と姫。

 と、目の前の地面からバケネコの子供が二体、三体と飛び出す!

響鬼「出たな」

 響鬼、烈火を胸の前で交差させ、気合いを込める。

響鬼「ハァァァァァァァ!」

 強化形態・紅に変化する響鬼。

響鬼「ハァ!」

 響鬼、バケネコたちに飛びかかると、烈火を猛然と打ち込んでいく。

 調子がいいのか、いつも以上に軽やかにバケネコを次々と粉砕する響鬼。

 あっという間にバケネコを全滅させる。

 しかし、逆に童子と姫の姿は見失ってしまった。

響鬼「(烈火で肩を叩きながら)フゥ……」

 

○河川敷

 静かな午後。

 澄み切った青空の下、太極拳で精神統一を図っているイブキとあきら。

 ひと通りのクールを終え、一つ溜め息をつくイブキ。

イブキ「あきら、そろそろいいと思うんだ」

あきら「(イブキの方へ顔を向け)え? 何がですか?」

イブキ「明日、秩父の道場に行こう。試験官には僕から連絡しておくから」

あきら「(ちょっとびっくりしたような表情で)それって、もしかしてイブキさん!」

 思わず姿勢を崩してイブキに近寄るあきら。

イブキ「そろそろサポートの形を変えていってほしい段階だからね」

 イブキ、そう言ってあきらの頭をポンとたたく。

あきら「イブキさん……、頑張ります!」

 目を輝かせるあきら。

 

○たちばな

 入口から明日夢が入ってくる。

 中では、日菜佳が机を拭いている。

明日夢「こんにちは~」

日菜佳「あら明日夢君! あれぇ? 今日はバイトの日じゃないデスヨ?」

明日夢「あ、いや……、ちょっと」

 戸惑いながら、店内を見廻す明日夢。

日菜佳「(ハタと気付いたように)あ~、ヒビキさん? 今ねぇ、ちょこっと姉上と出掛けてるのよ~」

明日夢「そ、そうですか……」

日菜佳「ああ、でも、すぐ帰ってくると思うから、お団子でも食べながら待っててちょーだい!」

 そう言って、日菜佳は明日夢を席へと促す。 

 と、奥から、イブキ、あきら、勢地郎が出てくる。

イブキ「じゃ、よろしくお願いします」

勢地郎「ああ、私からもよろしく言っておくよ。……でもねぇ、油断は禁物だよ? あきらクン」

あきら「はい、分かってます」

 ここで、勢地郎、イブキ、あきらの三人が明日夢に気付く。

あきら「あ、安達君」

明日夢「や、やあ。どうしたの?」

勢地郎「いや、実はね……」

あきら「あの……」

 勢地郎に口止めするような目線を送るあきら。

 それを察して黙る勢地郎。

 不思議そうな面持ちの明日夢。

あきら「(話をそらすように)安達君こそ、どうしたんですか?」

明日夢「あ、いや……。(言おうか言うまいか、一瞬考え)俺、今度のコンクールでドラム叩けるようになったんだ!」

日菜佳「ホント~!? スゴイじゃ~ん! 頑張ってね~」

イブキ「そうかあ。そいつは、頑張らなくっちゃな」

 そう言ってイブキは、あきらの方を見遣る。

 それに気付いて軽く頷くあきら。

 と、入口の扉がガラガラッと開く。

 ヒビキと香須実が帰ってきた。

ヒビキ「ただいま~。ああ、疲れた! (明日夢の姿に気付き)お、少年じゃないか。どうした?」

 明日夢、嬉しそうにヒビキの方を見る。

 後ろ手で入口の扉を閉めるヒビキ。

 たちばなの外へと、皆の和やかな話し声が漏れ聞こえる。

 

○湖のほとり

 ベースキャンプを張り、魔化魍探索をしているザンキとトドロキ。

 烈雷の手入れをするトドロキ。

トドロキ「聞きました? ザンキさん。あきらクンが変身検定受けるって」

ザンキ「ああ」

トドロキ「早いッスね~、あきらクン。もう俺なんかあっという間に追いつかれちゃうかもしれないッスよ、ホント」

ザンキ「何言ってんだ。トウキさんとこなんか、小学生の息子さんがもう弟子として修行始めてんだぞ? 特別早いってわけじゃないよ」

トドロキ「そうかあ、そうッスねぇ……」

ザンキ「油断してると、オマエ本当に追い抜かれるぞ?」

 いたずらな笑みを浮かべるザンキ。

トドロキ「(焦ったような顔つきで)は、はい!」

 そこへ、青磁蛙がピョコピョコと戻ってくる。

 ポーンと飛んで丸く変形し、トドロキがこれをキャッチ。

 音錠でディスクを回すトドロキ。

トドロキ「(ディスクを読み取り)あ……、当たりッス!」

ザンキ「よし、行くぞ!」

 立ち上がって武器を携え、駆け出していく二人。

 

○城南高校・ブラスバンド部部室

 課題曲を通し練習中。

 あざやかなスティックさばきでドラムを叩く明日夢。

 演奏しながら、それを他のメンバーも頼もしげに見つめる。

 しかし、明日夢の脳裏にふと先日の桐矢の暗い姿がよぎり、思わずスティックを落としてしまう。

部長「どうした安達! そんなに難しいところじゃないぞ」

明日夢「(スティックを拾いながら)す、すいません!」

 再び叩き出すも、今ひとつ不安な表情の明日夢。

 部室の窓越しには、それを心配そうに見つめるひとみの姿。

 

《CM》

 

○あきらのマンション

 鬼笛とディスクアニマルをはじめ、装備品をリュックに詰め込むあきら。

 立ち上がり、気合いの入った表情で部屋を出る。

 あきら、マンションから出ると、大きく一つ深呼吸。

 キリッとした表情となり、元気良く駅へ向かって歩き出す。

 

○秩父の検定道場内

 緊張した空気が漂う道場内。

 道場の奥には、重鎮と思しき人物が立ち並ぶ。

 ひと足先に道場入りしていたイブキが、その真ん中にいる一人の男に礼。

イブキ「今日は、よろしくお願い致します」

小暮「うむ。試験官を務める小暮だ。女性の鬼というのは久しぶりだが、甘い顔はせんぞ?」

イブキ「ご心配なく。鍛えてありますから」

 自信満々の表情のイブキ。

 

○湖のほとり

 青磁蛙の後を追って走るトドロキとザンキ。

 と、浅瀬の木の陰から、緑の衣服を身に纏った童子と姫が現れる。

トドロキ「カニだな~?」

 トドロキ、烈雷を振り回して童子と姫に立ち向かう。

 童子と姫が、それぞれ怪童子、妖姫に変化!

 トドロキも音錠を鳴らして額へと持っていく!

 雷鳴が轟き、トドロキが鬼に変化!

轟鬼「オリャーーーッ!」

 怪童子、妖姫に斬りかかっていく轟鬼。

 と、その斜め後ろの木の陰から、もう一組の童子&姫がそれを覗いていた。

 先日響鬼が取り逃した、白い衣裳に尻尾のある童子と姫だ。

 そちらに気付き、訝しげな表情になるザンキ。

ザンキ「あいつら……」

 

○たちばな・地下作戦室

 机の上の地図を睨む勢地郎。

勢地郎「妙だなあ」

 PCに向かっていた日菜佳が振り向きながら、

日菜佳「え、何がですか?」

勢地郎「いや、ね。今トドロキ君が攻めている場所は、気温、湿度の状況から考えたらとてもカニの出るようなところじゃないんだよねぇ」

日菜佳「また、突然変異ってワケですか~」

勢地郎「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。あと、あの辺はまだ残暑も厳しいんだよねぇ……」

 考え込む二人。

 

○駅へ向かう道

 あきら、小走りに駅に向かう。

 と、トンネルにさしかかったところで妙な邪気に襲われる。

あきら「えっ?」

 あきら、トンネルに入りつつ軽く頭を抱える。

 さらに強くなる邪気。

 あきら、耐えられなくなって思わず膝をついてしまう。

あきら「な、何なの!?」

 そこへ、黒クグツが近付いてきた。

 あきらの目の前に立ちはだかる。

あきら「うっ……」

 あきら、激しいプレッシャーでついにその場にうずくまって失神してしまう。

 

○湖のほとり

 怪童子、妖姫と戦う轟鬼。

 轟鬼、烈雷で怪童子、そして妖姫を切り裂く!

 四散する怪童子と妖姫。

 と、そこへ現れたのはバケガニ!

轟鬼「出やがったな~?」

 すると、木の陰からもう一組の白い童子&姫が現れて、バケガニの後ろへと走っていく。

轟鬼「え?」

ザンキ「轟鬼ィ! ソイツはただのバケガニじゃなさそうだ! 気を付けろ!」

轟鬼「(ザンキの言葉に戸惑いながら)は、はい!」

 バケガニに向かって走っていく轟鬼。

 轟鬼、烈雷でバケガニの足を切り裂いていく。

 その後ろでキョドっている童子と姫。

 姫の腰辺りから伸びる尻尾がユラユラと揺れる。

轟鬼「(その姫の姿を見て)お、お前らは、夏の……!!」

 その瞬間、バケガニのハサミが童子と姫を掴み上げ、頭上にポイッと投げ捨てたかと思うと、口からヒュルヒュルっと白い舌が伸び出て二人を巻き込み、そのまま吸い込んでいく。

童子「あわわわわ!」

姫「あれぇぇぇぇ!」

 戸惑う轟鬼。

轟鬼「な、何ィ~!?」

 ザンキも、その様子を冷や汗をかきながら見つめる。

 そして、バケガニは後ろ足で立つように腹を前へ向け、両手のハサミを何度か上下に振る。

 すると、バケガニのお腹の辺りが膨らんだりへこんだりと妙な動きを見せ、バッと弾けたかと思うと、中からなんとバケネコの子供がうじゃうじゃと出てきた!

轟鬼「ええええ!? 何なんだ~!?」

 たじろぐ轟鬼。

 

○たちばな・地下作戦室

 受話器を持ちながら、中央の机の上の資料を見ていた勢地郎に日菜佳が叫ぶ。

日菜佳「父上! ザンキさんから連絡で、バケガニからバケネコが生まれてって……。え!? 何ソレ!?」

勢地郎「やっぱりか……。バケガニとバケネコの出現範囲が重なってきていたからもしやとは思ってたんだが……。(机上の地図をトントンと叩き)一応、エイキ君に向かうようにさっき言っておいたのでもうすぐ着くと思うんだが(と、正面に座っていたヒビキの方を見遣り)、連投で悪いんだけど……」

 予想してましたよ、という顔つきのヒビキ。

ヒビキ「了解。行ってきます!」

 階段を駆け上がっていくヒビキ。

 腕組みする勢地郎。

勢地郎「しかし、あまりにもミスマッチな組合わせなんだが」

日菜佳「どういうことなんでしょうか……」

勢地郎「分からんねぇ。これはじっくり調べてみないとねぇ」

日菜佳「ふぅ……」

 ウンザリ顔の日菜佳。

 

○同・玄関前

 ヘルメットを被り、凱火にまたがるヒビキ。

 香須実、腕組みしながら、

香須実「一人で大丈夫?」

ヒビキ「大丈夫大丈夫! ホラ、ついに携帯も買っちゃったしね」

 そう言いながら、香須実に携帯電話を見せびらかすヒビキ。

香須実「それが一番不安要素だったりするんですけど……」

 ますます不安げな表情になる香須実。

 

○秩父の検定道場内

 時計を見つめるイブキ。

 時計の針は、三時十分を指している。

 イブキの表情に焦りが見える。

小暮「こんな日に遅刻するなんて、ちょっと意識が低すぎるんじゃないかね?」

イブキ「(小暮に詰め寄るように)もう少し、もう少しだけ待ってください! お願いします!(入口の方を振り向き、不安げな表情で)あきら、どうしたんだ……」

 

○トンネルの中

 暗いトンネルの中ほど。

 既に失神して座り込んでいるあきら。

 その前に立った女の黒クグツが、黄色い液体の入った試験管杖を、グサッと地面に突き刺す。

 地面がボコッと盛り上がり、その盛り上がりが徐々にあきらに近付いていく。

 そして、それがあきらの右足にぶつかるやいなや、全身がとてつもない邪気に包まれる!

 失神していたあきらの体が微妙に揺れ動く。

 あきらの下半身から上半身、そして顔面へと這い上がってくる不穏な邪気。

 そして、パッと見開かれる、眼……。

 

○三十之巻 完

 

○エンディング曲『少年よ』

 

○次回予告

 バケネコに苦戦する轟鬼。

ザンキ「轟鬼ーッ! これを使え!」

 屋上で話をする明日夢と桐矢。

桐矢「お前は俺の代わりなだけだからな」

 神妙な面持ちで話すイブキと医療スタッフに割って入る小暮。

小暮「イブキ。お前、弟子の力を信じられるか!?」

 三十一之巻『超える魂』

 

○提供ナレーション 松田賢二


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