ジュネスの家電売場へとやってきた直斗とりせ。
「目立たないところとか言いながら、やっぱりココへ来ちゃったわね」
「人間が入れるだけの大きさを持つテレビと言えば、あるところは限られますし、まだ夏休み前ですから人もまばらです。気を付ければ大丈夫でしょう」
そう言いながら、大型テレビの前へと歩を進める直斗とりせ。
あまりお客が入っていない時間帯とは言え、周囲には数組のお客が。
隙を窺いつつ、直斗がりせに話しかける。
「最後に『向こう』へ行ったのは、確か四年前のあの事件の時でしたね」
「そうね。あの時はちょ~っと大変だったなあ。……あ、チャンスじゃない?」
別のモニターで販促デモが始まり、周囲のお客は揃ってそちらを向いている。
「……行きましょう」
* * * * *
テレビの中の世界へと降り立った直斗とりせ。
そこは、深い霧に覆われていた。
「……霧が、出てるね」
二人は眼鏡を取り出す。
「妙ですね。何もないなら、こっちも澄み渡っていておかしくない。……りせさん」
「オッケー」
直斗が目で合図すると、りせが呼応して一歩前へ出る。
「ペルソナ!」
カンゼオンを呼び出したりせ。
そのレーダーで周囲の探索を始める。
「そう言えば、クマ君の姿も見えないな」
「クマー! どこ行ったのよ~!? ねぇクマったら~!」
深い霧の中、カンゼオンのレーダー範囲をさらに広げる。
「どうですか?」
「……う~ん、シャドウらしき反応はないなあ。クマもいないし」
「しかし、何もないのに霧が出るのはおかしい」
「どうする?」
「一旦出ましょう。そろそろ研究所から連絡が入る頃です。ココとの関連性はまた改めて……」
* * * * *
場所は変わって都内某所の特殊科学捜査研究所。
直斗より二年ほど先輩にあたる研究員が二人、被害者の着物の分析をしている。
二人の名は夏野美雪(なつの・みゆき)と夏野夜美(なつの・やみ)。
双子の姉妹であり、姉の美雪は大学で応用化学を、妹の夜美は精神科学及び心理学を学び、ともに主席で卒業してこの組織に入った。
直斗には二人とも『探偵』として憧れを持っており、これまで三人のチームワークで数々の難事件を解決してきた。
「……あ、白鐘さん?」
携帯で直斗に連絡を取る美雪。
傍らでは、夜美がキーボードを叩きながらモニターを凝視している。
一方、直斗とりせは再び喫茶店に戻っていた。
「何か分かりましたか?」
奥の席に陣取り、囁くように携帯で話す直斗。
「胸元から下に炎が移らなかった訳は分かったわ。被害者の着物は、ともに衿の下半分が特殊なセラミック繊維で織られていて、炎の動きをブロックしてたみたいね」
「なるほど。不燃性防炎素材の応用ですね」
「逆に、衿の上半分は完全に燃え尽きてるんだけど、微量にテルペノイドが検出されたわ。……恐らく、テルペンを何らかの形で強化したものを着物の繊維に混在させ、太陽光を浴びることで発火性の放射線を放出させたんじゃないかしら」
「どこかで聞いたような……。そうだ! リュート物質の事件に似てますね」
「ご名答。さすが白鐘さん」
と、美雪の持っていた携帯を夜美が奪い取る。
「白鐘君!白鐘君! あとね、被害者二人の着物の出処も突きとめたから。後でデータ送るね」
「ありがとうございます」
そう言って電話を切る直斗。
「リュート物質って?」
りせが直斗に問う。
「太陽光によってリュート線という放射線を出す物質です。この特殊な放射線は酸素と混じり合うことで発火するんですが、昔、この物質を悪用した犯罪があったんです。今回の場合は、それと類似する物質が着物の衿に織り込まれていて、太陽光との化学反応で即座に炎が舞い上がったという寸法です」
「……ってことは、それを作り出した奴が犯人?」
「可能性は高いでしょう。だが問題は、誰が何のためにこんなことをやったのか……。そこで、この本です」
「あ、着物の雑誌だね?」
「はい。二人目の被害者が持っていた本には、特定のページにだけ付箋が付いていました。そのページで扱っている着物作家が……」
と、直斗の携帯に夜美からのデータが届く。
夜美から来たデータと雑誌を並べて置く直斗。
それを覗き込むりせ。
「え!? この人って……」
「まずは会ってみないことには何も言えません。だが、『向こう』も霧が出ている以上何かが起こっていることは間違いありません。……りせさんは、引き続き『向こう』の探索をよろしくお願いします」
「りょ~かい!」
敬礼を直斗に返すりせ。
そして直斗は、神妙な表情でコクリと頷く……。
(続)