探偵王子と緋色咲くミステリー   作:ミカヅキ&もなか

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第一話「事件ふたたび」(ミカヅキ)

 民家の軒先。

 着物姿の女性が和室から出てくる。

 雲一つない青空を見上げ、一つ大きく伸びをする女性。

 と、妙な微音と匂いに気付く。

「……え? 何かしら」

 

 その瞬間!

 女性の首周りが発火し、炎の輪が顔面を下から包み込む!

 

「キャーーーーーーーーーッ!!」

 

 慌てふためく女性。

 火は首周りから上へと伸び、胸元より下へ燃え移ることはない。

 庭に降りたち、視界が真っ赤に染まる中バタバタと花壇へと走る女性。

 そして、置いてあったバケツの水を頭からかぶる。

 

「……うう」

 

 鎮火されるも、顔面に大火傷を負った女性はそのままバタリと昏倒する……。

 

  * * * * *

 

 マンションの6階。

 和服に着替え終わった女性。

 鏡を見て、髪飾りをセットする。

 そして、ふと気が付いたようにベランダへと向かい、洗濯物を取り込み始める。

 

 と、何やら妙な微音と匂いが。

 クンクンと鼻を動かし、首を傾げる女性。

 その瞬間!

 女性の首周りが発火し、瞬く間に髪全体にその炎が燃え移る!

 

「イヤアアアアアアアアアアッ!!」

 

 炎の鬘を被ったようになった女性はそのまま意識を失い、ベランダにうつ伏せで倒れ込んだ。

 やがて自然鎮火し、黒焦げになった女性の頭から、ポトリと髪飾りが落ちる……。

 

  * * * * *

 

 連続猟奇殺人事件から10年。

 八十稲羽市は元の平和を取り戻していたが、突如として謎の顔面発火事件が相次ぎ発生した。

 

「……むう。こいつぁ妙だな」

 

 二人目の被害者宅のベランダで現場検証にあたる堂島遼太郎。

 部分的に焼け焦げたベランダの床を見つめて顔をしかめる。

 

「遅くなりました」

 

 そう言って玄関から入ってきたのは、白鐘直斗。

 ボーイッシュな女性風体といった容姿が、この10年における直斗の成長を窺わせる。

 高校卒業後、関東某所にある特殊科学捜査研究所に入った直斗。

 特殊科学捜査研究所とは官民出資の第三セクターであり、各警察署および警視庁に属する科学捜査研究所とは異なる特殊な組織である。

 警察組織の手に余る高度な科学犯罪が発生した場合、警視庁からの依頼を受け、その優れた科学力と洞察力をもって捜査に当たっており、半官半民ゆえの柔軟性は複雑化した現代の犯罪では大きな力となっている。

 その研究所にてキャリアを積んだ直斗を、今回の事件を受けて遼太郎が捜査協力を依頼。

 直斗にとって久しぶりの八十稲羽は、かくも奇妙な犯罪に呼ばれる形となった。

 

「白鐘か。スマンな、こんなとこまで呼び出して」

「いえ。これが僕たちの使命ですので。……こちらの被害者は、若い女性とのことでしたが」

「26歳。……ああ、お前と同い年になるな。残念だが、ついさっき亡くなった」

「亡くなった?」

「ああ。外傷は顔面の火傷のみだったが、どうやら元々心臓が弱かったらしく、死因はショックによる心臓麻痺ってことだ」

「そうですか……。で、一人目の被害者は?」

「入院中だ。そっちは自分で火を消したってことだが、顔面の火傷がひどくて皮膚移植の手術を受けたらしい。……証言取れるまではまだかかりそうだな」

 

 部屋の中を見渡す直斗。

 若い女性の一人暮らしにしては地味な室内。

 壁に装飾物はなく、棚には小さな編みぐるみがいくつか並んでいる。

 その一つを手にしながら、直斗はその奥にある書物にも眼を移す。

 

「被害者の共通点は、いずれも顔面に大火傷を負っていること。……火元は分かりましたか?」

「それがはっきりしねぇんだ。二人とも火を使っていた形跡はなく、煙草も喫わねぇ。あとは二人とも和服姿だったってことくらいだが……。その時着ていた着物は鑑識に回ってるが、そっちでも調べるか?」

「はい、お願いします」

 そう言いながら、棚から一冊の本を取り出す直斗。

 それは最近話題のキモノ・ファッションに関するムック本だった。

 

「……キモノ、か」

 本をパラパラとめくり、数ヶ所に付箋が付いていることに気付く直斗。

 そして、付箋のついたページで紹介されている着物を見比べる。

「これはもしや……」

 

(続)


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