恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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~前回のまでのにくすじ~

曹操「今日はスペシャルゲストォ・・・大体分かってんだろうけど」

典韋&許緒「んは☆」

楽進&李典&于禁「武、カラクリ、オシャレって感じで」

袁紹「増えすぎぃ!」



大体あってる?


第30話

「大変じゃ七乃! ハチミツが終わったのじゃ!!」

 

「はいは~い。まだ予備が沢山ありますよぉ」

 

「うむうむ、流石七乃じゃ。……ところで妾達はまだ帰れないのかえ?」

 

「や~ん。開戦前どころか、連合集結前に帰る事しか頭に無いお嬢様、素敵です~。

 でも残念ながら、お屋敷に帰れるのはまだまだ先ですよう」

 

「そ、そうなのかえ? 此処は居心地が悪い……早く帰りたいのじゃ」

 

 連合の盟主を名乗り出たことで、どの勢力よりも逸早く陣を築いていた袁術軍。その中の一際豪華な天幕内で、軍の総大将たる袁術は不満を洩らし、張勲がそれを愛でていた。

 

 袁術が天幕の居心地を批評したが、総大将かつ名族袁家の天幕だけあって、兵士達が使用するものとは比べ物にならない快適さを誇る。

 しかしあくまで兵と比べた場合であり。物心ついた時から大きな屋敷内で、何も不自由することなく育ってきた袁術には不便極まりなかった。

 

「ハチミツが尽きる前に帰りたいのじゃ、それに――……ガクガクブルブル」

 

 連合の勢力の中に、袁術の実兄袁紹もいる。皆から伝え聞いた彼を形容詞する言葉は、どれも幼い袁術の恐怖心を煽るには十分なもので、間だ見ぬ兄を想像しては怯えていた。

 

 (キャー!! なにこの可愛い生き物!?)

 

 震える主が可愛いのか、涙目になる袁術を他所に張勲が悶える。

 

「大丈夫ですよお嬢様。いざと言うときはこの七乃がお守りします!」

 

「な、七乃ぉ……」

 

 (あ~ん、可愛すぎです!)

 

 事此処に至り、張勲は状況を楽観視していた。

 

 先程、袁紹軍到着の連絡は受けている。だが袁紹は総大将、自陣を放って此方に来るほど愚かではない。来るとしたら陣営を整えてから、あの大軍では時間が掛かるだろう。

 そうこうしている内に連合が集結、そのまま軍議を経て開戦まで持ち込めば良い。

 主である袁術は幼い、それを理由に軍議の場には張勲が代理として参加、盟主を袁紹に譲る旨を伝え、開戦後は与えられた役割を適度にこなし、決着が付き次第帰還すれば良い。

 

 張勲は未だ、兄妹の絆を断ち切ろうとしていたが――

 

「し、失礼致します。袁紹様がお見えになりましたぁッ!」

 

「えええええーーーーッッッッ!!!」

 

 彼女の企みは、常識を物ともしない袁紹の前に脆くも崩壊した。

 

 袁術に会う事を最重視していた袁紹は、『こだわり』を持って陣中の準備を簡略化し、従来のよりも迅速な方法を作り上げていた。

 部品を生産し、現地で組み立てる建築方法――※『ぷれはぶ』である。

 製造も組み立ても簡易で、少数でも手早く寝床を準備出来るそれは、大軍勢である袁紹軍の陣を瞬く間に完成させ、こうして他陣営を訪れる時間を作り上げた。

 

 ※『袁家式簡易天幕(ぷれはぶ)』お値段はたったの114514元! 今なら宝譿が付いてくる!(複製品)

 

「ど、どうすればいいのじゃあ七乃ぉ! ……七乃?」

 

「…………」

 

 余りに予想外の事態、それでも張勲はこの状況を乗り切ろうと懸命に頭を働かせる。

 『会わせる事は無い』そう楽観視していたからこそ参加したのだ。これでは予定と違う。

 

 事態を変える手段、誤魔化しの言い訳、最悪の想定――

 

 これから起こり得る事と、それに対する対策を張勲は頭を回転させ模索していた。――しかし。

 

『おうごらぁ! 何時まで待たせんだよ、あくしろよ』

 

『文ちゃん!?』

 

『我の時間も掛かってるからよー、駄目だやっぱ今すぐ会わせよ』

 

『麗覇様まで……もう知りません!』

 

 天幕の外から聞こえてきた袁紹(?)らしき声に思考を止められる。

 訳のわからない会話ではあったが、この無駄なまでに通りの良い声色には聞き覚えがある。

 南皮で一度だけ顔を合わせ、聞くことの出来た袁紹の声だ。

 

「張勲様、どうすれば!」

 

「ッ……通して下さい。丁重に……」

 

 結局何の対策も考え付くことが出来ず、招き入れる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、招き入れるのに随分時間を使ったな」

 

「天幕内を少し片付けていたんですよぅ」

 

「フハ! まぁ良い。久しぶりだな張勲……そして――」

 

 天幕内へと招かれた袁紹は、冷や汗を流しつつも笑顔を貼り付けている張勲に軽く挨拶を済ませ、彼女の背後に隠れている少女に目を向けた。

 

(何と愛らしい!!)

 

 袁紹に負けず劣らず綺麗で長い金色の髪。不安そうに目尻を下げているが、普段はつり目だろう意思の強そうな瞳。肌は雪のように白く、食生活の良さを物語っている。

 そして注目すべきは上記全てを兼ねた彼女の容姿だ。幼少期の袁紹に瓜二つである。

 腹違いの妹にも関わらず、幼少期の袁紹との違いは性別だけだ。

 

「ようやく……」

 

 もっと近くで見たい、語り合いたい、触れ合いたい。逸る想いを抑えきれず近づこうとして――袁紹は歩みを止めた。

 

「…………」

 

 袁紹を見つめる少女の瞳、そこに宿る感情には見覚えがある。

 感激、感慨、緊張――否、恐怖、畏怖の類である。

 

 袁家現当主として、袁紹は様々な人物と関わってきた。その中には後ろ暗い背景を持つ者達も多々いる。そんな者達が一様に袁紹に対して抱く感情が恐怖、畏怖の二種類。

 税収のみならず商売でも莫大な財産を築き上げた袁紹には、中途半端な賄賂など無意味。

 むしろ清廉潔白を好む故に逆効果だ。故に彼等は、袁紹と謁見する度に自身の首の心配を強いられてきた。

 

 そんな者達と同種の瞳で妹が袁紹を見つめている。どういうことか問質そうと張勲に目を向けると。

 彼女は気まずそうに視線を泳がせた。

 

「…………」

 

 それで袁紹は大体を察する。理由は不明だが張勲はこれまで反袁紹派の懐柔を放棄してきた。

 必然的に荊州の中でその影響力は大きくなる。そんな中で育ってきた袁術が、実兄とはいえ自陣の敵である袁紹に良い感情を持っているはずも無い。

 恐らくろくでもないことが刷り込まれているのだろう。張勲が目を泳がせたのはそれを阻止できなかった後ろめたさか、はたまた彼女自身がそれを行っていたのか。

 

(下らんな、本当に下らぬ……)

 

 少女の自身に対する感情を正しく認識した袁紹は、再び足を動かし近づいた。

 張勲の袖を強く握り、肩を震わせるその姿に心を痛めながら。

 

「ッ!?」

 

「え!? れ、麗覇様!!」

 

 次に袁紹が取った行動で斗詩が驚きの声をあげ、張勲――そして猪々子までもが目を見開いた。

 

 跪いたのだ、袁家現当主にして大陸でも一二を争う大勢力の長が、自分に仇なす勢力の長に。

 もっとも袁紹としては、ただ目線を合わせるのが目的で他意はない。大陸の常識など、袁紹にはあって無い様なものである。

 

「初めまして愛らしい娘よ、我が名は袁本初。此処へは未だ見ぬ我が妹に会いに来た。名を……名を聞かせてはくれないか?」

 

「……」

 

 跪いた袁紹にビクリと肩を震わせた袁術だったが、彼から発せられた言葉と、その目を見て震えを止める。

 

 怖い人物だと聞いていた。事実、ここに入る前に聞こえてきた怒号、張勲に対して向けた言葉。

 全身から発し続ける、上に立つ者独自の空気。

 

 しかし目の前の彼はどうだ。先程とは違い優しい声色、不安げな表情。

 その姿は、袁術が抱いていた『袁紹』とは余りにも違うもので――

 

「袁……公路なのじゃ」

 

「ほう、その年で字を持つか。将来有望ではないか!」

 

(あ……)

 

 いつの間にか頭の上に感じる温もり、それが袁紹の手であるとわかった袁術は、子供特有の勘なのか、目の前の男に邪気が無い事を感じ取る。

 

「兄様…………なのかえ?」

 

「我こそがお主の兄、こうして合間見えること、待ちわびていたぞ」

 

「兄様ぁッ!!」

 

 気がつくと袁術はその胸の中に飛び込み、嗚咽をもらし始めた。

 

「お嬢様……」

 

 その様子に張勲は、自身の置かれた状況すら忘れ胸を痛める。

 

 ――わかっていた。派閥の庇護下の元、何不自由なく暮らしてきた主袁術にとって、唯一肉親の情が欠けていたことが。

 生まれて直ぐ実の父に荊州へ追いやられ。母親は病を患い、物心つく前に他界。

 周りにいる反袁紹派の者達は袁の名に追従しただけ、誰も彼女自身に目を向けたものはいない。

 それ故に張勲に依存。寂しさを紛らわせるように贅沢の限りを尽くした。

 

 そんな袁術が、皆に隠れ大事に保管しているものがある。兄袁紹からの手紙だ。

 内容はどれも当たり障りの無いもの。幼少の袁術に合わせて彼女が興味を持つような出来事や、新しい菓子がどこで作られたかなど。特別なことは書かれなかったが、それが唯一肉親の温もりを感じさせてきた。

 

 そしていつしか、手紙のやりとりを続ける中である疑問と、希望が生まれる。

 ――兄は皆が言うような怖い人間では無いのではないか。

 

「う、うぅ……」

 

 その疑問は袁紹の腕の中で解け、その希望は兄の温もりで叶ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「なんと! 兄様が乗る御輿はそんなに速いのかえ?!」

 

「うむ! 百を超える兵も追いつけぬぞ!!」

 

「うぅ~……兄様兄様、妾も乗ってみたいのじゃ」

 

「フハハ! 周りのことが片付いたら乗せてやろうぞ」

 

「やったのじゃ!!」

 

 肉親として互いを認識した二人は直ぐに打ち解けた。今はこれまでの距離を埋めるかのごとく談笑に花を咲かせている。基本袁術が質問し、袁紹が答える形だ。

 

「よ、よかったですね~お嬢様」

 

 そんな胸温まる空間の中。張勲は一人、居心地の悪さを感じながら必死に相槌を打っていた。

 袁術との会話にだらしなく顔を惚けさせている袁紹だが、この後袁術の事に関して追及があるのは目に見えている。今更取り繕うことなど不可能に近いだろうが、何もしないよりはマシである。

 どのような状況でも張勲は最善を尽くしてきたのだから(我欲&袁術関連)

 

「麗覇様、そろそろ……」

 

「む、もうそんな刻限か」

 

「兄様、もう行ってしまうのかえ?」

 

 斗詩に促され、立ち上がった兄に対して袁術は涙目で質問する。

 

「ッ~~うおおおお我は当主としての責を放棄するぞ斗詩ぃぃぃッッ!」

 

「だ、駄目です! 文ちゃん手伝って」

 

「おう!」

 

「は、放せぇッ! 我は主ぞ!!」

 

「『主が間違えたら正すのは家臣の務め』……でしたよね?」

 

「……ハイ」

 

 両腕を斗詩と猪々子の二人に掴まれ、引きずられるようにして天幕の出口に運ばれる迷族。

 そんな兄の様子が可笑しかったのか、袁術は笑顔を取り戻していた。

 

「はぁ、大体……すぐ会えるではないですか」

 

「そうであった!」

 

 斗詩の言葉を聞き袁紹は姿勢を正し、袁術の方へと振り返る。あまりの変わり身の早さに斗詩と猪々子が呆れているが、そんなことはお構いなしに口を開く。

 

「此度の戦に当たり、我が陣で合同軍議を行う。美羽には是非――」

 

「いえいえお嬢様はまだ幼――」

 

「ぜったい行くのじゃ七乃!」

 

「ですよね!!」

 

「あ、それから張勲を少し借りて良いか?」

 

「……七乃を?」

 

 思わず美羽は張勲と目を合わせる。張勲は自分の願いを瞳に込め見つめ返す。

 

(断って下さいお嬢様!)

 

 その目に何かを感じ取ったのか、美羽は短く頷き笑顔を返した。

 

 張勲は思わず涙が溢れそうになる。天然で、普段は自分がいなければ何も出来ない主だが、こうして大事なときは――

 

「もちろんじゃ兄様! 七乃は優秀ゆえ、きっと役に立つのじゃ!!」

 

 張勲から光るものが零れ落ちた。最後まで渋っていた彼女は猪々子に襟首を掴まれ、まるで親猫に運ばれる子猫のような姿で外に連れて行かれることとなる。その悲壮感漂う姿に、袁紹の頭の中でドナドナの歌が再生されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、話しを聞こうではないか」

 

「えっと、何のお話しでしょうか~?」

 

「ほう、それが答えか?」

 

「!?」

 

 ここまできて未だ誤魔化そうとする張勲、彼女に対して袁紹は容赦ない一言をぶつけた。

 

 ――お前は敵か? それとも味方か? 

 

 付かず離れずな中立は認めない。この期に及んで返事を濁すのであれば容赦なく敵として認識する。

 短い言葉で袁紹は自身の考えていることを、張勲に伝えたのだ。

 

「……わかりました」

 

 少しの間をおいて、張勲は諦めに似た声と共に今までの出来事、自分の目的、それら全てを告白した。

 彼女には袁紹と敵対して、完全に反袁紹派として活動する道も在ったが、その選択肢を思い浮かべることすら叶わない。それほどまでに目の前にいる男の強大さを理解していた。

 単純に勢力として魅力的な方を選んだだけ、と言うのも理由の一つだが……

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、じゃあネエちゃんの目的はあのお嬢様を独り占めしたかっただけ?」

 

「だ、だけとはなんですか! お嬢様の可愛らしさは大陸一です!」

 

「そうであるぞ猪々子! それにお主も、相手が斗詩だったら――」

 

「あ~わかる気がする」

 

「文ちゃん!? 麗覇様正気に戻って下さい!」

 

「元より正気! 美羽の可愛さは大陸から戦を無くせるぞぉぉぉぉッッッッ!」

 

 兄馬鹿、ここに爆誕!

 

 張勲の目的、美羽を独り占めにし愛でたいと言うそれを聞いて、袁紹は呆れるどころか共感し、猪々子をも巻き込み論理間の崩壊した空間を作り上げていた。

 斗詩が懸命に諭そうとするも、狂気に近い袁術愛を発揮する実兄と側近の前には効果が薄い。

 早い話ツッコミ不足である。

 

「まぁそれはさて置き張勲、お主の処遇だが――」

 

「はい! これからは袁紹派として保護して下さい」

 

「戯け、我がいつお主を我が陣に加えると言った?」

 

「え……えええええぇぇぇッッッ!?」

 

 現金にも、今までの行いを手のひら返しでなかった事にしようとしていた張勲。

 

「で、でも全てをお話ししたではないですか!」

 

「そうだな、故に敵として扱わぬ――が、我が陣に組み込むには今までの所業が悪すぎる」

 

「うっ」

 

 中立を保ち、敵対してこなかった張勲。それ故に一見袁紹に損害がないように感じるが、それは違う。

 張勲は袁紹にとって、そして袁術にとって貴重な時間を削り、二人の仲を阻害してきた。

 そして放置された反袁紹派は無駄に力をつけ、袁紹等の悩みの種となっている。

 

「まぁそう悲観するでない。お主のこれから次第で状況は変わる」

 

「私のこれから……」

 

「例えばそうさな……己に課せられた役割を全うするとか」

 

「ッ!?」

 

 本来の彼女の役割、それは袁術の教育と反袁紹派の『懐柔』もしくは『粛清』

 それを成せば今までの所業を水に流し、主袁術と共に陣に迎える。袁紹は暗にそれを伝えた。

 

「わかりました……必ずや、ご期待に答えて見せます!」

 

 

 

 

 

 

 

「って言ってたけどさ、本当にいいのか~麗覇様~」

 

「私も心配です、張勲さんの今までの行いからしても……」

 

「無問題」

 

 張勲と別れた後。袁紹の決定に不安を見せる二人、そんな家臣を安心させようと袁紹は答える。

 

「美羽に対する張勲の熱意は目を見張るものがある。それに、あの想いには偽りはない。

 その熱意が今度は反袁紹派の者達に向くのだ、彼女はやり遂げるだろう」

 

「あのネエちゃんが裏切る可能性は?」

 

「……我と反袁紹派、どちらを敵に回したい?」

 

「……あ~」

 

「そういうことだ」

 

 それに――と続け、袁紹は歩みを止め、張勲から貰ったそれを広げる。

 

「同好の士に敵はいない!!」

 

 ソレは背中にでかでかと『美羽命』と書かれた法被だった。

 

 

 

 

 

 




NEW!大陸一の姫 袁術

好感度 30%

猫度 「ニャーなのじゃ!」

状態 普通

備考 無事袁紹と対面し、打ち解けた。
   新たな目標が出来たもよう

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