「………クソッ!」
どこかの空間――およそ人が入れる場所に無いそこで青年が、その端正な顔を歪め悪態をつく、普段は飄々として他者を見下すようにしているはずの彼が、今はその余裕を無くし一つの『外史』を睨みつけるかのように見ていた。
「あらぁん? めずらしいわねん、左慈ちゃんが余裕の無い表情をしているなんて、でもそんな顔もス・テ・キ♡」
どこからかセンスを疑うような格好で、体をくねらせながら筋肉質な男が青年に声をかけ近づいてくる。
「―――貂蝉か」
「……あらん?」
いつもなら筋肉モリモリマッチョマンの変態――貂蝉の言動に怒りを露にし罵倒するはずの彼が、真剣な表情で『外史』の一つを見続けているため、貂蝉もただ事ではないとを察し彼の隣に立ち『外史』をみつめた。
「どうしたのん?」
「……見てろ」
そう言うと左慈はその『外史』に手をのばし――
「きゃああん!?」
「…クッ」
隣の変態があげる奇声に気をとられることもなく、左慈は弾かれた手を見つめる。
「これは、触れられないってことぉん?」
「ああ……」
憎々しく顔を歪め左慈は事の顛末を語り始めた。
『外史』に介入する力がある鏡の奪取に成功し。逃走した先で学生の男――北郷 一刀に妨害され争いの中で鏡を割られてしまう。
彼は『外史』にとばされ、『外史』の『管理者』である左慈は本来の歴史を歪める可能性のある一刀を排除するため、彼のいる『外史』に向かおうとしたがその際に一つ違和感のある『外史』をみつけた。
本来ならば北郷一刀の排除が最優先であるが、違和感を拭い去るために確認しようとその外史に手をのばしたのだが、先ほどのように弾かれてしまう。
こうなってしまってはのぞくことも介入することもできない……
つまりこの『外史』は『管理者』の監視から外れたのである。
「あぁぁぁぁぁぁあああんっっっ♡」
体ごと飛込み弾かれながらも、どこか嬉しそうな筋肉達磨には目もくれず左慈は思案する。
(管理者である俺達にこのようなことが出来る奴はいない……、とするとこれは外部の、それも俺達より遥かに上の権限を持つ奴の介入だな―――クソッ! これではもうこの『外史』は、そいつが解除でもしないかぎり介入は不可能だ)
「オォォォンッ、アォンッッ♡」
(まぁいい、北郷一刀がいる『外史』とは違うんだ。本来の目的を果たせるんなら文句は無い。
せいぜいこの行き場の無い怒りをぶつけさせてもらうとしよう―――)
その後、とある『外史』で天の遣いとして、又種馬として活躍する青年が、本来の『外史』よりも不幸な目に遭うのだが……それはまた別のお話。