恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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はじめてルビを使ってみた(小学生並みの配慮)


第11話

 荀彧が袁紹の許に来てすでに三ヶ月、来た当初はすぐに出て行くつもりではあったものの政務に携わり改善案を出し実行していくうちにいつの間にか本格的に文官として働いていた。

 

「……」

 

しかし彼女は未だに客将としての立場であったため決断を迫られていた。

 

(このまま客将として居続けるわけにはいかないわ、私の気持ちは決まっているんだから気が重いけど袁紹様にお伝えしないと)

 

………

……

 

翌日、荀彧から重要な話が有ると聞いた袁紹は、斗詩や猪々子を伴って謁見の間で聞くこととなった。

 ちなみに彼女が来た時初日にいた重鎮達は一人も居ない。

 

「さて荀彧、我の勘が正しければ仕官の件に関しての話だと思うが?」

 

「はい、大分期間を空けてしまいましたがお返事したいと思います。」

 

「ふむ、腹は決まったか」

 

「はい」

 

荀彧は跪き頭を垂らしながら口にする。

 

「私は、袁紹様の許ではお仕え出来ません」

 

「……」

 

彼女のその答えを側近の二人は予想していたのか余り驚きを見せない、しかし袁紹はその言葉に疑問を覚えた。

 と言うのも、彼女と約三ヶ月にわたり共に政務を手がけてきたが、反発気味であった最初の頃に比べ最近は生き生きとした感じで働いていたからだ。

 今では袁紹に対する男嫌いな態度は鳴りを潜め、そんな彼女は袁家でやって行くものだと思っていた。

 

「面を上げよ」

 

「はい」

 

ゆっくりと顔を上げる荀彧、奇しくもその光景は最初の出会いと酷似していた。

 だがあの時とは違い彼女は袁紹をまっすぐに見据え、その目には嫌悪感は感じられず瞳は揺れている。

 

「今の言葉は本心か?」

 

「……」

 

袁紹の問いに荀彧は答えない、答えられない。

 

「……怖いか?荀彧」

 

「え、怖い?」

 

「どういうことですか?麗覇様」

 

斗詩と猪々子が言葉の意味を聞こうとするが袁紹は構わず続ける。

 

「『男嫌い』であった自分を否定するのが」

 

「っ!?」

 

ここに来て袁紹はまたもや核心を突いた。

 

 

………

……

 

 

昨夜、袁紹に仕官を断る返事をすると決めた荀彧であったがそれは本心からではなかった。

 短い期間であったが彼の側で政務に携わり、彼と共に行動してきた彼女には袁紹が主君として理想の器を持っていることがわかっていた。

 堂々たる立ち振る舞い、豪快な発言、自己中心的に見えて他者を重んじる慈悲深さ、常に最善を追求する姿勢、

大局のためには冷徹な判断も下せる冷静さ、革新的な政策を考え出す柔軟な発想、正しいと判断できれば下の者の意見でも受け入れる寛容さ、それらは全て荀彧が憧れの曹操に求めた要素でもあり、非の打ち所の無い人格であった。

 今となっては欠点を挙げる事のほうが難しく、荀彧からした袁紹の欠点は『男』くらいである。

もし仮に今の袁紹が女だったらどうか、きっとすぐに仕官していたであろう。下手をすれば初日の挨拶で心酔していたかもしれない。

 

「でも、……私は」

 

仕えたいと口にするのが怖い、それはまるで男嫌いだった今までの自分を否定するかのようで

 

挨拶の時の言動を含め、中途半端な気持ちで仕える訳にはいかない、それなら、それならいっそ

 

 

………

……

 

 

 

「『男嫌い』であった自分を否定するのが」

 

「っ!?」

 

袁紹の言葉に目を見開く、またもや核心を突かれ思わず彼を凝視する。

 初日に核心を突いた時の彼の目は、鷹のように鋭くこちらを観察していたのだが今はどうか―――

目は細められているが鋭さは無い、むしろ父親が愛娘を見守るような慈愛に溢れた眼差しをしていた。

 

「!!……」

 

そんな眼差しに対してばつが悪くなった荀彧は、視線から逃れるように再び頭を下げる。

 そうでもしなければ気持ちが溢れそうだ。

 

「フハハハハハ!お主はそこまで我につむじを見せたいのか?いや、被り物で見えぬがな」

 

「っ!?し、失礼しました!」

 

袁紹のおどけた発言に張り詰めた空気は弛緩し、荀彧は気持ちが少し軽くなるのを感じた。

 

「荀彧、我は過去では無く今の本心が聞きたい」

 

「今の……私の……」

 

「荀文若(ぶんじゃく)は袁本初に仕えたいのか?仕えたくないのか?」

 

「わ、私は……」

 

まっすぐ荀彧の目を見つめる袁紹、何故だかその瞳の前ではどのような嘘も看破されてしまう予感がした。

 

「仕え……たいです」

 

そして気が付くと本心を口にしてしまい慌てて発言する。

 

「し、しかし私は今まで多大な無礼を犯してしまいました!!」

 

「荀彧――」

 

袁紹は玉座から立ち上がり静かに歩み寄る。

 

「人間は大小の差はあれど過ちを繰り返す生き物だ、大事なのはそれを言い訳にして立ち止まらず、糧にして前に進むことよ」

 

「……」

 

そして荀彧の前まで来た袁紹はさらに言葉を続ける。

 

「それに、我にとっては手のかかる猫のようなものであったぞ!!フハハハハハ」

 

「お、お戯れを」

 

いつの間にか差し出された袁紹の手をとり立ち上がる。自分から男性に触れるのはいつぶりだろうか、

もしかしたら初めてかもしれない。

 

「本当に私は……仕えてもよろしいのですか?」

 

「くどい!もとよりお主ほど有能な者を今更手放す気など毛頭ないわ!!」

 

その言葉に荀彧の迷いは完全に消え去り一歩さがる。

 

「―――私の名は荀彧、真名を桂花、今この時より袁紹様を生涯の主とし仕える事を誓います」

 

そして改めて臣下の礼をとった。

 

「うむ、我が真名は麗覇、お主の今後に期待してこの真名を預ける。頼りにさせてもらうぞ桂花!!」

 

「―――はい!!」

 

こうして袁紹は、のちに王佐の才と呼ばれる稀代の名軍師を手に入れた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいのか斗詩、あの二人何か良い雰囲気だぜ?」

 

「うん、(わだかま)りが消えていい雰囲気だよね!」

 

「かーっ!、胸は大きくなってきてもまだまだお子ちゃまだな~斗詩は」

 

「え?違うの?」

 

「あの荀彧って子、絶対麗覇様に惚れるな!いや、……もしかしたらもう」

 

「え、えーっ!?まさかぁ~」

 

「ホントだって!賭けてもいいぜ!!」

 

「文ちゃんの賭けは大体外れるじゃない」

 

「う~ん、今回は自信あるんだけどなぁ~」

 

「それ、賭ける時いつも言ってるよね……」

 

「そうだっけ?」

 

「うん」

 

「……」

 

「……」

 

 

………

……

 

 

「武官が欲しい」

 

「武官……ですか?」

 

桂花を正式登用してから早数ヶ月、その日も彼女と共に政務をしていた袁紹が突然つぶやいた。

 

「斗詩も猪々子もいずれ万を率いる将になるであろう。だがそれでも兵が余る、彼女等と同等かそれ以上の武将が欲しい。何か策はないか?桂花」

 

質問され、桂花は一旦仕事を停止させて考える。

 

「そうですね……やはり無難に引き抜きでしょうか」

 

「ふむ、引き抜きか」

 

「はい、幸い麗覇様の袁家は潤沢な資金と諸侯との繋がりがありますので、他国の有能な人材を引き抜くのは難しくないかと」

 

「だろうな、しかし待遇で引き抜かれる者に我が求める者がいるとは思えぬ」

 

乗り気ではない主に、さらなる案をだそうと口を開く。

 

「では、野から登用してみてはいかがでしょう?」

 

「ほう、野からか……しかし手間ではないか?」

 

「それも袁家の名で募集すれば簡単かと、今の時代武者修行で旅をしている者も――「それだ!!」え?」

 

自分の言葉を遮るように食いつき席を立ち上がった主に目を見開く

 

「武芸大会だ!武者修行の旅をしている者らを集め武芸大会を開くぞ!!」

 

「武芸大会……確かにそれなら名を売る目的で腕自慢が集まりますね! そして腕利きたちをそのまま軍に組み込んでもいいし、娯楽による経済効果も期待できる―――さすがです麗覇様!!」

 

「フハハハハハ、そうであろうそうであろう、しかし桂花の意見なくして思いつくことはなかった。

 お手柄であるぞ桂花!!」

 

「そ、そんな!恐縮です」

 

(褒められたわ!さすが私!!)

 

こうして袁家主催による武芸大会が開かれることとなった。

 

 

………

……

 

 

「恋殿ーーー!!これを見てくだされ!」

 

「……掲示板?」

 

そこには『第一回チキチキ!袁家主催血湧き肉躍る武芸大会!!(賞金も出るよ)』と書かれていた。

 

「……大会」

 

「そうですぞ!武芸大会なら恋殿の優勝間違いなしです!しかも名族袁家が主催なら賞金沢山出ますぞ!」

 

「……すごい?」

 

「ごはんが沢山食べられるです」

 

「行く」

 

沢山の動物達を連れて二人の少女が南皮へと向かい歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 




猫耳軍師 荀彧

好感度 50%

猫度 ……ニャ、ニャア

状態 尊敬

備考 呼ぶと恐る恐る近づいてくる。以前までの自分の態度を気にして
   遠慮している様子、もうすぐ懐きそう。

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