無口で無表情   作:マツユキソウ

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まさかです……ナニコレです。

そしてありがとうございます。

『今回のお話注意点』
・ゴチャゴチャしててわかりにくい。
・曖昧な表現があってわかりにくい。
・サブタイトルのネーミングセンスのなさ。
・一番最後の文を変更しました。



避けれますか?受け止められますか?逃げれますか?

「やっぱ、そんなホイホイと出ては来ないか」

「根気よく行くしかない」

「そうだよなぁ……っと、ちょっと失礼」

「トイレだな」

 

ティーンと別れた俺は、アカメと一緒に深夜の帝都を見回っていた。

三回目の任務ということで緊張していたせいかトイレに行きたくなってしまった俺は、一旦アカメと離れて用を足しに裏路地へと入る。

はぁ、緊張してんな……俺。

 

そして、アカメの所に戻ろうと振り返った先には、アリアに殺されたはずのサヨが立っていた。

どういうことだ? 

確かにサヨはあの時……でも、目の前にいるのは間違いなくサヨだ。

何時もの様に花の形をした髪留めを付け、黒髪で長髪のサヨは俺を見て微笑むと……向きを変えてどこかへ走っていってしまった。

 

「まっ待ってくれ!!」

 

俺はいても立ってもいられず、サヨを追いかけていった。

 

 

 

どれくらい走ったのだろうか、広場の様な場所で走るのをやめたサヨは俺の方を振り向く。

 

「何だよ……生きてんじゃねえかよ……」

 

俺は何の疑いもなくサヨに近づき、抱きついた。

サヨから感じる暖かい体温が、幽霊でないことを証明している。

本当、良かった。

サヨが生きてたんだ。イエヤスの奴も生きてるに違いねぇ!!

俺はサヨが生きていることに安堵していると。

 

「熱烈だなぁ、我ながら良いモン見せてあげれたらしい……」

「え……?」

 

俺の頭上で男の声が聞こえた。

それと同時にサヨの骨格が太くなり、柔らかい肌の感触も何だか硬くなって……!?

 

「クク、こんばんは」

「うげぇ!! サヨが怪しいオッサンに!?」

 

いつの間にか俺は……白いコートを着たオッサンに抱きついていた。

オッサンに抱きつくとか、何やってんだ俺!?

ってかサヨはどこに行ったんだ? 

俺は消えたサヨを探そうとキョロキョロと周りを見渡す。

しかし、人の気配は一つしかなく、その気配も今もこうして俺の事をニヤニヤと見つめている怪しいオッサンだけだった。

 

「さっきのお嬢さんにも言ったが……オッサンよりもこう呼んでくれ、親しみ込めて……首斬りザンクと」

 

そう言った目の前のオッサン……いや、ザンクは両腕に付けていた剣を出す。

 

コイツがッ!! コイツが罪もない人達を殺している首斬りザンク……

コイツのせいで、俺の様に大切な人を殺されて悲しんでいる人がいる……絶対に許さないッッ!!

 

俺は自分の気持ちを抑えきれず、背負っていた剣を勢い良く抜く。

 

ボスから言われた情報だとザンクは帝具を持っている。

一体一の戦いは相手の方が有利と見て良い……アカメが来るのを待ったほうが……いや、そんな猶予があるのか?

それに、奴が言っていた「さっきのお嬢さん」って言葉も気になるな。

……俺と出会う前にコイツは誰かを襲ったんじゃないのか?

 

「ほぅ、顔の割には中々考えているじゃないか。お前の思っている通り、俺はここに来る途中で可愛い可愛いお嬢さんの首を切り取ってやったのさ」

 

そう言ってニヤっと笑うザンク。

どういうことだ!? 心が読まれた……

ザンクの額に付いている目玉みたいなモノ……あの目が帝具か。

 

「ピンポーン。帝具スペクテッド、五視の能力の一つ、洞視を使ってお前の表情を読み取り思考を読んだのさ……観察力が鋭い! の究極系だな」

 

やっぱりアレが帝具か……兄貴のインクルシオと違って何かカッコ悪いな。ダサい。

 

「ダサいだなんて酷いこと言うなぁ、こう見えてかなり使える帝具なんだがな」

「そうかい、それにしても……さっき言ってた首を切ったお嬢さんって……」

 

よく喋る奴だから俺の疑問にもホイホイ答えてくれるだろ。

 

「くく、趣味はお喋りだからな。あぁ、さっきの可愛い茶髪のお嬢さんか……名前確かティーン。だったか……おっと!!」

 

俺はザンクの首目掛けて剣を振ったが避けられてしまった。

今……コイツはティーンと言った。

「えへへ」と明るく笑う彼女の顔が思い浮かぶ。

茶髪の可愛らしい少女……俺の帝都で初めての

 

「友達で間違いないよぉ。残念だったな、一日もしない内にサヨナラだなんて……」

「てめぇえええええ!!」

 

もう一度ザンクに斬りかかったが、また避けられてしまった。

 

「中々に鋭い剣捌きだが……無理無理、お前の動き、心は全て視えているからな」

 

ッ!? 

ふざけんな……ふざけんなぁああああああああああ!!

 

「うぉおおおおお!!」

 

思いっきり踏み込んで上から切り刻んでやるッ。

 

「思い切り踏み込んで上段からの斬り」

 

避けられた……次だッ!!

そのまま剣を振り上げて斬るッ!!

 

「返すカタナで切り上げ」

 

ガキンッ!!

ッ……受け止められた。

ちくしょう、切り上げからのフェイクで喉仏を狙って突き……

 

「下段はフェイクで喉仏を狙っての突き……と、思っていただろう?」

「ッ!?」

 

全ての攻撃を避けられ、受け止められた俺は腹の辺りを斬られる。

掠った程度だが……強え、今までの相手とは桁違いだ。

 

「首を切り取られた時の表情ってさぁ、堪らなくイイんだよなぁ……意外に多いのはキョトンとした顔でね。え? っていう……君の友達のティーンもそんな表情だったなぁ」

「てめぇええええええええええええええええええええええええ!!」

「お前はどんな表情をするのかな……愉快愉快♥」

 

俺とザンクの戦いが始まった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「はぁあああああ!!」

「いいねぇ、若いっていうのは真っ直ぐだねぇ」

 

剣と剣がぶつかり合い、血飛沫が月に明るく照らされたレンガ造りの道を赤く染めた。

死闘ではない。

一方的な戦いであった。

 

「愉快愉快……我ながら程良い傷を負わせたな」

「な……に?」

 

そう言って余裕の笑みを浮かべたザンクにはかすり傷一つなかった。

そして、ザンクと戦っているタツミは疲労困憊。服の所々がザンクによって斬られ、傷口から流れる血で真っ赤に染まっていた。

 

タツミとザンクには決定的な差があった。

実力的な面ではない、武具的な面でだ。

ザンクは、始皇帝が叡智を集結させて作った、帝具『スペクタッド』を持っていた。

額に付ける目玉型のスペクタッドは、五視の能力が使えるのだ。

霧や嵐の中でも遠くを見られる『遠視』の力を使ってタツミたちを見つけ、対象の最も愛する者の幻を見せる『幻視』の力を使ってサヨを見せたザンクは、タツミを誘き出すことに成功し、今に至るのだ。

 

暗殺集団ナイトレイドに入り、日々鍛錬をして成長しているタツミの実力には目を見張るものがあった。

しかし、そんなタツミを息切れ一つしないでなぶり殺しにできるザンク。

たった一つの武具だけで、こうも実力が付いてしまうのだ。

帝具持ちと戦ということは、生半可な実力と覚悟では到底無理な話であった。

 

「やっぱり、戦ってるんですね」

 

そして、そんな二人の戦いを近くの建物の屋根から見ている人物がいた。

夜風に靡いた長髪を右手で押さえ、所々にフリルが付いた服を着ている少女は。

 

「うーん、原作だと満月の夜にタツミとザンクさんが戦う描写が描かれていたのになぁ。外れてしまった」

 

そう言って残念そうなリアクションを取った。

聞いている者がいたら間違いなく変人扱いされる発言をした彼女の名前はティーン。

タツミの帝都で出来た初めての友達であり……ザンクに首を切られた少女であった。

 

誤解しないで欲しい。

普通の人間であれば首を切られたら死ぬのだが、彼女は普通ではない。故に死ななかった。

 

「原作だとタツミはそろそろ倒れて、アカメちゃんが助けに来る予定なんだけど……何だかタツミが粘っているなぁー」

 

普通の人間ではないティーンが疑問符を浮かべながら広場を覗くと、疲労感と傷口の痛みに我慢しながら勇敢にザンクに挑むタツミの姿があった。

 

「クク、傷口が痛いだろう……さぁ、諦めて嘆願しろ! 仲間が来るまでの時間稼ぎになるかもしれないぞぉおお」

「お前何かに……」

「んんー?」

「俺の友達を殺したお前何かにッ!! 首を切るしか脳のない腐れドブネズミに命乞いするわけねえだろうがッ!!」

 

タツミは傷口を押さえて叫んだ。

ザンクに命乞いをすれば確かに時間稼ぎにはなる。そして、その時間の間にアカメが助けに来るかも知れない。

だが、タツミはそうしなかった。

自分の命よりも、今もこうして目の前で卑劣な笑みを浮かべているザンクに……友達を殺したクソ野郎に命乞いをするなど、タツミのプライドが許さなかった。

 

しかし、普通の人間であればプライドよりも自分の命を取るはずだ。

では何故タツミはそうしなかったのか? 

タツミを知っているものであれば、その理由は単純明確であった。

 

「タツミは心の強い子だからかな。全く、やれやれです……死んだら終わりなのに」

 

そう言ってティーンは肩をすくめた。

 

「ほんの少し会っただけなのに、そこまで友達思いの君は優しすぎるんだよ……」

 

ティーンは目を閉じて深呼吸した。

 

「今日戦うなんて想定外だけど……まぁ、今日は色々と想定外のことが起こりすぎたから……これは想定内かな」

 

そう言って「クスクス」と笑う彼女の瞳は、闇そのものだった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

心が読まれてんなら……いっそシンプルに……

 

「この一撃に、全てを賭けるッ!!!」

「ほーう、勇敢だな。傷が痛いだろうに……首切りの達人が介錯してやろう」

 

俺は全神経を集中させる。

 

「いッくッぞ!!!!」

「なっ!?」

 

奴の首めがけて一閃。

避けられたが確かに手応えはあった。

見ると、奴の左頬から血が流れていた。

へへ、俺の全力の斬撃はどうやら奴に届いたらしいな。良かったぜ。

それに、俺の首が今もこうしてくっついてるってことは、どうやら奴は切れなかったみたいだな。

 

「へっ、斬り損なってるじゃねえか。何が首切りの達人だ、笑わせんなよヘボ野郎」

「だッ黙れぇ!!」

 

全ての力を出し切った俺は地面に吸い込まれるように倒れる。

そして、さっきまでの余裕の顔と違い、顔を歪め、悪態をついて俺に斬りかかってくるザンク。

あぁ、やべえ……身体が動かねえや。

 

(ごめんなティーン、お前の仇……取れなかった)

 

そんな事を思っていると。

 

「ぶへッ!」

 

ザンクが……こけたッ!?

足がもつれたのか、それともレンガにでも躓いたのか知らないが盛大にこけたザンク。

何ていうか……めっちゃカッコ悪い。

 

「間に合って良かったです」

「え……?」

 

聞こえるはずのない少女の声が辺に響く。

そして、うつ伏せに倒れたザンクの後ろには、いつの間にかティーンが立っていた。

「あっ……この場合は私がアカメちゃんの代わりにタツミを助けるから……」等と意味がわかない事を呟いたティーンは。

 

「良い悪態だ。精神的には君の勝ちですね。タツミ」

 

そう言って微笑んだ。

 

「何で、そんな……確かにザンクは君を殺したっ「何故だぁあああああああああああああああ!!」

 

突如、ザンクが狂ったかのように叫ぶ。

当たり前か、首を切り落とした人物がいきなり現れたら誰だって驚くからな。

 

「いきなり大きな声を上げて何ですか?」

「お前の首は確かに切ったッ!! なのに何故生きている!」

 

それは確かに気になるな。

ティーンはどうやってコイツを騙したんだ?

 

「そんなの、秘密に決まってるじゃないですか」

 

ですよね。

 

「くっ……どんな手品を使ったのか知らないが、もう一度首を切り取るまで」

「物騒なことで」

「ッ!?」

 

「ふふっ」と笑ったティーンが消えた。

と、思った次の瞬間にはザンクの後ろに現れ、奴の右脇腹目掛けて回転蹴りを繰り出す。

両手の剣をクロスさせて防いだザンクは、数メートル吹き飛ばされる。

 

 

 

…………待て、色々とおかしくないか。

ティーンが生きていたのは良かった。本当に嬉しい。

だけど、何だ今の動き!? 

消えたと思ったらザンクの後ろに現れて、物凄い威力の蹴りを繰り出してザンクと戦っている。

それに、ザンクの帝具は相手の考えが視える物。

それなのに奴は何故ティーンの動きが見えなかった? 考えが読めなかったんだ?

 

「ほぅ、まさかとは思ったが帝具の力か……」

「そういうことです」

 

そう言ってティーンは何かを握るように右手を横にする。

聞き覚えのある不快な音が辺に響いたと思ったら、彼女の両手には大きな鎌が握られていた。

どういうことだ? あの鎌は……

 

「ティーン、その鎌は……」

「説明は後です。タツミはそこで見ていて下さい」

 

「ふぅ」と一息吐いたティーンは大鎌を構え、止める間もなくザンクに向かっていった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

(馬鹿な、どうなっている)

 

ザンクは目の前の光景が信じられなかった。

首を切り落とした少女が生きており、今もこうして自分の攻撃を軽々と避けている彼女にだ。

筋肉の動きで相手の次の行動が読める未来視を使い、ティーンに猛撃しているザンクであったが、一向に当たる気配がしなかった。

それどころか、先程から何回か彼女の斬撃かザンクを掠めていた。

 

(一旦距離を取って様子を見るか? それともこのまま……ッ!?)

 

「よいしょっと!」

「ック……」

 

一瞬の戸惑い。

その隙を逃すことなくティーンは自分の背丈ほどの大鎌を振るった。

彼女の大鎌が自分の命を刈り取ろうと唸り声を挙げて襲って来るのを、両手の剣で受け止めたザンクはその一撃の重さに顔を歪めた。

そして、右腕の尺骨が折れる音がした。

当たり前だ。

当たれば一撃で身体が半分に分かれる威力を持った一撃を受け止めたのだ。無事でいられるはずがなかった。

 

未来視の力で彼女の攻撃が見えていたザンクであったが、避ける事を選ばず、受け止める事を選んだのには理由があった。

避けた瞬間に、殺されると思ったからだ。

 

(へぇ、右腕を犠牲にして…………今の攻撃を受け止めたのは正解でしたね)

 

そして、その選択はあっていた。

ティーンは、ザンクが攻撃を避けた瞬間に帝具の力で一気に殺そうと考えていた。

命拾いをしたザンク、しかし、その選択も結果的にはほんの少しだけ寿命を延ばす程度にしかならなかった。

 

「今夜は良い日ですね」

「……?」

 

攻撃を辞めたティーンは、ザンクから少し離れて夜空を見上げた。

釣られてタツミと、痛む右腕を抑えながらザンクは空を見上げるが、月と星は雲に隠れていた。

 

(どういうことだ?)

 

普通の感性を持っている人間であれば満月や星が輝く夜に言う言葉であるが、彼女は違った。

そして、言い様のない悪寒がザンクを襲った。

 

「なッ!?」

 

視線を夜空からティーンに向けた瞬間、彼女が地面へと消えていった。

右腕の痛みを忘れて彼女を探すザンクであったが、不意に自分の足元から声が聞こえた。

 

「私の帝具は影を操る……避けれますか? 受け止められますか? 逃げれますか?」

 

そう言ってザンクの影の中から出てきたティーン。

彼女の帝具は影を操り、影から影へと移動できる帝具であった。

 

「形成……完了」

 

ティーンの右手と左手にドロリとした影が集まり、武器を形成した。

右手にはレイピア、左手に直剣を持った彼女は一瞬でザンクの間合いへと入り斬撃を繰り出した。

 

隙のない連撃。

次から次へと影の武器を形成し、様々な間合い、方法で攻撃を繰り出すティーンを止める方法など無かった。

いや、一つだけあった。

しかし……その方法を取ればザンクに待っているのは逃れようのない死。

その方法とは、ティーンの斬撃をくらうことであった。

 

「うおぉおおお!! 死んでたまるかぁああああ!!」

 

ザンクは叫び、決死の反撃を試みたがそれは明らかに悪手であった。

左手に付いている剣でティーンの首を狙ったが……影の大剣によって腕ごと弾かれた。

体勢を崩したザンクに、攻撃を受け止める手段はない。

 

「かはっ……」

 

左脇腹、右足太もも、左胸を貫かれ……そして……ティーンの連撃は止まった。

 

仰向けに倒れたザンクに、ティーンはゆっくりと近付いていった。

貫かれた傷口からは血がとめどなく溢れ、止めを刺さなくても確実に死ぬことがわかった。

傷口を一通り見たティーンは、ザンクの顔を覗き込むように見た。

 

「これでもう、うめき声は聞こえないでしょ?」

「ッ……」

 

ティーンが微笑むのと同時にザンクが付けていた耳当てが壊れた。

ザンクの耳当てはお洒落で付けていたものではなく、終始聴こえてくる『声』を遮断するものであった。

 

ザンクは、元帝国最大の監獄で働く首斬り役人であった。

来る日も来る日も命乞いをする人間の首を切り取ってきた彼には、首を切り落とした人間の声が聞こえたのだ。

 

『怨むぞ……怨む怨む怨むッ!!!』

『どうしてお前は死なない……早く死ねぇ……堕ちろォオオオオオオオオオオオ』

 

呪怨の声が聞こえ、早く地獄に堕ちろと叫ぶ声が聞こえた。

勿論、死者からの声は聞こえない、ザンクだけに聞こえる……彼の罪の意識からくる幻聴であった。

 

さて、首切り役人という仕事はその職業柄、精神的に強い者がなる職種だ。

その為、首切り役人になる為には精神的な訓練を何ヶ月もやって初めて一人前の首切り役人として働くことができる。

では、何故訓練を受けたザンクは狂ってしまったのか?

それは、罪のない人間の首を切り落としていたからだ。

オネストが大臣になって以降、彼に異論を唱えた者、脅威になる者の家族を……何の罪もない人間を殺してきた。

罪人を殺すことに抵抗がなかったザンクではあるが、一般人……それも泣いて命乞いをする人間の首を切り落とすなどたまったものではなかった。

故にザンクは狂ってしまった。

 

そして、声から逃げるように耳当てを付けていたザンクだが、今彼に聞こえるのは声ではなかった。

夜風によって揺れる葉の音。水の流れる音……

 

「ありがとよ……ティーン」

 

ザンクは目の前の少女にお礼を言った。

声から開放してくれてありがとう。罪から開放してくれてありがとう。

心の底からティーンに感謝した。

 

そして、どうして彼女が「これでもう聞こえないでしょ?」と聞いてきたのかザンクにはわかってしまった。

微笑んでいた彼女の瞳は血の様に赤く、そして……死んでいた。

その瞳をしている人物が、どんな奴等なのか知っていた。

当たり前だ、ザンクは監獄で散々見てきたのだ。見間違えるはずがなかった。

 

その瞳を、屍人のように光がない目をした人物は…………皆、狂った人殺しであった。

 

(何故そんな目をしている。何故俺より狂っているお前が俺を助ける)

 

疑問に思うザンクであったが……………………彼は、目を閉じた。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「やったぜティーン!! お前凄いんだなッ!!」

「……そんなことないよ」

 

痛みと疲労から回復した俺はティーンへと駆け寄る。

まさかティーンが帝具持ちで、あんなに強いなんて思わなかったけど……無事で良かったぜ。

まだザンクを見ているから表情はわからないけど、返事は返してくれたから大丈夫だろう。

 

「タツミッ!! ソイツから離れてッ!!」

 

俺はティーンの肩へと手を伸ばそうとすると、後ろから声が聞こえた。

振り返るとそこには、肩で息をしながらアカメが走って来ていた。

 

「おぉ! アカメじゃないか! どうだアカメ! ティーン……つってもわかんないか、この子が帝具でザンクをやっつけてくれたんだぜ!」

「ティーン……やっぱり、今すぐその子から離れろタツミッ!!」

 

そう言って帝具『村雨』を構えるアカメ。

何そんな怒ってんだ? 

ははぁ~ん、さては獲物を横取りされて怒ってんだな。

全く、意外にアカメも子供っぽい所があるんだな。

 

「……アカメちゃん、どうしてそんなに怒鳴るの?」

 

ほら、ティーンの奴も怖がって顔を伏せちまってるじゃないか。

 

「半年程前、帝都で連続猟奇殺人事件が起きた……」

「アカメ、いきなりどうしたんだ?」

「黙って聞けタツミ! そして、その事件の犯人の異名が、ブラッディ・ティーン。お前の目の前にいる子だ」

「まさか……」

 

俺は俯いているティーンを見る。

 

「だけど、ブラッディ・ティーンはエリア将軍によって殺されたはずだ」

「え……じゃあ、この子は……」

 

ブラッディ・ティーンはエリアさんに殺されたなら、目の前のティーンはソイツのそっくりさん? それとも双子? はたまたアカメが間違えているだけ?

 

あぁッ!! 訳わかんねえ……どうなってるんだよ。

 

「とにかくソイツから離れろタツ『あははっアハ……アハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

突然ティーンが狂ったように笑い出す。

何だよ……嘘だよな。

まさか、そんな。

 

「私は太陽が嫌いなの……眩しいし、身体に纏っている影が消えちゃうし……」

「何言ってんだ……?」

 

俺はティーンから離れるように後退りする。

 

『君たちの敵ってこと』

 

何故か紙に書いて見せた彼女を、雲に隠れていた月が照らす。

 

「え……?」

 

俺は自分の目を疑った。

月明かりに照らされた彼女には、影がなかった。

 

 

 




ティーンの正体は……私が言わなくてもわかりますね。
わからない人は私の説明力不足です。本当にごめんなさい。

ってことでわかりやすいかはわかりませんが、ティーンの説明(追記5/31)

ティーン=エリアと思った方もいると思います。正解です。
しかし、ティーン=エリアじゃないんですよ。ティーンは喋っていますが、エリアは喋れないので……どう言葉で表せばいいかわからなくなった…
次回でティーンの本当の正体がわかりますので、お待ちください。


そして戦闘描写って難しいですよねぇ(唐突)

『次回予告』みたいなナニカ(本気にしないで下さい)

タツミ&アカメVSエリア(任務終わったから帰りたい)

オネストVSエリア(特別ボーナスよこせ)



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