チートを持って転生したけど、同僚馬鹿ップルが面倒くさい~2X歳から始めるアイドル活動!?~   作:被る幸

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基地祭編その2です。
この機会を逃すと登場が難しくなってしまうので、誰得な程に七花が絡みますがご了承ください。


逃げた者は、もう一度戦える

どうも、私を見ているであろう皆様。

基地祭当日となり、車に揺られて遥々と七花の所属する部隊の駐屯する基地までやってきました。

七花に案内という連行された私達アイドルの控え室は、何処を見ても塵や汚れ一つなく、床もワックスで鏡のように輝いています。

きっと隊員の皆さんが来客用にと1日かけて念入りに掃除してくれたのでしょう。

自衛隊員の掃除スキルは一般的な主婦のそれを上回ると聞いたことがありましたが、これを見るとそれは本当だったのだと感心します。

七花が無駄に誇らしそうな顔をしているので、きっと手伝ったのでしょうね。

 

 

「姉ちゃん。この掃除、俺も手伝ったんだぜ」

 

「わかってるわよ。偉いわね」

 

 

昔なら頭を撫でてあげるところですが、現在の七花は日本人らしからぬ2mを越えの長身ですから、いくら私が女性にしては高い方であったとしても少々きついです。

仕方ないので、ご褒美をあげましょう。

自分用に取っておいたおにぎりが何個か残っていますから、これでも十分喜ぶに違いありません。

 

 

「七花、お腹空いてるかしら?」

 

「空いてる。今空いた」

 

 

七花なら満腹だったとしても、部屋の外で運動してきて無理矢理空かせるでしょうね。

下げていた鞄からいくつかおにぎりを取り出して差し出すと、七花は嬉しそうに受け取りました。

ちひろ達がいなければ、今にも踊りだしそうなくらいの喜びようです。こんなおにぎりでこんなにも喜ぶなんて、自衛隊の食事はそんなにも劣悪なものなのでしょうか。

食事の良し悪しは、人間のあらゆる活動に影響が出ますから、極限状態での即応等過酷な要求をされることの多い自衛隊では士気を保つためにも食事には特に力を入れていると思うのですが。

七花は陸上自衛隊所属ですが、派閥の違う海上自衛隊では護衛艦同士での海軍カレーNo1決定戦みたいな事をしていたはずです。

 

 

「ブラコンだ‥‥」

 

はい(ダー)』「ブラコンです」

 

「眷属への寵愛か(ブラコンだぁ)」

 

「みんな、いくら事実でも‥‥七実さんに失礼だよ‥‥」

 

「いいのよ、智絵里ちゃん。七実さん、自分で認めてるから」

 

 

否定しませんよ。

七花は渡したおにぎりを早速食べているのですが、一応仕事中にそんなことして大丈夫なのでしょうか。

ばれなきゃ犯罪じゃないという言葉もありますから、私達が黙っていれば表沙汰になることはないので問題はなさそうですけど。

とりあえず、簡易的な名札の付けられたロッカーに私物やらを収納します。

さて、こんなに早く着いて何ですが、やることがなくなりました。

というのも、現在武内Pが義妹候補ちゃんと一緒に舞台と進行の最終確認と資材の搬入等についての話し合いをしているので、それが終わるまで動けないのです。

ここは国防を預かる自衛隊基地の1つ、一般開放をする日なので銃器や機密といったものは厳重に管理されているでしょうが、下手に歩き回るのはあまりよろしくないでしょう。

個人的には七花がどんな場所で生活しているのか実際に見てみたいという気持ちはありますが、個人的な欲求を優先させるのは社会人として有るまじき行為です。

こんな事もあろうかと暇潰し用のグッズは持ってきてはいますが、いきなりこれを出してしまうのも違う気がします。

確か基地祭の一般開場が10時なので、予定的には8時半頃から実際の舞台を使用した通しリハが始まるでしょう。

朝の集合を時刻に余裕を持たせていたので予定より早く到着することができ、現在の時刻は7時40分少し前と時間があります。

私とちひろだけであれば、舞台の内容の確認で時間を潰すのですが、自衛隊基地という非日常的な場所の独特の雰囲気に緒方さんと神崎さんが飲まれて緊張してきているので、外でも歩いて気晴らしをさせてあげたいですね。

まあ、筋骨隆々な自衛官達が闊歩する中を歩き回って確実に気晴らしになるとはいえませんが。

 

 

「七花。ちょっと散歩したいのだけど、大丈夫かしら」

 

「姉ちゃん1人なら、バレずに歩き回ることが可能だろ?」

 

「貴方、姉をアイドルから犯罪者にランクダウンさせたいのかしら」

 

 

やったことはありませんが、チート全開にすればやってできないことはないかと思います。

しかし、それをしてしまえば私はアイドルから犯罪者として全国指名手配をされることになり、美城及び所属アイドルたちに多大な迷惑を掛けることになるでしょう。

ちひろも『七実さんなら大丈夫でしょうね』とか納得しながら頷かない。

折角、シンデレラ・プロジェクトの中で今現在も奇跡的なバランスで保たれている頼れるお姉さん像が発破解体されてしまうではありませんか。

 

 

素晴らしい(ハラショー)!』「流石は、師範(ニンジャマスター)です」

 

 

一部例外もいますが。

七花の迂闊な発言でカリーニナの中での私のイメージがより一層忍者に近付いてしまったでしょうね。

人間第一印象が大事とはいいますが、それが今現在においても引きずる事になるとはやらかした当初に誰が思ったでしょうか。

もう半分近くは修正する事を諦めていますけど。

 

 

「冗談だって、一応なのはに確認するから待ってくれ」

 

 

そう言って七花はポケットからスマートフォンを取り出して、義妹候補ちゃんに連絡を入れます。

前回の失敗から報告、連絡、相談という社会人の基本についてじっくりとお説教させられたらしく、今回はその経験が生きましたね。

 

 

「ああ、なのは?姉ちゃんが基地を見て回りたいみたいだから案内してくる、何かあったら連絡してくれ」

 

 

通話が始まった途端に簡潔に用件だけを伝えると、返事も聞かずに通話を終了しました。

前言を撤回しましょう。この弟、前回からまるで成長していません。

 

 

「じゃあ、行こうぜ」

 

「いやいや、どこが『じゃあ、行こうぜ』なのよ!絶対に飛騨さん怒っているわよ?」

 

「大丈夫だって、事前になのはから暇になるようなら案内しても構わないって言われてたからな」

 

 

どうやら、前回の経験が生きたのは七花よりも義妹候補ちゃんのほうだったようです。

厳格な規律のある自衛隊でも一切矯正される事のなかった七花の性格をよく把握していて、上手く誘導していますね。

ここまで七花を上手く扱える彼女は初めてですし、私にも一歩も退こうとしない姿勢は評価できますから、さっさと籍を入れてしまえばいいのではないでしょうか。

今度、両親にそれとなく伝えておきましょう。

連絡を入れると母に『あんたは、まだいい人が見つからないの?』と確実に言われてしまうでしょうが、そこは弟の幸せの為に我慢して割り切りらなければなりません。

ああ、連絡する前からもう憂鬱です。

 

 

「なら、いいわ。じゃあ、案内をお願いするわね」

 

「ああ、任せてくれよ」

 

「では、全員行きますよ」

 

「「「「「はい」」」」」

 

 

人間、空等のスケールの大きなものを見ていれば大抵の悩みはちっぽけに思えるらしいので、そこまでの効果は期待できなくても気晴らしにはなるでしょう。

七花の後に続き、控え室を出ます。

 

 

「何やってんだお前?」

 

「渡二曹!こ、これはですね!」

 

 

控え室を出ると迷彩服にエプロンという一般社会では、早々お目にかかれないであろう奇抜なファッションをした男性隊員と出会いました。

自衛官ですから迷彩服は基本なので何も疑問を抱かないのでしょうが、一般人な私からすればそのアンバランスな組み合わせは違和感が強いですね。

年齢は20前くらいでしょうか、士長の階級章とそこそこ荷物が入っていて重そうなダンボールを抱えている事から、部隊の中でも下っ端の方で雑用をさせられているのでしょう。

雑用は嫌でしたが控え室の近くを通るので、運良く私達の姿が見られないかなという淡い期待を抱いていたに違いありません。

で、現在に至るといった所でしょうね。全て推論でしかありませんが、それほど的外れな事をいってはいないと思います。

 

 

「お前なぁ、こんなところで油売ってると隊長に怒られるぞ?」

 

「ええと‥‥その少し福利厚生というものをですね‥‥」

 

「福利厚生だぁ?」

 

 

福利厚生は重要ですよね。

美城は日本においてもトップクラスの総合企業ですから、その辺は一般的な企業のそれを遥かに上回ります。

美城に所属する社員であれば、本社内にあるジムや浴場、エステといった様々な施設はほぼ無料で使用できますし、日本に限らず海外にも保養地がいくつかありますので長期休暇が取れる時期が近づくと熾烈な争奪戦がよく見られ、季節の風物詩と化しています。

私は興味が無かったので、あまり利用したことはありませんが。

 

 

「ほら、自衛隊って女気が殆どないじゃないっすか‥‥だから、綺麗で可愛いアイドルを見て眼の保養というか‥‥」

 

「そんなもんか?」

 

「渡二曹は、嫁にしたいWACランキング トップ5に入る飛騨三尉って超美女な彼女がいるからでしょう!

この際だから言っておきますけどね!女気の欠片もない俺達からすれば、滅茶苦茶羨ましいんですからね!」

 

 

いきなり熱い語りが始まってしまいましたが、私達はどうするべきでしょうか。

七花と一緒に行動しなければ面倒ごとになってしまい、最悪今日のステージにも影響が出てしまいかねませんし。

前川さん達もどうすればいいかわからなくなって、苦笑しています。

 

 

「飛騨三尉と付き合っていて、姉は今を時めく最強アイドル!?しかも、仕事の交渉の付き添いで346プロに行って来た!?

そして今日は、ゲストのアイドルの付き添い役!?何ですか、その羨ましい展開の数え役満は!!

羨ましすぎるでしょう!!その主人公補正的なものの何割かを俺等にも分けてくださいよ!!」

 

「落ち着けって、姉ちゃん達に迷惑だろう」

 

「おぶぅっ‥‥渡二曹。興奮したのは俺が悪かったっすから、手刀は勘弁してください‥‥普通にかなり痛いっす」

 

 

七花のわりと容赦ない手刀によって正気を取り戻した男性隊員は、改めて私達の姿を見て顔を真っ赤に染め上げて俯いてしまいました。

きっと今頃、冷静に感情任せに自らの行動を分析して自己嫌悪に陥っているのでしょうね。

永遠に忘れ去ってしまいたい過去(黒歴史)を持つ私としては、その気持ちは痛いほどにわかります。

 

 

「まあ、今から姉ちゃん達を案内するところだったから、後で寄ってやるから元気だせって」

 

「マジっすか!?絶対っすよ!!」

 

「おう、わかったって」

 

「じゃあ、俺‥‥一っ走り行って皆に伝えてきますから!」

 

 

走り去っていく男性隊員の喜びようを見ていると、私達もそこそこの知名度を誇るアイドルになれたんだなと少し誇らしくなりますね。

それはちひろも同じようで、にやついてしまいそうな頬を軽く押さえていますが全く隠せていません。

 

 

「というわけで、悪いが付き合ってくれ」

 

「仕方ないわね」

 

 

職場関係というものは重要ですから、仕方ありませんね。

どんなに楽な職場でも人間関係が上手くいかなければ一瞬で地獄となりえますし、またその逆も然りですし。

弟の職場での平和の為に、姉として一肌脱ぎましょう。

 

 

 

 

 

 

七花に案内された自衛隊基地の内部は、一般人である私達では知る事ができない新しい刺激で満ち溢れていました。

重要な場所には近付く事すら許可されませんでしたが、それでも十二分に気晴らしにはなったでしょう。

最初はおっかなびっくりだった緒方さん達も普段では絶対に見る事ができない特殊な車両や装備等の展示に興味が引かれているようです。

こういったものに興味を示すのは男の子だけではないようですね。

 

 

「おい、アレ!」

 

「やべぇ!俺、変なカッコしてないよな!」

 

「う、美しい‥‥」

 

 

男所帯な仕事場ゆえ仕方無しなのでしょうが、先程からすれ違ったり、前を通ったりする時の男性隊員たちの視線が露骨過ぎます。

アイドルとしてデビューしてから仕事上そういった視線に慣れてしまった私やちひろは、仕方ないなと受け流す大人の対応ができるのですが、4人はそうではないようで少し居心地悪そうにしていました。

これもアイドルへの一歩の洗礼として頑張って慣れてもらうしかありませんね。

 

 

「うぅ‥‥見られてる‥‥見ないで、見ないでぇ‥‥」

 

「智絵里ちゃん、みく達はアイドルになるんだから慣れなきゃダメだよ」

 

「でもぉ~~」

 

 

引っ込み思案な緒方さんにとって屈強な自衛隊員からの視線は凶器でしょうね。

シンデレラ・プロジェクトにおいても断トツでプロ意識が高い前川さんは、笑顔を作って普段どおりに振舞おうとしていますが、やはり慣れない為か若干引きつっています。

神崎さんはちひろの袖を少しだけ掴んで、その背後に隠れようとしていました。

ちひろ、かなり羨ましいので今すぐ、たちどころにその役を替わってくれませんかね。今なら、私の頭の中に保存されている武内Pの好物おかず十選のレシピも付けますよ。

 

 

「こ、これが防人(さきもり)の眼光か(ちょっと怖いです)」

 

 

確かに今回は通常よりも熱く露骨ですが、アイドルならば自身で乗り越えなければなりませんが、こればっかりは経験が物をいう部分がありますから、今は仕方ないでしょう。

私はチートで隠して全く問題ないように振舞っていましたが、最初は逃げ出したい衝動を押さえ込むのに苦労しました。

ちひろも同様で、最初の頃は緊張と不慣れさから何度もグラビアを取り直したこともあります。

もっとも、七花を質問攻めにしている好奇心の塊なカリーニナさんのような例外もいますが。

 

 

「チエリ。なら、ミクと手を繋げばいいですよ」

 

 

七花にマシンガンの如くは質問を浴びせながらも3人の方にも気を向けていたカリーニナさんが、突然振り向きそのような提案をしてきました。

 

 

「みくちゃんと‥‥手を?」

 

はい(ダー)』「ミクの手は、魔法の手です。繋げば、とても落ち着きます」

 

「な、なんか、こうストレートに褒められると対応に困るよ」

 

 

褒められた前川さんは恥ずかしそうに自分の頬をかきます。

そして緒方さんにおずおずともう片方の手を優しく差し出しました。

 

 

「魔法かどうかはわからないけど、よろしければお手をどうぞ」

 

 

褒められた嬉しさと気恥ずかしさが混ざった可愛らしい表情で、ちょっと気障っぽい台詞を吐く前川さんは、精一杯背伸びをする子供みたいで、人目がなければその頭を撫で回していたでしょう。

格好つけようとしてみて、いざ本当に口に出してみると予想以上に恥ずかしかったのでしょうね。

言葉の最後の方になるに連れて声が少しずつ小さくなるのが、可愛くてたまりません。

 

 

「うん♪ありがと、みくちゃん」

 

 

嬉しそうに前川さんの手に取る緒方さんを見ていると、私の語彙力では到底表現しきれないほどのあたたかくも激しい感情が湧き上がってきます。

 

 

「‥‥尊いな」

 

「写真取ったらダメかな?」

 

 

アイドルはその姿自体が売り物ですし、それにどのような状況でも隠し撮り駄目です。

スマートフォンを取り出そうとした男性隊員との間に入り込み、首を横に振って撮影はNGという旨を伝えると、それを理解してくれた男性隊員は申し訳なさそうに何度も頭を下げてきました。

別にそこまで恐縮しなくてもいいのですが、まるで蛇に睨まれた蛙のようです。

もしかして、私のやらかしエピソードがこの閉鎖的な自衛隊基地に出回っていて、ここでも畏怖の象徴扱いされているのでしょうか。

 

 

「ちひろ、私ってそんなに恐ろしい存在ですか?」

 

「私達は違うって知っていますけど、誤解はされやすいタイプだとは思いますよ」

 

「率直な意見をありがとうございます」

 

 

一般人にとっては恐ろしい存在であるというのは否定しないのですね。

まあ、最近はチートの箍も緩みがちで仕事で色々やらかしていますから仕方ないのかもしれませんが、一般人と同等程度の耐久性しかない私の心にはクリティカルですよ。

なら、今からでも派手にチートを使わないようにすればいいのですが、既に私の能力の高さについては業界内でも噂になっており今更落とす事なんてできないでしょう。

あの昼行灯辺りなら嬉々として私がチートを使わなければならないような状況に持っていくでしょうし。

私の人生選択は何処で間違えてしまったのでしょうか、アイドルデビューした事でしょうか、それともあの黒歴史時代でしょうか。

 

 

「咲夜さん、藤木の奴いますか?」

 

「あら、七花君じゃない。どうしたのかしら?」

 

「いや、今姉ちゃん達に基地を案内してるんですけど、後で顔を出すって約束したもんで」

 

「ああ、だからあんなにはしゃいでたのね。でも残念、うちの旦那にアイドル達の衣装とかの積み下ろしに連れて行かれたわ」

 

 

そんな風に自身の人生について振り返っているとあの男性隊員が所属する部隊の出店に到着しました。

あんなに楽しみにしていたのに、次の雑用に駆り出されてしまうとは、なんと不憫な子。

それはさて置き、この部隊の出展物は焼きもろこしのようですね。

シンプルな分素材が重要となるタイプですが『大きい、安い、美味い!ジャイアント焼きもろこし!』の看板に偽りなしの中々食べ応えのありそうな大きさのとうもろこしです。

試作品としていくつか焼き始めているのか、燃える炭の香りに混じって醤油ベースのタレがやける食欲を直撃する匂いが漂ってきました。

こういった料理はガスとかよりも炭火焼が一番ですし、作り方ももの凄く簡単なのですがいざ自宅で作ろうとしたら面倒臭くて作らないんですよね。

それにこういったものはお祭のにぎやかな雰囲気の中で食べるから美味しさも一入なのでしょう。

 

 

お腹空きました(ヤー ハチュー イェースチ)

 

 

確かにこの焼きもろこしの香りは胃袋に対して暴力的であるのは認めますが、恐らく現時点でこの中で一番食べているであろうカリーニナさんからその言葉が出るとは思いもしませんでしたよ。

確かに筋肉量が多いと基礎代謝もあがって燃費が悪くなりますが、私のチートボディも真っ青な燃費の悪さです。

765の四条 貴音も健啖家らしいですから、銀髪の女の子は大食いの星の下に生まれてくる運命なのでしょうか。

そうすると神崎さんもいずれ、そうなるのかもしれません。

若い内は大食いとか無茶できますが、年齢を重ねて成人を過ぎ、20代後半にもなると食べたものがすぐ体型に反映されるようになりますから食生活の管理も気をつけるようにと武内Pに進言しておきましょう。

 

 

「早っ!?朝あれだけ食べたのに!」

 

「私は、育ち盛りですから」

 

「これ以上、どこが育つっていうの!」

 

「‥‥私も、食べたら育つかな」

 

「我の進化はまだ止まっておらぬ(‥‥私だって、もっと成長するもん)」

 

「私だって、まだまだこれからだもん」

 

 

カリーニナさんの発言の流れ弾が、最近の女の子発育の良さに危機感を覚えている私の相方にも直撃しました。

ちひろは、女性らしい色っぽさのある身体つきをしていますから今のままでも十分だと思うのですが、やはり発育のいい子が多いシンデレラ・プロジェクトのメンバー達と交流していて刺激されているのでしょう。

私の場合はスタイル云々言う以前に方向性が180度近く違いますから、そんな悩みを抱えたことはないですが、やはり恋する乙女としては自分よりもスタイルの良い子達が懸想する相手の周囲にいることは複雑な気分なのでしょうね。

 

 

「あらあら、可愛い子達じゃない♪何、そこの銀髪の子は焼きもろこしが食べたいの?」

 

はい(ダー)』「とても、食べたいです」

 

「正直でよろしい。みんな、いいかしら?」

 

「勿論です」「問題ありません、最高の焼け具合です」「こちらからお願いしたいくらいです」

 

 

さすが自衛官。こういった時の臨機応変な対応とのりの良さは素晴らしいです。

私も1本欲しいところですが、素直に感情を顕にしても許される年齢のカリーニナさんとは違い、大人がそのような事を行ってしまうのは見っとも無いですから今は諦めるしかないでしょう。

大人には守るべき面子というものがありますから、舞台が終わった後にちゃんとお客として買いに来る事にします。

 

 

「はい、焼き立てで熱いから気をつけて」

 

はい(ダー)』「いただきます」

 

 

焼きたてを持っても火傷してしまわないように割り箸が刺された焼きもろこしを受け取ったカリーニナさんは、キラキラと目を輝かせながら豪快に齧り付きました。

満足げな笑顔を見ていたらその焼きもろこしがどれだけ美味しいのが伝わってきます。

たれが焦げたことによる香ばしさに、噛めば溢れ出すとうもろこしの甘味と特製の甘辛い醤油だれの味が混ざっていき、次の一口が楽しみで仕方なくなるに違いありません。

サラダとか付け合わせとしてばらばらになっているのも悪くないのですが、とうもろこしの旨味を存分に味わおうとするのならやっぱりこのシンプルな焼きもろこしが一番でしょう。

チートによる一般人より優れた聴覚は、カリーニナさんの歯が焼けて張り詰めたとうもろこしの果皮を破る音すら聞き取りそうなくらい過敏になっています。

美味しいですか、美味しいのでしょうね。実際に食さずとも音や香りの時点で美味しいとわかっていますから。

 

 

「アーニャ、一口ちょうだい」

 

「私も、一口欲しいな」

 

「‥‥我にもその金色なる珠玉を(わ、私も食べたいです!)」

 

 

私もと言いたいところではありますが、流石に空気は読めます。

仕事の関係で業界屈指の音楽Pにあったことがあるのですが、その際にはこれと真逆な事をいわれました。

時には、あえて空気など読まない行動をする必要はあるかと思いますが、今はそんな時ではないということは最近鈍感と弟子に言われる私にもわかります。

ああ、私が4人と同年代だったらあの中に混ざれるのですが。

いや、同年代の頃だと黒歴史の真っ最中ですからどちらにせよ無理でしょうね。

 

 

「ほら、姉ちゃんも食べるだろ?」

 

 

私の真摯な願いが届いたのか、七花が試食用の焼きもろこしをもう1本もらってきて渡してくれました。

流石、マイ フェイバリット ブラザー七花です。私のことをちゃんと理解してくれていて、お姉ちゃんは嬉しくて甘やかしてあげたくなります。

今度、何か作って差し入れしてあげましょうか。

腕によりをかけて、私に作れる範囲で何でも作ってあげましょう。

 

 

「あらあら、なのちゃんに見られたら嫉妬されちゃうわよ?」

 

「大丈夫ですよ。俺がシスコンなのは今に始まったことじゃないんで」

 

「‥‥愚痴では聞いていたけど、凄いシスコンぶりね。ちょっと心配になるわ」

 

 

ちひろも焼きもろこしを食べたいようなので、手刀で半分に折って割り箸が刺さっている方を渡します。

勿論、折角の焼きもろこしを無駄にしてしまわないように、鎧通しの要領で内部の芯の部分だけに衝撃を集中させて折りましたから、粒はひとつたりとも潰れていません。

 

 

「俺だけは、姉ちゃんが素直に甘えられる存在でありたいんで」

 

「そう、お姉さんのこと大切に思っているのね」

 

「はい」

 

 

医鬱排悶、水魚の交わり、咀嚼玩味

この焼きもろこしを持って世界に平和を伝える旅にでも出ましょうか。

 

 

 

 

 

 

「~~♪」

 

 

『今が前奏曲(プレリュード)』を歌い、踊りきり、武内Pに方に視線を向けます。

真剣な面持ちで私達の様子を見ていた武内Pは、とても満足げな表情でしっかりと頷きました。どうやら、リハーサルも問題はないようですね。

こうなるように青木姉妹と日夜調整会議を行って、最高の状態に仕上がるように最大限人事を尽くしたのですから当然の結果でしょう。

その様子を見た4人は、安心したのかそのままステージに座り込んでしまいました。

例えリハーサルだとしてもアイドルとしてステージ上で情けない姿を見せるのはいただけませんね。

ステージに自ら膝をつくなど、勝負を捨てたもののすることに他なりませんから。

骨に皹が入っていようが、半身が麻痺していようが、一度舞台に立ち1人でも観客がいるのならば、それらを隠してでも魅せるという気概は必要でしょう。

 

 

「すげぇ!すげぇよ、姉ちゃん!」

 

「やっぱり生のアイドルは迫力が違いますね」

 

 

武内Pと一緒にリハに付き合っていた七花と義妹候補ちゃんが拍手を送りながらそんな感想をもらいました。

こうして七花にちゃんとアイドルとして活動をしている姿を見せるのは初めてなので、私も内心緊張していたのですが喜んでくれて何よりです。

ですが、これは本番ではなく飽くまでリハーサル。本番の舞台には目には見えない魔物が棲んでいますから、安心しきるには早いでしょう。

 

 

「ほら、みんな。座り込んじゃったら、服が汚れちゃいますよ」

 

「アイドルならば、演出以外でステージに座ってはダメですよ」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

私達が先輩アイドルとしてのアドバイスをすると、4人はすぐさま立ち上がりました。

その表情は本番を待ちわびているのか、夢と希望に満ち溢れた輝かしい笑顔を浮かべています。

自分達なら大丈夫、仲間がいるから大丈夫、そんなどんな名刀でも断ち切ることができない強固な信頼し合う絆が見えるようで、頼もしい事この上ないですね。

 

 

「4人は、先に戻っていてください。私達は、もう少し話を詰めてから行きますから」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

4人は楽しそうに舞台下手に捌けて行き、舞台には私とちひろのみとなりました。

偉そうな事を言ってしまいましたが、私も正式デビューから半年も経っていない新人の域を出ない駆け出しアイドルなのです。

そう思うと少し先輩風を吹かせすぎてしまったかなと、恥ずかしいですね。

 

 

「私達も先輩なんですね」

 

「そうですね」

 

「嬉しいですけど、ちょっと恥ずかしいですね」

 

 

そう言ってはにかむちひろは、あざといように見えますが本心から嬉しそうにしているのが良く伝わってくるいい表情をしていました。

私は、瑞樹や楓、菜々がアイドルの右も左もわかっていなかった私にしてくれたように、先輩アイドルとして誇れる姿を見せることができているのでしょうか。

最近は、色々とやらかすことが多くて少し自信がありません。

 

 

「これからは追うだけでなく、追われる立場でもあるのですから‥‥抜かされないよう気をつけないといけませんね」

 

 

シンデレラ・プロジェクトの子達は、どの子も道さえ誤らなければ全員がトップアイドルになりえる実力を秘めた珠玉の集まりですから、うかうかしていたら本当に追い抜かされかねません。

チートを持つキャラが負けるテンプレは、自身の能力に過信した慢心が大半を占めますから、私もその1人に名を連ねることがないよう精進せねばなりませんね。

 

 

「そうですね。若い子には、まだまだ負けませんよ」

 

 

その台詞は年齢を感じさせるので、あまり言わない方がいいと思いますよ。

私達は、まだまだこの業界では少数派である成人を過ぎたアイドルなのですから年齢を感じさせる発言をすると、すぐに菜々みたいに弄られるキャラになってしまうでしょうから。

『ちひろさんじゅうななさい』とか区切る部分によっては恐ろしい数字が出現するネタを振られたりしても怒ってはいけないのはきついと思います。

今でこそ菜々はあまり気にしていないそうですが、最初の頃は枕を涙で濡らした事もあるそうですから。

ちひろの発言を苦い顔でどう対応すべきか頭を悩ませていると、武内Pがやってきました。

 

 

「リハーサル、お疲れ様でした。進行等で何か気になる点はありましたか」

 

「いえ、後は今の流れから最終調整をすれば問題ないでしょう」

 

「わかりました。本番までには最終調整をしておきます」

 

 

リハーサルの感想よりも進行等の確認とは武内Pも真面目ですね。

もうちょっとそういった所に気を配ってあげないと、ちひろが不満そうな顔でこちらを見ていますよ。

 

 

「‥‥」

 

「ど、どうしました、千川さん?」

 

「武内君、私達の舞台を見たのに‥‥そんな業務的な態度は良くない、良くないなぁ~~」

 

「せ、千川さん」

 

 

ほら、拗ねた。本気で拗ねているわけではないでしょうが、こうなると宥めるのが面倒くさいです。

お酒の席であれば飲ませれば何とかなるのですが、今は舞台の本番を控えていますからそれもできません。

なので、私も足早に退散させてもらって後のご機嫌取りは武内Pに一任してしまいましょう。

私達のP(プロデューサー)なのですから、アイドルとのコミュニケーションによるモチベーション管理は仕事のうちだと偉い人は言っていましたし。

 

 

「もう少し綺麗だったとか、可愛かったとか言ってくれてもいいとお姉さん思うんだけど?」

 

「は、はい‥‥そ、その皆さん、えと、とても‥‥とてもいい笑顔でした」

 

「‥‥まあ、それが武内君の精一杯かな」

 

 

言葉だけを聞いていたらちひろは呆れているようにしか思えませんが、ですが顔はリンゴのように赤くて、だらしなく緩んでいるので馬鹿ップルが人前でいちゃついているようにしか見えません。

こんな目立つところで馬鹿ップル空間を形成しないで欲しいのですが、言って改善するなら当の昔に直っているでしょうね。

とりあえず、何処に人目があるかわかりませんから目立たないように移動させましょう。

 

 

「ちーちゃん、いいなぁ‥‥」

 

「じゃあ、俺も負けてられないな。姉ちゃん、すっげぇ綺麗だったぜ!‥‥って、なんでぶつんだよ?」

 

「うっさい、口を開くな!」

 

 

七花の方も馬鹿ップル空間を形成し出しましたので、そんな相手のいない私はさっさと控え室に戻って4人を愛でて心を落ち着かせなければ。

でなければ、この後の舞台を十全にこなすことができそうにありません。

そんな私の心情をとあるアテナイの指導者をしていた古代ギリシアの政治家の名言を借りて述べるなら。

『逃げた者は、もう一度戦える』

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、後は本番を残すのみですから、鬼が出るか蛇が出るかはわかりませんが、頑張っていきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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