「…………え? あれ?」
気がつけば、俺は病室にいた。……昨日もこんなことがあった気がするが、気のせいだな…たぶん。
とはいえこの状況は本当にわからない。俺はさっきまで自分の部屋で新型開発……といえば学生規模では壮大なことをしていたように聞こえるが、実際はプラモの設定を纏めていただけである。
(………あ)
確か俺は人がいる事に気付いたのだが……とここで頭を抑える。
(………ああ、そういえば……)
嫌な予感がして近くにあるものを放り投げて逃げて爆発したところまでは覚えている。背中の痛みはもしかたら火傷かもしれない。
とはいえさすがに家(というか小屋?)を爆発するとは思わなかった。たかが動かしたぐらいでそこまではやり過ぎだろう。ISは女のものととか主張するのは勝手だが、基本的にボッチな俺にとってそれは流石に酷いだろ。流石にそろそろ限界を感じている。
(……こちらも反撃を考えるべきか?)
死なない程度に殴るのならば別に構わない……ってのもおかしいかもしれないが、まだ可愛く感じるが。だがアレは話が別だ。
(………だが、その度胸は認めてやるよ)
俺はかつて、痴漢の疑いをかけられたことがある。
というのも乗っていた電車が急ブレーキをかけた時に、俺はたまたま読み終わった本を新しい本に入れ替えていた。
その時にバランスを崩したのか、女性が倒れてきたのだ。そして偶然手が相手の尻に当たったらしい。当然だが狙ってそうしたわけではないため、罪には問われないはずだ。
とはいえあそこでさっさと手を退ければ良かったのだが、体を動かすと余計な誤解を招くと思ったため止めておいたのだが、それが誤解を生んだらしい。
当然俺はその女に捕まって警察沙汰になり、警察所に連行させられた。濡れ衣だと言っても状況説明をしても信じてもらえなかった。
結局俺は証拠不十分で釈放はされたが、その時にほしかったプラモの限定品を買えなかった。
「………」
さらにその前―――俺が中学一年の頃、中間試験が終わった時に成績が発表された。
その時、俺が所属していた学年は全員で210人いて、上から20人は女たちが占めていた。俺はほとんど平均点ぐらいだったし、まぁちょうどいいかって思っていたんだ。
だが女たちはそれをどう勘違いしたのか、急に男たちを扱き使いはじめた。理由は俺たちが点数で劣っていたからってだけである。
当然、俺たちは嫌だったが、法律を盾に取られてはどうすることもできなかった。というよりもどうにかするための頭がなかったのだろう。
なので俺はクラスメイトをカラオケボックスに集合させ、ある作戦を立てる。その名も「男版、姑からの作戦
」である。
一昔前まで女が中心となって家事をするのが大半であり、ドラマでは姑が義娘の掃除の下手さっぷりを見てダメ出しする………が、ここまでだったら「最近は女じゃなくて男がするのが当たり前なのよ」と言うのは目に見えている。だからそこからダメ出しするのだ。「じゃあ、お前はゴミの家で暮らすんだな」と。
身近にいたからああいうのは男を毛嫌いし、家に出入りさせることも嫌う傾向にある。それを俺ともう一人だけで実行するのではなく、周囲からそういうことをしていると言い、反論するたびにそれを電波させるのだ。そしてテンションが高くて言いふらすのが得意な奴らには大声で叫んだり、ニュースを聞いたらさり気なくそれを伝えたりする。
もっとも、それだけでは根本的な解決にならない。なので俺はもう一つの作戦を実行する。
中間試験での成績順位で学年トップはこのクラスにいた。だが俺たちのクラスで上位なのは20人中3人だけで、しかも点差はそれほどない。
つまり俺たち男が上位を独占できる可能は多少だから残っていた。
そこで俺は勉強会を開き、クラスメイトの学力上昇を図るために放課後残って勉強に取り組んでいた。幸いなことに俺たちのクラスには「そんな面倒なことを誰がするか」という人間は一人もおらず、部活をサボってまで来る人がいた。……もっとも途中からは流石に悪いと思い、部活をしている奴には対応が酷くなるがノートが綺麗でわかりやすい人間が纏めたものを書いて、コピーをしてわかりやすく教えた。…何故か知らないけど、その時は俺がそれを担当することになり、噂が広まって他のクラスの男が来ることが度々あった。
努力の結果、俺たちクラスメイトは全員が上位を独占。そして俺はなんと学年主席になった。
だがそんな幸せな時間はあっという間に過ぎ去ったけど。
―――閑話休題
今でも昨日のことのように女たちが「信じられない」と言わんばかりに俺を見ていたことを思い出せる。
つまり学力があれば大抵それなりの地位は築けると思う。おあつらえ向きに参考書が置かれているし、読むことにしよう。もちろん俺のやり方でな。
■■■
放課後になり、千冬と楯無、そして付き添いとして本音が悠夜がいる病室へと足を運んでいた。
千冬と楯無は手ぶらだが、本音の背中にはリュックが背負われている。
「ねぇ本音ちゃん、その中には何が入っているのかしら?」
「お菓子だよ~。かっつんが喜ぶと思って~」
「いくら強いとはいえ、油断はするなよ布仏。さっきのようなこともある」
「わかりました~」
悠夜はあの騒動の後、病室に運ばれていた。
右腕は医療用なのマシンで完全に修復されているが、左足と千冬の蹴りで新たに負った背中の怪我があるからだが、何よりも通常使われることがないIS学園の中でも人口密度が低い医療区間の中だからこそ、事情聴取がしやすいと思ったからである。
悠夜がいる部屋の前では更識から派遣された武装済みの男がわかりやすいように一人立たされている。その男が三人に気付いて敬礼する。
その男の顔が青いと感じた楯無は話しかけた。
「大丈夫? ちょっと顔が青いけど」
「ええ。問題はないのですが……先程から殺気を浴びせられていて……」
途端に三人は戦闘体勢を取ったが、男はそれを止める。
「ま、待ってください! 中には彼以外には誰もいませんよ!」
見張りの男はそう言って三人を止めようとする。
本音はそのままの状態を察知しようとすると、それよりも早く千冬が言った。
「確かにそうだな」
「それに、誰かがいたら仲間がすぐに知らせるでしょう? 安易かもしれませんが、何かあったらわかりますし」
「………それもそうね」
「…私から行こう」
千冬はそう言ってドアをノックするが返答はない。それでも千冬はドアを開けると……そこには―――
―――全身から殺気を放ちながら本を読む悠夜の姿があった
千冬はもちろん、楯無と本音もその様子を見て驚きを隠せなかった。殺気もそうだがなによりもその集中具合にだ。
昼食も一応置かれてはいたが、悠夜はそれに一切手をつけていなかった。
「………ふぅ」
パタンッ、と参考書を閉じ、近くにあるリモコンを操作してベッドの角度を55度ぐらいにしてリラックスする。
殺気は完全に消えており、その場に漂っていた緊張感は完全になくなっていた。
「………かっつん?」
「……!? 何の用だ?」
三人に気付いた悠夜は上体を起こして睨みつける。
「お見舞いだよ、お見舞い~」
「………ふーん、お見舞いねー」
本音の言葉に怪しむ悠夜。
「で、アンタは一体何の用だ?」
悠夜の視線が三人を超えて別の方を見ていたことに気付いた千冬はそこに堂々と立っている男を見た。
その男は先程から悠夜の部屋の前で周辺を監視していた男であり、今の状況で言えば「持ち場を離れている」という言葉が該当するだろう。
楯無と本音もその男から距離を取ると、その男は侵害そうに言った。
「待ってくれ、三人とも。何も僕は君たちを襲おうとか、ましてや彼をさらおうなんて考えてないよ」
その男はさっきとは声が違っていた。
そのことで三人はますます怪しむが、その視線を無視して男はこめかみの下辺りから皮を引っ張る。
するとビリビリと音を立ててその皮が破れていき、中から整った顔が現れる。
「初めまして、三人とも。僕の名前は
千冬と本音は反応は違えど各々驚きを露わにする。
「み、見えないよ~」
「詐欺ではないのか?」
「驚くのも無理はないさ。しかし僕はちょっとばかり特殊な役職に着いていてね、おいそれと素顔を見せるわけにはいかないんだけど、今回はかの有名なブリュンヒルデと将来の花嫁候補の二人を見に来たんだ。マスクでは失礼と思って外させてもらったよ」
そう言って美青年こと桂木修吾は悠夜の方に近づき、近くにあった椅子に座る。
「随分とやられたようだね」
「ああ。おかげさまでな。で? 花嫁候補ってのはどういう意味だ?」
悠夜の言葉を聞いた修吾はクスリと笑う。
「そのままの意味だよ。まぁ、普通に考えて悠夜みたいな捻くれた性格をした男においそれと女の子が近づくわけが無いと思ってね。だから花嫁候補だと思ったわけさ。ということですまないが、しばらく二人にしてくれないかい?」
「わ、わかりました」
修吾が三人の女に向けてそう言うと、千冬と楯無、そして本音は部屋から出る。
廊下には誰もいない。どうやら修吾をそのまま護衛陣の中に組み込んでいたようだ。
(だけど、そんなことを一体誰が?)
楯無の頭に自分の父親とこの学園の真のボスの姿を思い浮かべる。
だがそれを証明するのに証拠がないのが現状だった。
■■■
千冬と楯無、本音の三人が部屋を出て行くと修吾は悠夜に話をする。
「久しぶりだね。確か、4ヶ月ぶりかな」
「確かそうだったな~」
悠夜は適当に返すと修吾はため息を吐く。
悠夜にとって今の修吾は父親としては見ていない。それよりも修吾が何故こんなところにいられるのか疑問だった。
「驚いたよ。まさか悠夜がISを動かせるなんて思わなかった」
「それを知っていたなら是が非でも脱走していた」
そう返すと修吾は「違いない」と答える。
「で、一体何の用だ?」
「いやぁ。大半のものが無くなったって聞いたから救援物資を持ってきた」
「へぇ」
悠夜が適当に返すが、修吾は特に何も言わない。
「で、本題は何なんだ? 年に10回前後しか帰ってこないアンタが俺の見舞いだけで済むわけがないよな?」
「さすがは悠夜。僕のことをしっかりと理解している……と言いたいけど、今回はただ顔を見に来ただけだよ。それに今の君は倒れそうだろう?」
悠夜は舌打ちをすると修吾は笑った。
「では僕は行くよ」
修吾はそう言って立ち上がり、病室から出て行こうとドアの前に立つと、あることを思い出したかのように話し始めた。
「今の君には酷かもしれないが、女の子とはできるだけ仲良くしておいた方がいいよ。さっきの女の子たちは特にね」
そう言い残した修吾が部屋から出て行ったことを確認した悠夜は脱力し、背もたれとなっているベッドの姿勢を横にしてそのまま眠りについた。