IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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#6 しない練習と理由の矛盾

 IS学園の生徒会室は職員室や一般教室が並ぶ本棟とは違い、学園長室やそのほかの授業用教室がある別棟にある。

 その生徒会室で楯無と本音は本音の姉で楯無の従者である布仏(うつほ)に「珍しい」と思わせるほどため息を吐いていた。

 普段から立場的な都合上、楯無は悩んだりもするが、本音の場合はため息を吐く側ではない。むしろ吐いた人間の悩みを聞き、癒す側だ。

 

「今日は来るなら二人目と来ると聞いてましたが、その様子では失敗のようですね」

「うん」

「あれは強敵だよ~」

 

 虚は生徒会に所属する数が少ない為自分専用となっている長い机に置かれているファイルを取り、それを楯無に渡す。

 

「彼に関する資料です」

「あ、ありがとう」

 

 楯無はそれを受け取り、中身を開く。そこには悠夜のプロフィールと顔写真が載っており、写真はつい最近撮ったからかほとんど変わりなく、牛乳瓶の底のようなメガネをかけていた。

 それをざっと見た楯無はある一点に釘付けになる。

 

「……虚ちゃん。これ、本当?」

「彼が通っていた病院を訪ねたところ、担当医がそう判断しました」

 

 その一点にはこう書かれていた。

 

『人間嫌悪症ならびに恐怖症』

 

 その下に理由が書かれており、そこには楯無にとって信じられないことが書かれていた。

 

『桂木悠夜の適性発覚後、女性権利主張団体(以下:女権団)が総動員し二人目の捕縛を実行。銃の使用が許可されていて、3月中旬に起きた乱射事件はそれが関与していると見られる』

 

 その文を読んで楯無はつい先日起こった乱射事件を思い出す。

 その犯人は最後に死体となって発見されたと報道があり、特に気に留めていなかった。

 

(………女権団が政治的にも関与しているのが理解していたけど、いざやられると面倒ね)

 

 楯無は少し考え、本音に指示を出す。

 

「本音ちゃん。しばらく桂木君を見張っておいてもらえないかしら」

「大丈夫だよ~」

 

 本音の容姿は贔屓目なしに見ても普通に可愛い。

 それに癒されることを経験している楯無は本音を選んだ。

 本音が生徒会室から出て行くのを見送った後、自分用のパソコンを出してメールプラウザを開き、父親宛に命令となる文書を送るのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園には専用施設がたくさんある。

 剣道や柔道、空手などを初めとする様々な武術の練習場所「武道館」。軽音楽部や和太鼓部、吹奏楽部などの大音量系の練習場所「演奏館」。だが運動部は部室のみしか存在せず、それぞれの部が広いグラウンドを独占している。

 だが流石はIS学園。兵器を教える場所は伊達じゃないようで、射撃場は存在していた。

 俺はそこの一レーンを借りれたので、目に空薬莢や壊れたパーツなどが飛んで来ても目を守る為に必要なゴーグルと轟音から耳を守るイヤーマフをつけてから射撃場に入る。ちなみにゴーグルはメガネの上から使用可能な物を借りた。

 中に入ると既に何人かがいて、俺は距離を空けてイヤーマフに搭載されているらしい「初心者モード」を選択する。

 するとゴーグル内から銃の構え方などが提示され、出てきた目標を指示通りに撃つ。

 ミスはなんとかしていないが、一発一発撃つのが正直怖い。

 

(だけどこれをしないといけないんだよなぁ)

 

 よくもまぁこれを平然とできるわ。十発ぐらい撃ったけど、手が震えてきた。そう考えるとここにいる女たちって、これをISを纏っているとはいえ人間に向けて同じようなのを撃つから怖い。

 

(……ともかく、今はなんとかしないと)

 

 そう思って再びやろうと思ったけど、急にイヤーマフに通信が入った。

 

『あー、ちょっといいッスか?』

 

 ゴーグルにウインドウが開いて女の顔が現れる。彼女は今日会った更識生徒会長とは違って完全に外の人間なんだが、やっぱり外人が日本語をぺらぺら話すのは違和感を感じるな。

 ちなみに彼女の顔はどこか幼く感じる。

 

「………」

『そう警戒しないでくださいッスよ。別にこっちはあなたを取って食おうととしているわけじゃないッスから』

 

 どうやら俺に用があるらしい。嫌だが撃つのを止めて退出する。……別に発情する気はないんだけどな。別の意味でならすることはできるが。

 するとさっきウインドウに表示された女とは別にもう一人いた。

 

「始めましてッス、桂木君。私は二年生でギリシャ代表候補生、フォルテ・サファイアッス。で、こっちの人は」

「三年でアメリカ代表候補生のダリル・ケイシーだ。よろしくな、一年坊主」

 

 実年齢は隣のサファイアさんと一緒、とは言えなかった。

 

(というか、その容姿で男口調かよ。凄いギャップだな)

 

 ケイシーさんの容姿は一言で言えば露出が多い。豊満な胸と身長が高いのも相まってスタイルがいい体つき誘っていると思われても仕方がないと思える。しかもブラチラ付きだ。

 対照的にサファイアさんは癒しと知的が混じったような感じだが、オルコットみたいなフリルが多い。猫耳カチューシャとか似合いそうだ。

 

「な、何ッスか……」

 

 気がつけば俺はサファイアさんのことを凝視していたようで、警戒し始める。俺にはその気は一切ないのだが、誤解を招くような行動をしたのも事実だ。

 

「いえ、別に……」

 

 ………もしかして、男が苦手なのか? 最近じゃ、アニメの影響とかもあって小さめの女の子の需要もあるといえばあるが。

 

「……で、一体何の用ですか? まさかカツアゲ―――」

「今のでお前が持つ女のイメージが理解できたわ」

「簡単に説明しますと、私らは本国の方針でとりあえず桂木君に接触しておけって言われているッス。なので話にきたッスよ」

 

 ……話すことは何もないんですけど。

 

「そうですね。好きな女の子は先輩ッスか? 先輩のおっぱいはそれなりに大きいから何でもできるッスよ!」

「売るならテメェ自身を売れや!」

 

 ……わざわざ俺を呼ぶほどのことだったのだろうか?

 そう思っているとダリル・ケイシーさんが俺を見て話しを始めた。

 

「あー、悪いな練習中に。でもこっちも事情があってよぉ」

「………政治関連ですか?」

「…そうだな」

 

 どうやらケイシーさんはこの手の接触は嫌いなようだ。たぶん、サファイアさんも。そうじゃなければ最初から調べて悟られないように接してくるだろうし。

 

「それで、早速戦闘でも申し込みに来たんですか? だとしたら断ります。俺はまだISをまともに動かしたことがありませんから」

「流石にそれはないッスよー。桂木君のことはちゃんと調べてますし、少なくとも私は素人虐めみたいなことはしませんッス!」

「そこはオレの分も否定しておけよ!」

 

 どうやらこの二人は随分と愉快なペアなようだ。本当に文面通りの接触だけをしてきたようだし。

 

「じゃあ、お近づきの印に私が桂木君にISの練習に付き合うッス!」

「いえ。すみませんがそういうのは大丈夫です」

 

 少しはマシみたいだが、それでも「少し」だ。まだ気を許すほどではない。

 

「え? 確か代表候補生と戦うって話だった気がするが?」

「………確かにそうですけど。だからと言って必ずしも練習をしなければならないなんてことはないでしょう?」

「そ、それはそうだが……」

 

 困った顔をするケイシーさん。どこか自信満々な雰囲気があるのでおそらく断られなれしていないのだろう。

 とはいえ彼女らが仕方なく付き合おうとしているのはわかる。どちらも無理をしている雰囲気があるからだ。

 昔からそうだ。訳あってこういう姿をしているが、周りからは異端として扱われることが多く、交流委員で留学生の相手をしていると大抵は嫌悪感を出される。まぁ、理由を言えば黒歴史すらも開かれるので、幸か不幸かまだ理由は公けになっていない。

 

「評価とか周りを気にしているのでしたらご心配なく。今更下がろうが俺は気にしませんので。では」

 

 そう言って俺は銃と装備一式を返してそこから出ようとすると、

 

「ちょっと待つッスよ!」

 

 左肩をつかまれ、俺はまるでスタンガンで電撃を浴びせられた感じがした。

 

「ISってのは少しでも慣れておかないと危険なんですよ! だからちょっとでも慣れるように練習する必要があるッス」

「………だから不必要だって言ってんだろうが」

「…え?」

 

 思わず素が出てしまい、慌てて取り繕う。

 

「すみません。ですが正直に言って俺はISなんてものは嫌いです。確かにカッコいい部分はありますが、それでも俺はあまりああいうのは好かないですし、なによりも今回の試合なんて俺にとって何のプラスもない無駄な試合なんです。そんな試合に出るなんて時間の無駄ですよ」

 

 もう十分だろうと思ってそこから出ようとすると、後ろから声をかけられる。

 

「お待ちなさい、桂木さん」

 

 そして俺も何故か足を止めてしまった。

 いや、そこは普通に無視しても問題ないだろうが。何で足を止めてしまったんだよ。

 自分でしたことを突っ込んでいると、どうやら同じ場所にいたらしいオルコットが言葉を続けた。

 

「先程の話を聞かせてもらいました。意味の無い戦いとはどういうことですの?」

 

 振り返ると、そこには少しの怒気を含んでいるオルコットの姿があった。隣には知らない人がいるが、今は関係ないだろう。

 

「簡単なことですよ。自分に見合わない人間と戦ってまともな経験は得られない。ましてはこっちは超がいくつ付いてもおかしくはない素人で、やられるのは目に見えている。そんな一方的な試合に価値がある方がおかしいでしょう?」

 

 だからと言って練習しない言い訳にはならないのも確かだが、俺だって一日や二日、ましてや一週間練習したぐらいで勝てるなんて思っていない。それに今は勉強だけで精一杯だ。

 そもそも俺は知識を理解しなければまともに動けない人間だから、いきなり実戦なんて無理な話である。

 内心ため息を吐きながら、俺は射撃場から出て行った。


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