IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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#54 動き出す者たちと始まりの過去

 悠夜の所在地が判明したと知った後、簪の行動は早かった。

 すぐに飛び出そうとするがそれを千冬が止め、正式に命令として受理していなければ今頃彼女は罰を食らっていただろう。

「……悠夜さん…どこにいるの………」

 

 そして現在、彼女は悠夜が福音に落とされていた場所へいた。

 

「……山田先生、この場所で合ってますか?」

『はい。先程彼の黒鋼の反応がこの近くでありました。なのでその周辺にいるはずなんですが……』

 

 しかしどこにも見当たらない。

 すると別のところから武風の通信回路が開かれ、そこから聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

『更識君、その近くに布仏君がいるか探せませんか?』

「……何かあったんですか?」

『どうやら桂木君を見つけたらしく、特攻をかけたみたいです。もし探せるなら探してあげてくださ―――』

 

 途端にハイパーセンサーから警告が出て、簪はすぐにそこから下がる。

 すると前を見覚えのあるビームが飛ぶ。もう少しで当たるところだった。

 

『更識さん、大変です! 今旅館に―――』

「ごめんなさい。どうやら罠のようです」

『ど、どういうことですか―――』

 

 簪は真耶との通信を強引に切り、先程アップデートが完了して《柳》から《柳翁(りゅうおう)》へと進化した変刀を展開する。

 簪の視線の先には見覚えのある機体が存在していたが、簪は驚きを隠せなかった。

 

「……久しぶりですね、先輩」

「…ええ。ところで、どうしてそれをあなたが乗っているの?」

「それは企業秘密ってことですよ。いくら先輩でも明かせません」

「……じゃあいい。あなたからそれを奪うだけだから」

 

 そう言って簪は《柳翁》を振り回しやすい太刀へと変形させる。

 そして簪を先輩と呼んだ少女―――桂木幸那は《バイル・ゲヴェール》の引き金を引き、鉛弾を発射する。

 

 それを両断した簪は荷電粒子砲《春雷》を撃った。

 

「流石は先輩。私に専用機持ち選出戦で勝った実力は嘘じゃなかったんですね」

「そうじゃなければ、今ここにはいない」

「それもそうですね」

 

 にっこりと笑う幸那。そして彼女は簪に質問した。

 

「ところで先輩、私の義兄がお好きなようですがもうやったんですか?」

「…………」

「その様子だとまだみたいですね。まぁ、あんなクソみたいな男の相手をするなんてバカがすることですけど」

「本気でそう思っているなら―――あなたに死ぬことをおススメする」

 

 途端に武風からミサイルが全弾発射される。

 だが幸那はそれを嘲笑うかのようにディザスターを起動させ、二門ビーム砲でなぎ払い、消滅させた。

 

「すみません先輩。あなたの勝ちはもうありません」

 

 そう言って幸那はロングバスター砲で簪に攻撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、旅館前の海上に福音が出現したため、その場にいる専用機持ちたちは出撃していた。当然だがその中に箒も含まれて戦っている。

 

「はああああああッ!!」

 

 だが圧倒的な差があることは間違いなかった。現に箒以外の専用機持ち以外は既に動けない状態にあり、セシリアや鈴音は箒を援護しようにももう周りのことを見ていないので援護のしようもない。一度鈴音が援護したが怒られた。

 

「いける、いけるぞ!」

 

 歓喜に等しいその叫びを箒は出し、福音に攻撃し続ける。だが福音は得意の瞬間移動に似た能力で後ろに回った。福音がランスで箒を攻撃しようとすると、それを守るように一筋の光が箒を守った。

 

「誰だ!?」

 

 福音はそこから離脱する。先程撃った人間が攻撃をした。

 

「逃すと思うのか?」

 

 瞬間、福音はランスを上にかざして受け止める。

 だが攻撃した人間―――千冬はビームを起動させてランスを切った。

 

『!?』

 

 福音はそこからすぐに離脱。だがそこにはロンディーネを無理矢理換装しているラファール・リヴァイヴを使用している真耶が既にスタンバイしており、スタングレネードを放り投げた。

 不意打ちに近いその攻撃を福音は回転して銀の翼でそれを弾く。素早く真耶はショットガンを展開して引き金を引く。

 

「す、すごい……」

「これがお二人のコンビネーション……」

 

 付け入る隙がない。そう言わんばかりの鮮やかさだった。

 見とれている専用機持ちを教員の榊原(さかきばら)菜月(なつき)が回収に来た。

 

「みんな、すぐに旅館に戻るわよ」

「大丈夫です。私はまだ戦えます」

 

 箒は即答して突撃するタイミングを図る。

 菜月は下手に構わないようにしたが、一つだけ忠告する。

 

「そうね。だけど一つだけ―――あの二人の邪魔はしないほうがいいわよ」

 

 そう言い残して菜月は他の専用機持ちを回収に向かった。

 

「まだか……まだなのか………」

 

 そう呟く箒だが、彼女はそのことに気付いていない。

 

(せっかく汚名返上できるチャンスが来たというのに、私は何をしている………!!)

 

 先程は周りを見ていなかったから負け、本当は専用機を使うつもりはなかったが、たまたま外に出た時に簪とすれ違い、考えを改めてしまった。

 彼女は挨拶をすることもせず、本人はただ箒を観察していただけなのだが、箒自身は見下されたと思い、偶然このことを聞きつけて出てきた。次々と倒れていく自分以外の専用機持ちとは違い、自分だけは未だに生き残っている。

 

(………負けられないんだ。あんな奴と一緒にいる女なんかには!)

 

 そう思う箒だが、簪にその気がないことを彼女はまだ気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガチャッ

 

 ドアを開け、俺は無言で部屋に入る。

 後ろには荷物を纏めるのを待つつもりなのか、黒服にサングラスという「逃○中」に出てくる奴らとそっくりな格好をした男たちがスタンバイしている。「気持ち悪いから帰ってくれ」と言っても聞く耳を持たない。

 

(………まぁ、わからなくもないがな)

 

 義理の母は女権団の総帥だったはずだ。だから俺は入学が政府だけではなく学校が認めるように予めIS学園に願書を提出してから帰ってきた。日頃から印鑑を持っていたことが役に立つとは思わなかったが。

 俺は靴とダンボールを持って上に上がると、

 

「おかえりなさい」

 

 待ってましたと言わんばかりに俺の部屋の前にスタンバイしている義母。

 

「ただいま。で、何で俺の部屋に仁王立ちをしているんだ」

「あなた、ISを動かしたんですってね」

「………情報が早いな。さすがは総帥ってところか?」

 

 そう言いながら俺は自分の部屋に入ろうとドアに手を伸ばすと、その手をつかまれた。

 

「何をするんですかね?」

「IS学園に入学するのは止めなさい」

 

 そんなことを言う為に仁王立ちしていたんですか、あなたは。

 

「で、今行っている藍越学園に通えって?」

「違うわ。あなたが行くのは研究施設よ」

 

 ……やっぱりな。

 これを言われて自分がやったことが間違っていないことを確信する。

 掴まれている手を回し、捻って握力を弱らせて解除した。

 

「どうせアンタが言いたいのは「男が神聖なIS学園に行くなんて」とか「世界に貢献する為に犠牲になれ」だろ。下らないな」

「何ですって―――」

「ああ、下らないよ。あんな不完全な兵器に心酔するお前らも、そしてそれを採用したこの世界もな!」

 

 俺がIS学園に行くのは生きるためだ。確かに俺には信頼できる友達なんていないし、生きた先もニートかフリーターになっているかぐらいだろう。

 でも、IS学園に行ったら少し変わる筈だ。機械の知識も身に付くし、そうすればISじゃない新たなパワードスーツとか、下手すれば20m前後の人型ロボットとかの開発もできる。

 

(そう。俺はISを知識で革命を起こしてやるんだ!!)

 

 部屋の中に入ってドアを閉め、鍵をかけて決意を新たにしてから、持っていたダンボールを投げ捨て、着替えとか必要な物を粗方出す。

 

(……さて)

 

 思いのほかプラモデルとかが多いな。それにロボットアニメの資料集とかも。

 

(この際だから、プラモデルとかは全部処分するか)

 

 また欲しいものは買えばいい。………あ、もちろん優勝したあのプラモだけはもちろん持っていく。中二病とロマンを合体させた一騎当千のあの機体だけは。何故ならアレは俺の最終目標だ。持って行かないわけがない。次元すらも超えられる究極のロボット「装甲堕天使(そうこうだてんし)ルシフェリオン」だけは!!

 

(……我ながら、とんでもない中二センスだ)

 

 他にもグングニルとゲイボルグとか作ったなぁ。あれってどこにやったっけ?

 

(いや、それは後でいいか)

 

 パソコンを起動させ、外付けのハードディスクにパソコンに入っているファイルをコピーする。着替えや漫画、小説とかもすべてダンボールに入れる。実質引越しとなんら変わりないだろう。

 

(そう言えば、学校に置いていたものはすべて回収したからな)

 

 使ってないノートとか、スーツケースとかに入らなかった服とかも入れよう。あ、パソコンも一応準備しておくか。

 そこまで考えていると、突然ドアがノックされる。

 

(………もう時間か…軽く一時間ぐらいかかっていたんだな)

 

 とはいえまだまだ時間がかかるのも確かだ。発信機を仕掛けられるのならばともかく、盗聴機までも仕掛けられたくないのでもう少し待ってもらうとしよう。

 

「すみません。まだかかるのでお待ちを―――」

 

 だが、帰ってきたのは返事ではなく破片だった。木のドアからいきなり破片が飛び、刃物が姿を現せる。

 

「……は?」

 

 訳がわからなかったが、嫌な予感がして俺は財布とスマホ、充電器を入れる。

 そして一応と思って一緒に持ってきていた靴を反射的に履いた。

 

 ―――ドガッ!!

 

 さっきので鍵が壊れていたのか、蹴り開けられるドア。

 

「まさかと思うけど、逃げられるとは思ってないわよね」

 

 手には鉈を持っている。

 俺は反射的に後ろの窓を開け放つ。後ろから殺気を纏った義母が鉈を振り下ろすが、鉄棒のように窓のふちを掴んで体を先に出し、そのまま塀へと飛び移る。

 

「助け―――」

 

 黒服たちの姿を見つけた俺は助けを求めようとしたが、それよりも早く奴らは銃を俺に向けた。

 地面に着地すると同時に前に見えていた塀に飛び乗る。すると俺の家を囲う塀が壊れ、俺の四輪バイク「アルティ」が姿を現した。

 ここ数年で、日本の法律は色々と変わった。

 バイト可能年齢に選挙権の年齢、免許書取得の年齢も引き下げられ、14歳からバイク、17歳から車の免許が取れる。

 ライドアに乗り移り、黒服たちが乗ってきた車を飛び越えてそのまま逃亡を始めた。




急ですみませんが、ここまで読んで下さった方に忠告があります。
今までIS~歪んだ思考を持つ男~を読んでいただきありがとうございました。
さて次回からは完全に悠夜のターンとなり、慈悲なんて言葉は見当たらなくなるでしょう。もっともそれは一定期間ですが、チート要素が多分に含まれることになるでしょう。

なのでそういうのが嫌いだという方でお気に入り登録されている方はすぐに解除し、この作品のことは忘れてください。

「そんなことより早く続きを読みたい」という方は次回をお待ちください。

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