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「海上 暴走 IS」という単語で真っ先に出てくるのはそのニュースだった。
気持ちを落ち着かせるためにシャワーを浴び、上半身裸で髪の毛を拭きながらそのニュースを読んでいた。
白夜事件は白騎士ともう一機の謎の機体によって日本が守られたというものであり、二機のおかげで今の日本が守られているという番組が毎年流れる。とはいえもう一機はどんな存在なのか詳細は全くの不明で、主に白騎士が褒め称えられているのははっきり言ってそこまで面白いとは思えない。
ちなみに白夜の名前の由来は、もう一機が謎の黒いオーラの中心に白騎士がおり、それが白夜現象に見えたかららしい。
ISスーツを着て上からジャージを着ると、外から俺の名前が呼ばれた。
『…悠夜さん』
「簪? 何か連絡か?」
『……違う。話をしにきた』
どちらにしろ開けるつもりだったので襖を開けると、同じくISスーツを着ている簪だが、俺とは違って可愛い。
「……唐突に聞くけど……お姉ちゃんのことは、好き?」
「本当に唐突だな」
あまりのことで思わず狼狽してしまった。
「まぁ、好きか嫌いかで言えば好きだな」
正直、楯無は嫌いではない。むしろ親友やマブダチとか、そういう意味合いが強いがそっち関係で言えば好きの部類では間違いなく好きだ。
「……じゃあ、異性と、しては………?」
されるとは思ったが、まさか本当にされるとは思わなかった。
正直のところ、そういう風には考えたことは………何度もあった。けどそのたびに別の事を考えて思考を回避した。
「さぁ。正直そこまで考えたことはないし、これからも考えることはないだろ」
そう答えると何故か簪は残念そうな顔をする。
「じゃあ、任務から戻ってきたら考えて」
「……………マジで?」
こくりっ、と頷く簪。ちょっと落ち着いて欲しい。いや、マジで。
「いや、流石にそれはちょっと―――」
そもそも俺はヘタレということもあるが、巻き込みたくないからあえてそうしているのであって、そんな恋愛感情なんてこれからも縁がない―――と思っていた。この時は。
―――ちゅっ
急に正面にいた簪が俺を引き寄せ、右頬にキスする。そしてすぐに立ち去ろうとしたところで、
「私はあなたが好き。……でも、あなたには私もそうだけど、お姉ちゃんも好きになって欲しいから」
そんな言葉を残して簪は部屋を出て行った。
何が言いたいのかわからかったが、とりあえず俺はこのことは忘れることにした。
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現在は11時。俺、簪、織斑、篠ノ之、オルコットは砂浜に設置された簡易カタパルト発射台の近くで待機している。
「来い、白式」
「行くぞ、紅椿」
織斑と篠ノ之はそれぞれISを展開する。
オルコットと簪、そして俺は既に展開を終えていて、オルコットと簪は先に脚部装甲をカタパルトに接続していた。
「セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ。行きますわ!」
「更識簪、武風。行きます!」
先にそれぞれが発射する。俺もすぐに脚部を接続していると、篠ノ之は織斑を載せようとした。
「じゃあ、箒。よろしく頼む」
「本来ならば女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」
そんな会話をしているのを他所に、俺は勝手に出撃する。
「桂木悠夜、黒鋼。出る!」
カタパルトは斜めになっていて、上部へと射出しやすくなっているなっている。
俺はすぐに黒鋼を変形させ、簪とオルコットがその上に乗った。
「……よろしく」
「よろしくお願いしますわ、桂木さん。先程の指揮は見事でしたわよ」
結構普通にしていたつもりだったのだが、どうやらオルコットの評価を改めさせたようだ。
二人は既に装備しておいた機動型パッケージ『ロンディーネ』のウイングを掴む。
「作戦はさっき言った通りだ。まずは俺と簪、そしてオルコットでかく乱。織斑たちが奇襲しやすいようにする。簪、最初から全力で構わない」
「……了解」
一気に加速して福音を索敵する。すると織斑先生から通信が開いた。どうやら
『三人とも。任務遂行中に済まない。どうやら篠ノ之は浮かれいているみたいだ。そんな状態で何かを仕損じるかもしれないからいざと言う時はフォローをしてやってくれ。織斑だけでは心許ないからな』
『わかりましたわ』
『……了解』
『まったく。面倒なことだな』
『そう言うな。私だって本音を言えば篠ノ之は投入したくなかった』
『知ってるよ。では通信終了する』「オルコット、その場で降下、俺たちが交戦するまで撃つな」
「了解しましたわ」
黒鋼からオルコットが降下する。同時に俺は現在先端に付いているビームライフル《フレアマッハ》の照準器をロックオンしない状態で展開する。
「変刀《柳》……展開」
簪が刀の握りを展開すると同時にそう呟き、鍔の部分から刃が展開される。
「ターゲットロック、瞬時加速を行う」
「了解」
左手でウイングを握り、右手で持った刀をいつでも振れるように左肩の方に持っていく。
そして距離を徐々に縮めていった俺たちは交戦を開始し、簪は《柳》を振り下ろすが、福音はそれを避けた。
「なにっ!?」
「問題ない」
刀の形状が変わったかと思ったかと思ったら、《柳》はブーメランのように飛んだ。
俺も通常形態へと変形し、《フレアマッハ》で迎撃する。
「行け!」
アンロック・ユニットから切り離されたアサルトビット《燕》が分離し、それぞれマシンガンの如くビームを射出して攻撃する。
だが福音はそれをたくみに避けた。
「やるなぁ」
「感心している場合じゃ、ない」
《燕》が戻ってくると同時に《柳》も戻ってきたのか、手にはそれが握られていた。
「出し惜しみは無意味」
「だな」『オルコット。攻撃するなよ。一気に畳み掛ける』
『わ、わかりましたが一体どうやって―――』
どうやってって、そんなの―――合体攻撃以外に何がある。
「先行する。後から付いて来い」
「了解」
《燕》を飛ばすと同時にアビエイションモードに変更。
「ラウラ、シュヴェルトを射出しろ」
『了解しました』
射出して到達するまで少しかかる。その間に回転しながら撃ちまくる。
福音はそれを回避し、槍を展開して振り回した。
「迎撃モードへ移行。《
オープン・チャネルから聞こえるそんな声。ようやく福音が戦闘モードへと移行したようだ。
銀色のジャッジメント・ランスとやらを振り回し、出力を絞っているエネルギー弾を相殺していく。
すると福音の後ろからミサイルの嵐が降り注ぐ。武風の《山嵐》だろう。
「あなたの敵は、彼だけじゃ―――ない!」
そう言って右腕から何かが飛ぶ―――ところどころ金色が混じっているそれを福音は両断しようとしたが、急に動きが止まって金属部分で受け止めた。
途端に足が止まるのを待っていたのか、簪は容赦なく撃つ。福音はダメージを受けつつもそこから離脱する。
「うぉおおおおお!!」
通常形態に戻ってゲヴェールを展開して牽制しようとすると、その間に織斑が割ってはいる。
だが見事にかわされて通り過ぎると同時に接近した俺は容赦なく撃った。
『オルコット、攻撃を』
『わかりましたわ!』
織斑たちがきたらコンビネーションで決めている場合じゃない。オルコットがいる方からレーザーが飛んだが福音はまるでわかっていたかのように回避。だが、銃身をぶつけてバランスを崩させ、さらに攻撃させる。
簪の荷電粒子砲が福音を捉えたかと思ったら、福音はその場でぐるりと回ると同時に光の弾丸を撃ち出した。
織斑を回収すると同時にそこから離脱。福音は攻撃を終わらせると同時にそこから逃げ、追撃しようとしたところで割って入ったのは篠ノ之だった。
「一夏! 私が動きを止める!!」
「わかった!」
織斑がそう言って後を追う。簪も追うが俺はその前にロンディーネを解除して後を追う。
「オルコット、状況は?」
『箒さんが福音を足止めしていますが、それでも―――ああ、またあの弾が!?』
「ちぃっ」
再び飛行形態へと移行させ、俺はみんなの後を追う。
その時、
「やるなっ………! だが、押し切る!!」
独断専行と言っても過言ではないほど肉薄する篠ノ之。回避能力は評価するが、そんなに近づいたら使えないだろうが。
通常形態に戻って複雑な軌道を取りつつ、ゲヴェールから篠ノ之に当たらないように砲門に攻撃する。オルコットと簪が援護射撃を行い、半分左翼が半分ぐらい壊れた。
「何をする貴様ら! 一歩間違えれば私に当たるところだぞ!!」
それを承知で攻撃しているんだが、そもそも展開装甲があるから問題ないだろうが!!
あえて言わず自分の射撃センスを信じて頭部を狙おうとすると、福音は光の弾丸を残っている砲門から発射する。
「―――!!」
篠ノ之は回避し、当たりそうになっているのを《燕》で阻止する。
「余計なことをするな! あれくらい避けられる!!」
篠ノ之からそんな声があがるが当然無視。そんなことを俺が知るわけがないだろう。そもそも援護したのに「余計なことをするな」って言われたのは初めてだ。
「はぁあああ!!」
いつの間にか長さを大きくした簪が真上から切り下ろす。それで左翼は完全に落ちた。
すぐに飛行形態へと変形して簪を回収する。後ろからディザスターを運んでいる小型飛行機も来ているのでそろそろ換装しようとしたところで織斑が前を零落白夜を使った状態で横切った。
「うおおおおっ!!」
―――え!?
織斑が急に下へと飛ぶ。そこには何故か船があり、織斑はそれを守りに行ったようだ。
「簪! 福音を斬れ!」
さっきの斬撃で福音は完全に動きを止めており、すでに篠ノ之が動きを止めていた。だがその篠ノ之も織斑が逆方向に行っているのに驚いており、槍の柄で胸を攻撃され、引きはがされた。
その隙に簪が斬りにかかるがそれを防御されてしまうが、山嵐で攻撃して距離を離して攻撃を食らわせる。
「何をしている!? せっかくのチャンスに―――」
「船がいるんだ! 海上は先生たちが封鎖したはずなのに―――ああくそっ、密漁船か!」
双銃《アサルト》を展開して先行する簪を援護する。
「馬鹿者! 犯罪者などを庇って………。そんな奴らは―――!」
「箒!! 箒、そんな―――そんな寂しいことは言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱い奴のことが見えなくなるなんて……どうしたんだよ、箒。らしくない。全然らしくないぜ」
「わ、私、は………」
両腕部に付属されているブレードを抜いて死角から攻撃。槍に防がれるが後ろから簪が攻撃した
途端に槍の先端が割れ、そこからビームが出てくる。黒マントを展開して防ぐが、どうやら推定していたビーム出力よりも上だったようであっさりと斬られてしまった。
すると福音はそのまま体を回転させ、右翼から光の弾丸が飛び出した。
近くにいた俺はもちろんのこと、簪もダメージを受ける。
「―――ぐあああああっ!!」
下から織斑の声が聞こえ、様子がおかしかったので下を見る。いつの間にか織斑は篠ノ之に抱きついていたようだが、奴の性格を考えると発情したか守ったかのどちらだろう。
「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!」
悲痛な叫びとはこのことだろう。篠ノ之は泣きながら織斑の名前を呼ぶが返事はなく、二人はそのまま海へ落下して行った。
「オルコット! 今すぐ二人を回収しろ!」
オープン・チャネルで呼びかけるが、聞こえてきたのはノイズだけでほかは何もない。どうやら作戦室も同じような状況のようだ。
「………簪、今すぐその場から離れてオルコットを回収しろ」
「それは難しい。まだあれは攻撃してくる」
「俺が残る」
簪は満身創痍。織斑と篠ノ之はおそらく負傷かエネルギー切れ。だが俺の場合は色々とギミックがあるから問題ない。ここで残るのは俺が良いだろう。
「……でも」
「確かに俺が残るより簪のほうがISの実力は高いけど、生憎俺は簪と違って慢心創痍じゃないから、まだ戦える」
そう言って俺は彼女の頬にキスをした。さっきのお返しだ。
「………絶対、戻ってきて」
「了解」
簪はそう言って降下し、織斑と篠ノ之を回収する。
それを福音が阻止しようとしたところで、福音の目の前で爆発が起こった。
「どこへ行くつもりだ、IS」
全く持ってけしからんというよりむかつくって感じだな。今の状況を言葉で表すと。
「ウォーミングアップも済んだことだし、始めるか」
ディザスターが背部でドッキングしたことを確認した俺はロングバスター砲で福音を攻撃した。
ちょっとてんやわんやしすぎですかね?
さて、どうしてノイズなんかがあったのかなどは少しお待ちを