IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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本日二度目の投稿です。
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#5 出ると出されるでは意味が違う

(ダンゾンで木刀とエアガン、警棒も一応注文しておくか)

 

 IS学園の寮は各学年と教員用の寮が90度おきに建設されていて、その真ん中には購買部が設営されている。そこは朝の7時から夜の10時まで経営しており、基本的には学生が欲しい便利アイテムとか、夜食に便利なおにぎりが用意されているが、通販のストア受け取りにも対応しているのでそこで指定して受け取るつもりだ。

 それに加えて「IS戦術論」と「IS戦闘技能全集」も注文するのを忘れないようにしないといけない。

 とスマホで注文していると視線を感じたので上げる。そこには昨日俺に話しかけてきた女が立っていた。

 

「ああ、昨日の……キツネ」

「ものすごくざっくりだねぇ」

 

 キツネのヘアピンが印象的だったからそれを覚えていただけだったりする。

 

「それでキツネさん。一体何の用ですか?」

「え、えーっと……もしかして名前……」

「知るわけないでしょう?」

 

 確か記憶が正しければ織斑を飛ばして俺だったし、その俺で終わっただけでなく聞いていないのだからどこの誰が自己紹介をしていたとか既に忘れている。

 

「そ、そっかそっか。私は布仏(のほとけ)本音(ほんね)だよー。よろしくねぇ、かっつん」

「……よろしくする気ないんですけど」

「えぇー!?」

 

 大声を出す布仏。それで一瞬注目を集めたが、すぐに彼女らは織斑に構いなおした。

 

「何で何でぇ~?」

「メリットがないからですよ。ただでさえあなたと一緒にいるだけで迷惑です。さっきから目障りなので消えてくれませんか」

「でもぉ」

「でももくそもないでしょう」

 

 俺にとって女は敵だ。

 自分たちが優位だと誤認し、だれかれ構わず権力を行使する。俺自身、過去に痴漢だと間違われて周囲に犯罪者扱いされたことがあるし、つい最近完全に冤罪で警察に追われたことがある。それで女を信じろなんてものは無理な話だろう。

 だから俺は全員拒絶する。巻き込んだ織斑弟も、無理矢理参加させた織斑姉も、教員だってどうせ女尊男卑の思考を持っている奴が大半だろうし。……精々山田先生が少しはマシ程度だろうけど、織斑姉に気がある時点で色々と怪しい。

 

「ねぇねぇ」

 

 視線を下に向けていると、布仏本音が俺に再び話しかけてきた。

 

「……何だ?」

「とりあえず涙を拭いたらどうかなぁ~」

 

 と言われるまで一切気がつかなかった。マジか。

 慌ててその涙をぬぐっていると、前の方で出席簿が何かを弾く音が聞こえた。

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 

 と職権乱用の鬼教師が現れた。

 

「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」

「へ?」

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

 

 勝手に説明する織斑先生だが、その弟は何のことだか全くわかっていなかった。

 

「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」

 

 俺もできるなら専用機欲しいなぁ。できれば可変式のセ○バーとかカオ○とか、いっそのことゼ○でも全然OK、いや、むしろ○ロをくれ。カスタムかどうかは任せるから。

 

「織斑、教科書6ページを音読しろ」

「え、えーと……『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作製したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、いまだに博士以外はコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・器官では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』」

「そこまででいい。…つまりそういうことだ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間にしか与えられない。が、織斑の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」

「な、なんとなく……」

 

 というか織斑、それって最初の部分だろ。アイツ昨日は絶対に何もしてないだろ。

 

「せんせーい。かっつ……桂木君も専用機はもらえるんですか~?」

「いや、桂木の場合は後から出てきたこともありその話は上がってない。まぁ、少なくとも来週までには間に合わないだろう」

 

 間に合わせる気がない、というのが正しいのだろう。そもそも、クラス代表を決めるだけなのに決闘騒ぎに発展するのは異常だ。

 ちなみに織斑先生の発言の後に「当たり前よね」とか「あんなのに専用機が渡るくらいなら私に渡すべきよ」とか聞こえたのは気のせいだと思いたい。

 

「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」

 

 いかにも「真面目」という感じを思わせる女子が挙手して織斑先生に質問する。本来ならああいうのがクラス代表を務めるべきだと思う。

 

「そうだ。篠ノ之はアイツの妹だ」

 

 そして担任はあっさりと個人情報を暴露するなよ。

 

「ええええーっ! す、すごい! このクラス有名人の身内が二人もいる!」

「ねぇねぇっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」

「篠ノ之さんも天才だったりする!? 今度ISの操縦を教えてよっ」

 

 姉が天才だったら妹も天才かもしれないという期待は絶対に間違いだろ。そして担任もそこを否定しておけよ、「プレッシャーをかけるのは良くないよ」的なものを。

 というかお前ら、興奮するのは今は授業中だぞ。さっき質問した奴と布仏を見習えよ。前者なんて反省しているし。

 

「あの人は関係ない!」

 

 唐突に大声が出たから、周りにいた奴らは固まる。

 

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

 

 俺も義理の妹がいるんだが、こっちが一応は友人という部類に入る奴と遊びに行こうとしているのに法律をチラつかせて買い物に付き合わせるのをやめてもらいたい。自分が休み=周りも休みという考え方は即刻なくしてもらいたい。……これは関係ないな。

 ちなみに大声を出した篠ノ之は窓の外に顔を向けた。女子たちは一部の奴らが不満たらたらで戻っていくが、実際のところは自業自得なので俺は篠ノ之を擁護するだろう。

 

「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」

「は、はいっ!」

 

 騒ぎを起こした当の本人は冷静にそう言うが、この人に対しての俺の評価はもう地面どころか地下へと行っている。いくら世界大会の覇者だろうが、どうせわかるから今の内にという考えがあったとしても許可を得るかぐらいするべきだとは思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

 昼休みになって授業終了の号令が終わるや否や、オルコットは織斑のところに向かっていた。……オルコットって単に構って欲しいだけだよな。

 

「まあ? 一応勝負は見えていますけど、流石にフェアではありませんわね」

「? 何で?」

「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますのよ!」

「へー」

 

 二人が下らないやり取りをしている間、俺は準備を済ませて食堂に向かおうとする。

 

「まあ安心しなさいな、桂木さん。あなたには特別にハンデを差し上げてもよろしくてよ」

「じゃあ俺がアンタの機体でするから、アンタは訓練機でよろしく」

「なっ!?」

 

 適当に返して俺はそのまま食堂に向かう。正直、ハンデ云々とかどうでもいいし、ハンデ関連で言えば一瞬で相手を倒す方法は思いつく俺に対してバランスを整えるどころか圧倒的に不利になるだけである。

 何か言っていたが気にせずそのままスルー。

 

「ねぇねぇかっつん」

「何だ…というかよく俺に話しかけられるな。あんなことを言われたのに」

「でもあれはかっつんが警戒しているからでしょ~」

 

 …どうやら見抜いていたらしい。

 

「私がかっつんのペットになりにきたって」

「もっと別の言い方はなかったのか?」

 

 思春期女子たちがあらぬ噂を立て始めるのを気にせず、俺はそのまま進む。

 

「まぁ、私も否定するけどね~」

「実際のところ、それをしても違和感がなさそうだけどな」

「……したいの?」

「今の男ってそうしたい割合が増えているらしいけど、俺は違うって否定するわ。同類って思われたくないし」

 

 少なくとも俺は無害だ。むしろやることでメリットよりデメリットが多く存在するのだからする価値もないし。……もっともそれは現実的なことを考えた時のことである。

 実際、彼女としても(犯罪という意味も含めて)大丈夫ならば今この瞬間に襲っている。

 

「だからさっさとその上目遣いは止めろ」

「テヘぺろ~」

「こんなに気が抜ける「テヘペロ」は始めて見るな」

 

 そんなことを話していると、あっという間に食堂に着いた。

 俺はそこでカルボナーラを頼み、布仏は天ぷら付き海苔茶漬けを頼む。

 それぞれ頼んだものを持って席に着き、無言で食べ始めた。

 

(考えてみれば、女と一緒に食べるのは随分と久しぶりだな)

 

 基本的に朝食は用意されないことはもちろん、夕飯は俺も父さんの分すら用意されていないなんて当たり前だったから、俺も父さんも外で食うことが当たり前だった。俺に至ってはバイトの賄いで腹を満たせばいいが、父さんの場合はどうしていたのかわからない。仲が良かった男の人と外へ食べに行っているだろう。たぶん、今も。

 

(俺と違って父さんは人と仲が良くなるのが上手いからなぁ)

 

 「取り入った後は使い捨てる。それが使えないのならなおさら」と平気で言うから怖いが、個人的には本当に良い父親だと思う。俺なんて妹に「部屋が汚くなったから片付けろ」と言われたから片付けたのに、出しっぱなしにしていた下着も片付けたら、そのことを聞かれた母親に警察に突き出された。運が良かったのは担当者が男で話をよく聞いてくれたことだろう。後、ボイスレコーダーもだが。

 

(そう考えると、今は比較的に幸せなんだよなぁ)

 

 余計な発言はともかく、(見た目が好みという点も含めて)少しはまともな考えを持っている奴と一緒に食事をしているんだ。

 その幸せをかみ締めながらパスタを噛んでいると、誰かがこっちに近づいてきた。

 

「ちょっといいかしら?」

 

 どうやら食器類を持っていない。もう既に食事を済ませたと思われるその女生徒は誰かに話しかけていた。自意識過剰でもあるが、名前を呼ばれていないのでどっちに話しかけているかはわからなかったから振り向いた。

 ……よくよく考えてみれば、布仏の勧誘に来た可能性もある。

 

「あなたに言っているのよ、桂木君」

「…はぁ」

 

 そう言われて残念に思った。また警戒する人間が増えるのではないかと。

 しかもちょっと本気で真面目に見ちゃったからわかったけど、奴さんのおっぱいは立派なものだった。小さいのも好きだが、大きいのも大好きです。

 

(……どうしよう。この人に仕掛けられたら間違いなく乗ってしまう)

 

 そんな不安を抱いていると、布仏がその女生徒に話しかけた。

 

「あ、かいちょー」

「かいちょー?」

 

 「かいちょー」ってあの会長だろうか。あの平然とエロネタを遠慮なく生徒会長の片割れ。そういえば声も似ている気がしなくもない。

 

「君、何か変な誤解をしていない?」

「いえ、それはありません」

 

 そういえば昔は意味がわからなかったなぁって思い出すと、何故か急に読みたくなってきた。

 

「先に自己紹介しておくわ。私は更識楯無。本音ちゃんの愛称でわかったと思うけど、私はこの学園で生徒会長をしているわ」

「それはまた随分と俺とは合わないことをしていますね」

 

 基本的に委員長って肩書きを持つ人間って無駄にエリート意識が高いから嫌いだ。全員が女尊男卑の思考を持っているわけではなかったが、お祭りごとだと大抵は女が仕切る事が多い。真面目な奴は接しにくいから、ノリがいい奴とかはアレコレ押し付けることが多かったから面倒だった。

 

「それで、生徒会長が一生徒の一般生徒に何か用ですか?」

「「一般生徒」っていうのは少し違うんじゃないかしら? ……まぁいいわ。私が今日来たのは他でもないの。あなたが一組のクラス代表戦に出るって聞いたから会いにきたのよ」

「………で、本題に入ってくれませんか?」

「率直に言うけど、あなたはこのままじゃ無様に負けるわ。だから私が少しでもまともになるように鍛えてあげる」

 

 少々上から目線だが、この程度のは慣れている。だが問題は「鍛える」という部分だ。

 確かに鍛えてもらったほうが少しでもマシになるだろう。これから先、織斑と比較されることも多くなる。それにだ、鍛えてもらった方が何かといいだろう。

 だが俺は彼女のその上からの善意がいまひとつ信じられなかった。

 

「お断りします。そんなに鍛えたいのならば織斑の相手でもしてください」

 

 そう言ってもう残っていない皿をお盆に載せてそのまま立ち去ろうとすると、生徒会長が俺に言った。

 

「このままならばあなたは無様に負けるだけよ。それでも構わないのかしら?」

 

 ふと、俺はつい脚を止めてしまう。

 確かにそれは嫌だ。俺が負けた瞬間に相手はため息を吐いて失望する姿も目に見えた。

 

(……だから何だって言うんだ?)

 

 俺の評価は長い髪でダサいメガネをかけた薄暗い家に住んでいる汚い獣とか思っているんだろ? だったら別にいいじゃないか。

 所詮多少容姿を弄ったところで俺の評価が変わるなんてことがあるわけがない。

 

「別にいいですよ。ちょっと抗ったところで何か変わるわけではありませんし。……それと俺は出るんじゃないです。出されたんですよ」

 

 そう言って俺は食器を返却口に置いてそのまま食堂から立ち去るのだった。


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