※シャルロットの姓をデュカスからジアンに変更しました。
「に、兄様!」
「? どうした?」
ラウラの手を引いて引っ張っていると、ラウラが何故か俺を呼ぶ。
「あの方は、その、篠ノ之束です!」
「篠ノ之束?」
ラウラは何か知っているみたいだが、生憎俺はそこまで他人に興味を持つタイプではない。というかラウラとか本音とか簪とか楯無とか先輩とかをお持ち帰りして引きこもりたい。凰も持って帰りたいが、彼女は本人の意思を優先させよう。
「………」
「あの、兄様? もしかして知らないと言うわけでは……」
「いや、たぶん聞いたことはあるはずなんだが……」
どこで聞いたのかが思い出せなかった。確か四月の時に聞いたことがあったようななかったような、そしてその原因がクラスメイトだった気がする。
そこまで思い出した俺はあたりを見回すと、鷹月を見たことでようやく思い出した。
「ああ、あのISコアを唯一開発できるっていうあの……」
「兄様、後で勉強したほうがよろしいのでは?」
馬鹿にしているのではなく、純粋に心配をしてくれるラウラをつい抱きしめてしまい、周りから厳しい視線をもらう。
「おい束。このままでいいから自己紹介してとっとと失せろ」
「ねぇちーちゃん、今の言葉は矛盾しか見当たらないんだけど気のせいかな?」
「気のせいだろ」
二人の会話を他所に俺はラウラを連れて移動する。あの光景はラウラには毒だと思ったからだ。
「せいっ!」
「ちっ。逃げたか」
全く。いい年した大人たちがじゃれあっているのを見て何がおもしろいのだろうかと思うほど周りは注目した。いくらISコアを唯一開発できるといってもそれだけだ。俺は黒鋼だからISを使っているしまともに戦えていると思っている。そうじゃなければ「イヤイヤ」とわがまま言ってこの遠出にも付き合ってないだろう。
簪たちを探していると、さっきのうさ耳女は何故か山田先生を襲っていた。
「やめろバカ。大体、胸ならお前も十分にあるだろうが」
「てへへ、ちーちゃんのえっち」
「死ね」
何だろう。あの女の人を見ていると何故か織斑先生が可哀相になってきた。最近なんとか教員として頑張ろうとしているからだろうか。昨日のキャッチボールもその表れだろうし。
すると篠ノ之はその女性に近づいた。
「それで、頼んでおいたものは……?」
(……頼んでおいたもの?)
その単語が何故か引っかかる。するとその女性の目が光った。
「うっふっふっ。それは既に準備済みだよ。さぁ、大空をご覧あれ!」
おっと危ない。危うく釣られて上を見てしまうところだった。
すると急に地響きが起こり、辺りを揺らす。
(はた迷惑にもほどがある)
大体、上から落したら迷惑だし、大して面白みもないだろ。それならせめて海の中から巨大潜水艦がザバァーって感じで現れるようにしたほうがカッコいい。
「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃんの専用機こと『
今度は釣られてしまい、それを見てしまった。
銀色のひし形から紅色のISが現れる。それが動くアームによって外へと出された。
(しかし、全スペックが現行ISを上回る、か)
似たようなので優勝したことを思い出した。簪の武風もそうだが、俺の愛機もISでいう単一仕様能力が存在する。特に俺の場合は超特別製でまずISでは勝てないレベルだった。それを簪はどこから来るのかを先読みしていなすのだから、彼女の勝負センスは高すぎるだろう。
「さあ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん♪」
「………それでは、頼みます」
「堅いな~。姉妹なんだし、こうもっとキャッチーな呼び方で―――」
「早く、始めましょう」
あまり話したくないのか篠ノ之は急かす。以前の楯無と簪を彷彿とさせるが、相性が悪そうなので「怒らせて誘う」方法は止めておいた方が賢明だろう。
そう考えながらラウラの手を引きながら歩いていると、ようやく二人を見つけた。どうやら二人も紅椿とやらが気になるようだ。
(にしても、篠ノ之は姉の性格を少しは取り入れるべきだな)
紅椿ではなくそっちを観察する。さっきから姉の方が妹に話しかけているが妹は一向に固いまま。何が原因でそうさせたかはわからないが、頼んだものを持ってきてもらったならば礼の一つは言うべきだろう……というのを、気に入らないから殴るということを繰り返す奴に言っても無駄だよなあ。
そして今度はISの方を見る。所々空洞(?)があり、そこから何か出そうな気がした。
「……あれ、まさかと思うけど」
「ああ。たぶんそうだな」
簪も同じことを思ったらしい。本音とラウラはわからなかったようだが、それは仕方がないだろう。いや、たぶん気づいてはいるが、それが必殺技かどうかはわからない。
「あの専用機って、篠ノ之さんがもらえるの………? 身内ってだけで?」
「なんかずるいよね」
近くからそんな声が発せられる。周りが黙っていたからかその声はよく通った。
気持ちはわからなくもないが、正直それは篠ノ之の立場を考えれば完全に「ずるい」と断言できることではないからだ。
そもそも名前は忘れていたがいくら中途半端だからと言ってもISの能力は10年前の社会では脅威そのものであり、同時に未知の結晶でもあった。たまに会って父から話を聞いていたが、ISの登場によって世界の科学力は発達した。当然その未知の結晶を作れるその女性はもちろん、家族も巻き込まれていたに違いない。話によればその家族は引越しを繰り返していたようだ。そしてこれからも狙われるだろう。
(そう考えるとISは持っておくべき、なんだろうな)
まぁ、すぐに暴力を振るう奴に持たせてもいいのかどうか不安なんだが、俺もあまり人のことを言えなくなっている気がしなくもない。ただ願うなら、これからも織斑を攻撃するならば木刀でしてもらいたいものだ。いや、危険だけどさ。
「おやおやぁ? 歴史の勉強をしたことがないのかな? 有史以来、世界が平等だったことなんて一度もないんだけどなぁ~」
という言葉がきっかけとなって、生徒たちは話すのを止める。確かにそうだが、この人は天才と騒がれているのに他に反論することはなかったのだろうか? 少なくとも今の説明だと「それがどうした」で終わりそうな予感がする。大人ならばもう少しまともな反論しろと思うが、暴力を振るって黙らせるのが友人なんだから過度な期待をするほうが間違いだろうな。俺は普通なことをしてもらいたいんだけどなぁ。
「後は自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」
「いい加減しろ馬鹿が。お前がここに来たのは妹にISを持ってくるためだっただろうが」
だったあアイアンクローじゃなくてギロチンで挟めば良かったのに。というか容認していたのか。だったらアイアンクローする必要なかったんじゃないか?
「ええ~、いいじゃん。白式を開発したの私なんだし」
「機密事項をペラペラ話すな!」
「いたッ! いいもん、だったらあの男を回収するもん」
そう言って何故か俺にジャンプして落下してきたその女性は、一目散に崖の近くに避難した俺に対して接近してきた。別に周りを犠牲にして俺だけ助かろうと言う下種なことを考えたわけではない。
(やっぱりアレか? 俺みたいにISに関わった奴ってどこかおかしくなるのか?)
砂浜なのにクレーターができたり、崖を走ったりするその女性の異質さに驚いていると、俺とその女性の間に近接ブレードが通り過ぎた。
飛んできた先を見ると、織斑先生が冷え切った目でこっちを見ていた。正しくはその女性だが。
「…………どうやら貴様は私を怒らせたい様だな」
「いえいえ、滅相もございませーん」
相変わらず人間をやめている織斑先生。黒鋼を部分展開して近接ブレードを引っこ抜こうとする。奥深く刺さっているせいで中々抜けない。……気のせいかな。これ、織斑の雪片弐型に見えるんだけど。
どうやら気のせいじゃなかったらしく、俺が引っこ抜くと即座に消えた。
その間に白式も見終わったらしく、篠ノ之が乗る紅椿が飛んだ。
「どうどう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」
『え、ええ、まぁ……』
そこの姉妹、今の風圧で周りの生徒に多少被害が出ているんですけど~。
織斑先生も半ば諦め、呆れているようだ。正直かわいそうになってきているのだが、頑張ってもらいたいと思う。
「じゃあ次は武装ね。右のが『
篠ノ之は近くを漂っていた雲に向けて雨月で突きを放つ。するとそこだけでなく周囲を漂っていた雲にも穴を開けた。
「もう一つは『
するとその女の近くに16連装のミサイルポッドを展開するや否な、即座に打ち放った。
「箒!」
『―――やれる! 紅椿なら!』
俺は集団から飛び出して黒鋼を展開、《バイル・ゲヴェール》のビームを篠ノ之に向けて撃った。
それに気付いたのか、篠ノ之はそこから左にそれ、《燕》による追い込みで島から引き離した。
何かを言おうとしたがすぐにミサイルのが来たので、それを迎撃した。
「桂木、貴様いきなり何をする!」
『おいお前、何邪魔してくれちゃって―――』
姉妹から責められたが責められる謂れはないし、侵入の方は織斑先生に殴り飛ばされた。姉の方は近くの崖にぶち当たるが外傷はないようだ。
『桂木、ご苦労だったな。ついでに悪いが篠ノ之を連れて降りて来い』
「だとよ篠ノ之」
「…………」
俺のしたことが気に入らないようだが、織斑先生には逆らえないようで俺と一緒に砂浜に降下する。
「篠ノ之、今お前が何をしようとしたのか理解しているか?」
「ミサイルを迎撃しようとしました」
「そうか。その直前に妨害した桂木を責めたか。ならば篠ノ之、お前のISは没収する」
「「えぇっ?!」」
投げ飛ばされた女と織斑のオーバーリアクションだ。どうやら織斑もわかっていなかったらしい。
「な、何故ですか!?」
「今の攻撃であの距離だとミサイルの残骸が他の者を巻き込む可能性が大きかった。桂木は束とお前の意を汲んであえてかわせる場所を攻撃したんだ。やろうと思えば油断している篠ノ之諸共ミサイルを破壊することも可能だった、だろう?」
「いや、あの距離だと………まぁ、多少無茶をしたらいけなくはないかもですが」
そう返事するとある一部から尊敬の眼差しが飛んでくる。鷹月たちのところだった。
「でも残念。もうそれは箒ちゃんの専用機なのですよ、にぱぁ~」
「織斑先生。これを使います?」
そう言って俺は改造済みスタンガンを差し出す。「借りよう」と言って織斑先生はスタンガンを受け取ってスイッチを入れると、そこから刀状に展開したエレキブレードを見て誰にも当たらないところで軽く振るった。
「なるほど。もう少し重さが欲しいが中々だな。兎を一匹狩るにはちょうどいいが、これは没収しておく。桂木の立場とこれまでの出来事を考えれば仕方がないかもしれないが、一生徒が持つには危険すぎる代物だからな」
「あー、やっぱりそうですか? 実は父親に持たされたものなんですけど、どう見ても普通のものとは違う気がしてどう処分しようか迷っていたんですよ」
確かに声は似ているからイライラしていたが、さっきの語尾で完全にイッたので渡された時にものすごく印象があったものを没収させた。
「さて、お前たちは今すぐ作業に取り掛かれ。私は害虫―――いや、
「たっ、た、大変です! お、おお、織斑先生っ!」
いつにも増して慌てている。さっき襲われた後はいなかったが避難していたんだろう。
「どうした?」
「こ、こっ、これをっ!」
そう言って小型端末を差し出し、織斑先生がそれを受け取った。
「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし……」
「そ、それが、あの、ハワイ沖で試験稼動をしていた――」
「機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」
「す、すみませんっ……」
「専用機持ちは?」
「全員出席しています」
俺は簪たちのところへ戻る。本音も含め、三人とも真剣な眼差しで手話でやり取りし始めた二人を見ていた。
「そ、そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡し来ますのでっ」
「了解した。―――全員、注目!」
山田先生はどこかへ行き、織斑先生は大声で自分を注目させた。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機を命じる。以上だ!」
流石に事態が理解できないのか、周りは口々に意見を飛び交わせるがそれを織斑先生が黙らせた。
「とっとと戻れ! 以後、許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する! いいな!!」
「「「は、はいっ!!」」」
俺たちもすぐに測定器などの機器を片付け始める。荷物が少ないからかすぐに終わった。
「専用機持ちたちは全員集合しろ! 織斑、オルコット、桂木、ジアン、凰、更識。それとボーデヴィッヒ………篠ノ之も来い」
「はいっ!」
何故か一人気合が入った返事をする篠ノ之。何故かそれが不安要素だと思った。
少しばかり悠夜が活躍しすぎているかもしれないこの回。
ともかくあれだなぁ。理解はできるが天才ならちゃんと周りにわかるように説明しろと思ったり。