青い空。白い雲。綺麗な海にわらわらとビキニを着てそれぞれ何かをしている女たち。そして興奮してナンパする男たち……は残念ながら貸切なのでいないようです。
そして俺はテントを張ってそこで寝ていた。祖母が「いらないから」と俺に押し付けたものがこんなところで役に立つとは思わなかった。
(しかし何でこんなにセキュリティーが厳重なんだろう)
セキュリティモードと言うものがあったので触ってみたら、入り口がシャッターで閉まった。……なんだこのテント。わけがわからん。
ともかくここでボーっとして暇を潰そうと思っていると、誰かが入ってきた。
「あ、やっぱりゆうやんだ~」
「本音か」
織斑だったら目を潰しているところだったが、本音ならばいいや。というか本音、何で君は狐の着ぐるみを着ているんだい?
「じゃあ、大丈夫だよね?」
「何が?」
俺の質問には答えず、布仏は入って後ろに手をやる。そして服を脱いだ。OK、そういうことか。
「本音、いくら俺だからってこんなところで脱いじゃダメ……」
そこにはロマンがあった。
着ぐるみから顕になった大きな乳房。俺はそれに目を奪われてしまった。
(………仕方ないな)
条件反射というものだろう。俺はすぐに彼女を組み伏せ、押し倒してしまった。
そしてそのまま無理矢理唇を奪おうとしたところで正気に戻った。
「わ、悪い!」
「………」
あの、何でそんな残念そうな顔をしているんですかね、君は。
本音は俺のところに来て甘えるように抱きついてきた。
「ちょっ、やめろ本音。言っても説得力皆無だけど俺の理性が持たない!」
「だって~。らうらうばっかりずるいも~ん」
何のことだよ。
なんとか言わなかったが、本当に何のことだ。
「だから、たまには私も甘える権利を~」
「―――それは私にもある」
「二人にないだろ」
反射的に答えつつ、そちらの方に向く。
そこには天使がいた。
「……帰ろう」
そう言って俺は荷物を持って旅館に戻ろうとすると、二人が引き戻した。
「どこへ行くの?」
「ゆうやん。その反応は失礼だと思うなぁ」
「頼む二人とも。俺はまだ社会的にも精神的にも死にたくない!」
というか間違いなく俺が二人の姉に殺される可能性が高いんですが。それにさっきの布仏の時に思ったが、たぶん俺の精神が持たない。
(どれだけ可愛いんだよ、こいつら)
こうなったらラウラを凰にすべて任せて俺は一人で部屋に閉じこもればよかったと後悔している。
「あ~、やっぱりこうなってたか」
と、どうやら凰が来たらしい。やっぱりって何だよ。
「まったく。せっかく海に来ているんだから楽しみましょう」
「楽しむなら一人で行って来い」
「……同じく」
どうやら簪も同意見らしい。
「え~。つまんないよぅ」
「そうよ。自由時間は一日だけなんだし、楽しまなきゃ損よ」
………いや、だからってなぁ。正直困る。
まぁ、少なくともこの状況で外に出たら中で何かいやらしいことをしていたと思われるだろう。
(……本当に、男という立場は面倒だ)
俺が女だったら間違いなく抱いている女たちに従い、簪と一緒に外に出ると―――早速俺は爆弾を持ってきていないことに対して後悔していた。
ほとんど全員が俺を敵視しているが、気にしないようにしている。というか周りにいる奴らが可愛いので基本的にそれで相殺されている。
「あ、そうだ。……って、あれ? ラウラは?」
「ここよ」
ラウラの存在を完全に忘れていたが、どうやら凰がラウラの相手をしていたらしい。もっとも、凰がラウラと指したのは黒めの水着と合っている白いパーカーを着て恥ずかしそうに包まっている女の子だったが。
「まさかアタシと同じ髪型にしたら、ここまで似合うとは思わなかったわ」
「本当にな」
そう言って俺はラウラを抱え、もう一度テントに入る。
そして座り、パーカーを脱がせてラウラの頬を甘噛みしようとしたところで殴られたようで、意識が飛んだ。その際、殴ってくれた奴には精一杯感謝した。
一言で現状を伝えるならば、「土下座ナウ☆」だろう。
実際俺はテントの中で四人に土下座していた。
「本当にごめんなさい」
「まぁ、アンタの気持ちはわからなくもないわ。確かに周りにはたくさんの女の子がいるけど…あそこまでなるのは問題だと思うわ」
「凰さんの仰るとおりです」
実はこの前に俺の状況を教えてもらったが、それはもう目も当てられないほどだったらしい。
なんと俺の目は完全に女を犯そうとする狼の目そのものであり、ヤバイと思った三人が気絶させたようだ。
「って、ってか、何でこういうときの前に、その……ぬ、抜いておかないのよ」
「恥ずかしいなら無理しなくていいのに」
「あぁん?」
「ごめんなさい」
まぁ凰の言うことは間違いないだろう。実際別の場所でその処理をする必要はあるのだが、俺は入学してから全然そういうのをしていなかった。
考えてみればそれって問題ではないだろうか。一度、どこかで処理しておいた方がいいだろう。正直この状態だと四人全員に襲いそうだからな。とはいえ、知識はあるが流石にそこまでの想像はできない。というかその辺りの知識はあまりない……と大声で叫びたかった。少しはあるからよく勝手に吐き出されている。
(それでもちゃんとしておかないとな)
そう思った俺は今日は露天風呂ではなく室内の風呂に入ることを決意した。
■■■
はっきり言おう。ラウラの可愛さが増している気がする。
現在は花月荘の大宴会場で俺たちはテーブル席で食事を取っていた。というのも俺がラウラが正座できないと思っての配慮だったが、どうやらそんな恥ずかしいのは俺だけらしい。座席とテーブル席は隣なのだが、後ろでは織斑がテンションを上げていた。
「うん、うまい! 昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だなぁ」
「そうだね。ほんと、IS学園って羽振りがいいよ」
後ろ二人でそんな会話をしている中、俺は隣に座っているラウラを見ている。満足そうにモキュモキュと食べるラウラの顔はまさしく「萌え」という言葉を体現していた。
後ろでわさびを解説している奴がいるが、何でそこまで料理に詳しいのか聞いてみたい。
「ッ~~~~~~~~~!!」
ジアンが鼻を押さえて悶えている。たぶんあれはわさびの分量を間違えたのだろう。
織斑がジアンの状態を確認すると的外れの返事をするジアン。ちなみに織斑の左隣に座るオルコットがきつそうにしている。たまにあえぎ声が聞こえてくるのでもうそろそろ箸をぶつけたい。
それを織斑が心配そうにしているのを他所に、俺はラウラの食べっぷりを眺めていた。どうして俺はこれを録画しなかったのだろうか。彼女の子供はさぞかし可愛いだろう。もしかしたら娘が母親に萌えるなんて自体が起こるかもしれない。
後ろでは織斑がオルコットに何かを言っていた。
「セシリア、正座が無理ならテーブル席の方に移動したらどうだ? 悠夜たちも言ってるし、別に恥ずかしくないだろ」
「へ、平気ですわ……。この席を獲得するのにかかった労力に比べれば、このくらい……」
というオルコット。同情はしてやらんことはないが、もう少しそれを攻撃的に使ったら……織斑のライフがいくつあっても足りないな。
ちなみにもう一人の暴力女こと篠ノ之箒は何故か浜へ来なかった。どんな水着を着ているか見るだけでそれなりのアドバイスをする自信はあったのにな。
「しかし、食事が進まないだろ。食べさせてやろうか? 前にシャルに―――」
「い、一夏ッ!」
「!! す、すまん!」
なるほど。食べさせると言うのは一つの手だな。
とはいえラウラは一人で黙々と食べているし、邪魔するのは悪いと思う。
何か後ろで激しいやり取りがあったと思ったら一気に周りが湧いた。
「あああーっ! セシリアずるい! 何してるのよ!」
「織斑君に食べさせてもらってる! 卑怯者!」
「ずるい! いんちき! イカサマ!」
周りからそんな声が上がるがなんのその、オルコットは開き直った。
「ずるくありませんわ。席が隣の特権です」
「それがずるいって言ってんの!」
「織斑君、私も私も!」
そう言って俺と正面にいる凰、そして隣にいるラウラはため息を吐いた。ちなみに本音と簪はどこかへ行っているようだ。
「―――静かにしろ」
その言葉だけで辺りが凍りついたかのように静まる。さすがは暴力女王という称号を持つ織斑先生。一言で生徒を黙らせるなんて普通じゃ無理だ。
「どうにも体力が有り余っているようだな。よかろう。それでは今から砂浜をランニングしに行け。距離は50kmもあれば十分だろう」
「いえいえいえ! とんでもないです! 大人しく食事をします!」
本当に怖がっているみたいで、全員が大人しく席に座る。
「織斑、あまり騒動を起こすな。鎮めるのが面倒だ」
「わ、わかりました」
そして今度は俺のほうを向いたらしい。
「桂木…ああ、そのままでいい。後で動ける服装で私の部屋に来い。一人でだ」
「………はいはい」
一人で、か。生きて帰れる気がしないのは俺だけなのか?
というかその発言で一瞬で生徒たちの恨みを買ったみたいだ。本当に女たちの思考がわからない。
ともあれ少しばかり不安が残るが、呼ばれた以上は(してもいいと思うが)ボイコットするわけにもいかないので、食事を終えた俺はできるだけ舐められないように歯を磨いて動ける格好をして水分と財布が入ったショルダーバッグを持って部屋を出た。流石に空気を呼んだのか、ラウラは凰と一緒に部屋で遊んでくれている。まるで専業主夫が久々に友人と会うことになったから母親に任せている気分になっている。すさまじき母親能力。胸の大きさとか本当に関係ないものだと思う。
「来たか」
織斑先生はいつもIS実習の時に着替えてくる白いジャージだ。
グローブを一つ俺に投げ渡してきたのでそれを受け取る。
そして織斑先生は先に移動し、玄関から外に出た。夜だが近くには電気スタンドが複数あるのでキャッチボールをするくらいには明るい。
「って、どうしてキャッチボールなんですか」
「? 会話するのにちょうどいいだろう?」
織斑先生って、元からかわからないが少しずれていると思った、夏のとある夜だった。
さて、滅茶苦茶暴走中の悠夜ですが、「抜いていない」というのは設定的に本当です。
一応前でもそのあたりのことには触れていますが、それからは夢精のみだったり。