「実は俺、桂木悠夜なんだ」
「………マジ?」
「マジ」
木を隠すなら森の中なんて言うが、俺たちはそんなことはできないのでその辺りで話す。
いつものメガネを一時的にかけると納得してくれたようで、俺はすぐに外す。
「メガネはかけなくていいのか?」
「実はこれ、度が入っていないから。で、トラブルを避けるために一応変装をしていたわけだ」
「……なるほどなぁ。って待てよ。この状況ってやばくないか?」
現在俺たちは「オターズ」のプラモデルエリアでラウラが欲しい奴(H○規格を5つまで)を持ってくるまで事情を話している。
「そうだな。襲われたら間違いなく五反田が死ぬな」
「うわぁ……」
「まぁ、時間稼ぎぐらいはしてやるさ。手っ取り早く済ませるならば人命無視してゲスい攻撃を仕掛けるのがいいんだがな」
だがまぁ、いくらなんでも街中でそんなことをするとは思えない……と、思う。もししたら間違いなくアホだ。
「じゃあ、さっき「ヨウ」って言ったのも」
「一応偽名。まぁ、散々名前で呼ばれているし手遅れかもしれないが」
突拍子もないことだから凰には伝えていないが、それでも空気を読んでくれたのは幸いだ。
「でもあの女の子のことはどうするんだ? 確か俺のデータによれば、ラウラ・ボーデヴィッヒは問題を起こして国に戻ったって」
「ああ、それ嘘。実際アイツには母国なんてものはなくなったようなものだし。俺に譲ってくれるって話だったからありがたくもらったけどな」
その時に色々あったが、あえて詳細は教えない。
「人身売買みたいなものじゃないか。……でも羨ましいなぁ」
「だろ? 絶対にやらないがな」
ラウラはかごに五つのプラモを入れて戻ってきた。ベアッ○イⅢにストライク○ージュ、イン○ルス、グ○、エク○アRⅡを持ってきた。ヴァイ○リッターとフェ○リオンも持ってきたので、それも買うとするか。買いすぎ? 大丈夫。1万ちょっとだから。
「しかし意外だよなぁ。こんな女の子がプラモって。まぁ、SRsでもkan-zanが女って話だからない話ではないみたいだが」
「お前はしないか?」
「ああ。数馬って友達に誘われてしたけど、全然勝てなかったから」
練習あるのみなんだがなぁ。
あえて言わずに俺たちはとりあえず買い物を終え、荷物を乗せるカートを買って乗せる。結構使ったがあまりないことなのでそこまで悲観することではないだろう。
凰たち二人は既に食べているようで俺たちは三人で食べに行く。
「で、実際IS学園ってどうだ? やっぱり美少女ばっかりか?」
興奮しているのか五反田が聞いてくるが、それでも俺はあまりおススメしない。
「まぁ、ラウラや凰を除いてもそれなりに気になる奴はいるけど、罵詈雑言はもちろんだし、下手すれば死ぬ」
「え? じょ、冗談……じゃないんだな」
ちなみにラウラはお子様ランチというものがどんなものか知りたかったらしく、喜んで注文していた。
■■■
「じゃあ、私はこっちにするわ」
一夏がシャルロットと一緒に更衣室に入り、出てきて副担任の山田真耶に怒られてからしばらく経った昼過ぎ、一足遅く来た楯無と虚。虚は単純に妹がどんな水着を選んだのか気になり、本音と同じ性格をしている母親に頼まれたので教えようと思ったのだが、既にいなかった。ちなみに虚の性格は父親似らしい。
楯無は言うまでもなく、簪がどんな水着を買ったのか調査しに来たのだ。だが同じく姿は既になく、これから二人で「オターズ」に向かってそこにいるであろう簪と合流する予定だ。
その前に楯無は自分にいい感じな水着を選び、買おうとしたところで虚が止める。
「お嬢様、今年はどこかへ行く予定ですか?」
「そうだけど」
「………行けると思ってます?」
それは「仕事サボりまくっているお前が行けるのか?」という意味ではなく「仕事の予定を考えてそれが可能かどうかもう一度検討するべき」という意味だ。虚がこう言う理由は一夏と悠夜がいるからだである。
今年の夏、二人を狙って誘拐組織が行動するだろう。楯無はそれの護衛を行わないといけないのでおそらくまともに出る予定はない。今もこうして自由行動できるのは一夏には千冬が、悠夜には偶然とはいえ鈴音、そしてラウラがいるからだ。もっとも二人はそのことを知らず、悠夜は別行動を取っている。とはいえ楯無は悠夜に関しては全く心配していなかった。簡単に言えば武装とその辺りの実力の差だろう。
悠夜の場合、一夏と違って逃げを恥と思っておらず、一度逃げれば楯無ですら追いかけるのは難しい。以前楯無は自分の実力を示す為と悠夜の逃走力がどれだけのものか知る為に鬼ごっこをしたが、楯無は情報に踊らされ、罠に嵌りそうになったのを思い出す。中には初歩的な黒板消しトラップもあったが、それが楯無のイライラが高い時にダメ押しでしてきたので怒りを通り越して泣きそうになった。
しかし悠夜はそこまで非道になれないようで、近くに隠れていたらしい悠夜は窓から教室に入って様子を伺ったところで試合終了になった。
―――閑話休題
ともかく楯無は行動範囲が狭まるので水着を買う必要はないと思われる虚。だがそういう虚も水着を持っていた。
「虚ちゃん」
「私は高校最後の夏なのでおやすみをもらいます」
「…………」
キッパリと言った虚に何も言えなくなった楯無。
「ひ、一人で?」
「一応、四人…いえ、五人ですね。私に本音、簪様に桂木君、そしてラウラさんは来るでしょうから」
「どうして護衛対象まで?!」
「簪様もいるので問題ないでしょう?」
「そ、そうだけど、それはそれで違うような……」
と考え込む楯無。最も虚の場合、悠夜を含めたのは御礼もある。
楯無と簪の関係修復もそうだが、無人機襲来時に近くにいた妹を助けてもらったこともだ。黒鋼製作に携わったが、その間も生徒会の仕事を手伝ってもらったりしているため、今もイーブンな関係とは思っていなかった。悠夜にしてみれば黒鋼の製造を手伝ったことの恩が大きく、イーブンどころか逆に借りが有ると思っている。それでも、虚にしてみれば楯無と簪の関係の修復は大きかった。
本来ならばそれは布仏の―――更識家全員の責務と言っても過言ではないのだが、誰もそれをすることはなかった。全員が楯無を―――刀奈を褒め称え、簪に対しては「恥さらし」などと言い見てみぬフリなど普通だった。虚はそれはなかったが確かに簪は刀奈に比べれば色々と劣っているとは思っていた。
だから修復しようにも容易には手を出せなかったが、悠夜は別だ。
義妹を持つ彼は絶好のポジションにあり、鈴音の時もそうだが親身になって相談を受け、兄の―――そして男としての立ち位置から的確な助言を―――行動をする。あの写真は確かにいただけなかったが、姉の本意を呼ぶ餌としては十分だったのは間違いない。
(結局、今の状況って彼がいなければ成り立たなかったのよね)
そこでふと、彼女の脳裏に来年のことが頭に浮かぶ。
来年、虚はIS学園にいない。留年すればありえるだろうが、学年主席の彼女にはそれが難しいどころか、それをした場合間違いなく先生たちが事情を聞いてくるのは間違いないだろう。
(この際、彼を生徒会の一員にするしかないですね)
だがあの誓約書があるのでそう簡単になることはないと思った虚はどうしたものかと楯無に呼ばれるまで考えていた。
■■■
一方、篠ノ之箒は―――
「…………」
先程悠夜が見ていた白いビキニを見て迷っていた。
(こ、こんなものを着れば、男は喜ぶのか?)
実は彼女は先程、悠夜が自分を探していることに気付いていた。
それを誰もいなくなった後に行動し、今白いビキニと対峙しているのである。
(し、しかしあんな奴の言う事を真に受けるのは………しかしだな)
箒にとって悠夜は一夏に害をなす存在で、敵だ。少なくとも箒にとって悠夜のあの試合で使った手段、そして否定したことに対して不満と怒りを抱いている。
だが悠夜も一夏と同じ男なのは変わりないし、鈴音が少しばかりとはいえ女の子らしい行動をとっているのは悠夜が原因だとも知っている箒は、確かに鈴音がそういう意味では可愛く見えたこともある。聞いてみたら悠夜の助言だと知った箒は「意外にやる」とも思った。
「あのぉ、お客様?」
「な、何だ!?」
「この水着を試着してみますか?」
そう言われて頷いた箒は上からとはいえ意外に似合っていた気がしたので買い、これでセシリアとシャルロットと対抗することにした。
だが彼女は、結局恥ずかしくなって逃げ出すことを知らない。
そして舞台は臨海学校へ……