ラウラの強襲によってなんとか事なきを得た俺は凰がいる場所に戻ろうとすると、
「何でお前まで来るんだ、織斑」
「いいじゃん。大勢でいた方が楽し―――」
するとラウラがいきなり織斑の股間を蹴り上げる。かなり怖いことを平然とするラウラだったが、それは効果があってその場で倒れた。
無慈悲に放置してやり、俺は凰のところに戻った。
「あ、悠夜、大丈夫だった?」
「まぁ、それなりに」
「でもごめん。ちゃんと止められていたら良かったんだけど………」
いくらラウラが元軍人とはいえ、流石に心配になるのは仕方がないだろう。これからはおもちゃのナイフも持たせておこうと思う。いや、犯罪になるか。
(これからは素手にしてもらおう)
ところで凰、お前、織斑はいいのか?
さっきから女性用水着売り場で股間を押さえてのた打ち回っている哀れな男の姿を見ながらそんなことを考えていると、凰は気にしていないのか、それとも気付いていないのかはわからないが水着を持ってレジへと向かっていた。俺はそれに付いていくついでに同じぐらいのサイズの色違いのパーカーを二着取り、一緒に差し出す。
「別に良かったのに……」
「まぁ、(ラウラの)下着云々で世話になるんだしこれくらいはするさ」
レジを終わらせて外に出ようとした時に、ふと立ち止まった。
「何? どうしたの?」
「いや、ちょっと篠ノ之が今近くにいて欲しいなって思って」
辺りを見回すが、人が多いからか篠ノ之がどこにいるのかわからなかった。
「? 篠ノ之がどうしたのですか?」
「いや、この水着が篠ノ之に似合いそうだなぁって思ってさ」
それは俗にビキニと呼ばれるものであり、大きさは完全は篠ノ之ぐらいならちょうどいいと思われるものだ。
「なんか、殺意が湧くわね」
「むぅ」
「これなら織斑を発情させる…って、考えてみたら万年発情猿だった」
最近俺もその部類に入るとは思うが、気のせいと言うことにしておこう。
「まぁ、とりあえず今はラウラの服を買いに行くか」
「そうね」
こうやって会話するだけだと凰がラウラの姉もしくは母親に見えるから不思議だ。
俺たちは水着ショップを出て近くの服屋に移動しようとすると、
「何だ、お前たちも来ていたのか」
「え? 織斑先生ってそういうキャラ?」
思わず本音をこぼしてしまったので睨み付けられる。
「何が言いたい、桂木」
「いえ。ただ織斑先生が水着を買いに来たことに驚いているだけです」
「………私が素っ裸で泳ぐ痴女だとでも言いたいのか?」
「ダイバースーツがお似合いだと思っただけですよ」
「た、確かに……」
つい本音を漏らした山田先生。
「……ほぅ」
「あ、あの、先輩? ちょっとその手を下ろしてもらえるとありがたいのですが……」
「………」
山田先生の胸を凝視し、店頭に置かれていたさっきの白い水着を見る。うん。やっぱりあの人は別のものが似合うと思う。
「ではお二人とも、俺たちはこれからラウラの服を買いに行きますので」
「そうか。またな」
俺たちは別れて服屋に向かう。
最近だと女性用の衣類専門店なんてものが多いため、その部分にカップルが行くと間違いなく男はその前にストップしてしまうことが多い。理由は簡単。童貞だからだ。
当然だが俺は織斑とは違って童貞なのでもちろんだが店に入るのは憚られたから、凰にラウラの衣類の代金二万円分をばれないように渡し、二人の荷物を預かってベンチに座る。するとその隣を別の男が座った。
黒いバンダナに赤茶……というより染めているのか完全に赤い髪をしている男は、女性用の物を多く持っていた。
(荷物が多いな………)
おそらく彼は荷物持ちなんだろう。哀れに思っているとその男も俺の方を見ていた。
「アンタも荷物持ちか?」
その男も俺をそうだと思ったのか話しかけてきた。
「まぁ、そんなところです」
「そっか。お互い大変だなぁ」
「今はそういう世の中ですからねぇ」
むしろこっちはある程度常識があるのと何も知らない子供だからなぁ。
密かに申し訳ないと思っていると、その関係者なのかバンダナの色違いをつけている女の子が現れた。
「ちょっとおにい! なに休憩してんのよ!」
そう言って「おにい」とやらに近づく。かなり哀れに思っていると、
「お待たせ……って、弾! それに蘭も!?」
「「鈴(さん)!?」」
「?」
かなり荷物を持っているようなのでとりあえず受け取る。ラウラも持とうとしていたが、いざ(会計)という時に持ってもらうことにした。
「知り合いか?」
「うん。ほら、前に数馬と連絡した時に」
「……ああ。あの時に凰に文句を言っていた」
と会話していると「蘭」と言われた妹の方は(何故か)勝ち誇った顔で凰を見る。まぁ、彼女の胸の大きさは少なくともラウラや凰には勝るだろうけど。
「久しぶりですね、鈴さん。兄から聞きましたけど、日本に戻ってきたんですね」
「まぁ、これでも中国の代表候補生で専用機持ちだから」
「そういえば、最近変なことをしているとか? 誰かの妹になる予定でもあるんですか? 一夏さんの、とか」
まぁ、やっぱり知り合いではあるだろうな。凰は転校してきた時から織斑のことが好きかどうかはともかく知り合いだったし、交流が狭いと言いたいわけではないが、姉関係で知っていたとかだったり。ヤバイ。何が言いたいのかわからない。
「あー、あれは忘れて―――」
「ところで今日は別の男と一緒にいるようですが、彼氏ですか?」
「え―――」
弾と呼ばれた男が驚いて俺を見る。
「違うわよ!」
まぁ、織斑のことが好きなんだしそれはないだろう。
「ど、同級生よ、同級生!」
「ということらしい」
「は、はぁ」
俺個人としては凰が俺の彼女でも構わないが。ただし間違いなく授業は出なくなるな。ヤリまくっているから。
ところで気のせいだろうか。「蘭」と呼ばれた女子はまるで凰を敵視しているようだ。
「ところで鈴さん、あなたはもう一夏さんと―――」
「あ、アタシ、一夏を狙うのは止めたから」
「「な、何だってぇ?!」」
俺と「弾」とやらは全く同じ反応をした。凰が、織斑を狙うのを止めただと!?
どうやら「蘭」も同じような反応だったが、次第に笑みを浮かべる。
「お、おい鈴!? 正気か!? それとも麻薬でもしているのか!?」
「人聞き悪いこと言わないでよ! そんなものしてないわ!」
確かに凰の場合、思いつめるなんてことはなさそうだしな。すぐに吐き出すという意味で。
「えっと、チャイニーズジョークじゃないんだよな?」
「当たり前よ。というかチャイニーズジョークってなによ」
「そのままの意なんだが……」
そう説明すると「弾」とやらが俺に質問する。
「そういえば、あんた、名前は……」
そういえばまだ自己紹介していなかったな。
「俺はヨウ。こっちは義妹のラウラ」
「俺は五反田弾。高校一年生だ。で、あっちが妹の蘭」
じゃれあってるというか勝ち誇っている妹の方もついでに紹介する。俺はラウラを膝に乗せて軽く手を振らせた。まさかの人見知りだからなぁ。偽名を使っているのは俺が男性IS操縦者だということ隠す為だ。
「いいなぁ。妹を変えて欲しい」
「え? 死にたい?」
「マジすみませんでした」
妹を変えろとか俺に対しての宣戦布告の他ならない。
「まぁ、色々と厄介そうだよな」
「しかも色々うるさいんだぜ。この前なんて一夏……ああ、最初の男性IS操縦者が来ることを言ってないだけで八つ当たりしてくるし」
「それはお兄が悪いんでしょ!」
凰と話している妹がそう言ってくる。
「……もしかして妹さん、「コレ」とか?」
ハートマークを作って示すと五反田兄は頷いた。
「知っていたならば悪いだろ」
「でもさ、IS学園に通っているんだぜ。女の園に。妹を抜きにしたそういう話題とか聞いてみたいと思うのが男だろ」
「さっさとそんな幻想捨てたほうがいい。女なんて大半がゴミだから」
ラウラの頭を撫でながら答えるとラウラは喜んだが、五反田兄はなんとも言えない顔をした。
「あれ? そういえば、あんたの顔をどこかで見たことがあるような……?」
どうやら五反田兄はラウラを見たことがあるらしい。まぁ、ドイツの代表候補生だったからその辺りのことを詳しい奴ならば知っているだろう。
「じゃあ、俺たちはもう行くわ。凰はどうする? 友人たちともう少し話したいなら遠慮なく言ってくれ」
「そうね。もう少し一緒にいるわ」
「あー、あのー」
五反田兄は遠慮がちに俺に聞いてくる。
「俺も付いていっていいか? 妹の買い物に巻き込まれるのはごめんだし。それに鈴がいるからしばらくは大人しくすると思うから」
「別にいいけど、これからマニアックなところに行くんだが?」
「構わないさ」
そう言うので俺たちは三人で行動するのだった。もっとも個人的にはラウラが別の意味で五反田兄――もとい、五反田を警戒する姿が可愛くて楽しめたが。
俺たちは「オターズ」という大型フィギュア販売店を訪れる。そこで五反田は大声を出した。
「あー!!」
急だったので俺たちダブルで五反田の鳩尾を殴り、ラウラはナイフを、俺はペンを五反田の首に当てる。
「うるさいぞ貴様」
「急に大声出すなよ」
ばれたと思うじゃないか。
「ラウラ、もうしまえ。それで五反田、いきなりどうした?」
「……あ、あれ」
五反田が指差す先には、プレミア価格が着いたラウラのフィギュアが展示されていたのだった。
ということで弾がパーティに加わり、鈴音がパーティから離脱。
そしてプレミア価格が着いたラウラのフィギュア。それを見た二人の反応は?