#41 終始の序章と義理の妹2nd
「やぁ、どうも」
整備された廊下を少女が歩いていると、一人の男性がその少女の前に現れた。彼はずっと待っていたようで、近くに置かれている灰皿には三本の吸殻が入っている。
「……何か用?」
「君の論文に対して評価と称えに来たんだよ」
「慰めに来たつもり?」
その少女の目は既に何も映っていないようで、男性が年上にも関わらず突っぱねたような話し方をする。
「いやいや、本音だよ。物凄くわくわくした……と同時に君の論文は採用されることはないと残念に思ったけどね」
「………」
「おや、もしかして「慰める」の意味が違ったかな? 確かに君のスタイルは……うん。中学生にしては異常だが女性と言う観点から見れば合格点かな」
「………」
―――シュッ
少女は手刀で男性を突いた。男性はもろに食らうが、すぐに立ち上がる。
「ああ。僕を一撃で倒せなかったのは仕方がないと思ってくれ。確かに君の攻撃は重かったが、どうせ重いなら愛を重くしよう。なに、年齢なんて気にしなくていい。僕は年老いても30代から10代までならば巨乳、貧乳・ロリ・ノッポ、日本人や白人ならばどんな髪の毛でも問題ない。ああ、黒人の方は遠慮どころかノーサンキュだ。実は昔、ムキムキの黒人に犯されそうになってからというもの恐怖心が芽生えてしまってね。逆に向こうが怯んでしまうほどの殺気を出して気絶してしまうほどだったらしい。ああ、君ならもちろん問題ないよ。さぁ、愛を語ろうではないか」
「……………」
少女は最初、よく話す男だとは思ったが、その後の言葉で完全に引いていた。
確かにその男の容姿は悪くない。若く見えるから精々30代多く見て後半と言ったところだろうとは思ったが、先程のことで人類そのものに興味をなくしたその少女にしてみれば迷惑である。
やがておかしいと思ったのか、男性は話しかけた。
「ふん。どうやら君は処女のようだね」
「………だったら何?」
「ああ、別に処女だからって気にしなくて構わない。むしろカモンだ! って言うのは置いておこう」
そう言った男性は真剣な顔をして言った。
「残念だったね。君の発表は」
「………」
「だがまぁ、彼らは最初から君に投じるつもりはなかっただろう。何故なら君が何の資格も、学歴も持たない子供だからだ」
「………」
「って言うのもひとつの理由だ」
「…どういうこと?」
少女はそう聞くと男性は笑い、そこから移動する。
少女は興味を持ち始めていたのか、気がつけば男性の車に乗っていた。
男性は運転しながら先程の続きを話す。
「簡単な理由だよ。あそこにいるのは着飾っているけど全員が技術員だ。あんな発表した君からすればどれもこれもつまらない技術ばかりだろう?」
「……うん」
「だからだよ。どれもこれ、つい開発したものばかり発表している。それも君のものとは違って時代を飛び越えない、聞けば「なるほど」と思うものだ。だが君のものは―――世界をひっくり返すほどのものだったのさ」
「ところで君の家はどこだい?」と聞いた男性。少女は住所を伝え、カーナビに情報を入力する。
しばらくしたところで男性はコンビニに寄り、少女に「待ってて」と伝えた。
そして少女は置きっぱなしになっていた携帯電話を取って電話しようとしたところで
■■■
《―――おっだらぁ、タマァ取ったらんかぁ!!》
目を覚ましたその女性の耳には一番嬉しい着信音が鳴り響いた。
嬉しいはずなんだが目を覚ましたばかりなのだからか、動きが悪い。
やっと取れたと思ったときには既に切れた後だったが、それほど大事な話があったのか相手はまた電話をかけてきた。
今度はすぐに出ると、その女性は既に戻ったテンションで電話に出る。
「やあやあやあ! 久しぶりだねえぇ! ずっとず―――っと待ってたよ!」
電話の相手はそのテンションに対し低い音で話しかけた。
『………姉さん。お願いがあります』
「うんうん。用件はわかっているよ。欲しいんだよね? 君だけのオンリーワンにして
『………すべて、知っていたんですね』
「だって私、天才だし。箒ちゃんのことは四六時中見張っているからねぇ」
すると電話の相手こと篠ノ之箒は怒ったのか、
『わかりました。千冬さんに言って「ストーキング行為」で指名手配してもらいます』
「え? ちょっ、冗談だよね?」
―――ブツッ
まるで「脅しじゃねえぞ」と言わんばかりに切る箒。その姉の束は監視している銀色のネズミたちが帰ってくるように指示を送る。
その時、ふと彼女の脳裏に言葉が浮かんだ。
『君の失敗した原因はその資料だけでまともな映像を見せなかったことだ。人というものはその目で見て確かめないと信じないものでね。だから君が開発したのは「机上の空論でしかない」と判断されたんだ』
『ならば僕も一つ予言をしよう。君がいずれISを発表して少しした後、君の前にとてつもない力を持った者が現れるだろう。そして君の作品は負ける。操縦者同士の実力と機体の性能の圧倒的な差でね。そしてその機体を製作したのはこの僕だ。僕は君を超えることにするよ。下だと思った人間に負かされるほど、人間のプライドは壊れるものだからね』
その言葉を頭の中で聞いた後、束は愚痴を溢すかのように言った。
「まさか、あの男が原因でこんなことになるなんてね~」
結局その機体は今まで現れたことがなかったからか、そんな予言は今の今まで忘れてしまっていた。もっとも、しばらくしたら彼女は忘れたが。
■■■
―――悠夜side
シャルル・デュノアが女の子と発覚して早数日。
骨は元々砕かれていたようで、それを集めてフランスへ送られてリゼットが代表して今まで働いてくれたお礼として責任を持って埋葬すると言う話と、新生デュノア社の新たなる出発としてさっそくだがデュノア社の武器が開発されたとか、そんなニュースが報道された。どうやらリゼットは弱冠14歳で着々と仕事をこなしているようだ。もうすぐ15歳になるが、俺はお祝いしないことにする。というか、迷惑だろう。
年齢的にインターンとして中二のときに出会ったが、あの頃は本気で驚いたからなぁ。まさかストーカーになるとは思わなかった。
(とはいえ、ストーカーが増えるとは思わなかったが)
ラウラはあの発言で俺に対する罵倒が酷かった為か、かなり泣きそうになっていたらしいと鷹月から報告があった。最近では鷹月たちとも食事を取るようになったが、それでも一歩引いている感は否めないが、ラウラを無理矢理連れ戻してからはそうでもないような気がしなくもない。
「おはようございます、兄様」
「…………」
轡木さんが気を利かせてくれたみたいで、俺とラウラは現在同居している。一歩引いていた時からそうだったのだが、その時は楯無と一緒に寝ていたようだ。楯無は新たにできた妹と今いる妹でなにやら葛藤していたが、今は別の意味で葛藤するだろう。俺がな。
「ラウラ、その格好は何だ?」
「? ペットの正装ですが?」
「いや、首輪はアクセサリーに含まれるから服に入らないと思うだが……」
理性が飛びそうなんだが、というかこいつ、服を着ていないようだ。
「ラウラ、何故服を着ない」
「? ペットは服を着ないと思いますが?」
「いや、まぁ夏だから大丈夫だろうけど、ここはレズもいるんだから絶対に着ろ。ほら、これでも着てろ」
そう言って俺は自分のシャツを出す。一応言っておくが、俺は簪が着ていたからその道に目覚めたというわけではない。
「すまない。生憎、パジャマというものを持ってなくてな」
「いえ。これはこれで、兄様の匂いを近くでかげますので」
「………」
即急に教育が必要だと思った。
「ところでラウラ、お前パジャマとかは持ってないのか?」
「はい。寝る時はいつも全裸です」
「………」
なるほど。道理で最近楯無がパジャマを着ていなくて起きた時に肌色が見えた気がしたわけだ。幸か不幸か逆光と寝ぼけ眼でよく見えなかったが、危険を感じてあの時に寝返りを打って正解だったんだなと思った。
ちなみに件の楯無は仕事があるということで学園を留守にしたりしているらしい。その時は本音も借り出されるが、昨日はそうじゃなかったのか部屋に来た。
(……今後の日曜日に買い物に行かないとな)
これで楯無が一緒に寝ているのが見たら調子に乗って一緒に寝るか、もしくはラウラを自分のベッドに入れるかだろう。はっきり言ってラウラが羨ましいが、端から見たら俺が羨ましい状況にあるんだろうなとため息を吐いた。
ということで第三章に突入しました。
おそらくプロット的に話数はそこまで消耗されないので結構すぐに終わりそうな気がします。