『では、三人目の少年はデュノア社の一部の人間が行ったことだと?』
『ええ。それも遺書にあったとおり、適当な場所で拾った子供でしたわ。最初は私の影武者かと思いましたが、どうやらそうではなかったようでしたね、独自に調べたところ、このような事実が判明したのです』
翌朝、テレビを点けると唯一のストーカーことリゼット・デュノアが記者会見を行っていた。
『じゃ、じゃあこれからデュノア社はどうなるのでしょうか? 会社が倒産した場合、何千人もの従業員が彷徨うことになりますが』
『その辺りはご心配なく。今度は二の舞にならないように私が一切の指揮を執ります。そして我々デュノア社は『デュノアインダストリー』と名を改め、様々な事業を行おうと思っておりますわ。今までISは6つ保持していましたが、1つはお返ししようと思います』
すべてフランス語だったが、後から通訳の人が後から日本語で説明するので理解はできる。まぁ、フランス語もリゼットのせいというかおかげというか、理解はできるが。
『で、ですがこれから風当りは強くなるのでは? 先ほど政府から予算は大幅にカットするという通達があったようですが』
『それは仕方がないことでしょう。ですが資金面に関してはご心配なく。私自身もそれ相応の蓄えがありますので問題はありませんわ』
ということだったので俺はテレビを消してもう一度寝ようと思った。たぶんこれは夢だから。リゼットが中学生で社長になるだなんて夢でしかないだろう。
そう思うと頭に柔らかい感触があったのであげると、もう少しで俺は本音をベッドにして寝ようとしていたらしい。
「……おはよう」
「ああ、おはよ―――ストップだ簪。お前は何かを開拓する気か?」
思わず簪の姿に突っ込んでしまった。
簪が着ているのは俺の白シャツ(ぶかぶか)にエプロンを着用しているのだ。まるで幼女がおにいちゃんの服を着て大好きなおにいちゃんのために料理を作ろうと頑張っている姿にしか見えない。
「……?」
「いや、いい。気にするな」
たぶんこれは夢なんだなってことは容易に想像がつく。冷静に考えて俺がこんな幸せな構図の中にいれるわけがない。
そう思って再び寝ると、案の定というか遅刻しそうになった。
■■■
なんとかギリギリ遅刻しなかった俺は机に突っ伏す。
全員は冷めた目で俺を見てくるのは、賭けで独り勝ちをしたこととか、神聖ISバトルをあんな不意打ちみたいなもので勝利を収めようとしたり、簪を擁護するような発言をしたりしたからだろう。まぁ、簪の機体の性能はゲテモノすぎるが、同時にゲテモノ過ぎて、うまく扱えるのが少ないのだ。それこそ学園内で扱えるのは簪か、ある意味扱いにくそうな機体を操縦していたラウラぐらいだろうか。
(そういえば、ラウラは何をしているのだろうか?)
まさか自殺したなんて言わないよな? いくら買ったとはいえ年頃の男女だからあまり干渉しないようにしていたが、裏目に出たとか。
少し不安になってきたが、もうHRだ。後から行こうと考えていると前の方から不審な会話が聞こえた。
「あのニュース見た? デュノア社の社長と夫人が逮捕されたニュース」
「知ってる! 確かデュノア君が実は女で、学園内で自殺したって話でしょ?」
「そういえば昨日、帰る時に火事があったって言ってたけど、そこから燃えた骨が見つかったそうよ」
「どうせだったら桂木が死んでくれたらいいのに」
「本当そうだよね~。あの男が来てからIS学園って事件ばっかり起きているみたいだよ」
「こうなったら全員であの一派を潰さない?」
「いいね。まずあの気持ち悪い女から潰そうよ」
「ほんねって女、前々からウザかったよね。桂木にベッタリでさ」
楯無にチクろうと考えたところで、山田先生が現れた。
「みなさん、すぐに席に戻ってください」
普段ではまず見れない真剣な顔をする山田先生。ただならぬ気配を感じ取ったのか、全員がおとなしく座った。
「もう既に昨日のことを知っているとは思われますが、シャルル・デュノア君が自殺しました」
山田先生の言う通りほとんどの生徒は知っていたのか、一同は沈黙する。
「彼というよりも彼女は確かにスパイ行為を働きました。ですが、それまではこのクラスで一緒に過ごしてきた仲間であったことは変わりありません。全員、合図に従いなさい。黙祷」
言われた通り俺たちは黙祷をささげる。……正直、黙祷というものがどういうものか理解はできなかったが、ただ眼を瞑ればいいのだろうか。わかりやすい教え方と、簪と武風相手によく戦い抜いたという印象しかない。
「黙祷、止め。ではHRに入ります。……って、あれ? ボーデヴィッヒさん?」
デュノアの分の机がなくなっているが、俺の隣にある机のところに誰も座っていないからか、山田先生はラウラを呼ぶ。
「すまない。勉強をしていたら遅れてしまった」
ドアを開けて小柄な少女がそう言って中に入る。ただ一つ、ボーデヴィッヒの唇がうるうるしているのは何故だろうか?
「ボーデヴィッヒさん、遅刻はダメですよ」
「兄様!」
「無視ですか、そうですか」
どうやら山田先生はボーデヴィッヒに対して注意することを諦めたようで、沈んだ。
「いや、ラウラ。兄様はないだろう、兄様は」
「そうですか? ではご主人様は―――」
「絶対に却下だ」
二人きりの時にしていただきたい。「いいだろ? お前はもう、俺のものなんだから」とかキザな台詞を吐いているのは確かだろうけど。
「に、兄様ってどういうこと?」
前の席にいる女子がラウラに聞き、ラウラははっきりと答えた。
「何だ、知らないのか? 兄様は一つ上だぞ」
改めて考えると、それって実際は公表されているはずなんだよな。あのクソどもにすべて暴露されたんだし。
と思ったらどうやらそうではなかったようで、
「「「ええぇええええええッ!!!」」」
周りから驚きの声が上がる、声を上げていなかったのはラウラと本音くらいだろう。というか篠ノ之はともかくオルコット、自分で言うのもなんだが俺の資料は出回っているはずだよな? はず、だよな?
「じゃ、じゃあ、もしかしなくても年上?」
「まさか留年していたの!?」
前者のやつは混乱していると見た。それと後者、俺は留年「していた」ではなく「させられた」だ。
「じゃあ桂木って、留年している上にオタクなの?」
「何それ、キモ!」
よし、今「キモ!」って言った奴は一生織斑を追いかけるなよ。
「そう言えば桂木って、いっつも教科書と睨めっこしているよね」
「もしかして留年したから二度もしないようにって頑張っているとか? 無駄な努力なのに」
本当に気をつけて発言したいものだ。昨日買った俺の子犬ちゃんが今にもキバをむき出して殺しにかかろうとしているんだから、それを止めるのって結構体力いるんだけどなぁ。
とか感想を抱いていると、一番注目される席に座る織斑の口から信じられない言葉が出てきた。
「もしかして悠夜って、
その言葉が原因かはわからないが、さっきまで罵倒とかが主で騒がしかった教室が一瞬で沈黙したのは確かだ。
そして山田先生が立ち上がると、
「あ、やっと静かになりましたね。みなさん、織斑先生がいないからと言って騒がしくしたらダメですよ。いくら副担任だからと言っても走らせる権限ぐらいはあるんですから―――って、桂木君、何で帰る用意をしているをしているんですか!?」
「実は朝から少し熱っぽかったので、ちょっと大事をとって今日はもう帰ろうと思いまして」
「え? そうなんですか? お大事に」
するとラウラも付いてくるので俺は止める。
「ラウラ、お前は教室に残れ」
「しかし、兄様をお守りするのが私の役目」
「いいから。ラウラに風邪が移ったら今度は俺が看病しないといけないから、な?」
「……わかりました」
大人しく従ったラウラは着席する。
(S○Xかアスト○ナガン……いや、グラ○ゾンが妥当か?)
織斑の処刑方法を考えている最中に織斑先生とすれ違ったが無視した。
■■■
「おい、桂木―――」
千冬はすれ違った悠夜に声をかけるが、悠夜は返事をしないまま大股かつ素早く移動した。
追いかけるべきかどうかは迷ったが、HRもあることなのでとりあえず十蔵に連絡して教室に向かうと―――
「ちょっ、のほほんさん!? 一体どうしたんだよ!!」
「やっぱり殺す! 今ここで!」
「待て布仏。椅子では効果が薄い。やはりここはスラッグ弾で頭部を破壊する方がいいだろう」
「ボーデヴィッヒさん! 今はそんなことを言っている場合ではないでしょう!」
「いい加減にしろ布仏! 斬られたいのか!!」
「ちょっと皆さん落ち着いてください!!」
椅子で今すぐ一夏を殺さんとする本音にそれを止めようとする一部のクラスメイトたち、一夏を庇う箒に少なくともこの場においては得ているようで外れている説明をするラウラにそれに突っ込むセシリア、そしてなんとかしてその場を治めようとする真耶の姿があり、千冬は一喝でそれを止める。
周りは座るがそれで自由になった本音は今すぐ一夏を殺そうとするので千冬は椅子を取り上げた。
「先生! 邪魔しないでください!」
「布仏、今は落ち着け。お前がこんな風になるにはそれ相応の理由があるかもしれないが今は座れ」
「………はい」
いつもの間延びした口調がないからかある種の異常事態と思った千冬は、鷹月静寐に状況を報告するように言った。
そして静寐は今まで起こったことを説明する。それを聞いた千冬はまず本音に言った。
「布仏、まぁ今回の件は見逃そう。だがこれからは決してこんなことをするなよ」
「……わかりました」
「待ってください! 布仏さんがしたことは決して許される行為ではありません!」
クラスメイトの一人がそう言うと千冬はため息を吐きつつ説明した。
「確かに布仏のしたことは許される行為ではないが、心情を考えれば納得ができる行為だ。よって今回の件は不問とするが気に入らない奴がいるようなので罰を与える。布仏、桂木を探しに行け。行くだけで構わん」
「わかりました~」
本音が鞄を置いていこうとしていたので千冬は声をかけた。
「布仏、鞄を忘れているぞ」
「え……あ、はい」
本音は教科書を詰め込み、鞄を持ってすぐに教室を出て行こうとしたところで、千冬は低い声を出した。
「織斑」
「は、はい」
どれだけ怒っているのか理解できたのだろう。一夏の顔は一瞬で青くなった。
「貴様は入学して以降、小テストで高成績を取ったことがあるか? そうだな、満点が10としたら9割で高成績としてやろう」
「………」
「ついでに言うが、他の者にも聞くが……9割以上取れた奴は挙手しろ」
静寐にラウラ、そしてセシリアや癒子、四十院神楽などが挙手した。
「下げろ。ちなみに桂木は常に満点だ」
あっさりと個人情報を告げる千冬だが、今回は正しかったかもしれない。
「そんなの嘘ですよね? ね? 山田先生?」
「いえ。桂木君は常に満点ですよ。一応、カンニングって言う方がいるかもしれなかったのでいつも私が近くにいましたが、そんなことをしていることはありませんでした」
そんな宣告をされた一組のクラスメイトたちはただ押し黙るしかなかった。
■■■
悠夜の部屋の前で「主」ではなく「悠」の字が彫ってある鍵を出した本音は鍵を開けると、ドアの前には上半身裸の悠夜がいた。
本音は顔を赤くするが、中に入ってドアを閉め、ついでに鍵を閉める。
「何だ、本音か」
そう言った悠夜は本音に近づき、本音の鞄を取り上げると同時に、そのまま本音ごとベッドにダイブした。
(い、一体どうなってるの~)
さっきとは違って動揺する本音。もがくが悠夜の力が強すぎるのか、本音の力では脱出することはできなかった。
(……ゆうやん)
本音は悠夜の父親が殺されていることを知っている。
だから不安になって自分を抱きしめたと思った本音はより一層抱きしめる。
(もっと甘えていいんだからね。ずっと前から私はゆうやんが好きなんだから)
届かない恋心を抱きながら、本音は別の意味で捉えられてしまった悠夜と抱き合った。
本音の心、確認回と千冬の成長回……となったか不安のreizenです。
この話で二章は終了となります。40とは切りがいいですね。
色々詰め込みすぎたな、と少し反省している。