決勝が始まる少し前に、俺たちは更識簪と布仏がいるピットに訪れていた。あの場は織斑先生を放置してきているから残っている処理はしてくれるはず。
「ということで、俺たち二人はあの時のことを謝りたいと思う」
「………」
ちなみにラウラは俺の後ろに隠れていた。もしかしたら昨日の試合を見ていたからかもしれないが、それは仕方がないことだろう。
実はあの大刀はゲームを元に作られていたらしい。一撃必殺を狙いたいのなら大きくして、小回りが利く方がいいなら小さくするとか。
「済まなかった。こいつの暴走は俺の暴言が原因だ」
「…どういうこと?」
理解ができなかった(というかできないのが普通だな)のか、更識簪が聞いてきた。
「実はこいつ、ドイツでは俺のような落ちこぼれでマトモに相手にされていなくて、唯一の寄り処だった織斑千冬を俺が罵倒したから、俺を潰す為に―――」
「……私を攻撃した?」
「そういうことだ」
説明している最中、ラウラは涙を溜めていた。
「ごめん…なさい……」
「気にしてない。むしろ感謝している」
「「!?」」
まさかの言葉に俺たちは驚きを隠せなかった。
「サードアイが黒鋼にある以上、並大抵の機体だと渡り合えないのは目に見えてる」
「……え?」
「私はあなたに勝ちたい。だから私はあえて轡木研究所に入った。一応、所定の手続きはしたけど、たぶん代表候補生の権利は剥奪される恐れがある」
という急な告白をされて俺は焦った。
「どういうことだ?」
「轡木研究所がIS学園から機体の情報をもらっているっていう噂があるから…。それにあまり轡木製の機体は評判が良くないから。それに世間からしてみれば、SRs如きで使われるような機体はゲテモノらしい」
そう言われて納得しなくもなかった。
確かに俺たちの機体はゲテモノとは言えなくはない。仕方ないじゃん! リアルにスーパーを組み込めば仕方がない化学反応なんだよ。
「………」
ただ一人、状況に付いていけない人がいた。ラウラである。本音? すごいことに納得している。
「だからありがとう」
今度は更識簪がラウラに言った。
「……どういう」
「あなたのおかげで彼の機体の異常さに気付けた。だから感謝している」
そう言われてとうとうラウラは涙を流した。よほど嬉しかったんだろうなぁ。
「ところで桂木君……どうしてお姉ちゃんは名前なのに私はフルネーム?」
さっき呼んだことを気にしているのか、彼女はそう言った。
「いや、前も言ったが、それは……」
「ライバルを名前で呼ぶのは当然」
「いや、その、ちょっと……」
滅茶苦茶意識しているとか言えねぇよ!
しかも俺って残念ながら身長が高いからどうしても上目遣いになるし。
「そうだよねぇ。ゆうやんは私のことも名前で呼ぶべきだよねぇ~」
うわぁ。布仏も参加してきた。
「百歩譲ってまだ更識のことは名前で呼んでもいいけど、布仏は別に問題ないだろ」
「む~、差別だよ~」
そう言われて俺は怯んでしまった。
「………ああ、もう。呼べばいいんだろ、呼べば!!」
そう叫ぶと周りから何故か殺意と同情の視線を向けられたのだが、同情はともかく殺意に関しては論破してやりたいと思った次第である。
■■■
そして決勝戦。俺は観客席で二人の勇姿を見ようと思ったら、どういうことか実況席にいた。
「いやぁ、たっちゃんが急に来れなくてさ、正直怖いけどこれはこれで役得というか―――」
「何が役得なんだ、ジャーナリスト」
睨みながらそう言うと実況者の黛薫子は震え始める。そんなに俺は怖いのだろうか?
「い、いやぁ、その、二人目にインタビューできるのって、中々ないから―――」
「インタビュー? しても結局あることないこと書くだけの奴らが何をほざく。これ以上ふざけたことを抜かすなら―――」
「お願いします丸焼きにしないでくださいせめて女として辱めるとかにしてもらえると嬉しいかな」
顔を青くしながらそう言う黛薫子。
俺はニュース関係が大嫌いだ。理由は言わずもがな、勝手に俺が住んでいる住所をばらしてあることないこと言ったりしたことを俺は根に持っていた。
「俺はタメにならないことはしない主義だ」
そう答えると沈黙が訪れた。
すると簪が駆る武風と本音が駆る打鉄、織斑とデュノアが現れた。
『今日はよろしくな、更識さん』
『………』
シカトと睨みつけるというされたくないコンボをした簪。
そしてカウントダウンが開始され、0になった瞬間、簪は初っ端から変換太刀《斬魂》を展開と同時に振りぬき、織斑の首がぶつかった。
「さて、始まりました学年別タッグトーナメント、実況は私、黛薫子と解説は二人目の男性IS操縦者、桂木悠夜君でお送りします! さて初っ端から更識選手、織斑君に対して容赦ない攻撃ですね!」
「あそこまで早く振り抜く奴なんて早々いないだろうな。さすがは織斑。女を虜にするだけでなく敵にもするか」
「いやぁ、普通あんなゲテモノ装備を使っている人なんていないと思うけど」
他にもいたら酒を飲みあいたい。
「織斑選手にミサイルの猛攻! 布仏選手、笑顔のくせに容赦ない!」
「笑顔のところっているのか?」
それをデュノアが間に入って防御。だが簪たちは徹底的に織斑を潰す作戦なのか、荷電粒子砲で攻撃した。
「更識選手、織斑選手に容赦ない攻撃! ですが何で織斑選手を先に潰そうとするんですかね?」
「素人とはいえ、織斑のワンオフが脅威だからだろ。確かデータだと命中率が低いが牽制として銃を使っていたから援護が邪魔になると思っているだろうし、なにより雑魚だからこそ先に倒してデュノアを狩るって戦法だな。まぁ―――更識ならもうそろそろ落とすだろ」
俺がそう言うと同時にマルチロックオン・システムを作動させ、簪は織斑だけでなくデュノアも巻き込んで一斉射撃を行った。
『うぉおおおおおッ!!』
無駄に叫んだ織斑は正面から迎え撃つ。だが、
『せーの!』
本音が言い終えると同時に二方向が爆発した。俺が仕組んだアレと同じである。
デュノアは少しくらいつつもそこから離脱。だが織斑は案の定と言うか戦闘不能になっていた。
「まさかの織斑選手、早々離脱となりました」
「やっぱり先制攻撃が効いただろうな。しかも首だから更識の容赦ない攻撃が大きいだろう。……なんでわざわざあそこで正面から立ち向かったのか理解できないが」
そう答えると黛はなんともいえない顔をした。
「さぁ、更識・布仏ペア。残るはデュノア選手一人となりました。さぁ、ここからデュノア選手は巻き返せるのでしょうか? 解説の桂木さん、どう思います?」
「冷静に考えたら更識を落とせたら勝機はあるが、たぶん無理だな」
「その根拠は?」
「さっきデュノアの戦績データも確認させてもらったが、デュノアが一対一で戦っている時に押したり引いたりという戦法を取っていた。それはISに不慣れな奴やオルコットみたいに遠距離特化みたいな奴なら専用機持ちでもそれなりに渡り合えると思うが、更識は遠距離メインのオールラウンダー。そしてデュノアの切り札はたぶん防がれる」
「―――え?」
優雅に立ち回っていたデュノアだが、簪が前に出てきたことで盾をパージして瞬時加速で接近する。
そしてパイルバンカーで更識を攻撃しようとした時、上段に構えていた簪はいきなり右腕を振り下ろした。
―――ガッ!!
いつの間にか手首の刃を出していた簪はパイルバンカーを突き刺して壊した。
『そんな―――』
『あったれ~』
上からミサイルの雨が降り注ぐ。その前に簪は既に退避していて腰にある荷電粒子砲を出してデュノアを牽制する。
デュノアは上昇するが、その上には既に《ウッド・クレイモア》を振りかぶっていた本音がいて攻撃する。
あまりの大きさにウイングスラスターに亀裂が入った。というかリーチが長い。
『そ、そんな―――』
『いっけぇ!!』
しかも本音、ミサイルを至近距離でバカスカ撃ち始めるのだから性質が悪い。おそらくこれは時間稼ぎだろう。
―――そして本命は
「出たぁああああああああッ!!!」
隣にいる黛がうるさいが、気持ちは理解できなくもない。簪が俗に言うロケットパンチを出したからだ。
そう。簪はロケットパンチみたいなものを出したのである。確か正式名称は「玄○剛弾」だったと思う。
だがそれはかわされた。隣ではショックを受けているような声を上げるが、簪が出したのは左だけである。つまり何がしたいかというと、
『逃さない』
『僕だって―――』
夢現を展開した更識。片手で扱うことになるが、デュノアは簪を警戒しているのか容赦なく《デザート・フォックス》を使用している。
だがそれを本音は上から鉛弾の雨を降らして援護し、デュノアの集中を乱しにかかった。というか本音、その鉛弾ってあのシャトルから落下して純粋に運だけで生き残った博打好きの男の機体からの物じゃないよな?
『くっ』
『まだまだ~』
『ターゲット、マルチロック』
癖なのか、SRsのマルチロックオン・システムの起動コードを口にする簪。
『かんちゃん!』
本音は鎖を使ってデュノアを固定。そして両腕を封じる為に引き寄せ、後ろから抱きついた。
「まさか布仏選手、自分諸共相手を潰す作戦でしょうか?」
「とりあえず更識にはデュノアの顔面を潰してもらいたいですね」
「え!?」
簪は《春雷》《山嵐》《ブリッツ》で遠慮なく撃つ。同時に本音は手榴弾をピンを抜いた状態で展開してデュノアの顔面に飛ばした。
そして簪の無慈悲な攻撃と本音のダメ押しでデュノアは落ちた。
「決まったぁああああ! 学年別タッグトーナメント一年生の部、優勝は更識・布仏ペア!!」
観客が(主に悲しみで)沸き、崩れ落ちる。
理由はなんとなくわかる。たぶん賭けに負けたからだろう。
「誰がこんなことを予測したのか。専用機と訓練機のペアということであまり重要視されていなかったこの二人が優勝しました! 桂木君から見て二人のどこが勝敗を分けたと思いますか?」
「やはり先制技が決まったことだろう。むしろあの攻撃をかわせなかった時点で織斑とデュノアは負けていた。連携の連度で言えば更識・布仏ペアが勝っていたと思う」
「なるほど。つまり織斑・デュノアペアの連度が高ければまだ勝機は―――」
「ないな」
そう断言すると黛は汗をかく。
「桂木君、ありがとうございます。さて、これにて決勝は終了です。みなさん、優勝した更識・布仏ペアに、そして準優勝の織斑・デュノアペアに惜しみない拍手を!!」
俺たち二人はマイクのスイッチを切った。
「さて、俺の分をもらおうか」
「……はい」
内心織斑とデュノアに賭けていた奴らを嘲笑いながら、俺は割り振られる賞金を黛から受け取った。
ということで実況席で解説として座る主人公