IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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#35 常識外のISバトル

 そこはとても古い屋敷であり、ところどころ修正が入れられている。

 座敷間には老人と高校生くらいの女の子が座っており、似てはいないがどう見ても祖父と孫が一緒にいる状態だろう。

 二人は将棋盤を間に挟んでいたが、どちらもテレビに夢中だった。

 

「ところで重治(しげはる)よ」

「何だ、陽子(ようこ)

「主はいつになったらこの用紙に判を押してくれるのじゃ?」

 

 陽子と呼ばれた女の子は爺言葉を話しながら『嫁譲渡認可証』と書かれた用紙を見せる。

 そこには『桂木悠夜が18歳になりしだい、更識楯無ならびに簪と結婚させる』という風体なことを書かれていた。

 

「わしは四月からここに篭っておぬしの娘二人に縁談の話を持ってきてやっているというのに、判を押せい!」

「誰がお前の孫ごときに可愛い孫を二人も出すか!」

 

 そう。桂木悠夜の祖母で唯一の後ろ盾ともなれる桂木陽子は、四月から今いる家―――更識邸に入り浸っているのだ。

 

「大体、お前が来てからというもの私たちの隠居生活を脅かしておいて、何が縁談だ!」

「む~。晴美(はるみ)ぃ~、重治が怒っておるので助けてくんろ~」

 

 たまたま持ってきた若い女性に駄々をこねる。

 

「ごめんなさい陽子ちゃん。私も二人いっぺんはさすがに困るわ」

 

 そう丁寧に答える更識晴美。彼女はこう見えて重治と年は二、三しかかわらず、陽子は高校生くらいに見えるが十蔵と重治と同い年だったりする。かといって二人が何か怪しいクスリを飲んだわけではないが。

 

「じゃあ、もう一人子供を生んでくれぬか? そやつには悠夜に惚れるように催眠術をおくでの」

「陽子ちゃん、毒薬はいかが?」

 

 そう言って晴美は陽子の麦茶に毒薬を入れる。するとその毒薬は爆発した。

 

「さすがは高名な薬師使いじゃのう」

「今は爆師ともしても活躍中よ」

 

 そう言って周りを拭き始める。

 

「むぅ。こうなった重治、ワシと戦って勝った方がなんでも言うことを聞くというのはどうじゃ?」

「陽子。それを本気で言っているのか? そんなことをしたら私の家が崩壊するだろう」

 

 すると陽子は駄々をこね始める。それが更識邸での最近の日常だ。

 そして更識重治、桂木陽子の二人は轡木十蔵とならび、世界では「日本三大交戦不許可人物」と呼ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これまでの戦績では、鈴音とセシリアは専用機でのタッグだからか圧倒的な勝利を修めてきた。だが簪と本音は違い、簪が足を引っ張る形で辛勝を重ねていた。

 

「鈴さん!」

 

 試合開始と同時にセシリアはビットを展開し、鈴音は前にいる本音に向かって突撃する。まずは訓練機である打鉄を使用している本音を潰す作戦に出た。鈴音が突撃することでビットで崩した体勢から畳み掛ける作戦である。

 

「すれ~どげるみる~」

 

 未来から来た青い狸が不思議道具を出す時の効果音が聞こえるかのようなテンションで本音は以前悠夜が使っていた大型盾を展開した。レーザーは防がれ、鈴音の近接攻撃すらも防御される。

 

「かんちゃん!」

 

 後方に待機していた簪が上昇、そして二つの荷電粒子砲《春雷》、8×6連装ミサイルランチャー《山嵐》、二対の高出力ビームライフル《ブリッツ》一斉射撃を行う。

 鈴音とセシリアはその場から離脱する。そしてセシリアは《スターライトMk-Ⅲ》で簪を撃った。

 

「射撃戦では負けませんわ!」

「……数なら私が上」

 

 簪は回避し、一丁はセシリアに、そしてもう一丁は鈴音と本音の間に撃つ。

 突然のことで鈴音と本音は驚くが、先に回るように展開していた《葵》で攻撃する。

 

「やるわね、でも―――」

「いっけぇ!!」

 

 本音はロケットランチャーを二つだし、文字通りぶっ放す。

 鈴音はとっさに龍砲でそれらを破壊するが、本音は爆風に突っ込んで大型ハンマー《ミョルニル》で鈴音の左の龍砲を潰した。

 

「そんな、龍砲が―――」

 

 瞬間、簪から放たれた攻撃が右の龍砲を貫いた。

 

「まだよ、まだアタシは―――」

「まだまだいっくよ~。せーの!」

 

 打鉄の両腕が装甲が覆われ、大型クローが展開される。

 

「え? 何、それ………」

 

 本音はそれを前にしてぐるぐると回りながら攻撃する。だが鈴音は回避し、がら空きになっている背中に向かって連結させた《双天牙月》投げ飛ばした。

 

「ところがギッチョン!!」

 

 本音は壁に着地すると同時に大型クローのサイドに二基ずつブースターが展開された。

 

「クロ-ブーストナッコォッ!!」

 

 さっきまでの緩い口調ではなく、本気で叫ぶ本音。その状況はクラスメイトにとって意外だった。

 飛んでいった大型クローは爪と爪の間で刃を受け止め、そのまま壁にぶつかって爆散した。

 

(……やっぱり、本音の攻撃は読みにくいわ)

 

 少なくともISの常識を逸脱している―――そう思わざる得なかった鈴音。

 実際残っている武装は、切り札を除いて腕部に付いている拡散仕様の龍砲ぐらいしかない。

 

(でも、ここで頑張らないと専用機剥奪は間違いないかもしれないわね)

 

 専用機が相手ならまだ敗北しても余裕はあるが、今は公式試合で相手は訓練機。鈴音のプライドも含めて負けるわけにはいかない。

 

「……展開、《火尖槍(かせんそう)》」

 

 鈴音がそう言うと右手に炎が現れ、それが徐々に槍状になっていく。

 そして炎が飛んでいき、一本の槍が姿を現れた。

 

「行くわよ、本音!」

 

 まるで持ち主の心を表すかのように先端が燃え始め、炎が宿る。

 本音は《葵》を抜いて応戦した。

 

 一方その頃、セシリアは一方的に簪に追い込まれていた。

 

(………この方の実力、並みの代表候補生ではありませんわ)

 

 すべてのビットはすぐに破壊され、セシリアに残されているのはスターライトと近接用の武装《インターセプター》のみ。簪の武装は健在だった。

 

(ですが、ここで諦めたら―――)

 

 途端にセシリアは思考を中断させられた。

 簪がいきなり突進してきてセシリアが持つスターライトを蹴り飛ばした。

 

「くっ! インターセプター!!」

 

 ―――なりふり構っている場合じゃない

 

 初心者用の展開方法を代表候補生が行うのは恥ずかしいことだったが、それでも突撃する簪を止めるのはこの方法しかなかった。

 簪は武装をすべてしまっており、展開する様子もない。

 

 ―――いけますわ!

 

 セシリアはこの時、内心彼女をバカにしていた。いくら自分と相手に実力の差があろうとも、武装なしで突撃するのは間違っていると。

 

 ―――だが、すぐにそれが間違いだということに気付く

 

「―――リストブレード、オープン」

 

 武風の両手首部分の装甲から銀色の刃が生える。そしてそれが折りたたまれた刃は前を向き、右拳が繰り出された瞬間にインターセプターが折れた。

 

「す、スターライ―――」

「無駄!」

 

 二撃、三撃と攻撃が繰り返され、セシリアはただ防ぎ続ける。だが装甲が突き出される拳で徐々に抉られ始め、次第に防御力が下がっていった。

 

「お、おも―――」

「まだまだぁッ!!」

 

 観客席にいる四組の人間が自分たちのクラス代表を見て驚いていた。普段は大人しい人が、あそこまで遠慮なく人を攻撃できるのかと。

 

「フットブレード、オープン」

「ま、まだ―――」

 

 蹴りすらも加わり、徐々にシールドエネルギーとセシリアの精神をガリガリという擬音の如く削り取っていく簪。その瞬間、セシリアの前から姿を消した。

 やっと止んだこと、そしてシールドエネルギーがまだ残っていることに安堵したセシリア。

 

「セシリア、後ろ!!」

 

 本音を倒し、セシリアの援護へ行こうとしていた鈴音が叫ぶ。セシリアが後ろを向いた時には既に手遅れ。

 

「リミット解除」

 

 簪の無慈悲な言葉が出て、掌からエネルギー弾が拡散状態で発射された時、セシリアは吹き飛ばされて鈴音は巻き込まれた。

 二人は壁に激突した。

 その間に簪は戦闘不能になった本音のところへ降りる。

 

「本音、大丈夫?」

「だいじょうぶ~。でも負けちゃったぁ~」

「…相手は専用機持ち。だから問題ない」

 

 そう言った簪は夢現を展開し、少し進んで刃を地面に刺す。

 深く、柄すらも刺して一思いに抜く。夢現とは比較できないほど大きな刃が現れ、簪が上へ切り上げたと同時にセシリアはマトモに食らって戦闘不能、鈴音は火尖槍で受け止めてなんとか戦闘不能は免れていた。

 

「奥儀……加速重力突斬!」

 

 武風の全スラスターをフル稼働させ、鈴音に刃を文字通り叩き付けた。

 その瞬間、簪と本音の勝利と悠夜の賭博の一人勝ちが決まった。

 

 一方、一人勝ちした男は―――

 

「ちょっと求婚―――じゃなかった、対戦申し込んでくる!」

「いや、冗談はほどほどに―――」

 

 ―――本気だ

 

 目がキラキラと輝く現象を目の前にして楯無は行こうとしていた悠夜を咄嗟に気絶させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にかその部屋にはたくさんの人が存在し、全員がその対戦の結果に呆然としていた。

 ただ唯一陽子だけは荷造りしており、出て行こうとするのを見て重治が止める。

 

「待て陽子、何をする気だ」

「察しが良いのう。だが、ワシの暴走はお主如きに止められるものか!」

 

 ある日の昼下がり、簪・本音ペアが巻き起こした突然の嵐にここを含め各国が持っていた印象がガラッと変わった。もっともこの二人―――特に陽子には関係ないことで、

 

「さぁ決めろ重治! 自分の孫二人をワシのおもちゃにされるか、それともワシの孫の嫁にするか!」

「どっちも無理だと言っているだろ!!」

「……というか俺や本人らの意思は完全に無視なのかよ」

「まぁまぁ茂樹、陽子ちゃんは昔からああだから」

「って母さんも何で爆弾を持ってるの!? というか従者が何で既にいないの?! 仕事しろよお前ら!!」

 

 更識16代目当主の茂樹の悲痛な叫びが、空へこだました。


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