フランス某所。そこは決して大きくはないが、その家主にとっては城と言っても過言ではなかった。
現在そこにはリゼットとジュールの他に―――誰もが悠夜たちと同い年が前後ぐらいの若さを持つ男女が並んでいた。
―――ガチャッ
ドアが急に開け放たれ、全員がそっちの方に視線を向けるとリゼットとジュール以外の人間は入ってきた男に向かって敬礼をした。
「休め」
すると全員が敬礼を解き、休む。
「ちゃんと教育を施せているようですわね」
「そうでもないですが。それと、これが例のものです」
そう言って男は持ってきていたスーツケースをリゼットの前にある机に置く。
中身を見たリゼットは嫌な顔をしてすぐに閉じる。男からしても顔色は悪くなる一方だった。
「これで結構ですわ。ジュール、彼女をここに」
「……了解」
隣室へと移動するジュール。出てきた時には一人の女性を連れて来た。
「彼女の治療をお願いしますわ。今、彼女の精神状態は不安定ですの」
「……なるほど。これは確かに厄介ですね」
一目見てわかったのか、その男は女性を真剣な眼差しで見る。
「わかりました。レイ、彼女を島へ運んでくれ」
「了解」
レイと呼ばれた金髪ロングで蒼い瞳をしている女性は精神状態が不安定な女性の手を取り、引いて歩く。
ドアを出るところまで見届けたその場にいる全員は何事もなかったかのように姿勢を正す。
「で、作戦はいつ決行する予定ですか?」
「それはもう決まっていますわ。決行は学年別トーナメント終了時、祭りが終了した辺りにと」
「そうですね。その時には一安心している頃合でしょうから」
その男性は笑い、リゼットもそれに釣られて笑みを作る。
「では、サーバスさん。それまでの間、色々とよろしくお願いしますわ」
「こちらこそ、リゼット・デュノア嬢。我々ハイドはあなたの味方ですから」
サーバスと呼ばれた20代の男はそう答え、二人は握手を交わすのだった。
■■■
学年別トーナメントが間近に迫った時に釈放された俺に対するいじめは過激になった。
呼び出されるのは当たり前。行ったら行ったらでリンチされそうになったので逃げるを繰り返すの毎日だった。謝らない俺も悪いと思うが、正直部外者なのにそこまでする必要はないと思う。
そしてラウラ・ボーデヴィッヒの隣に座っているからすぐに暗殺するのかと思っていたが、どういうことかそんなことはなかった。ただ逆に観察されている気がしているが、気のせいということにしておこう。
ちなみに織斑との関係だが、姉から「あれも作戦だ」と説明されていたらしく、今では普通に接してくる。どうせだったら嫌ってくれれば良かったのに。
そしてデュノアの件だが、あれは一旦忘れることになった。
学年別トーナメントがあるし、どうやら少しやばくなってきているようだ。そこは普通なら意地でも関わろうとするが、生憎俺はそんな主人公気質は持っていない。手を下すのは嫌だが、楯無なら例え手が血で汚れていようと受け入れ―――
―――ガンッ!!
「え? どうしたの?」
「何だ何だ!?」
着替えている途中だったから、織斑とデュノアがこっちに様子を―――あれ? 着替えているの俺だけ?
と思ったけどそうではないようで、織斑が上半身裸なので正直近くに来て欲しくない。
「気にするな。ちょっと頭がこんがらがったから整理をしただけだ」
そう答えると二人は心配そうにこっちを見たが、織斑が上半身裸なので顔を逸らす。
「そうか? ならいいけど」
「でも顔、赤くなってるよ?」
そう言って既にISスーツに着替え終えているデュノアは俺の額に手を当てるが、俺は反射的にそれを避ける。
「悪いデュノア。それ以上近づいたら蹴り飛ばす」
「え?」
「なんというか、他人に気安く障られたくないというか……今はないけど一時期デュノアに一緒に着替えることを強制していた織斑を想像してもらえると……」
「……ごめん」
理解してくれたのか、気まずそうに顔を逸らすデュノア。やっぱりイヤだったんだな。
しかし今は別々に着替えているので、おそらく既に気付いている。
そして何故俺たち三人が着替えているのかというと、今日は学年別トーナメントだからだ。
「しかし、すごいなこりゃ………」
未だに上半身裸な織斑は、更衣室に移る観客席に映る人間を見ていた。俺もそこに視線を移す。
(……やっぱりいたか)
俺の義母―――桂木
「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。一年には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者には早速チェックが入ると思うよ」
「………まぁ、俺たち三人は既にされているだろうがな」
「ふーん、ご苦労なことだ」
どうやら織斑にとってどうでもいいらしい。
「そうだ悠夜。ラウラは俺に任せてくれないか」
織斑が急にそんなことを言い出した。
「悠夜の気持ちもわかる。けど、アイツとは俺が決着をつけないといけないと思うんだ」
と勝手に言い続ける織斑。正直俺はあのことはすぐに忘れたいのでどうでも良かったが、
「気が向いたらな」
「でも、俺はアイツと―――」
「お前らの間に何があるかとか、俺には関係ないことだ。そっちの事情があるからといって「はい、どうぞ」と言って譲ってもらえるとか思いすぎなんだよ」
それにもう攻略法は考えている。そしてこれは俺にしかできない攻略法だからな。試してみたいと思うのは当然だ。
ちなみに黒鋼は既に修理は終わって万全な状態だ。これで負けたら間違いなく俺の実力不足でしかない。
後ろで何か二人が話しているのを聞かずに連絡が来ているかを確認すると、俺の抽選結果が楯無から個人的に知らされていた。……職権乱用過ぎやしませんか、会長。
(Aブロックの第一試合、ね)
最初なので俺は先に荷物を纏めようとすると、
「あ、対戦相手が決まったみたい」
デュノアがそんなことを言ったので俺は再びモニターに視線を移す。
するとそこには思いがけない名前が書かれていた。
『Aブロック 第一試合
織斑一夏 VS ラウラ・ボーデヴィッヒ
シャルル・デュノア 桂木悠夜 』
一試合目で男性操縦者が三人が出るという、絶対にこれは何か仕組んだだろうと思いたくなるような状況だ。―――っていうか、
「いつの間にタッグ式に変わってたんだよ!?」
「え? 知らなかったの?」
「知るわけないだろ! 俺はずっと牢屋にいたんだから!」
すると二人がかわいそうな目で見てきた。泣ける。
(って、こんなことをしている場合じゃない)
他の面子を探す。更識簪は布仏と組んでいるようだ。そして凰はオルコット、篠ノ之は鷹月と組んでいる。ちなみに篠ノ之と鷹月は次で当たる。
「何はともあれ、よろしくな」
「………ま、精々頑張れよ」
そう言って俺は荷物を持って先に移動する。
(となれば戦術を考えなけれならないな)
一足早くピットに移動し、武装を確認する。
(…………つまりあれか? これは俺の土壇場だから暴れちゃえということか?)
たった一つ、中でも異色な武装を一つ発見してしまった俺は、誰かに状況を説明して欲しかった。
(轡木さん、マジパネエッス)
そんなことを思っていると、ラウラ・ボーデヴィッヒが入ってきた。
「桂木悠夜。貴様に話がある」
「……な、何かな?」
やべぇ。冷静になったら現状では生身だと適わないことに気付いた。
少し怯えていると、ボーデヴィッヒは暴行ではなくきちんと口で説明してきた。
「あの二人は私が倒す。貴様は手を出すな」
「……え?」
まさかの言葉に俺を驚きを隠せなかった。
(俺に対して小言を言うのかと思った………)
そんなことを考えていると、ボーデヴィッヒは返事を待っていた。
「何か不服か?」
「いや、別に。どうぞどうぞ。楽して勝てるならそれに越したことはない」
そう答えるとボーデヴィッヒは「そうか」と答え機体の調整を始める。
楽に勝てるならそれでいい。精々頑張ってくれよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
■■■
「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」
「そりゃあなによりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」
好戦的な二人がそう言い合う。俺はあの後ボーデヴィッヒに指示されたとおり手を出さずに後ろに下る。
そしてカウントダウンが開始され、それが0になると同時に白式が飛び出す。
「叩きのめす」
ボーデヴィッヒはそう言うと同時に手を正面に出す。すると瞬時加速で突っ込んだらしい織斑の動きを止めた。
「開幕直後の先制攻撃か。わかりやすいな」
「……そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」
「ならば私が次にどうするかもわかるだろう」
そう言ってボーデヴィッヒは大型カノンを起動させ、織斑に標準を定める。だがデュノアが上からボーデヴィッヒを狙って攻撃した。
すぐにAICを解いたボーデヴィッヒはそこから離脱、同時にワイヤーブレードを飛ばして織斑を牽制する。
(さて、俺は俺で手を打っておきますか)
そう言って轡木研究所印の俺向きの特注武器を地面を潜らせた。
そして予備のシールドを周りに展開して流れ弾を警戒しておき、時を待つ。当然ながら周りは俺のことを批判し始めた。
(しっかし、ボーデヴィッヒはよく一人で二人を相手にするな)
ISだったら自信がないが、考えてみれば俺もそれなりに場数を踏んできたな。………ゲームでな。
というか何なんだよあれ。いくら俺の能力をできるだけ下げない為とはいえ、難易度ハード……というかルナティックだろ。出てきた瞬間に集中砲火、出たときには既に手遅れ、基地から残存している機体を回収し、離脱しろだなんて―――泣ける。しかも量産型とはいえ三十倍の軍勢だぞ。ディザスターパックでなんとか勝てたけど、ゲームとしてはくそゲーレベルだ。まぁ、俺のために改悪してくれているので大きくは言えないが。
デュノアと目が合った。どうやら先に潰そうとこっちを見たが、シールドを出して丸まって待機しているので攻撃する様子はないと思ったのだろう。それに俺を単独で倒すのは難しいと見たか、織斑の加勢をする。
(そうだ、それでいいんだ)
周りからどれだけ批判されようが、俺の
モニターには潜らせた例の物が順調に移動していることが表示されている。それを確認した俺はより落ち着いて時を待つ。
「これで決めるっ!」
織斑が零落白夜を発動させ、デュノアに援護されつつボーデヴィッヒに近づく。
「触れれば一撃でシールドエネルギーを消し去ると聞いているが…当たらなければどうということはない」
ボーデヴィッヒはそう言って俺のつぼを刺激する。AICによる拘束を行うボーデヴィッヒだが、織斑はそれを上手く避ける。かなり上達しているようだ。
さらにワイヤーも交えるが、その時にデュノアが援護に入る。
そして織斑は射程圏内にボーデヴィッヒを入れ、点の攻撃を仕掛けるがボーデヴィッヒは織斑の体に焦点を合わせたようだ―――が、デュノアがショットガンでレールカノンを爆散させた。そして織斑は自由になり、再び攻撃を仕掛けようとするがナイフが飛んで妨害した。―――その時だった。
「懐、もらうよ!」
デュノアが瞬時加速を使い、接近した。
「なっ……! 瞬時加速だと!? データにないぞ!」
「今初めて使ったからね」
「な、なに……? まさか、この戦いで覚えたというのか!?」
だとしても停止結界の前では無力!―――そう続けるボーデヴィッヒだがすぐに顔を青くする。
おそらく向こうから見えたのだろう。デュノアがシールドをパージし、ロマンが露見した。
―――パイルバンカー
(決まったな)
おそらくここでボーデヴィッヒを倒し、次に俺を倒すのだろう。二人の実力なら今の俺は余裕で倒せる。織斑はともかく、まだ何もしていないデュノアに対しては何の恨みもないのだから。
おそらく織斑はもちろん、織斑しか眼中になかったボーデヴィッヒ、そして仮にデュノアはスパイだとしても俺のことを良くは調べなかったはずだ。おそらくもし女だとバレても体を使えば簡単に落ちると思っているからだろう。そして周りの女たちも同じなはずだ。ただ、俺が男だから攻撃する。反吐が出ると同時に俺は感謝していた。俺が如何に更識簪を大事に思っているのか理解していないのだから。だからボーデヴィッヒは近くにいるということで彼女を襲ったんだろう。
更識簪を襲った場合、俺にもある種の怒りが湧く。確かに俺はライバル「kan-zan」としても見ているが、そもそも更識簪の容姿はレベルが高いのだ。姉が子供っぽさが少し残るが美人に分類されるならば、妹はどこか大人びている美少女だろう。はっきり言って姉妹諸共持って帰りたいのが本音―――そう、本音なのだ。
そして俺は自分で驚いているが、物凄く独占欲が強いようだ。
―――お前の判断は決して間違いじゃなかったさ、デュノア
確かに俺は後で戦った方が効率がいい。ボーデヴィッヒの方を先に倒した方が後々便利だし、ボーデヴィッヒの方が厄介で俺の場合はあの状態じゃない限り問題ないと判断したんだろう。
―――だが、結果だけを見ればお前の判断は間違いなんだよ
俺は持っていたスイッチのボタンを押す。
するとボーデヴィッヒとデュノア、その真下にさっき放った移動型武装―――いや、移動型機雷《ムーブ・ボム》が姿を現して大爆発を起こした。
とうとう一章のときと同じ話数まで到達してしまいましたが、もう少し続きます