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それは千冬を妄信するラウラにとって信じがたい言葉だった。
(教官が、そこらにいる有象無象と同じだと…!!)
ラウラにとって今の学生は程度の低い人間としか思っていない。だが悠夜はそれ以上の―――つまり程度の低い人間以下と言った様なものであり、ラウラの怒りが火だとしたらそこに油とガソリンをぶちまけたようなものだ。
だからラウラはわざと簪を襲った。テスト中だとか言っていたが、ラウラにとってはそんなことなどどうでもいい。たださっきの言葉を撤回させるのが目的だ。そして、同時に織斑一夏をおびき出す餌でしかない。
(しかし、まったく口ほどにもなかった)
あれだけのことを言ったのだから少しはマシかと思ったが、そうでもない。期待はずれもいいところだと言わんばかりに倒れている悠夜をワイヤーブレードで掴み上げる。
(何故こいつはメガネをしているんだ?)
そのことに気付いたラウラはその疑問を浮かべる。通常、ハイパーセンサーがあれば自動的に視覚補正が働くので目が悪くても必要ないはずだ。聞いた話ではそれを一時的に無効するものがあると聞くが、それ対策だろう。
そう判断したラウラだが同時にムカつき悠夜をひたすら殴る。
少しして観客が入りだし、全員がその惨状を見て悠夜がやられているのを見て歓喜し始めた。
(……………)
一発、また一発と気絶はしているがIS装甲が展開されている状態なので殴る。管制室にいる虚から離すように呼びかけられていたが今のラウラにとって織斑千冬とその弟以外の興味はなく無視しし続けた。
ちなみに打鉄弐式は既にいない。簪は間に入ったときにすぐに周りの指示に従って逃げたのだ。
(少しは骨があると思ったがな)
そもそもラウラは知らないことだが、打鉄弐式は機体だけは完成したが武装はまだ積んでいない段階だった。現在武装すべては研究所の方で開発されており、機体のテストだけを先にするつもりだった。もうすぐ武装も完成するし、明日か明後日にすればいいと考えていたから。
「―――その手を離せ!!!」
まるでヒーローのように一夏が観客席から飛び出してくる。当然だが観客席に張られているシールドバリア白式の零落白夜は破壊されており、一夏に続きシャルルとセシリアが飛び出してきた。
「オルコットさん、一夏の援護を。僕は彼を回収するよ」
「わかりましたわ」
するとラウラの機体『シュヴァルツェア・レーゲン』が突然ラウラが狙われていることを知らせる。
途端にラウラの機体が攻撃され、一夏を巻き込むつもりなのか見えない砲弾をひたすら撃つ鈴音。その攻撃は徐々に一夏にも当たり始め、それを妨害したのはセシリアだった。
『何をやってますの、凰さん。このまま一夏さんも潰すつもりですか?』
『日頃の恨みとか含めたらってのもあるけどね。デュノア、悠夜の回収は?』
『バッチリだよ』
一夏とラウラを撃ったのはそのための煙幕代わりとしてであり、鈴音は攻撃を中断した。
「な、なんだ!? くそっ、体がっ……!」
「やはり敵ではないな。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、貴様も有象無象の一つでしかない。―――消えろ」
右肩の大型カノンが一夏に向けら得れる。その瞬間、シャルルが
すぐさまラウラは標的を一夏からシャルルへと変え、ワイヤーブレードを射出して固定する。
「死ねぇッ!!」
シュバルツェア・レーゲンの手首からエネルギー状の剣が現れ、それをシャルルに向かって叩きつけようとした。―――だが、
―――カーンッ
乾いた、それでいて重量のある力がレーゲンの脚部装甲を響かせ、ラウラ自身にも振動を伝えさせる。その異常を察したラウラはすぐに下を向く。
そこには近接ブレードを
「きょ、教官!?」
「織斑先生、だ。いい加減にしろ貴様ら。模擬戦は一応勝手に行っていいことになっているが、シールドバリアの破壊はやりすぎだ。なぁ、織斑」
その声の低さで一瞬で顔が真っ青になった一夏。家で味わったことがある恐怖を思い出したのだろう。今更になって(彼にとっての)友人を助けるために飛び出したことを後悔しそうになったが、すぐに平静を取り戻した。
「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。観客席にいる奴らは今すぐ解さ―――」
野太い銃音が響き渡り、千冬の言葉をさえぎった。
シャルルは千冬のカバーに入ったのが見えたからか、ラウラは前方にシュヴァルツェア・レーゲンの第三世代兵器『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』を発動させて飛んでくる物を止めた。さっき悠夜の動きを止めたのもこの力のおかげである。
「きっさまぁッ!!」
シャルルに抱えられた千冬が近くから離れたことを端目に捉えてからラウラは上へ飛ぶ。その時には既に観客は驚いている最中だろう。何故ならさっきまでアリーナの端で倒れていたはずの悠夜が上空で《バイル・ゲヴェール》を構えていたからだ。
「貴様は殺す。この私がな―――」
「へぇ、やれるものならやってみろよ―――クズガキ」
《バイル・ゲヴェール》を収納した悠夜はビームクローを展開し、同時に黒鋼の
すると先程とは動きが変わった。
(何だあれは)
急に悠夜の周りをくるくると回り始める物体が一つ現れ、先程からこっちを見ている気がしたのでラウラはワイヤーブレードでそれを壊しにかかる。
だがその物体は悠夜の後ろに回りこむことで回避し、変わりにビームクローがワイヤーを切り裂いた。
「!?」
「おおっと」
するとレーゲンの肩から爆発が起こる。レーゲンのシールドエネルギーが減り始めた。
「一つ聞きたいんだけどさ、何で
黒鋼の
「貴様をそして貴様を餌に織斑一夏を釣るためだ。それがどうした」
「……へぇ」
途端に悠夜の顔はゆがみ、笑みが浮かぶ。
(何だ……一体こいつは何を笑っている)
ラウラの思考は停止し始めていた。
そもそもあの時の行動からして違いすぎる。桂木悠夜という男は口だけの存在でしかないはずだ。どうせ専用機も「男だから」という理由で手に入れたのだろう―――とラウラは噂から推測していた。現に割って入ってきた時は大したことがなかったのだから。
「やっぱり織斑千冬はクズだな……うん、やっぱりクズだ」
それを聞いたラウラはすぐさま悠夜を落とそうとする。だがその間を白式を纏った一夏が入った。
「悠夜ッ!! その言葉を撤回しろ!!」
悠夜の言葉で切れたと思ったラウラはすぐに悠夜に狙いを定める。たとえ一夏を巻き込めたなかったとしても意表を突くことができるからだ。
「何で? その女が織斑千冬をクズだって言ってるようなものなんだからクズなのは仕方がないでしょ? それに、お前が少し言い間違えたからってすぐ殴るんだし」
「そ、それは俺がちゃんと言わないから―――」
「ということは織斑の家族がクズなんだ」
笑い飛ばす悠夜。だが一夏にとってその言葉だけで十分だった。
一夏は零落白夜を発動させ、怒りに任せて悠夜に切りかかったが簡単に回避された。悠夜にとってその行動は予想通りだった。
そう。どっちでも釣れるようにあえて悠夜は千冬を罵倒したのである。
「あっれれぇ。いきなり切りかかるとか人としておかしいと思うけど~?」
「……撤回しろ」
また振るうがそれも悠夜にいとも容易く回避される。
「何を?」
「家族を侮辱したことを―――撤回しろって言ったんだよ!!」
一夏が三度切りかかった瞬間、レーゲンからロックオン機能が備わっている《ラケーテン・メッサー》を射出。待ってましたと悠夜は一夏を盾にしてそこから離脱した。
『どうして俺がお前のことを「卑怯者」呼ばわりしなかったか教えてやろうか』
黒鋼からのプライベート・チャネルを受信したレーゲン。後ろから迫ってくるかのように感じたラウラは慌てて後ろを振り向くがそこには誰もいない。当たり前だ。悠夜はナイフ郡を抜けて前から接近しているのだから。
『お前がしたことは確かに卑怯だ。だけど―――俺には遠く及ばない』
接近する悠夜に対してラウラはプラズマ手刀を展開して迎え撃つが、その前にいなされた。
(一体どうなっている!?)
ラウラから見て右側が弾かれたため、反射的に左を出して攻撃するが悠夜はわかりってきたかのようにそれをいなして蹴りで顎を攻撃する。
「このッ!!」
だがまたいなされ、悠夜はまるで遊んでいるかのように距離を取った。
「遅い遅い。そしてつまらない」
「戯言を!!」
だがどれだけ攻撃しても悠夜は回避し、いなす。まるでこちらの動きがすべて見切られているかのような錯覚すら覚え始めてくるラウラ。
そして今度はラウラの死角からレーザーが飛び、徐々に減らしていく。
「遅すぎるんだよ、お前の動きは」
ワイヤーブレードを射出し悠夜の動きを牽制。さらに距離を取ったことでラウラはAICを発動して悠夜の動きを止める―――はずだった。
だが悠夜は奇妙な動きをしたかと思ったらAICに掴まることなく移動する。
「これが黒鋼の真の第三世代兵器『サードアイ・システム』の能力だよ。どんな見えないものも見え、相手の動きから未来を予測し、情報を送る」
―――だからか
あの奇妙な動きも、そして自分の攻撃が見切られたのも―――そのシステムが原因なのか―――理解したラウラは舌打ちをし、主砲を壊され、ワイヤーブレードもすべて壊されたことを確認して自分の負けを悟った。
―――その時だった。
―――ガシャシャシャシャンッッ!!
急にアリーナの隔壁、そしてピットに通じる隔壁すらも閉じた。
その異様な光景を目の当たりにした二人は動きを止めた―――その瞬間に悠夜と黒鋼は吹き飛んだ。
「―――まったく、いけないですねぇ」
ラウラの耳には老人男性の声が聞こえる。
(何故ここに?)
普通、ISがいるアリーナ内に男が入ってくることなんてありえない。それが一般常識となっている今、千冬を除いてそのようなことをするはずがないと思ったラウラにとってその男の行動は愚行ともいえるだろう。
「何をしている。死にたいのか?」
「それは織斑先生にも言うべき言葉ですよ、ラウラ・ボーデヴィッヒさん」
「教官は貴様より弱くない!!」
我を忘れて叫ぶラウラ。だがその男―――轡木十蔵は否定した。
「いいえ。弱いですよ。IS無しではあなたたち女は一人を除けば私ともう一人に勝つことはまずできない」
言い切った十蔵はいつの間にか手にした近接ブレード《葵》でレーゲンの脚部装甲を叩く。するとラウラの耳に爆音が響き、すぐに気絶した。
「今のは
研究員たちによってシールドバリア以外の機能を停止させられたアリーナ内で、轡木十蔵は聞こえないことをわかっていながら粉々になるブレードを見つつ説明するのだった。
■■■
話は少し前に遡る。
十蔵は用務員の仕事をしていると虚から簪がラウラに襲われたこと、そして悠夜が止めようとしたが返り討ちに遭い、さらには一年の専用機持ちがシールドバリアを破壊して乱入したことを聞いた後、慌てた様子で報告があった。
―――桂木悠夜君が生身の状態の織斑先生がいる中で発砲した
むしろ十蔵にとって「どうして生身でいたのか」が気になったが、悠夜が発砲したということは十中八九以前のように暴走しているのだろう。
それを察した十蔵は近くにいたことからすぐに行けることを伝え、すぐに悠夜とラウラ以外の戦闘員を退避させるように指示を送る。
そして十蔵が着いた時には悠夜が千冬を罵倒しており、ため息と笑いを同時に溢しつつも千冬にすぐに一夏を戻すことを指示し、自分も生身の状態でアリーナ内に入った。
「これが黒鋼の真の第三世代兵器『サードアイ・システム』の能力だよ。どんな見えないものも見え、相手の動きから未来を予測し、情報を送る」
その名前は悠夜のことを調べた時に知っていた十蔵はあの時悠夜が辛そうだった理由を察し、落ちている《葵》を回収。そして―――二人を気絶させたのだった。
ということでこんな形であの騒動を収束させました。
補足ですが、千冬のあれはただラウラに下に自分という異常を知らせる為にしたことです。轡木流の技というわけではありません。
もう後三話で一章の話数を越えますよ。自分で書いてて思ったんですが、長すぎますね。reizen自身が驚いています。
それとSRsのことの説明はいつか活動報告でアップします。