IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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#3 初心者が下す最低評価

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 どうやら今度は武装に関する講義らしい。織斑先生が教卓の前に立っている。

 個人的には武装関連は楽しみだったが、やることを忘れていたことに気付いたので今はそこまで乗り気じゃない。

 

(あ、また調べるのを忘れてた)

 

 結局、織斑千冬という女がどんな功績を残したのか調べないまま三時間目へと授業のコマが進んだ。

 

「と、その前に今度行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならないな」

 

 そういえばそんな行事が配布された資料の中に同封されていたな。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員家への出席……まぁ、委員長だ。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると、一年間変更はないからそのつもりでな」

 

 ………ところで、クラス対抗戦なのに代表者選出って何だ?

 普通に考えて「クラス対抗戦」ならばクラス総出での戦闘とかになると思うのだが、そういうわけではなく個人戦。何か裏でもありそうな予感がする。

 

「はいっ。織斑君を推薦します!」

 

 対抗戦という名前の裏にあると思われる本当の意味を考えていると、他のところでそんな声が上がった。

 

「私もそれが良いと思います」

 

 別のところでもそんな声が上がり、それを気に周りも賛同するかのような声を上げ始めた。

 

「やっぱり織斑君よね、イケメンだし」

「桂木はまぁ、正直見た目があれだしね」

「雰囲気的に向いてないだろうし」

 

 それ、本人の前で言うなよ。結構傷つくから。

 容赦なく俺に対して悪口を言う女たち。その根性はすごいと思うが、人としてどうかと思う。というか俺もそんな奴を友達としてはいりません。

 

「では候補者は織斑一夏……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」

 

 いや、それよりに先にやることがあるよね、織斑先生。

 話している奴らを会話を切る為に大きな声でそう言った織斑先生に、俺は内心で突っ込んだ。

 

「お、俺!?」

 

 所詮は内心だけで突っ込んだので話は続く。というか織斑って名前は生徒としてはこのクラスにはあの男しかいないと思うが。

 

「織斑、席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」

 

 立ち上がった弟に対して厳しく言う姉。

 

「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやるつもりは―――」

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものには拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

 

 いや、確かに言ったけど、流石にそれはないんじゃない? この学園の男の価値ってどれだけ低いんだよ。

 

「だったら俺は、桂木悠夜を推薦する!」

 

 すると織斑はあろうことか俺を推薦してきた。

 

(……何で、俺を推薦しやがった)

 

 普通に考えて素人がやっても勝ち目がないんですけど。まぁ、それは織斑にも言える事だが、それはそれ、これはこれだ。要は俺が関わらなければそれでいい。

 だから例え受け入れられないだろうが辞退する。

 

「先生、辞た―――」

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 反射的に俺は常備していたボイスレコーダーのスイッチを入れた。彼女がすぐに話を始めなかったのは机を叩いて立ち上がった時に痛かったからだと思う。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 まぁ、動かしたばかりの男がクラス代表の委員的仕事はともかく、戦闘云々をこなせるとは到底思えない。それに関しては同意するが、絶対に彼女の場合は「弱い男にさせるなど言語道断だ」だと思っているからに違いない。まったく、声の可愛さと見た目の美しさは一級品だというのに、言動から自分を台無しにするタイプみたいだ。しゃべり方と服装からは良いところの育ちみたいだが、いくらなんでもその思考はいかがなものだろうか。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいと言う理由で知識を持たない猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 いや、サーカスもすごいものだと思うけど。俺だけ? 俺がおかしいの? 

 というか島国云々はイギリス代表候補生の彼女には言えないと思う。極東なのは本初子午線からして正解だから仕方ないし、名前の響きがいいから好きだけど。知識を持たないという点はさすがに反論できないな。

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

 自分で自分が強いなど、よほど自分に自信がなければ言えないことだが、当然その言葉に対して不満を持つ人間もいる。さっきから何人かが彼女の演説に対して嫌悪感を示しているようだが、彼女はそのことに気付いていないのだろう。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

 と、オルコットの発言に対して織斑がそう言ったが、イギリスにだっておいしい料理はあるし、小説でも有名なシャーロック・ホームズとか有名なものがあったりするんだけどな。それとオルコットは代表候補生としてすぐに謝罪するべきだ。

 

(というか織斑に愛国心とかあったのかよ)

 

 そう思っていると織斑の顔は段々と青くなっている。どうやら反射的に言ったようで後悔しているみたいだ。。

 

「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

 その前に言ったことをイギリス人は既に忘れたようだ。

 

「決闘ですわ!」

 

 再び机を叩くオルコット。絶対に痛いんだろうけど、涙を流していないことからそうでもないようだ。

 

「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

 

 それをあっさりと了承する織斑。

 

(………というか、その決闘内容って明確にされていないよな?)

 

 そしてそれをさっきから提示せず、織斑は聞きもしない。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い―――いえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

 

 堂々と宣言する織斑だったが、ここであることに気付いたらしい。

 

「そう? まぁ何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

 

 どうやら彼女はISで勝負するみたいだ。本当に彼女は素人相手に実力を示せると思っているのだろうか? 流石に自分が実力者だと思うんだったら、すぐに控えた方がいい。

 

(それ以前に、素人相手にISで戦おうとするなよ……)

 

 哀れ織斑。善戦どころかまともに戦えるかすら怪しくなっている。

 

「ハンデはどれくらいつける」

 

 ところが織斑はそんなことを言い出した。

 

「あら、早速お願いかしら?」

「いや、俺がどのくらいハンデを付けたらいいのかなぁっと」

 

 すると一瞬で周囲にいた奴らが笑い始めた。それほど織斑の言ったことがおかしいようだ。

 

「お、織斑君、それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

「確かに織斑君や桂木はISを使えるかもしれないけど、それは言いすぎだよぉ」

 

 と本気で笑うクラスメイトたちに、言ったことを後悔する織斑。俺はその光景に対して疑問に思っていた。

 確かにISが出てきてから男は弱者として認識され、事実上腕力じゃ歯が立たない。男女間で戦争をやれば三時間で制圧できると、よく義母が言っていた。

 でも実際のところ、その目安自体が間違っている。

 男はそのことをよく知っているし、理解もしている。だからこそまずは技術者の反乱から始まるだろう。

 整備中は間違いなく操縦者はISから離れる。その時にコアを抜き取り、そこから離脱する際に手榴弾を投げる。

 システム上でハッキングして出られないようにするのもありだ。そこで睡眠ガスを入れて眠らせて閉じ込めることもできる。

 そしてこの教室を制圧するという行為なら容易だろう。

 まずはオルコットを撃ち殺す。教師二人はともかく、生徒たちは間違いなくその状況に追いついていないのだから恐怖で喚き叫ぶだけ。後はマシンガンで全員撃ち殺せば戦力は低下。そこから野次馬で見に来た奴らを手榴弾とかを投げてやったら何人かは死ぬ。

 素人でもこれだけ考え付くのだから、本職はもっと容易な方法で女たちを制圧できる可能性がある。もっとも俺が実行に移さないのは一介の学生にはそれ相応の道具が必要なこの作戦は実行が不可能なことと前科が付くことが怖いヘタレだからだ。

 

「……じゃあ、ハンデはいい」

「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデをつけなくて良いのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんてあなたはジョークセンスがおありのようですわね」

 

 さっきまでの激昂はどこへ行ったのか、オルコットは嘲笑の笑みを浮かべていた。

 

「ねー、織斑君。今からでも遅くないよ? オルコットさんに言って、ハンデつけてもらったら?」

「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデはなくていい」

「えー? それは代表候補生を舐めすぎだよ。それとも、知らないの?」

「………」

 

 そんな会話が前に方でされていたが、そう言っていた女はさっきオルコットの日本人を侮辱した時に怒っていた一人だと記憶していたのだがな。

 

「さて、話はまとまったな。勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、桂木はそれぞれ用意をしておくように」

「待ってください」

 

 すかさず俺はそこで止めた。

 

「何だ桂木」

「いや、何もクソもないでしょう。何で俺がその戦いに入れられているんですか?」

 

 決闘を申し込まれてないし、受けてもいない、ましてや参加すると言った覚えもない。いくら素人でも代表候補生の実力と自分の実力の差は理解しているからだ。

 

「さっき織斑に推薦されていただろう」

「確かに推薦はされましたが、俺は決闘には関係ありません」

 

 はっきりと否定するが、それでも、

 

「自薦他薦は問わないと言った。それにこれは決定事項だ。異論は認めん」

「だからって―――ああ、もういいです」

 

 授業が始まるが、もう既にそこに興味はない。あるのはクラスメイトと教員に対する嫌悪感と不信感、そしてこれから先上手くやれるかという不安だけだった。

 

(担任は女尊男卑、副担任は使えない。もう一人の男はゴミで、代表候補生に至っては女最高至上主義の蛆虫。クラスメイトは勘違いしかしていないクソビッチしかいないのかよ)

 

 何もできない自分が物凄く失礼で最低な評価を下したと思うけど、ここまででそう思うほどの材料が揃ったと思う。前途多難とは、こういうことを指すんだろうな。


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