IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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#29 その男に宿る本音と焦り

 更識簪の機体がもうすぐ完成すると日曜日に聞いた俺のテンションは少し上がっていた。自分で言うのもなんだが、俺はSRsではかなりのやり手で、最初は決勝でも大した相手ではないと思っていたんだが、これが意外にもやるってことで本気を出したら向こうも切り札を出した。最終的にはごり押しで勝てたが、次はそうは行かないだろう。こっちは手数の多さが武器となるが、向こうには実戦経験があるはずだ。

 

(予想以上に面白い勝負になりそうだな、これは)

 

 また俺のごり押しで勝つのか、それとも更識簪が持つ冷静な判断が勝負の鍵になるのか。どちらにしても、楯無並みに気を抜けないのは確かだろう。

 

(そういえば、あの噂はどこから出たものだろうか?)

 

 今日の朝、女たちがオルコットをも交えてしていた秘密の会話で、「優勝したら男子と付き合える」という意味がわからない話が出ていた。

 たぶんあれは篠ノ之のあの宣言から巡り巡ってなったものだと思う。というか聞かれたくなかったなら俺の近くでするなって話だよ。何で釘刺しに来る時に「言うじゃねえぞ、ゴミ」とか言われないといけないのかがわからない。

 

「何故こんなところで教師など!」

「やれやれ………」

 

 トイレに行っていたから来た道を戻っていると、聞きたくもない声が聞こえてきた。あれは確かボーデヴィッヒと織斑先生だ。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」

 

 全く持ってその通りだ。

 大体基本的に暴力か意味がわからない権力を振りかざすかしていない女に何の役目があるというのだろうか? ぶっちゃけ教えるならば生徒会長のほうがわかりやすい。

 しかし空気的に出て行けないのも事実だ。さっさと終わってくれないと思う。

 

「お願いです、教官。わがドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」

「ほう」

 

 まぁ、教師というより織斑先生はどこかで教官をしていた方が様になっていると思う。というか基本的に教師っていうのは生徒の寄り処だと思うんですけど。まだ山田先生のほうがいいかもしれないが、クラスメイトを黙らせることができるのも織斑先生だから困ったものである。

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません」

「何故だ?」

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低い者たちに教官が時間を割かれるなど―――」

「―――そこまでにしておけよ、小娘」「そこまでにしろやぺちゃパイ眼帯」

「―――何?」

 

 明らかに最後の言葉は織斑先生ではなくて俺に向けたものだと思う。さっきまで覇気のようなものを出していた織斑先生だが、俺の言葉がかぶさったからか一瞬で霧散した。

 

「貴様、話を聞いていたのか」

「聞かれたくないんだったら別の場所でやれよ。っていうかお前さ、何がそんなに偉そうなのか知らないけど―――お前もその一部でありアンタが無駄に尊敬するその教師はくっだらない思考の根源なんだが?」

 

 そこからのボーデヴィッヒの動きは早かった。

 素早く持っていたナイフを抜き、俺の首目掛けて振るう。

 

 ―――どうやらボーデヴィッヒは舐めすぎているようだ

 

 確かに俺は約二ヶ月前までは一般人だった。だが一般人の中でも特に逃げに優れているということを知らないらしい。

 当たる直前にボーデヴィッヒの手を払い、一気に間合いを取る。

 するとボーデヴィッヒの頭に出席簿が落ちる……どうして持っているのか気になった。

 

「いい加減しろ」

 

 殺気は抑えている方なのか、更識簪のあの恥ずかしい写真(もちろんすべて消去済み)を見た楯無よりかは怖くなかった。

 

「少し見ない間に偉くなったな。十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

「わ、私は……」

「それと無闇に一般人を襲うな。ここが軍施設なら銃殺刑だぞ」

 

 そう言われて俺を殺すつもりで睨みつけてくるボーデヴィッヒ。

 

「さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れよ」

 

 その言葉でボーデヴィッヒは早足で去っていく。

 

「待て桂木」

「………何ですか?」

 

 さっきあんなことを言った手前、正直この女とは一緒にいたくない。

 

「さっきの言葉はどういう意味だ」

 

 そう言われて俺はさっきの言葉を思い出す。この女のことと言ったらあれしかないだろう。

 

「そのままの意味でしかありませんが? あなたはこの学園に在籍している下らない女の同レベルかそれ以上に酷いと言っているんですよ」

 

 この女、自覚なかったのか? 俺はこの女があんな下らない決闘に巻き込んだ時点でそうだと思っている。それにこの女は勝手に巻き込んだ後にまともなアフターケアも何もしなかった。現に事件当日もその後も何かしたというわけではないらしい。

 そしてこの女が同類だという理由は他にもある。織斑を殴った件と俺にナイフを向けた件だ。

 理由はどうあれボーデヴィッヒは数少ない男性IS操縦者に暴力を振るい、最悪殺そうとした。退学は必須レベルのことを、あの女は何のお咎めもないのだ。それに―――

 

「そんなわけ―――」

「生徒に暴力を振るっておいて、それはないなんて言うなよ?」

 

 根本的に、教師の分際で生徒を殴るなと言いたい。

 そもそも最初からおかしいんだ。凰が転校した時の篠ノ之とオルコットの状態や俺のあの発現で殴ったのはこっちやあっちが悪いから仕方がないにしても、織斑が自分の姉のことを「姉」と呼称するのに対し、殴る必要なんてない。

 

「アンタの弟はアンタが殴ることに対して何の疑問もないようだが、教員が生徒を殴るのは異常だ。家族離れしていないのは弟だけじゃない。アンタもなんだよ。それが自覚できないならIS学園の教員なんて辞めてそれこそどこかの軍隊で教官でもしてろ。ここは曲がりなりにも学校なんだ。それにアンタの指導は織斑一夏とラウラ・ボーデヴィッヒという二人で結果が出ているんだ。そのアンタの下らない指導は別の場所でしやがれ」

 

 そう言って俺はその場から離れる。

 

(……本当、高々16年と半年以上程度しか生きていないのに何を言っているんだろ)

 

 そんな後悔を抱きながら、誰も通らない廊下を歩いていた。

 この時俺はそのことを軽く考えていた。よもやあんなことになるなんて、全く予想していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、ある一団が第三アリーナを占拠していると聞いていたので覗きたかったが自重した。更識簪の打鉄弐式がどんな機体か気になったが、そんなことで有利になったとしてもつまらないからだ。

 

(考えてみれば、慣れてからというもの俺に勝てる奴がいなかったな)

 

 最初は一昔前のロボットアニメみたいにコックピットでロボットを操縦できる興味から始めたゲームだったが、意外に飽きるのが早かった。

 家庭用ゲームもそうだったが、あの機体を完成させた後だと全くと言っていいほど楽ゲーへとなった。その能力がどれだけのものかはその作り手の想像力と文章力で決まるもので、文章力はともかく想像力は高かったから幸い適合したんだろう。スピードが尋常じゃなくなり、正直飽きていた時に世界大会が始まるとの事だった。

 予選というものはかなりつまらなかった。出て5年ぐらいしか立っていなかったからそこまでバトラー人口がいるわけではなかったというのもあるだろう。ともかく周りは弱く、逆に可哀相になるほどだった。幸いスペックは出来次第というのもあったが、参加者のほとんどが子供と男の大人でもあり、時間がなかったためかかなり雑だった。それでも仕上げて来たのは凄いと思ったが、それでも俺たちの敵じゃなかった。そして同年代ぐらいしか期待が持てなかったが、それでもお粗末なものだった。

 

(もっと強い奴はいないのか)

 

 ずっとそれを求めていた。宇宙ステージでも、地上ステージでも、森でも、海でも、どこでも苦労しない奴が。

 世界大会だから当然外国から来ている奴らもいたが、俺の敵じゃなかった。忙しい中ごくろうなことだ。

 だから決勝で当たる相手にも興味はなかった。どうせ俺の圧勝なのは間違いない。だからもうこれで辞めようとすら思っていたほどだ。―――あの時までは

 

 バトル開始の合図とともに俺は敢えて待つ。先に攻撃を仕掛けて相手に優越感を浸した後に倒そう。そう思っていた俺はすぐにその考えを捨てる。

 その機体は大きく、特機―――いわゆるスーパーロボットというか戦士タイプというか、攻撃、機動、防御の三つに分けたら攻撃と防御の二つが高い奴だ。

 だから最初にいきなり「~ビーム」とか言って必殺技みたいなのを撃つのは予想外だった。しかも、溜めの時間はほとんどなかったはずなのに、宇宙ステージで存在していた小惑星が辺り一帯吹き飛んだ。

 そしてブースター増設というある種の力任せを利用しての軌道。高い攻撃力と防御力というだけではなかった。今まで相手してきたリアル系のロボットよりも高い機動力を特機でするのはありえないと思っていた。それほど相手の技量が高いのだろう。そう思うと嬉しくなった。だから向こうがビットを出した時は驚きを隠せず俺もビットを出して応戦するもほとんど削りあって向こうが少し残った程度だったのは本当に嬉しかった。

 

 ―――こんなところにいるなんて

 

 地元じゃ歯が立つ奴なんていなかった。ライバルと呼べる奴なんて誰一人としていなかった。

 いつも見下され、成績が低いと笑って―――舐めていた奴らなんて全員黙らせた。

 

 ―――嬉しいぜ、本当に

 

 俺と相手は同時に隠されたシステムとやらを使う。そこから本当に接戦で、二人して地球へと落下しながらも、そして大気圏を突破してからも戦い続けた。だから―――ISで戦うのも、更識簪が相手なら心の底から楽しめると思っていた。

 

「遅かったな、桂木悠夜」

 

 布仏に呼び出された俺はすぐにアリーナのピットに入って周りを気にせず黒鋼を展開して突入する。すると完成したばかりのはずの打鉄弐式が半壊していた。

 俺はそれに割ってはいる。だが―――

 

「何で……何で動かないんだよ?!」

「ふん。所詮貴様もその程度だと言う事だ」

 

 ボーデヴィッヒの右脚部装甲が俺の顔面を捉える。そのまま吹き飛ばされた後、ワイヤーアンカーのようなものがこっちに飛んできて、対応できないまま攻撃を食らった。

 

(やばっ―――)

 

 すぐに体勢を立て直そうとしたが、また俺の動きは止まる。

 そして何かが俺の頭に衝突した。

 

 ―――嬉しかった

 

 またあの時のような戦いができると思っていた。熱く、いつまでも終わってほしくないほどのバトルが。

 だけどそれは―――何もわかっていない奴のせいでできなくなった。

 

 ―――フザケルナ

 

 しかもその女はあの世界覇者の実力で生み出された失敗作だ。ただの妄信女の()()で、俺の楽しみを奪ったのだ。

 織斑の下らない行動で俺の楽しみは潰され、そして今度は織斑の教え子のせいで潰された。そう、何も理解してないクズ共のせいで、俺はまた楽しみを潰されたのだ。

 それを自覚した瞬間、俺の中で何かが切れたような気がした。


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