IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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後悔はしていません。本当に、何でこんなことになったんだろうとは思いますがね。


#25 我々はこんな風になるのを、強いられているんだ!!

 転校生たちが教室に入る。一人は「失礼します」と言って入ってきたのに対し、もう一人は無言で入室した。

 そして礼儀正しいと言う印象を持つ金髪は早速挨拶を始めた。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

 礼儀正しく挨拶するシャルル・デュノア。そいつは礼儀は正しいが、一つ見逃せないところがあった。

 

「お、男………?」

 

 そう。男の格好をしているのである。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方々gあいると聞いて本国より転入を―――」

 

 HRだが俺は音楽を聴くことにした。しかも大音量でだ。

 案の定、女たちはスラッとしていて王子様という印象を持ったようで騒ぎ始める。

 

「キャアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 おかしいな。最大音量で聞いているのに悲鳴がそれを超えているだと。

 どうでもいいことに戦慄していると、女たちは口々に言い出した。

 

「男子! 三人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「桂木と違って美形! 守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれて良かった!!」

 

 さり気なく罵倒されたんだが、ホントなんで一々それを口に出すのかがわからない。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 どこか鬱陶しそうに言う織斑先生。普段なら「シャキっとしろよ」と思うかもしれないが、なんとなく気持ちを察してしまった。

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

 ちなみにもう一人は凰とは違ったタイプのロリ系で、綺麗だがおそらく手入れされていない髪を腰というよりお尻あたりまで下ろしていて、なにより特徴的だったのが帯剣しているのと左目を覆い隠すようなガチな方の黒眼帯だった。もしこれで天然だったら彼女は布仏とマスコットの座を争うことになるだろう。はっきり言って選挙になったら俺は無記名で提出待ったなしだ。

 ただし見た目で判断してはいけない。小学生の時で既に女尊男卑の思考は根付いていたからな。

 

「………………」

 

 そして何故か本人は未だに口を開かなかった。

 

「………挨拶をしろ、ボーデヴィッヒ」

「はい、教官」

 

 これはまた大変なものが転校してきたな。

 ボーデヴィッヒと呼ばれた少女は織斑先生の方を向いて敬礼をする。どうやらミリオタとかそういうのではなくて、本物の軍人のようだ。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは先生と呼べ」

「了解しました」

 

 ……正直、素でそんな反応を返せるのは引いてしまう。

 なんてことを思っていると、ボーデヴィッヒはこちらに体を向けて名前を言った。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「………………」

 

 訂正。名前のみだった。

 あ~、うん。これあれじゃね? まさかの織斑より酷いタイプじゃね?

 

「あ、あの、以上……ですか?」

「以上だ」

 

 有無を言わさない態度。生徒限定なのでカウントしてないがマスコットとしてならば十分に可能性がある山田先生の言葉に対して無慈悲に返す。可哀相な一言に尽きる。

 とか思っていたら、

 

「! 貴様が―――」

 

 そんなことを言ったと思ったら、織斑を引っ叩いた。

 意味がわからず目を白黒する織斑が容易に想像できる。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 そう言うとボーデヴィッヒは移動して着席する。俺の隣に座ったので、なんともいえない空気が一瞬で充満した。

 

「あー………ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて大にグラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 時間がなかったからか織斑先生は珍しくボーデヴィッヒに注意しなかった。弟大好きな世界覇者が珍しいことをする。

 

「織斑、桂木、デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

 既に着替えているので水分補給の際に必要なタオルなどを持って教室を出ようとすると、織斑先生がそう言ってきた。

 改めてそのデュノアを見る。一見すれば中性的な顔たちをしているが、少しばかり嫌な予感がしたので辞退した。

 

「織斑がクラス代表なので適任でしょう? では」

 

 有無を言わさずに素早く。ご離脱は、計画的に。

 それにデュノアという姓を持っているからできるだけ関わりたくなかったし、デュノアが転校してきたので混乱が予測されるだろうから先に更衣室に向かう。

 

「待ってくれよ悠夜!」

「だから慣れなれしく名前を呼ぶな」

 

 そう返すと同時に俺はスピードを速めた。だがこれからのことを考えるとペース配分が大事だ―――

 

「ああっ! 転校生発見!」

「しかも織斑君と一緒だ!」

「ああもう! 汚物邪魔! カメラが汚染されるわ!!」

 

 その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。

 

(仕方ない。ここは自分の身柄を最優先するか)

 

 こういうのに乗じて俺はよく攻撃されるので一度四階に上がって窓から降りる。

 二階と一階の間に屋根があるので一度そこに着地。そしてもう一度降りて俺はそのまま更衣室へと向かった。

 

 

 

 

 更衣室で制服だけ脱ぐと遅れて織斑たちも到着する。時間がほとんどない状態だから急ぎ始めるが、

 

「わぁッ!?」

「?」

 

 変なコントが始まりそうな予感がしたので「お先」と言ってすぐにまた移動する。

 その頃には女子のほとんどが集まっていた。

 

「桂木、織斑とデュノアはどうした」

「見捨てました」

「………少しは構ってやるとかしないのか、お前は」

「だってそんなことをしたら俺だけ理不尽な目に合いかねませんもん」

 

 そう言って俺は布仏がいるところに滑り込む。その後すぐにチャイムがなかった。

 

「遅い!」

 

 三分ぐらいすると遅れてきた二人に対して織斑先生は無慈悲に言い放った。織斑にだけ殴っていたが、どうやら変なことを考えていたらしい。

 

「ずいぶんゆっくりでしたわね」

 

 すぐ近くでオルコットの声が聞こえる。近くに織斑先生がいるというのに勇気がある奴だ。

 

「スーツを着るだけでどうしてこんなに時間がかかったのかしら?」

 

 それは織斑がホモォだからに決まっているだろう。デュノアめ、早速掘られたか。

 

「災難だったな、デュノア」

「え? 何で僕、桂木君に温かい目で見られてるの?」

 

 そんなことを聞かれたがそこは沈黙で受け流す。同情しているのだ、ホモォに掘られたから。

 

「何だろう。俺は悠夜を殴らないといけない気がする」

「どうしよう。何故か織斑の両足をコンクリートで固めてアマゾン上空からヘリでパラシュート無しで降下させたくなった」

 

 すると織斑の顔は一瞬のうちに青くなった。

 

「もぉー、あんまり虐めちゃダメだよ~」

「何言ってんだ。あんなの序の口だからな? 俺の中学だったらリア充と判断されたら最後「お前らそれどこから持ってきた」と言いたくなるような処刑道具で殺されそうになるのがデフォルトなんだから」

「「「………」」」

 

 さっきまで話をしていたオルコットも想像したのか口を閉ざす。その顔は自分の機体と同じく青かった。

 

「では本日から格闘および射撃を含む実戦訓練を開始する」

「はい!」

 

 口頭での諸注意は終わったのか、織斑先生はそんなことを言った。

 

「最初は戦闘を実演してもらおう。凰! オルコット! 前に出ろ!」

 

 二人は口々に文句を言いながら前に出る。どうやらあまり好みじゃないらしい。

 

「お前ら少しはやる気を出せ。―――あの二人にいい所を見せられるぞ」

 

 バッチリ聞こえたが、その二人の一人は織斑で間違いないにしてももう一人は誰なのだろうか? デュノア?

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

「……はぁ。まぁ、何でもいいけどとっととはじめるわよ」

 

 対照的過ぎるだろ、あの二人。

 

「それで、相手はどちらに? わたくしは凰さんでも構いませんが」

「……もうそれでいいわ」

「慌てるな馬鹿共。対戦相手は―――」

 

 と織斑先生が言ったところで上から空を裂くような音が聞こえて反射的に布仏を抱えてそこから離脱した。

 そして後ろを振り向いた時には既に織斑以外避難はできており、何かが織斑と衝突して巻き起こる土煙からゴロゴロと転がっていった。

 

「ふう……。白式の展開がギリギリ間に合ったな。しかし一体何事―――」

 

 といったところで織斑は口を止める。ちなみに下には山田先生がおり、どうやら着衣セッ○スならぬISセッ○スが行われるようだ。だって織斑、おっぱい揉んでるし。

 

「ねぇねぇ、何が起こってるの?」

「良い子が見てはいけない激しい光景」

 

 戸惑う織斑に顔を赤らめて何かを期待しているかのような顔で何か言っている山田先生。そして―――目が虚ろになっていく二人。

 その二人は各々武器を構えて織斑目掛けて攻撃しようとしていた。というかオルコットは攻撃していた。

 

「ホホホホホ……。残念です。外してしまいましたわ……」

 

 そして凰が双天牙月を連結させて投げたので、布仏を降ろして黒鋼を展開。通り過ぎてから戻ってくる双天牙月を受け止めると、それは粒子になって消えた。

 

「邪魔しないで悠夜! 巨乳は全部消さないといけないの! そう……それがアタシ達貧乳に課せられた運命(デスティニー)なのよ!!」

「ちょっと凰さん!? 何を馬鹿なことを言ってますの?!」

「巨乳なんてみんな死ねばいいんだぁ!!」

 

 明らかに錯乱しているが、どうやらここは俺くらいしかまともに動ける奴がいない。織斑やデュノア? デュノアはともかく織斑には無理だ。

 織斑たちの上を通り過ぎ、俺は暴れる凰を止める。

 

「落ち着け、凰」

「で、でも悠夜、巨乳をすべて滅ぼさないと、世界は―――」

 

 どうやら本当に錯乱しているようだ。

 

「いいか、凰。おっぱいの大きさですべてが決まるわけがないんだ。特に恋愛なんてどう転ぶかわからない。考えてみろ。未だに篠ノ之やオルコットなんて彼氏いないし、織斑先生にも男がいるなんて話を聞いたことがないだろ?」

「……うん」

「それに今は「女尊男卑」という理不尽な思考を持つ女が多いんだ。だから普通に接しれば男なんてイチコロだ。だって凰は可愛いんだから、ちゃんと接しれば幸せになるんだ」

「………わかった」

 

 そして凰はISを解除する。俺も停止して頭を撫でてやる。

 

「………何なんだ、これは」

 

 桂木悠夜、16歳。

 転校生のボーデヴィッヒの言葉に激しく同意した瞬間である。


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