5月17日に用事があって読めていない人は数話戻って閲覧することをおススメします。
フランスのデュノア社―――その社長室で男二人が会話をしていた。
一人は高そうなスーツを着こなしていて、もう一人は若く、最近のトレンドを取り入れたファッションをしていて、それがとても似合っていた。
ただ一つ違和感があるとすれば、胸元に存在する金属のネックレスだろう。たまに指輪を首にかける人はいるが、それでも彼が着けているのは男が着けるようなものではなかった。
「―――内容は以上だ。なんとしても任務を全うしろ、シャルル・デュノア」
「………わかりました」
彼は逃げるように社長室から出て、端に置いてあったスーツケースを持って逃げるようにその場から離れる。
だがエレベーターホールのところで少女が通路を塞ぐように仁王立ちしていた。
「こ、こんにちは―――」
「別に無理して挨拶をしなくてもいいですわ」
―――嫌われているのは前から知っている
それを出す少女は改めてシャルル・デュノアを特に胸部を観察する。昨日まであったはずのそれは確かにない。
「しかし、本当に行くつもりですの?」
「………」
沈黙で通すシャルル。少女―――リゼット・デュノアはそれを見てため息を吐いた。
「まぁいいですわ。あなたがどう歩もうと私には関係ないことですし」
そう言ってリゼットはそこから歩き始め、場所を移動しようとしたところで思い出したかにシャルルに言った。
「……ひとつ、忠告させていただきますわ」
「何かな?」
エレベーターを待っている間の暇つぶしだろうか、シャルルはリゼットの言葉に耳を貸す。
「IS学園で何かするつもりならば二人目の方には手を出さない方が良いですわよ」
「…どういう意味だい?」
「言葉の通りですわ」
それだけ言ってリゼットはまた歩き始め、社長室を通り過ぎて一周し、再びエレベーターホールでエレベーターの下行きのボタンを押す。
「ジュール」
「……ここに」
リゼットが名前を呼ぶと、執事服を身に纏った男が現れる。その場にイケメン好きの女性がいれば騒がれる的になるだろうが、生憎ここは許可された者以外の入室が許可されない機密のものが多く扱われている階だ。
そこに許可されているのは社長とその家内、そして一部の重役ぐらいだろう。
―――チンッ
エレベーターが着いた音が鳴り、リゼットとジュールはそれに乗って下へと降りる。
そしてエントランスを通って外に出るとジュールの姿は既になく、一台の車が止まり、ジュールが現れて後部座席に乗るようにドアを開けた。
リゼットはそれに従い、車に乗る。
「それで、あの件はどうなりましたの?」
「………それなら座席裏のボックスに入っております」
その言葉通りにリゼットは探ると、そこにはファイルがあり彼女はそれを開く。そこには色々なことが記載されていて、当然ながらリゼットが望む情報もそこにあった。
「この情報、確かですの?」
「……ええ。そして彼女はそれを知って行動しているのかと。偶然彼女の素性を調べたことがあるのですが、性格的に普通に暮らしていた少女が危ない綱渡りをするとは考えられませんので」
しばらくすると車は停止。自動で開いたドアを支えにして立ち上がろうとするリゼットの手を取るジュール。
二人にとってそれは当たり前だったからか、お互いに何も言わずリゼットはそのまま従者たちに挨拶されながらそれに応えながら自分の部屋に向かった。何人かが荷物を持とうとしたが、やんわりと断る。
「………羨ましいですわぁ」
部屋に入ってそのまま自分のベッドにダイブしたリゼットは思わずそう呟く。
今のシャルルの心理を考えてみれば普通なら決して出ることがない言葉なのだが、純粋に思ったことを口にした。
そう思ったのは理由はすぐ近く―――彼女の部屋の中にあった。
彼女の部屋に異質と言いたくなるほど写真が存在しており、留学先の日本で出会った友達との写真は言わずもがな、それよりもある男の写真が多く存在していた。自分とのツーショットもそうだが、なによりもほとんどが隠し撮りだった。
その男との出会いは本当に些細なきっかけだった。
リゼットは留学する前は母親の影響か「女尊男卑」の思考に染まっていた。女が選ばれた有能で男が選ばれなかった無能。腹心の部下でもあるジュールに対してもそうだった。もっとも彼はそのことに対して何も言わなかった。だからこそ、戻ってきた時のリゼットの対応にポーカーフェイスやブリザードフェイスなどと言われているジュールが表情を崩すほど驚くことになったが。
―――閑話休題
ISが出てからか、ほとんどの国家はIS条約を締結すると同時に日本に多くの留学生を招き入れるように指示した。そのために一般的な市立や公立の学校には多くの留学生が編入することが多く、リゼットは成績優秀者だということもあって二年飛び級したクラスへの編入がなされた。
その時の「留学生交流委員」通称「留交委員」だったのがその男だった。
最初はちょうど良い駒になると思ったリゼットだったが、日本で起こったとある事件に巻き込まれ、その時に色々あってその男を(一方的に)慕うようになった。
(……もう二年、ですわね)
リゼットの考えが変わるほどの事件。その時に見せたあの恐怖。彼女は未だにその恐怖が忘れられずに慕ってしまう―――物凄く歪な恋だが、ジュールでさえもそのことに対して意見ができないでいる。母親がそれを知った瞬間、写真は没収されるのでそれはあえて友達の写真の裏に隠していた。
その男の容姿は最悪という一言に尽きる。髪はボサボサでメガネは最近見かけることの方がレアだと言われるほどの丸く牛乳瓶の底を連想させるものだったが、リゼットにとっては敬愛と恐怖を向ける対象だ。
(早く……早く会いたいですわ)
今も異国にいるその男に会いたい。そう願って彼女は自分が持っているその男の写真にキスをする。
そんな彼女の煩悩タイムは、突然かかってきた電話によって中断を余儀なくされた。
■■■
ドイツ軍施設内。その食堂では一人の少女が黙々と食事を続けていた。
彼女にとってそれが日常であり、当初は何人も話しかけていたが彼女からにじみ出ている殺気みたいなものの姓で話しかけたもの全員が玉砕している。
「………」
彼女を言い表すのならば、鎌を持った天使と言ったところだろう。容姿的には大きなお友達は喜び、重度な者ならば間違いなく泣いて喜ぶ雰囲気を持っているが、残念ながら彼女のそれに合う人物は未だ施設内には存在していなかった。
(ちょうど良い、というべきだろうな)
その少女は黙々と本日の晩飯「カレーライス」を食べながらこれからの考える。数日後に彼女はドイツを経ち、ある目的のためにIS学園に編入することが決まっていた。その目的とは軍人的に言えば彼女に支給された第三世代IS『シュヴァルツェア・レーゲン』の稼動データの収集だが、彼女個人の目的は全く異なる。それは彼女の師「織斑千冬」の説得。それだけだ。
他の者や物には興味を持たず、ただそれだけを実行しようとする。彼女の眼中には最近現れた二人目の男性IS操縦者なんてものは存在せず、ただ一人目にしか興味はなかった。それもその興味は異質で「殺す対象」でしかない。
(織斑一夏―――。教官に汚点を残させた張本人……。私はお前の存在を排除する。例えどのような手段を使ってでも……)
その雰囲気にまたそこから離れる人間が現れるが、彼女は周囲にすら興味を持っていないのでそのことには全く気付いていなかった。
■■■
あの後、色々あって更識妹―――もとい、更識簪は轡木さんの支援を受けて
だが今回は二年生の整備・開発科から数人選出するらしく、布仏もそれに借り出されていた。
ちなみに更識妹こと更識簪にしたことはすべて偽造工作であり、本当にそんなことはしていないと再三に渡って説明し、名前で呼ぶことを条件に手打ちとなった。とはいえ俺は織斑のように神経が太くないのでフルネームとかになるが。
そんなこんなで六月に入り、俺は朝の時間を利用して布仏に勉強を教えていた。本人の希望と俺の目的が合致したからである。
「ところで、布仏はISスーツをどうするんだ?」
「う~ん。明日の試着会で試着してみようかな~」
ちなみに俺のISスーツは轡木研究所で開発されたもので、パッツンなインナー的な感じとなっている。だがそのあたりは操縦者に配慮があるのか夏用と冬用のジャージがあるのだが、どういうことかまだ売るつもりはないようだ。
「ゆ~や~」
この声はと思ってそっちの方を見ると、少しやつれ気味のイケメンこと織斑一夏がこっちに来ていた。
「……何があった?」
「いい加減に俺たちと一緒に練習してくれよ」
そう。俺は今までこいつらと練習したことがない。
基本的に俺は更識姉―――もとい、楯無と練習するか一人で練習している。一人の方が他人に縛られることなく伸び伸びとできるからだ。例外があるとしたら「イージス」というコンビ名を持つフォルテ・サファイア先輩とダリル・ケイシー先輩、そして凰と模擬戦したくらいだろう。
だがそれはあくまでも実戦で、たった一人でも武器の入れ替えをスムーズに行えて数多の武器で翻弄できる俺は一人の方がやりやすいのだ。
「悪いがパスだ。俺は一人でやる方が効率がいいんだよ」
そう答えると入り口から凰が現れ、俺のところに来た。
「悠夜、ちょっと一夏の練習に付き合ってくれないかしら?」
「………なんで?」
嫌そうな顔をして答えると、凰は声を潜めて俺に話す。
「正直あまり他人の悪口って言いたくないけどさ、今一夏に教えている二人の教え方に問題があって」
「…………はぁ?」
理解できずにそんな声を上げる。今主に織斑に教えているのは篠ノ之とオルコットだったはずだ。そいつらの教え方が問題が………あったな。篠ノ之は問題があった。
「だったら凰が教えればいいだろ?」
「………ごめん。アタシもしたけど無理だった。どうしても抽象的な表現になるのよね、感覚派だから」
「箒は擬音だし、セシリアは難しすぎるし」
と言われても俺には布仏を教える義務があるしな。
どうしようかと考えていると、布仏が俺に声をかけてきた。
「別にいいよ~。それにゆうやんはもっと他の人と話すべきだよ~」
「いや、布仏とかはまだ大丈夫だけどさ、ほかは無理」
そう返すとどこか悲しそうな目で俺を見てくる布仏。ため息を吐き、俺は渋々了承した。
「…………わかったよ。非常に不本意だが仕方なく参加してやる」
「やった! サン―――ギャァアアアアアアアアッ!!!」
急に抱きついてきたので両目を突いた。織斑の叫びで何事かとこっちに振り向くが、
「死ねよこのクソホモが!!」
「ゆうやーん! 落ち着いて~!」
「ちょっ、落ち着きなさい悠夜! それは流石にまずいから!!」
椅子を掲げて今にも振り下ろさんとする俺に対し、布仏と凰が止めに入った。クソッ。この二人がいなければ織斑なんてすぐに殺せるのに。
チャイムが鳴ったので凰は返り、俺は自前の消毒液とおしぼりで手を拭いた。
「諸君、おはよう」
「お、おはようございます!」
前の方で織斑先生が挨拶したからか、調教されている女たちは返事をしてすぐに解散した。それを見てかすぐに群集は解散し、各々の席に着く。
「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないように。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、下着で構わんだろう」
もしそんなことをした奴がいたら、俺はすぐに授業をサボろうと心に決めた。そんなことをしたら俺は間違いなく変態のレッテルを貼られる。この17年で俺は「女とは理不尽な生き物」だということを学んだ。
ちなみにIS学園の体操着はブルマ、水着は旧スク水で、腰のところが分割されているタイプだ。IS学園は7月の最初辺りに臨海学校があるからか、少し早めにプールに入ることになっているから知っているが、布仏のおっぱいが目立つ目立つ。今は凰が所属する二組と合同だからそこまでではないが、たぶん更識簪がいる四組になった場合、織斑抹殺計画を遂行しなければならない。
(そういえば、更識簪は織斑のことはあんまり興味がない風だったな)
あの後少し話をしたが、織斑の専用機に人員が取られたがそのことで織斑に対して怒ってはいないようだ。彼女曰く「ねだったなら許さないけど、本音が言うには専用機の話をしたときに首を傾げていたからたぶん政府が勝手にしたことだと思う」だと。織斑ばかりに甘い政府だけど、最近俺はそいつらのことは「ゴミ」認識している。
(それはともかく、四組と合同は絶対にしたくないなぁ)
更識簪のスク水姿を創造しただけで鼻血が出そうになったのですぐに止めた。
「では山田先生、HRを」
「は、はいっ」
慌ててメガネを拭くのを止めて教卓の前に立つ山田先生。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!!」
普通なら分けるだろとは思ったが、敢えて言わないようにした。
ようやく原作に戻れた。