―――悠夜side
黒鋼が
容量が容量なだけに初期装備だけで
そして俺はといえば、《
「素人にしてはかなりの腕前ね。ただし防御だけよ」
そう言って《玄雷絶》を弾き飛ばされるがそれは気にしない。SRsもそうだが、武装の量子化機能がある程度は存在している。もっとも専用のデータが用意されなければ使えないし、よほどのお金持ちぐらいしか気軽にその機械は使えない。専用のデバイスを持っているのはその機体情報を知る為というのもあるが、情報を持ち運ぶという意味もある。機体だけでは動かない。
俺は慣れた手つきですぐに双銃《アサルト》を展開する。二丁拳銃だがフルオート機能を持っている。
だが更識はその隙を付いて俺を攻撃した。
(三連突き、しかも突くたびに撃つという荒業をやってのけるとは)
意識が持っていかれそうになり、同時にシールドエネルギーも減少する。一次移行したとはいえ、大して回復していないため半分が切った。
脳裏に二年前の大会が浮かぶ。あの時の対戦相手並みとはいかないが、中々楽しませてくれるものだ。
《アサルト》を構えて撃とうとする。だがその前に俺は爆発に見舞われた。
■■■
―――楯無side
―――
私はそれをすぐに発動させる。悠夜君はそれに気付かなかったみたいでマトモに食らったみたいだ。
「悪いわね。お姉さん、つい熱くなっちゃったわ」
たぶん耐えていたとしてもほとんどシールドエネルギーを失った状態で戦うことになる。
「もう終わりにしましょう。私が相手だもの、ここで降参したって恥じゃないわ」
正直、いくらあの業績があって私の妹と同レベルのバトラーだとしてもIS操縦者としてはまだまだ。ここまで戦えるのはほとんど向こうの知識があってこそだと思う。
だからこそ私を途中から本気にさせたことは凄いと思っている。けれど、それもそろそろ限界なはずだ。あそこまで集中しての爆発ならとっくに折れているだろう。だけど、
【―――警告! 敵ISから多重にロックされています】
その文章がハイパーセンサーに写しだされ、私は動揺した。
その隙を逃すつもりはないのか、荷電粒子砲やビームなどが飛んでくる。それをアクアクリスタルから放出されたナノマシン入りの水でバリアを張って消失させる。
ISにはシールドエネルギーとは別にエネルギー攻撃をするための特殊エネルギーが用意されているが、さっきみたいな場合だとどっちにしてもエネルギーの消耗は激しいはずだ。
だからここから畳み掛けるべきなんだけど、ここで桂木君はとうとう切り札を切ってきた。
「―――ジョーカー、切らせてもらう」
その声と同時に私の周りは爆発しはじめた。
「やってくれるわね」
「最後の足掻きだ。遠慮なく倒させてもらう」
さっきまでの荒々しさがまったくない。けれど、その代わりに「何が何でも相手を倒す」という意思は感じ取れ、今も私に対して容赦ない射撃の雨が降り注いできた。
そして桂木君はセシリアちゃんが持ってる《スターライトMk-Ⅲ》よりも大きなライフルを展開した。
「こいつで終わらせ……!?」
すると桂木君の黒鋼はエネルギー切れの様で落下。なんとか落ちた時の衝撃とかで負傷はしなかったみたいだけど、もうこれ以上は戦えないはず。
そう判断した私だけど、桂木君は未だに降参しない。
『何をしているんですか、更識君。桂木君はまだ降参してませんよ』
まだ試合終了の合図はない。一応織斑先生が現役時代に発現させた
―――カンッ!
「へ?」
急に金属が当たってなる音が聞こえたかと思ったら、レイディの装甲にアンカーが引っ付いていた。
それに気付いた時には既に遅く、私はアンカーで引っ張られる。
突然のことと、まだ桂木君が抵抗するという行為自体が意外すぎて慌ててしまい、彼との距離は一瞬で縮んだ。もっと最悪なことは、彼の右腕にはパイルバンカーが装着されていた。けれど―――
―――ゴンッ
「え―――」
とっさに私は《ラスティー・ネイル》で切ろうとしたのが原因だと思う。そのままの勢いで彼の方に突っ込んでいくが、逆噴射も間に合わず突っ込んでしまった。暗部の長なのになんたる失態だろうか。
「おやおや、これは……」
「お嬢様…あなたと言う人は………」
「ゆうやん……」
他の男性研究員は桂木君に対して呪詛を吐いたり、あまりのハプニングで女性は笑ったり、キャーキャーと騒いだりと対応は十人十色。
私は桂木君の上に乗っていることに気付いたのですぐに離れると、そこには白目の状態で倒れている桂木君がいた。
『桂木君の気絶により、更識さんの勝利ということで』
……というか、私って気絶されるほど魅力がないのかと、何故か私はショックを受けていた。
■■■
―――悠夜side
「あら、目が覚めたみたいですね」
さっきまでアリーナにいたはずの俺は、いつの間にかピットの中にいた。とても不思議なのでこの小説はTFという新たなる分類になるだろう。
とか現実逃避をしていると、ある者たちは嫉妬の眼差しを、ある者たちは俺を見てワーワー叫び、ある者たちは温かい目で俺と更識を見ている。
「さて桂木君、黒鋼の乗り心地―――もとい、更識さんの胸はどうでした?」
「「そこは言い直す必要ないですよね?!」」
俺と更識は反射的に轡木さんに突っ込んだ。え? ちょっと待て。
「あの、俺って更識の胸を触ったんですか?」
すると轡木さんを除く男たちは俺に対して睨みつけ、女の方はニヤニヤとし、轡木さんは女たちと一緒に笑っていて、更識と先輩、そして布仏は気まずそうに視線を逸らした。
俺は俺でそれを事実だと認めるしかなくなり、目の前が真っ暗になりそうになる。
「だ、大丈夫よ。不慮の事故だったから気にしないで」
「………本当に?」
少し警戒しながら聞くと、更識は頷いた。
「前から思っていましたが、どうして桂木君は女性の胸を触ったりすると気絶するのですか? 確か以前にフォルテ・サファイアの胸を触ったときも気絶した聞きましたが」
布仏先輩が尋ねてきたので打ち明ける。どうせ過去のことだからそこまで気にしてはいないが、いざ思い出すと少し嫌な思い出だな。
「そう、あれは二年前だった。欲しいプラモデルがあったんだけどそれが急行に乗らないと少しばかり時間がかかるところにあったのと、往復することと荷物の多さを考えて電車で行ったんだが、たまたまその日は混んでいたんだ。そこで俺は急行で二駅はかかるから急行だと終点まで開かない入り口と対面しているドアを背もたれにして立って本を読んでいたところに急ブレーキがかかってな。その時に全員の姿勢が変わっていたんだが、幸か不幸か近くに手すりがあったからそれに掴まって耐えていたら女を先頭にこっちに雪崩てきたんだ。それで持っていた本をなくすのは困るから胸元でそれを持っていたら、たまたま女の胸が当たったんだ」
ここから先の展開が予測できたのだろう。全員が同情的な視線を送ってくる。
「それで、どうなったんですか?」
唯一轡木さんだけがおもしろそうにしていた。
「目的の駅で無理矢理降ろされたんですよ。そこでいくら弁解しても人の話を全く聞かずに完全に犯人扱いしてきて、釈放された時には犯罪者のレッテルが貼られていた」
どこか痛々しく感じたのか、全員が何とも言えない顔で俺に視線を送っていた。
「気絶はサファイアさんの胸に触れた時に知ったんですけどね。それまで幸か不幸か触る機会なんてなかったし。そして俺は女を警戒し、見下すようになったんですよ。ここにいるみなさんの前で言うべきことじゃないってわかって言わせてもいますが、高々性能が良いだけで量産ができず、当初の目標だった宇宙進出すらしていない無能な三流兵器を扱えるからって調子に乗るなんてただのカスであり、クズだなって。ああ、当然ここにいるみなさんが仕事として向き合っている人たちにはありがたく思ってますけどね」
そうじゃないと菓子折りなんて用意しない。
「では桂木君。あなたは今の政府に対してどう思っていますか?」
轡木さんがそんな質問をしてきたので、俺はそれに対して本音で答えた。
「何もできない一般市民の分際で言わせてもらうと、正直に言ってただのアホだと思います。まぁ、十年前に何のやり取りがあってISを兵器として採用したのかは知りませんが」
「そうですか。まぁあなたならそう言うと思いました。それと連絡事項なのですが、今後その黒鋼は桂木君の自由に使ってもらって構いません。データ提供するも良し、世界破壊に使うも良しです」
例にしては随分と物騒な例を出したものだ。
「わかりました。では今日はこれで失礼します」
そう言って俺は外に出る。
すると何故か視線を感じたのでそっちを向くと、更識簪がこっちを見ていた。
「………」
俺の視線に気づいたのか、
「……再開はあの時以来」
「再開?」
「……そう。初めて会ったのは、SRsVSが販売された時。そして世界大会の決勝で………私と当たった」
そう言われて彼女が何者なのかをようやく認識、理解する。
ロシアの国家代表でIS学園の生徒会長の姉を持つ、日本の代表候補生。そんな彼女のハンドルネームは―――
「
「……久しぶり、
お互いハンドルネームで呼び合うと、更識は言った。
「大会では私の負けだった。けど、あなたがどれだけ強くても今度は勝つつもり。そしてISでも負ける気はない。いずれ専用機を完成させてあなたに挑む」
「……専用機を完成?」
「………知らないの?」
頷くと更識は同情の眼差しをこちらに向けて言い放った。
「私はあなたと似ている。
「………どういうこと?」
なんとなく予想はついたが、合っているかわからないので聞いた。
するとつらいはずなのに更識ははっきりといった。
「……私は、織斑一夏のために人員をすべて取られ、専用機の開発が凍結された被害者」
■■■
悠夜が出ていき、ピットには沈黙が漂う。そこにあるのは同情と後悔のみであり、誰一人として悠夜を責める人間はいなかった。
「これでわかってもらえたでしょうか?」
その沈黙の中、十蔵がそう言うとほとんどの技術員が頷く。
轡木研究所で働く人間は十蔵の厳選によって選ばれた人員で、多少の偏りは男にはみられるも女には皆無という表現で表してもおかしくないほど「女尊男卑」の思考を持っている人間はいなかった。
その中で主に女性から「二人目の男性操縦者の本音を聞いてみたい」という声が上がったこともあり、みんなの前で十蔵と虚が協力して本音を出させようとした。
やがて何人かがピットから出ていき、ほとんど全員がそれに続いて部屋を出始める。
「本当にこれでよかったのでしょうか?」
虚が十蔵に尋ねると十蔵は頷いた。
「ええ。望み通り彼の本音を聞き出すというのが彼女らの望みですので。そうでなければ私が止めていましたよ」
例え悠夜の本音で辞めようと思う人間が現れたのならそれは仕方ないと思いながら、十蔵は虚と本音の肩に手を置く。
「なんにしても、今回はお疲れ様でした。報酬金は後程お送りさせていただきます。それと布仏虚君、黒鋼に搭載されているマルチロックオン・システムはご自由にお使いください」
「……わかりました」
どこか見透かしている風の十蔵を見て、楯無と虚は十蔵に対して警戒が強めるのだった。