IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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第2章 判明する親しき行方
#17 学園の秘密研究所


 事情聴取は終了し、緘口令(かんこうれい)を敷かれたことを告げられたのでサインをしてしまったから脳内で振り返る。

 

(結局、あれはなんだったんだろうな?)

 

 対IS用手榴弾でリンチし、最後に更識が止めを刺したことは覚えている。たぶんだが初めて更識を本当の意味で「綺麗だ」と思ったからだ。

 俺が覚えているのはそこまでなのであの機体が何だったのかはわからない。わからないが、何故か違和感を感じていた。

 

(……というか、だ)

 

 俺は一つ、事情聴取で話していないことがある。それは―――対IS用手榴弾を、突然展開したことだ。しかも手の中ではない、空中に。さらに悪いことに俺が使用していたのは普通の打鉄であり、専用機ではない。正しく言うのならば「「量産機」として認定されている「量産機まがい」」を使用したのだ。

 

「使用した、はずだ」

 

 五月に入るまで俺は暇があればできるだけISの技能を文面を記憶、整理を行ってきた。だが今までISの装甲の展開なしに武装の展開はあれど、それは()()()()()()()()だ。もっともファ○ネルやドラ○ーンなどの量子通信による武装操作できるものは別だろうけど。

 だが俺が使用したのは手榴弾。例外の中には入らないはずだ。

 

(……俺がおかしい、のか?)

 

 あの時は指揮を取っている奴が増援を寄越さないことに対してイラつきを覚えており、機体が半壊していたのもあって半ばやけくそだった。だからできた芸当……だとしても違和感しかない。

 

(……ISに触れて、俺がおかしくなったのか?)

 

 確かにアニメを中心に俺はロボットアニメをすべてはないがある程度は見た。だが、だからとって俺は本当の意味では本当に一人だった。

 趣味を共感できるものなんてない。日本の代表候補生のはずなのに義妹は常に俺や俺が見たロボットアニメをけなし、否定した。過去に買ったプラモを元に自分で作ったものすらも否定されたこともあり、それ以来俺は人目につけないところでやっていたりする。

 

(………まぁ、いいか)

 

 段々と悪い方向に考え始めたので首を振ってエントランスの一部にある下足室に向かい、靴に履き替えようとすると、そこには初めて見る顔が立っていた。

 

「はじめまして、桂木悠夜君」

 

 メガネをかけているその女生徒にはこちらに歩み寄ってきて、手を差し伸べてきた。

 

「私は布仏(うつほ)。三年生です」

 

 すると脳裏に日頃はのほほーんとしているが、いざとなればかなり強い女の子の顔が浮かんできた。

 

「……じゃあ、布仏本音は―――」

「はい。私の妹です」

 

 目の前に立っている女生徒を改めて観察する。確かに彼女にどこか似た雰囲気を持っているが、同時に彼女からはあまり感じられない「真面目さ」が感じられた。

 

「それで、俺に何の用ですか?」

「理事長がお待ちです。追いて来て下さい」

 

 そう言われて疑問が湧いたが、大人しく追いていくことにした。

 歩く前から人なんていなかったが、近くに職員室があったからか人の気配は感じていた。しかし歩を進めるに連れその気配も少なくなり、あまり人通りが来ないところへと移動する。

 不信感を抱いたのは、その直後だった。

 

(………あれ?)

 

 「生徒会室」と書かれたプレートがぶら下がっている部屋から離れ、奥へと進んでいく。こういう誰もいないところでエロいイベントが置きそうなものだが、そうなった場合お互いが傷つくだけなのは容易に想像できた。万が一子供ができてしまったら完全に俺は社会的に抹殺―――ついでに実験動物ルートは確定したようなものだ。それだけならまだ、相手(この相手は布仏の姉)も連れて行かれ、子宮に直接ダメージを負って子供ができない体になってしまうかもしれない。それだけは、なんとしても阻止しなければならない。というかそんなことで人生を棒に振ってほしくない。

 そんなことを考えていると、布仏先輩は止まって壁にある溝に取り出したカードをスキャンする。普通ならコンクリートを擦って終わるはずが、どういうことか中に入った。スキャンが終了したのか、コンクリートが開いて先輩は中に入って行った。

 

「桂木君、あなたも来て下さい」

「…………はい」

 

 言われた通り中に入ると、そこはモノレールの車内だった。しかも無人。

 ドアが閉まり、モノレールは俺と先輩を運んで遠くへ移動する。真ん中ぐらい行ったのか同じ型と思われるモノレールが通り過ぎたが、そっちを気に止めたのは本の一瞬だった。

 

(だ、大丈夫なのか……?)

 

 今更ながら本当に目の前の女が信頼できるのか不安になっていた。このまま俺は解剖されるのではないか? そして目の前の女生徒は俺の筆○ろしの相手として用意された女なのか? 童貞じゃない方が遺伝子情報が採取しやすいのか、などと思い始めて色々と限界が生じる。ただでさえ、最近じゃ布仏(妹)や更識といった美少女巨乳や美人巨乳と一緒にいる中で全然出していない―――しかもたまに二人のどっちかでエロい夢を見て勝手に出たりと恥ずかしい思いをしている。そして今度は美人と美少女が同居しているだけでなく、メガネ、巨乳属性を所持している人が相手とか、堪えれる気がしない。

 

「着きましたよ、桂木君」

「え? は、はい」

 

 いつの間にか駅に入っていて、俺たち二人は降りる。そのまま布仏先輩の後ろを付いていき、今度はエレベーターで下に降りる。

 すべてが壁で覆われていたので外の様子は見れなかったが、着いたようで外を見ると、そこにはたくさんの人間が白衣を着て男女関係なく話し合っていた。

 

「あの、ここは?」

「ここは学園内の研究施設です。ISの武装や装甲などの研究はもちろん、当然ですがプログラム系統などの研究も行われています」

「あれ? でもIS学園って日本が経営しているのでは?」

 

 確かそうだ。日本人が発表したことになっているから確か日本が経営権を持っていたって話だ。なのでここは日本の研究所の一つのはず。

 すると布仏先輩はやんわりと否定した。

 

「確かにそうですが、実はここの研究所の正式名称は「轡木研究所」で、理事長が所有する研究所なんです」

 

 どうやら用務員や学園長だけでなく、理事長も「轡木」の姓を持っているようだ。ある意味凄い。

 

(もしかして娘さんとか?)

 

 そんな予想を立てていると見たことがある背格好をした人たちが現れた。更識に布仏、そして―――

 

「轡木…十蔵さん?」

「ああ、もういらっしゃったのですね」

 

 俺たちに気付いたらしい十蔵さん、そして更識と布仏がこっちを向く。

 改めて見回すとそれだけしかおらず、どうやらあの白衣の中に理事長がいるみたいだ。

 

(……というか、俺が入ってきてからだと思うが、プレッシャーが凄いんだが)

 

 いや、プレッシャーというより興味がだろう。男だから見られているわけではなく、ISを動かせるから興味を示しているのだろうか?

 

「お久しぶりですね、桂木君。二日前はありがとうございました。桂木君の株が上昇すること間違いないでしょう」

 

 というのが轡木さんの言葉だが、それはないと思いたい。

 

「ところで轡木さん。理事長はどこにいらっしゃるのですか?」

 

 さっきから気になったので質問すると、轡木さんは面白いものを見たかのように笑い始めた。

 

「な、何ですか?」

「いえ。そういえば名乗っていなかったことを思い出しまして」

 

 すると轡木さんは改めて名乗る。

 

「IS学園用務員長兼轡木研究所所長、さらにはIS学園理事長を兼任しております、轡木十蔵です」

 

 ………はい?

 周りを見ると更識は笑っており、布仏姉妹は姉はすまし顔、妹は何故かかわいそうな目で俺を見ていた。

 

「と言っても形だけですけどね。桂木君は今まで通り接してもらって構いません」

「………」

 

 今までの態度に不備がなかったか少し気になり始めた。

 

「さて、早速本題に入りたいのですがよろしいでしょうか?」

 

 混乱している俺に許可を取る轡木さん。

 

「は、はい」

「結構。では、これを見てください」

 

 すると轡木さんの後ろにあったものにスポットライトが光を浴びせる。すると目の前には大破してほとんど原形をとどめていない打鉄があった。

 

「これって、俺が使っていた打鉄ですよね?」

「はい。あの侵入者との戦闘終了後、搬送された桂木君からお預かりしました」

 

 脚部はともかく、腕部装甲はほとんどないも等しい。一対のシールドは自動回復するからか元に戻ってはいるが、それでも完全回復とはいかなかった。

 

「実はこの機体で損傷が一番酷かったのはこれじゃないんです」

 

 ………え? 嘘でしょ?

 見た感じ、打鉄の装甲は酷いものだと思ったけど、それよりも損傷が酷いものがあるというのだろうか?

 すると白衣を着た女性が一人、よくファミレスで使われる台車を押してきて、その上に乗っている何かを轡木さんに渡した。

 

「これです」

 

 それはあまり見覚えがなかったもので、布仏が言うまで気付かなかった。

 

「これ……打鉄のヘッドギア」

「はい。このヘッドギアの特に思考回路の読み取る部分の損傷が一番激しかったのです。おそらく、これが原因でしょう」

 

 すると轡木さんの上あたりにディスプレイが投影され、戦闘シーンが流れる。あの時の記録らしく、視点はどういうことか俺のようだ。

 

「おぉ…」

「すばらしい」

 

 いつの間にか集まったギャラリーたち。何故か賞賛しているが、「何もないところからの展開」というのがどれだけ凄いのかわからない。

 

「なるほど。机上の空論だったはずの指定展開(ポイント・オープン)ですか」

 

 隣にいる布仏先輩がそう述べると、俺は頭の上に(はてな)を浮かべた。

 

「あの、これのどこが凄いんですか?」

 

 思わず質問すると、全員が驚きの目でこっちを見る。

 

「えっと、何か?」

「桂木君、実はあの方法は今まで誰もできたことがない展開方法なのよ」

 

 更識がそう言うが、まさかそんなことがあるはずがないだろうに。

 

「いや、あのさ更識。俺って初心者だぜ? そんな俺でもああも簡単に展開できるんだから、国家代表の更識なら問題なくできるだろ」

「……それができないのよ。私だけじゃない。かつてモンド・グロッソで優勝した織斑先生や各国の国家代表もそんな芸当はできないわ」

 

 真剣な面持ちでそう説明され、思わず息を呑んでしまった。

 俺にできない展開方法って言われても、しっくり来ないどころか自覚もできない。

 

「まぁ、それはともかく。桂木君、すみませんが打鉄を預からせてもらっても構いませんか?」

「え、ええ。というか、学園の物なのでこちらに決定権はないと思いますが?」

「そうですか。ではそういうことで」

 

 すると予め予想していたのか、彼らはすぐに準備に取り掛かる。何人かは作業着に着替えており、準備に取り掛かった。

 

「ところで桂木君。「クロガネ」という単語はご存知でしょうか?」

 

 轡木さんがそう尋ねてきた。脳裏にいくつか言葉が浮かんできたが、どれもアニメや漫画のもので、最後に対最近完成させた「打鉄の後継機のプラモ」という題が出てきたのだが、

 

「そうですね。一般的には瞬間移動する大型ロボットとか、巫女に異界へ飛ばされた忍者とか」

「それとこれ、ですね」

 

 そう言って差し出してきたのは、俺が勝手に考えて造ったプラモだった。

 

「………あの、どうしてこれが?」

「いやぁ、随分と出来がよかったので思わず回収してしまったのです」

 

 それは俗に言うネコババとやらではないだろうか?

 だがそれをモデルにするにはシールドとそれについているビットを動かす手段が必要なわけなのだが、俺はそれについては詳しく知らない。

 

「それで、そいつを一体どうするつもりですか? 正直、俺の考えた設定が実現できるとは到底思えませんが」

 

 そもそもチートすぎるし、あのシステムはたぶんどの国でも実現されていない。

 

「大丈夫ですよ。ただ、しばらく桂木君には生徒会に入ってもらうことになりますが」

 

 その言葉を聞いた俺は思わず停止してしまった。


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