IS~歪んだ思考を持つ男~   作:reizen

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#16 後処理と目覚めの保健室

セシリアが倒したと思われた謎の機体はまだ動けたようで、突然動き出した。

 それを一夏が倒し、代わりに一夏は気絶したのだが、

 

「………」

 

 ふと目を覚まし、辺りを見回す。

 

「……鈴?」

 

 そして近くにいた少女の名前を呼ぶ。さっきまでゲームをしていた鈴音は購買部に売ってたケースに大事そうに入れ、起きた一夏を見た。

 

「起きたんだ」

「ああ」

「ホンット、アンタって馬鹿ね。どうしてあそこまでできるのか一度聞いてみたいわ」

 

 と本人の前で堂々と言う鈴音に対して、一夏は保健室を照らす夕日を見ていた。

 

「……あ、思い出した」

「何が」

「あの約束だよ。確か『料理が上達したら、毎日アタシの酢豚を食べてくれる?』だっけ。で、どうよ? 上達したか?」

「………」

 

 フリーズした鈴音だがそれも少しのこと。すぐに戻った鈴音はため息を吐いた。

 一夏はふと口にする。

 

「なぁ、思ったんだがその約束ってもしかして違う意味なのか? 俺はてっきりタダ飯を食わせてくれるんだとばかり思っていたんだが…」

「さぁね。もう忘れたわ」

 

 そう返す鈴音は一夏から見ても少し寂しそうだったが、それよりも大事なことを思い出したのでそっちを話題にする。

 

「それとさ、この前のことごめん」

「この前?」

「鈴に、貧乳って言ってさ」

 

 すると鈴音は「あぁ」と思い出し、

 

「別にいいわよ、そんなこと」

「え?」

「むしろこっちこそ悪かったわね」

 

 そう言って立ち上がり、外から見えないように仕切られたカーテンを開け、

 

「じゃあ、ゆっくり休みなさい。今日はお疲れ様」

 

 再びカーテンを閉め、病室のドアを開ける。

 そんな鈴音を見た一夏はただ「変わったな」と思うだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園内の学園長室。事件から一日経ち、そこに織斑千冬と更識楯無が学園長である轡木菊代とその夫の十蔵に呼び出されていた。

 

「―――それで、あの機体は無人機ですね」

「「!?」」

 

 それを知っているのはごく一部の人間のはず、と内心で千冬は思う。だが十蔵が近くで見ていたことを思い出した。

 本来なら近くに見ているからと行って見えるものではないが、十蔵に至っては例外だ。それを千冬よりもよく知っている楯無は納得する。

 

「……はい」

 

 千冬は白状する。彼女もそれは伝えるつもりだったが、先に言われたことは彼女にとってはダメージが大きい。

 

「そうですか。それともう一つ、改めてお聞きしたいのですが」

 

 十蔵は二人が来たときから既に笑顔だった。それが一層輝きだしたのを見たその場にいる三人はそれを危険信号だと感じる。

 

「どうして桂木悠夜君をクラス代表候補として戦わせようとしたのですか?」

 

 ―――織斑千冬がすることはすべて正しい

 

 それが職員室に流れているムードであり、彼女が言った言葉に全員が頷くことがある―――というよりもほとんどがそうだった。

 十蔵も日頃はそうだったので深くは考えていなかったが、このタイミングで触れるとは思わなかったのだろう。

 

「それは……彼も愚弟にですが推薦されていました。確かに参加は表明されていませんでしたが、それでも出る()()はあると思いました」

 

 その言葉に何を感じたのだろうか、十蔵の笑みの力は少なくなり、黙ったままの菊代は安堵する。

 

「そうですか。では残りの業務に戻ってください」

「…わかりました。失礼します」

 

 千冬は部屋を出る。楯無も倣おうとしたが、菊代に呼び止められる。

 

「楯無さん。あなたにはまだしてもらうことがあります」

「……何でしょうか?」

 

 菊代自身は大して力がない、ベテランの貫禄はあるが楯無にとっては敵ではない。

 だが十蔵は違う。実力が違いすぎるので楯無は大人しくしていた。

 

「実はですね―――おや、電話ですか?」

 

 どうやらポケットの中で先に震えたらしく、十蔵は小型端末を取り出して意図的に空中に投影して取った。

 

「もしもし轡木です。何か用ですか、委員長」

 

 「委員長」と呼ばれ、投影されている中年を思わせる男はとある機関の責任者のように両手を組み、十蔵を見ている。

 

『どうもこうもない。何だこの申請書は』

「何かお気に召しませんでしたか?」

『当たり前だ。襲われたこともあって訓練機の携帯は許可したが、それを学園の技術で専用機に改修するだと? 私はそこまで許可した覚えはないぞ』

「なので申請書を送ったまでですが」

 

 十蔵が委員長と会話している隙に楯無はどういうことか尋ねるために菊代に近づく。

 その動きを察した菊代はため息を吐いた。

 

「あの、どういうことですか?」

「夫は委員会に桂木君の打鉄を本格的に改修するために申請書を提出したのです」

 

 通常、学園内で行事予定表に組み込まれていない行事は委員会や上層部に報告や申請書を提出する決まりにある。生徒会長の交代は一応は行事予定に組み込まれている。だが楯無は一年生の一学期終了前から生徒会長をすることになったので申請書を書くことになったのは覚える。

 そもそもどうして彼女がそれを書く必要があったのかというと、生徒会長は学園内の生徒の中で()()()()()()()()()中で最強になるので、自然と専用機が与えられる。その時は唯一ロシアのみが楯無を選んだため、彼女はロシア代表候補生で専用機持ちになり、学期末前には国家代表へと就任していた。

 

『それが認められるとあなたは思っているのか?』

 

 委員長のチェスター・バンクスは十蔵に尋ねると「もちろん」と返事が返ってきた。

 

「むしろ認めるべきだとは思いますがね、委員長。それとも実力行使に出ますか? もっとも無駄になるのはあなたがよく知っていると思われますが……」

『………』

 

 チェスターが沈黙することは最初からわかっていた十蔵は選択肢を与えた。

 

「さぁ、どうしますか委員長。認めるか認めないか、あなたの前にある選択肢は二つだけですが」

『……認められるわけがないだろう』

「そうですか。それは残念です」

 

 だが十蔵は言葉を続け、その場にいた(または聞いた)三人を震撼させることを言った。

 

「ならばこのことをすべて本人に話しましょう」

『ふん。好きにしたらいいだろう。ISを動かせると言ってもたかが子供だ。そんな奴に何かができるわけでもない―――』

「ああ。今回送った申請書はあくまであなたたちに対して義理を果たすという意味以外はありませんから」

『何だと!?』

「言うなれば形式だけですよ。こちらはこちらで動きますので」

 

 そう言う十蔵に対してチェスターは脅す。

 

『貴様、立場を追われたいのか?』

「それでも結構。ですが私以上の適任者がいるかどうか」

『残り二人がいるだろう』

「一人は話を聞いた瞬間に睨ませて相手を失禁させ、もう一人はこの状況だと……そうですね。織斑姉弟は間違いなく地面に入って世界破壊など中二病まっしぐらの夢を実現しかねないのですが?」

『………』

 

 心の底から笑う十蔵に対してチェスターは何も言い返せない。ようやく紡ぎだした言葉も投げやりだった。

 

『……好きにしろ。しかし、このことに対して全責任は貴様が持て』

「ええ。同封している内容も是非お読みくださいね」

 

 そう言って十蔵は電話を切った。その顔はとても愉快そうで、まるで下克上を成功させた人間そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 布仏本音は自分の境遇を呪い始めていた。代表候補生にならないのが家の方針とはいえ、護衛対象の悠夜を本当の意味でいざという時には自分も逃げないといけないのが辛かった。

 あの後すぐに楯無に更識家が持つ特殊な連絡手段で知らせ、少し遅れたがなんとか最後の一撃を良い所を掻っ攫う形で楯無が倒した。それが本音には歯がゆかった。

 

(……だから、せめてこうさせてもらお)

 

 悠夜が諦めて本音を抱えるようにして寝ているのを利用し、本音も抱きつく。

 

(あったかいなぁ)

 

 ―――まるでお兄ちゃんみたい

 

 そう思うと同時に悠夜が自分の姉と結ばれるものを想像してしまい、本音は一層悠夜を、まるで甘える妹のように抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら睡眠にかなりの時間を費やしたようで、俺が目を覚ました時には時計の短針は9の字を指すか指さないかの地点に存在していた。

 すっきりと目が覚めていたので、俺は起き上がる。何故か重かったのでどうしてかと思ったら、そういえば俺は布仏と寝ていたことを思い出した。

 今もなお寝ている布仏を抱きしめたまま起き上がった俺は、再び体勢を戻してから今度は俺だけ起きると、

 

「悠夜!」

 

 ノックもせずに入ってきた織斑。これが自分の部屋で行われたら、間違いなく机やシャーペンは投げていた。

 

「大丈夫か!? ……って、え?」

 

 まだ寝起きだから現状が上手く把握できなかったが、織斑の視線を辿って気付く。というのも織斑の視線は布仏に向いていた。

 

「一夏、何をそんなに慌てて……」

「ちょっと箒さん、そんなところで止まらないでください…な……」

 

 全員がこちらを注目し、停止する。どうやらその行為は流行っているようだが、俺にとって迷惑だ。

 と思ったら篠ノ之が動き始め、どこかのタイガーのように背中から木刀を抜いた。……あの小さいのが入れていると違和感しかないが、こいつがやると納得だよな。背も高いし。

 

「確かに少し変な奴とは思ったが、よもやこんなことを平然とする不埒ものだとはな」

 

 ただし可愛げは向こうの方が十分にあるというか、比べるほうがおこがましいというか。

 そんな下らないことを考えていると、篠ノ之は木刀を振り下ろそうとした。だが後ろから小さい影から伸ばす手に阻まれ、動きを止められる。それだけで篠ノ之の足を払って倒した。

 

「貴様、いきなり何を―――」

「それはこっちの台詞よ」

「鈴……」

 

 織斑が凰の名を呼ぶが特に気に止めずに俺のほうに来る。

 

「さっきアンタの部屋に行ったけど、まだ帰ってないみたいだから直接こっちに来たの。ソフトはともかく、本体は買ったから返すわ」

 

 そう言って本体を渡す凰。俺はそれを受け取った。

 

「それはいいが、別に良かったのか?」

「ちょうどやってみたいソフトもあったからちょうどいいかなって思って。ほら、神喰いの続編が今月末発売だから」

「そうか。もうそんな時期なんだな」

 

 二人で話していると三人から詮索するような視線を感じてそっちに視線を向ける。織斑に至っては本気で驚いており、まじまじと俺を見ていた。

 

「あの、お二人はどういう関係ですの?」

 

 オルコットが遠慮がちに聞いてくる。すると凰は俺の腕を取って自分の体に密着させる。

 顔をわざと俺の方へ近づけ、肩に預けた。

 

「こういう関係だけど?」

 

 その行動に二人は心底驚き、織斑に至ってはなんともいえない顔をしていた。

 

(ああ、こいつはもうあそこまで攻略しているのか)

 

 マイシスには男主人公で不良の道に入り、体を売られそうになった義妹を助けるルートが存在する。それをクリアしてまた男主人公である程度ストーリーを進めると今度は義妹視点に切り替わってその義妹の視点から服を考察し、主人公が喜びそうな服やしぐさを選び始める。ちなみにここでは友達と違って自分の胸が小さくて兄に捨てられないか心配になり、段々と情報を集めて練習するなど、計算するように見せて天然さを出すところが特に人気だったりする。

 ちなみに俺はそう分析するとともに現時点で訪れている幸福に対してどう対応していいのかわからないので混乱している。

 

「じゃあ後でね悠夜」

 

 そう言って出て行く凰。三人とも凰の変化に付いて行けず、ポカンとしている。

 そこへ今度は織斑先生が入ってきた。

 

「やはりここにいたか……。桂木、目が覚めたのなら事情聴取だ。それと篠ノ之、お前には別件で用がある」

「「はい?」」

 

 急に現れたかと思えばそんなことを言い出す織斑先生。まだ曜日すらも把握していないというのにいきなり事情聴取とはな。

 篠ノ之の別件も気になったが、先に俺は頼むことにした。

 

「すみません織斑先生。先にシャワーを浴びさせてもらえませんか? 二日連続で同じ服はちょっと……」

「……いいだろう。それが終わり次第職員室に向かえ。いいな。篠ノ之、お前は追いて来い」

「わ、わかりました」

 

 織斑先生に追いて行く篠ノ之。俺はベッドから出てメガネをなどを着用し、布仏を背負う。

 

「悠夜、のほほんさんは俺が―――」

「あぁ?」

「いや、なんでもないです」

 

 ベッドを放置して俺も保健室を後にし、自分の部屋に向かう。

 

(あの野郎、絶対に布仏のことを狙っているな)

 

 布仏のおっぱいがデカいのは周知のことだ。あのおっぱい大好き野郎は間違いなく布仏のことを狙ってるな、と勝手に思い込み声を低くして威嚇した。むしろそう思っているのならば引導を渡すべきだっただろう。

 とはいえ今は布仏の身の安全を自分以外で保障せねば……たぶんこれは性欲がたまりすぎてのことだから、決して俺は布仏を泣かせようとしているわけではないと言いたい。

 

「ど、どうして私が謹慎しなければならないのですか!?」

 

 考え事をしながら歩いていたからか、近くにいることに気がつかなかったようだ。前の方で篠ノ之が誰かと言い争っているらしい。

 

「どうして? だったらお前がしたことを思い出してみろ。中継室にいた二人を気絶させ、あまつさえ二人を巻き込もうとしただろう」

「し、しかしそれは……」

 

 何のことだかわからないが、どうやら篠ノ之は中継室で仕事をしていた人を気絶させたらしい。

 

「もしあそこで織斑が侵入者を斬っていなければどうなっていたか。お前はもちろん、あの場にいた二人も死んでいた。織斑に感謝するんだな。何の為にそれをしたのかは知らないが、自分の行動で他人を巻き込むな。今回はその罰だ。準備をした後、懲罰室に入れ。いいな」

 

 全容は掴めなかったが篠ノ之は懲罰室に入ることになったらしいということだけはわかった。

 とはいえ俺には全く関係ないことだから無視を決め込んでとりあえず前に教えてももらった布仏の部屋に直行する。

 ノックすると中から返事が聞こえ、ドアが開く。すると俺を見た中から現れたパーカー姿の女生徒は驚いた。

 

「……あの、布仏の部屋ってここであってる?」

「…どうして?」

「本人を連れてきました」

 

 入室許可をもらい、中に入る。布仏を窓側のベッドに降ろした俺はお礼を言って部屋を出た。

 

(……なんか、更識に似ていたな)

 

 さっき中に入れてくれたその女生徒は更識並みの胸はなかったものの、どこか似た雰囲気を持っていた……って、あ、更識簪じゃないか。

 

(ちゃんと話をしておけばよかった……)

 

 姉のことで掴みになるだろうかと考えるのは後にして、今は先にシャワーを浴びてすっきりし、私服に着替える。

 そしていつの間にか充電されている自分のスマホをポケットに入れ、水を口に含んでのどを通す。

 ドアの鍵を閉め、鍵をカナビラに引っ掛けて職員室に向かった。

 




改変前よりも多くなる

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