鮮烈なのは構わないけど、俺を巻き込まないでください……   作:ふーあいあむ

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エドガーの存在の有無は問うてはいけない。




八十三話

「ここですわ」

 

“彼”を連れて彼女……ジークのいる部屋の前へとやってきた。

……この人なら彼女を救えるかもしれない。自分でもなぜそんなことを考えたのかはわからなかった。

 

「ふ~ん……」

「あの……さっきも話した通り彼女はデリケートですので、どうか手荒な真似はしないでくださいね?」

「分かってる分かってる。俺に任せなさい」

 

ジークの事情は説明済みだ。

 

「……お願いいたしますわ」

「おうよ」

 

ーーーーきっと、彼なら。

 

「……おじゃましまーす!」

 

彼は扉を開け、中へと入った。

私もそれに続く。

 

「アイツか……」

 

部屋の中心、膝を抱えてジークは座っていた。

部屋の半分は彼女を境にして破壊の限りを尽くされている。

 

「ぐっちゃぐちゃだなぁ……」

「あれがさっき話した彼女の背負うもの……それが残した“痕”ですわ」

 

 

『……(ウチ)が触るとみんな壊れてしまうから』

 

 

いつだったかジークが言っていたこと。

今でも鮮明に覚えている。

 

「……よし」

 

彼が動き出した。

ゆっくりとジークに近付いていく。

 

「……お願い……あの娘を……救ってください……ッ!」

 

そしてーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー彼はジークの頭を踏みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してますの!? あなた何してますのっ!?」

 

あの後すぐに彼を部屋から連れ出し、問い詰めている。

 

「いやぁ……あんな風にずーっとウジウジしてる奴嫌いなんだよ」

 

だからって踏みつけますか普通!?

それも傷心の女の子の頭を!

 

「だってムカつくじゃん?」

「馬鹿なんですの? あなた馬鹿なんですのね!?」

「ばーかばーかお前がばーか!」

 

コイツ……ッ!

 

「まじでブッ殺してやりますわ!」

「まぁ待て。俺だって考えもなく踏みつけたわけじゃねぇって」

「ムカつくからでしょうっ!? あなたさっきそう言ったではありませんかっ!」

「本当にそれだけだと思ってんのか?」

 

えっ……? や、やはりなにか理由があって?

 

「……あぁ、それだけの理由さ!」

「最も惨い殺し方してやる」

「お、おい! 落ち着けって! じ、冗談だよ冗談!」

 

本当に冗談なのか?

信用できない……。

 

「はぁ……あなたに頼んだ私が馬鹿でしたわ」

「いやいやいや、まだ早いって! 言ったじゃん、俺に任せなさいって」

「今ので任せるのは間違いだと確信しましたわ」

「信じろよ。絶対に大丈夫だから!」

 

何をもってそんなことが言えるのか……。

 

「よぉし、第二陣、突撃ィー!」

 

彼は再び部屋の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーそして再びジークの頭を踏みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何やねん、アンタ……っ! 人の頭をいきなり踏みつけるとか……それも二回やで……!? 何考えてんねん……っ!」

「うっせーブス……てめぇみてーにウジウジしてる奴は嫌いなんだよ……っ!」

 

ああぁぁ……何でこんなことに……!

 

「あ、アンタには関係ないやろぉぉ……っ!」

「知らねーよ、んなことはよぉぉ……っ!」

 

ジークと彼は取っ組み合いの喧嘩をはじめた。

それはそうだ。見ず知らずの人物に頭を二回も踏まれたら誰だって怒るはずだ。

 

「だ、だいたいアンタ誰や!? 何でここにいるんや……!?」

「俺がどこで何をしてようとお前には関係ないだろ! ばーか!」

「きぃぃぃぃぃいいいいいーーッ!」

 

と、とりあえず止めなくては。

 

「あ、あの……二人とも、少し落ち着いてくださいな!」

「やんのかゴラァ!?」

「受けてたったるわド阿呆ゥ!」

 

だ、だめだ……全然聞いてくれない。

 

「こんのぉぉぉぉおおおお……!」

「ぐぎぎぎぎぎぃぃいいい……!」

「ち、ちょっと! 二人とも!」

 

今度は割って入って止める。

 

「何やねんヴィクター!? このアホぶちのめすのに忙しいから黙っとって!」

「何だヴィクター!? このバカぶち殺すのに忙しいからちょっと待ってろ!」

 

「何やと!? 誰がバカや!」

「んだと!? 誰がアホだ!」

「きゃっ……!?」

二人に突き飛ばされ、腰を打ってしまった。

……なんか、イラついてきましたわ。

 

「こ、んのぉぉぉぉ……ッ!」

「て、んめぇぇぇぇ……ッ!」

 

今だ組み合う二人に私はーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「百式神雷ッ!」

 

 

 

ーーーー私の中で、何かが芽吹いた。

 

 




ご指摘を受けたので追記しておきます。

60話のジーク邂逅編にてチヒロとジークの初対面を描きましたが、あれもまた間違いではありません。
“チヒロにとって”あれがジークとの初対面なのです。果たしてどういうことなのか、それは続きをお楽しみに。

あ、ま、まだあいつがチヒロと決まったわけじゃあ…………無理あるよね……。


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