鮮烈なのは構わないけど、俺を巻き込まないでください……   作:ふーあいあむ

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ヴィクター視点です。




八十二話

「なぁ、お前、何してんだ?」

「えっ……!?」

 

背後から声をかけられる。

初めはエドガーかと思ったが、彼は今、用事があって屋敷の方へ戻っているはずた。

それに声が違う。

 

「なぁ、おい」

「あ、あなたは誰ですの……っ!?」

 

振り向いた先にいたのは、同年代か少し年下くらいの男の子だった。

 

「人にものを訪ねるときは、まずは自分が名乗るべきだぜ」

 

男の子の答えに釈然としない何かを感じつつも、彼の言う通りだとも思った。

ここはまず私から名乗ろう。

 

「……ヴィクトーリア・ダールグリュンですわ」

「ダールグリュン? 変な名前……くくっ!」

 

今こそ雷帝の技が習得しきれていないことを後悔したことはなかった。

 

「……そ、それで、あなたは?」

「ん? “もくひけん”を行使しまーす」

「なっ!? 何ですのそれ!?」

「えっ? “もくひけん”知らねーの? バカだなぁ、お前」

「そういう意味じゃありませんわっ!」

 

それに黙秘権くらい知っている。

 

「いやぁ、ほら。今は“こじんじょーほー”とか“プライベート”が保護される時代だから」

 

……怒りを通り越して呆れを覚えた。

この男の子は屁理屈の塊のようだった。

 

「屁理屈も理屈だよ~ん」

 

こいつマジ腹立ちますわ……ッ!

 

 

 

 

 

 

 

「で、あなたはなぜここにいるのですか?」

「何がー?」

 

はぁ……。

 

「ここは私の家の土地、勝手に入ってきたら“不法侵入”ですわよ」

「……ふむ。ここはお前の土地だったのか」

 

だから、私っていうよりはダールグリュン家ですが……。

 

「でもここ生み出したのはお前やご先祖様じゃないよな?」

「は、はい?」

「だから、元々あった土地を金やら何やらで買ったのがお前のご先祖なんだよな」

「ま、まぁ……そうですわね」

 

きっと金だけではなく、戦やらそこであげた戦果の功績やらで得たというのもあるのだろう。

だが、それが何だと言うのか……?

 

「じゃあ大丈夫だ。森も川も海もこの土地も“世界”が生み出したものだから、ここは“世界”のものだ」

「は、はぁっ!?」

 

な、何を言ってるんですの!?

 

「何かねー、この前、一人で留守番してたら家に変な人が来てそう言ってた」

 

そ、それって……宗教勧誘?

 

「ちゃんと“世界”に許可とって『ここは自分の土地』っていってるの?」

「へっ!? あ、いや……」

 

むしろ“世界”に許可をとる方法ってどうやるんでしょうか?

 

「じゃあいいよな! 俺がここにいても」

「え、ええぇぇ……」

 

 

ーーーーこうして、いつもと変わらない日常のなかに僅かな“変化”が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからも、彼は週に一回、多いときには週に二、三回ほど現れるようになった。

 

「でさぁ、幼馴染みがうっせえのよ。いや、まだガキだから仕方ねーっちゃ仕方ねーのかもしんないけど……あ、この幼馴染みは前に話したのとは違うヤツでさ……」

「ーーーーふんっ! はっ!」

 

はじめの頃は彼が一方的に喋っていて、私はそれを無視して訓練に励むというものだった。

しかし時が経つにつれ、それも変わっていった。

 

 

 

「ーーーーって言うんだよ! 酷くね!?」

「…………それはあなたが悪いですわ」

 

 

 

「ーーーーそういや、ヴィクトーリア。お前って……」

「…………ヴィクターでいいですわ」

 

 

 

「ーーーーほら、レモンのハチミツ漬け作ってみたぞ」

「…………わ、私のために?」

「他に誰がいんだよ。……母さんに聞いて初めて作ったから味は保証できないけど」

「い、いただきますわ…………」

 

 

 

 

 

 

そして、とある日のこと。

 

「ーーーーよう、ヴィクター。今日も相変わらず無駄に頑張ってんのか?」

「む、無駄とか言わないでくださいなっ!」

 

数日前から私はあることを考えていた。

それを今日、実行に移そうと思う。

 

「あの……」

「……ん? どした?」

 

 

 

 

 

「あなたに会ってもらいたい娘がいるんですの」

 

 

 

 




おまけ
《まだだよね? 謎の少年&ヴィクター ※sound only》

「と、ところで……そろそろ名前を教えてくださいませんか……?」
「いやぁ……プライベートは守らないといけないから」


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