鮮烈なのは構わないけど、俺を巻き込まないでください…… 作:ふーあいあむ
残念なことに。
非常に残念なことに、ガキンチョとはあの夜の二日後に再会した。
町の往来のど真ん中で。
「あ……」
「……げっ」
どうやら顔を覚えていたようだ。
どこかに向かっていたのだろうか、足を止めて俺を見つめる。
「……あの」
「……ッ!」
ガキンチョが口を開こうとする。
その前に俺は『でんこうせっか』で来た道を逆走した。
そう、奴との二度目の遭遇は無事に事なきを得たのだ。
得たのだが……問題は三回目のエンカウントだった。
「あの……生徒手帳、落としましたよ」
「ん? あ、どう……も…………」
振り向くとやつがいた。
その手には俺の生徒手帳。
先ほどの声はこいつのか……!
「なん……!?」
「
名前を知られてしまった。
いや、まだだ。まだ焦るような
名前だけ知られたところでーーーー
「へぇ……あの高校に通っているんですか。すごいですね」
オワタ。
「あ、あぁ、拾ってくれてアリガトウ! 拙者用事があるのでこれにて……」
「あ、待ってください!」
ガシッと腕を捕まれる。
何この子……力強い。
「あっ……その……申し訳ありません!」
顔を真っ赤にして腕を離す。
そして姿勢を正すと頭を下げた。
「申し遅れました。私、St.ヒルデ魔法学院中等科一年、アインハルト・ストラトスと申します」
ガキンチョはストラトスちゃんと言うらしい。
ストラトスちゃんは頭を下げたまま続けた。
「先日は手当てをしていただきありがとうございます。ただ……恥ずかしながら意識が朦朧としていたので、手当てをして下さったのがあなただという確証がないのです。その確認も含めてご挨拶に……」
ゆっくりと顔をあげ、そして固まる。
「……え?」
ーーーー俺はとっくに逃げ出していた。
「そこから俺とストラトスちゃんの追いかけっこが始まったんだ。それはまるで……そう、三世ととっつぁんのような……!」
「そろそろ現代に戻ってきてください」
あぁ、現実逃避もここまでか。
このまま過去編とか突入しない?
「やりません。今日という今日はきちんと話をしましょう」
「えー……」
やだよぅ。
ボクおうち帰りたいよぅ。
「今日はちょっと用事が……」
「ないですよね? 今日はこのまま自宅に帰り夕飯までネットゲームをして、その後に生物と数学の宿題をしてから入浴、就寝する予定のはずです」
「待って待ってストラトスちゃんちょっと待って」
え?
なに? どういう事?
なんで知ってるの?
「調べましたから。チヒロさんはすぐ逃げてしまうので情報は貴重な戦力です。数日、後をつけた甲斐がありました」
「知ってるかい? 世間一般ではそれをストーキングと呼ぶんだぜ?」
どうやら話を聞いてやらないとマジでヤバいらしいな。
俺のプライバシーが。
「ふぅ……わかった、わかったよ。話を聞いてやるから……その前に汗を拭け」
「……わかりました」
「あ、いや待て。拭いてやるから目ぇ閉じろ」
ストラトスちゃんは額に汗をかいていた。
まぁ、あれだけ全力疾走すればそうなるだろうな。
ポケットからハンカチを出す。
「あ、その……」
「人の好意は素直に受け取れよ、ガキンチョ」
「……で、では、その、お願いします。……それから子ども扱いしないでください」
ストラトスちゃんはそれだけ言って目を閉じる。
「よし、拭くぞ?」
「は、はい……」
俺はハンカチをストラトスちゃんの顔にーーーーめがけて投げつけた。
ついでに彼女の靴紐をほどいてから走り出す。
「わぷっ!?」
「ワハハ、愚かなり!」
ストラトスちゃんはハンカチを顔から取り、走り出そうとした。
だが靴紐がほどかれていることに気付き、こちらを恨めしそうに見つめる
「じゃーなー、ストラトスちゅわん! もう学校来んなよ!」
「待ってください! 私……私!」
もう遅い。
貴様ではとうてい追い付くことはできぬ。
我は帰る。何者も干渉することのできない約束の地へと。
いざ、
「私! ーーーーあなたの家の住所知ってますからね!」
くっそぅ。