いいか。ラーメンにはなあ、煮詰まったラーメンにはなあ………っ!
男の夢と書いてロマンと呼ぶ結晶が詰まってるんだよっ!
~小池メンマ風雲伝、「ラーメン、その意味」より抜粋~
~ ~ ~ ~
とある修行中のこと。いかにも怪しい銀髪マスクの人が店にやって来た。
巷――――といっても心の中の局所的な世間――――で噂になっている変態だ。心の中のマダオが興奮していたけど、無視した。
「いらっしゃい」
新顔の俺を見て、カカシさんは何やら驚いている模様。取りあえず注文を聞いたけど、その後のカカシさんは、テウチさんと何やら話しているよう。
さりげなーく耳を傾け、会話の内容を聞き取った。
………話の内容を要約すると、どうもテウチ師匠はナルト、というか俺が行方不明になった事で落ち込んでいるらしいとの事。
そういえば、記憶の底に、このラーメン屋に来たことがあるような光景が………。
時々ですが、落ち込んでいるような、曇った表情を浮かべていたのを思い出した。
あの顔は、俺が原因だったのか。
………でも、まあ、取りあえずは放っておこう。
今は何も言えないし。言える状況にもない。ラーメンを食べ終わったカカシさんは、テウチさんに一言二言残して、去っていった。
「今度、先生のもう1人の忘れ形見………娘さんの方を連れて、またきますから」
と言葉を残して。
………な、なんだってー!?
『あれ、言ってなかったっけ』
「聞いてねえよ!?」
なんでも俺とその娘は双子で。俺から見れば、妹になるらしい。なんじゃそりゃ。
名前は波風キリハ。父譲りの金髪碧眼の可愛い娘(マダオ談)だという。
ていうかお前赤ん坊の頃に一度見たきりじゃないのか?
………まあいいか。放っておこう。面倒くさいし。
縁があれば会うだろうし、というか次に来ると言っているし。
次の日。
来た、見た、負けた。成るほど、確かに顔立ちは整っていると言えた。
俺みたいに猫のヒゲのようなものが付いていない、正統派美少女?
少女版の波風ミナトといった感じ。そう例えると、妙に癪に障る。
『可愛いでしょ』
「……まあ、確かに」
『手出すなよ』
「妹だろ!?」
「………ん?」
俺の叫びを聞いて、不思議そうな表情を浮かべる少女。
やべえ、今の聞かれてた?
「えっと……妹、ですか?」
「あ、ああ。俺、妹がいてさ。ちょっと、今思い出しちゃってさ」
キュウっていうんだ、と誤魔化しの嘘をいうと、心の中のキューちゃんが暴れ出した。すんません。後で油揚げ食べますから、というと暴れるのは収まった。
現金な童女だ。
「へえ、メンマおめえ妹がいたのか。初耳だぞ? というか、ここの所毎日朝から夜まで働いているようだが、顔みせねえでいいのか?」
「はい。妹は………今は、心の中にいますから」
俺がぼかすようにしんみりとした表情で呟くと、渋い顔をして悪かったと謝る親父さん。
(うう、良心が疼く)
『アホ』
『ボケ』
心の中から、親父とキューちゃんに突っ込まれた。
次の日は、3人組の親子連れが来た。特徴的な3人組だな。
というか、分かりやすい! 間違いなく猪鹿蝶トリオだ。名乗られなくてもわかった。
親の方はどこか暗い顔をしているな。あー、もしかして俺の事か?
食べ終わった後。帰り際、子供を外に出してから、俺にある話をした。
四代目の忘れ形見(九尾云々とは言わなかった)の息子の方の捜索を続けているが、一向に見つからないと。
九尾が顕現していないので生きている筈、とあたりを付けているとか。
初めて見る俺にも、見かけたら連絡をくれ、と頼んでくる。
……すいません、物理的に不可能だと思われる。鏡がない限り。
容姿を訪ねたら昨日見たあの少女と同じ特徴で、金髪碧眼だという。
年は7才くらいとの事。
あーそうですね、分かってるというか毎日見てるので。
その人は~もしかしてこ~んな顔をしてますか~、とのっぺらぼうなノリで変化を解きたい衝動に駆られたが、どう考えてもやっかいごとになりそうなので自重した。
『当たり前だろう』
ですよねー。
その次の日、上忍らしき人がきた。
しばらくして、仕草で分かった。上忍レベルではないだろう。そのレベルに達すると、強さをを隠すのも上手いので。ということは、特上か。
あれ? この顔の傷は……この人って3代目の側近じゃなかったっけ?
すわ正体がばれたのか、と思ったが全然そんな事はなかった。
飯を食いにきただけらしい。その特別上忍の人はため息をついている。
何か気になるので、ちょっと聞いてみた。
「お客さん、随分不景気なため息ですね。何かあったんですか?」
「ああ……」
と急に事情を話し出す上忍の人。何でも、3代目の調子が良くないらしい。うずまきナルトがどうのこうの言っていた。またか。また俺の事情が絡んでやがるのか。
面倒臭いなあ。火影なんだからすっぱりと割り切ればいいのに。まあ、思うところはあるんだろうけど、それで火影の仕事にまで影響が出るようじゃあ、駄目だと思う。つーか駄目駄目でしょう里のトップなのに。分かってたけど甘いなあ。
まあ、それが短所であり、長所にでもなっているんだろうけど。
………と思いつつも、そのまま言ったら「無礼もの!」と怒られそうなので、言わないけど。
一日の仕事が終わった後、俺は里はずれの森の中にいた。一人で修行をしている時、少し考える。昨日、今日に会った人達の話を聞いて、どんな状況になっているか。
(三代目、大丈夫かなあ。実力の低下が進んだら不味いんだけど。あの変態蛇どうすんのって話しになるし)
木の葉崩しはどうするんだろう。
『………木の葉崩し?』
(ああ、三忍の一人、蛇の字が音の里立ち上げて攻めてくんだよ。砂と一緒に)
『へー、そうなの』
淡泊である。冷たいもんである。見限ったか?とも思うが、お互いに突っ込まない。
マダオはマダオでも割と気の利くマダオである。
(うーん、猿の爺様がそんな様子じゃあ………成るかもな。木の葉崩し)
象徴が負けたとなっちゃあ、木の葉の力も権威もがた落ちになるだろう。
その後の事を想像してた。
………拒絶感で胸がいっぱいになった。
ホモ蛇が権勢を振る舞う世界なんて嫌過ぎる。
断固、却下である。というか、どう考えても平和な世界に成りそうにない。蛇のオカマとか生理的に駄目だし。
また乱世の時代に逆戻り?忍界大戦?心底面倒臭いです。
それに、治安が荒れちゃあ、気持ちよくラーメン作れないじゃないか。
食べる人あっての、ラーメン屋なのに。
『………結局、自分の都合に帰結するんだね』
当たり前だろ、今更。さあ、どうするかなあ――――
『あ』
(ん?)
声に剣呑なものを感じたのと、飛び上がったのは同時。
間もなくこちらに近づいてくる気配を感知。状況把握のために、先人に尋ねた。
(………数は多くないな。後方から?)
『里の方からだね』
振り返り、注意深く、探る。そこで、分かった事が一つ。
(ん?)
6時の方向に気配ということは、里からこちらの方角に、向かってくるということ。
『まあ………暗部じゃないね』
それは、そうだろう。殺している気配と、殺せていない気配を感じる。気配の主は、誰かを連れて里の外に出ようとしているのだ。暗部ならば有り得ない行動。
気配の質から、おそらくは子供を連れている、と推測する。
(血継限界の拉致か)
狙いは読めた。木の葉の貴重すぎる術を盗みにきたのか。
『それで、どうするの?』
「殺せるなら殺す」
イレギュラーは御免だ。手の届く範囲なら、手を出す。決意を言葉に出して、俺は行動へと移した。
取りあえず、待ち伏せしてみる。だが、相手は自分がいる場所の少し手前で足を止めた。
「………何者だ?」
ちょっとはやるみたいで、気配を隠しているのに気づかれた。言葉に応えるかのように、相手の正面に姿を現す。そして苦無を構え、嘲るように笑い、答える。
「知る必要など無いだろう。今からお前は死ぬのだから」
「ふ………ほざけッ!」
叫びと共に、相手は一気に距離を詰めてきた。かなり早い。
そのまま、斬光が一閃。俺の身体が切り裂かれた。
「ふん、口ほどにもない。手間をかけよって………!?」
言葉は半ばで途切れる。もう次の言葉を吐くことはないだろう。永遠に。
一瞬である。俺の影分身が傷を受け、消えるまでの一瞬。
その一瞬で、敵の背後に回り、クナイで一突きしたのだ。脾臓を貫いた手応えがあった
、即死だろう。
断末魔さえ上げさせない。そんな不様は犯さない。
可能な限り静かに、そして迅速に。それが忍者の業、殺しの鉄則だ。
「………あー、やだやだ」
クナイを振り、血を払う。最初のアレは影分身の囮。上忍でも、トップクラス以下の力量だと、面白いほどに引っかかる。
分かりやすい方に意識を集中させて、気配を殺したもう一体が影から必殺の一撃。
無音にして、無情。忍者本来の殺り方である。
『お見事だね』
「嬉しくねえなあ。さーて、攫われたのは誰かな…………!?」
………うん。白い眼って、いいなー♪ ホワイトアンドホワ『落ち着けい』
はっ?
俺は今何を?
「だれ、です、か?」
薬で眠らされていたのだろう。ようやく目覚めた少女は、おびえた表情でこちらを見ている。その姿を見て、俺は頭を抱えた。
『白眼! 日向の子だね。年から察するに………ヒアシさんとこの娘かな』
おおふナンテコッタイ。
『戦わなきゃ、現実と』
「嫌な言葉で突っ込むな。あー、大丈夫か?」
取りあえず、気の毒な程におびえている少女に声をかける。なるべく柔らかい声で話しかけたのが功を奏したのか。幾分か安心したヒナタ嬢は、安堵のため息をはいて座り込んだ。
(………どうしようか)
迷っている時だ。また背後から強烈な気配を感じた。距離は離れているが、ここまで気配を届かせられるというと、並の忍びではないだろう。
何か忍者として間違っている気がしないでもないが、それはそれだ。
(暗部ではない。腕は相当立ちそうな気配だけど………)
というか勝ち目薄くないか。聞くと、マダオは何でもないように言った。
『うん、もしかしなくても日向家当主だから』
「さようなら、お嬢さん」
マダオの言葉に頷き、一礼。即座に神速でそこから遠ざかる。白眼に柔拳、回天とか……滅茶苦茶関わり合いになりたくない手合いだ。ああいうのは。
『きっと、娘馬鹿になってるだろうからねー』
「お前が言うな」
取りあえず全速力で逃げ切った。
「旅の時にも思ったけど………何でこうなるのかな」
『運命じゃないかな』
「あーあー聞きたくない」
しばらくは騒ぎになりましたが、またもガン無視です。
そんな事よりも、ラーメンだ。
(あー、癒される)
「こら、目の前の作業に集中しろ」
「はい、すいません」
戦いと違って、客にラーメン出してると癒されるんだよねー。昔を思い出して。それに、美味しいとか言ってもらえるともう最高。あ、テウチさんの腕によるものが大きいけど、俺もそれを助けているのは確か。
(いつか絶対、自分の店を持とう)
戦いなんて真っ平さ、という思いは深く、夢への決意は深く。
それでも、その日の深夜。
(おうち………またかよ?)
『また、だね』
今度は二組。どちらも分散しているため、各個撃破しなければならない。
(暗部は何やってんだ!?)
『もしかしたらだけど、うずまきナルトの捜索で忙しいのかもね』
あ、そう言うことか。危険度で言えばS級だもんね、九尾。四代目火影でも歯が立たないくらいだしー。強さで言えばSS付けてもいいくらいかもね。何という人間災害。
『そうじゃろうそうじゃろう!』
いや、褒めてないから。愚痴をこぼしながら、全速で標的の元へと向かう。尻ぬぐいは嫌だが、此処で見逃せば後味悪いのも事実。
仕方ないっちゃあ、仕方ないし。
『損な性分だね』
「損得で子供見殺すのはなー。それに俺ってば、生粋の忍びでもないから」
あくまでラーメン屋目指してます、自分。さて、どうするか。といっても、影分身しかないんですけどね。
昨日と同じ遣り取り。
そして背後から、サク、サク。
了。
木の葉に来てから、螺旋丸みたいな目立つ術は控えている。ていうか死体検分とかされたら滅茶苦茶ばれそうだし。今日の侵入者は、昨日のヒナタ嬢の時より腕は落ちているので、1人あたりの戦闘時間は少なかった。
ただ伏兵の数が多く、少し手間取ってしまった。
(また、随分と多いこと………)
数の利は相手にあり。つまりは、殺す以外に選択肢がない。
逃すという選択肢は、この場においてはありえない。
気絶させるというのも、無い。まだ、木の葉側にばれる訳にはいかないから。やな気分になります。何で殺すのか、なんて。考えてる内に気配を感知しました。
(取りあえず、逃げるか)
そうこうしてる内でした。薬から覚醒した子供に、顔を見られてしまいました。
あれ、ちょと前ラーメン屋で見たような。
「………あ、あの………おじさん?」
(おじさんはやめてー。せめておにいさんにしてー。っていうか、奈良シカマルと山中いの?)
先日見た二人です。チョウジがいないのは重かったせいか。金髪娘こと山中いの嬢はじっと、こちらを見ている。まあ戦闘用の変化なんで、見られても構わないんですがね。
あ、シカマル君も起きそうな感じ。じゃあ、行くか。ベストは、顔も見られないうちに去ることだったけど、まあ仕方ない。これも縁だと思い込もう。
正体がバレることはない。戦闘用に使っている姿はまた違うから。変化の術の応用なんですけどねー。金髪に碧眼で、背は170cmぐらい。ベースは本来のナルトのままで、20歳ぐらいに見えるような姿をしている。もちろん万が一を考え、口元はマスクで隠しているけど。
ちなみに、ラーメン作ってる時の小池メンマの姿は、黒髪茶眼の平凡な容姿だ。
こっちはあくまで囮用なので、小池の方のカモフラージュになるよう、目立つ姿にしてみた。
変装のあれこれはさておいて、いの嬢は現状を把握したのか、俺にお礼を言ってきました。
「あ、ありがとうございます」
もしかすると、俺を味方―――木の葉の暗部か何かだと思っているのかも。
まあ、成り行きなんで気にしないで、と伝えてその場を去った。
ぼかして逃げた方が良い。零す情報は少ないに越したことはない。
後方から怖い人達が近づいてるしね。
全速で退避。そして、その場を離れながらため息を吐いた。
『損な性分だね』
「かもな」
先をある程度知っている分、見過ごすことができない。木の葉に来たことは失敗だったかも。
(………まあ、悪いことは無かったし。立ち回り次第で、なるようになるか)
といいつつも、不器用なんで全て上手くいくとも思えない。
まあ、いざとなったら逃げればいいか。
歴戦の忍者――――三代目火影とか大蛇丸――――相手に完勝は無理で辛勝も難しいだろうけど、逃げ足だけなら自信があるし。