小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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23話 : 風に舞い

 

広場よりすこし離れた森の中。十尾にとらえられた五影達は、身動きのできない状態で並べられていた。首から下は十尾の泥で覆われている状態だ。身を包む十尾に体内のチャクラを封じられていた。肉体活性や忍術を封じられた彼等にその束縛を破る術はなく、ただ出来ることは目の前に居るペインの部下を名乗るゼツの、後頭部に殺意を叩きつけることだけだった。

 

「合図だ………始まるようだね」

 

白色のゼツはそう言うと、目の前にある大きな鏡に、チャクラを送り込む。それは遠眼鏡の術の源流たる、"遠外鏡の術"が刻まれた鏡。任意の場所を写しこみ、中継を可能とする術が刻まれたもので、いわば劇場のスクリーンのようなもの。術の式はペインによって既に描かれているので、あとはチャクラを送り込むだけで発動する。

 

黒のゼツも今より始まる激闘を見逃してはならないと、その鏡に映る光景に集中しようとする。それにこの鏡は今日使用した別の鏡とは違う特別製で、高性能かつ高起動に見たい場所を写すものなのだ。それだけ術式も複雑で、かつ起動に必要なチャクラも多く、集中しなければ完全には起動しない。

 

白と黒のゼツの二人は鏡を注視し、チャクラを慎重に送り込む。そして時間にしてちょうど一分後、ようやく起動に成功した。

 

二人は安堵のため息を吐き―――また、違う意味でのため息をついた後、振り返った。

殺気を籠めてこちらを睨んでくる五影と、その護衛達の方へと。

 

「後頭部ノアタリガ痒いンダケド」

 

「知るか」

 

「正直メチャクチャうっとうしいンダガ?」

 

「誰のせいだと思っている!」

 

怒りっぽい彼女でも滅多に出さないぐらい強く怒りが籠められたもので、殺意がふんだんに含まれていた。地獄の鬼もかくやというほど恐ろしい声。彼女の怖さをよく知る自来也が聞けば、股の奥から縮み上がっただろう。

 

それだけの怒りを見せているのは綱手だけではなかった。皆、綱手と同程度か、それ以上の怒気をまき散らしている。温厚な性格を持つ赤ツチや、滅多に怒ることのないダルイでさえも、心の底から溢れる抑えきれない怒りを表に出し、殺意をこめた視線を原因となる者へと叩きつけていた。

 

それも、無理はない。なぜならば彼等は、目の前でまざまざと見せつけられたのだ。鏡の向こう、黒い泥に覆われた自らの里を。

 

「ダカラナ………"マダ"ホロンデイナイトイッテイルダロウガ!」

 

「"まだ"だと? それはどういう意味だ! そもそも犯罪者の、敵の言う事など信じられるか!」

 

雷影は怒りのままに叫ぶが、怒鳴り声をあげた直後、ゴホゴホと勢い良く咳き込んだ。

 

「雷影様、傷が………!」

 

「クソ………怪我が無ければ、こんな束縛!」

 

「あーあーモウ、うるさいなあ特にそこの大仏マッチョ。まあ、気持ちは分からないでもないけどねー」

 

ゼツは両手を頭のうしろに組みながら、言う。

 

「対峙している相手が居るんだよ。そいつがどれだけの力を隠し持ってるのかは知らないけど、一人であのナガ………ペインに勝てる奴なんているはずないし。負ければハイそれで終了、吸収、さようなら~、だし。まだ、といってもほんとに時間の問題ってやつ?」

 

白ゼツは雷影の物言いに苛立ち、挑発じみた言葉を五影に叩きつけた。受け流せる余裕のない者が、更なる激昂を見せた。その他幾人か、考える余裕がある者は、ゼツの言葉に訝しげな表情を見せていた。

 

「戦っている相手………一人、だと?」

 

キラービー、八尾の人柱力がやられたことは皆理解していた。尾獣化したのは彼等にも見えていた。その後幾度か大地が揺らぎ、そして未だペインが健在で、八尾の姿がない。それらの事項から、考えられる事実は、一つ。八尾は既に敗北してペインに捕らえられたのだと、皆が理解していた。

 

ならば、残る候補は二人。時間稼ぎをするとペインの元へ向かったはたけカカシか、ここに居ない桃地再不斬だけ。希望はあの二人だ。そのどちらかが戦っているのだとその場に居た全員が思ったが、そこに無慈悲な言葉がかけられる。

 

「あ、ちなみに銀髪と眉ナシの二人はさっきペインにやられたって。ま、あと一歩という所までいったらしいけど」

 

「な………」

 

惜しかったね、というゼツの言葉を聞き、最後の希望が断たれたのかと、忍者達は肩を落としたが、その後すぐに全員が訝しげな表情を見せた。

 

「待て。あの二人はやられたと言ったな。それでもまだ、戦おうとしている者が居るというのか」

 

「アア、ソウダ」

 

「一体誰が………」

 

呟き、考え込む。護衛部隊ではない。五影達は自らが連れてきた護衛の部隊は全員、既に捕獲されているとゼツに知らされていた。別の遠外鏡の術により、その映像も見せられた。皆自分たちと同じように束縛されているか、気を失ったまま地面に転がされている。

ということは、五大国の者ではない。

 

ならば、答えは一つだった。自らの里に属さない、五大国にも属さないであろう一人の者があの化物に挑もうとしているのだ。そこまで考えが至った後。心当たりのない者は首を傾げ、心当たりのあるものは、眼を見開いた。

 

「もうすぐ映るから誰かはすぐに―――――って、映った映った」

 

やっと目的の映像を映すことができた白と黒のゼツは、やったと小さく拳を握りしめた。その向こうに、映っている光景。それを見た一同は、それぞれの反応を見せた。

 

最初に反応したのは、土影。両天秤のオオノキと呼ばれる彼は、それなりに名の知れた忍びならば皆、見たことがある。そのオオノキは、鏡に映っている人物。戦おうとしている人物を見て、こう言った。

 

「これは………四代目、火影!?」

 

人の眼を引く金の髪に、青い瞳。顔立ちも、顔岩に刻まれているそれに近く、格好も四代目火影に似ていた。額当てこそしていないが、額には鉢巻が巻かれている。その背には螺旋が刻まれた黒のマント羽織られ、長袖のインナーの色は橙色。

 

細部の色こそ違うが、言ってみればそれだけであった。それ以外の、全てが似ている。そう告げるオオノキの言葉に、雷影が反応した。

 

「似ている………ならばこいつは――――」

 

例の人物なのかと。告げる雷影と、驚くその他と、やはりかと口の端を上げる誰か。

 

そんな忍者達をよそに、最後の戦いの幕は、今まさに上がっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すれ違いに視線が重なる。風に雷に、人ではない速度で駆け抜けた両者はにやりと笑った。

 

(速度と機動力優先、殴られる前に殴り倒す)

 

メンマはチャクラを全身に行き渡らせて、

 

(まずは、様子見といくか)

 

長門は待ちの体勢に入った。

 

ダン、とメンマの地面が弾ける。チャクラにより地面を弾いた音だ。自前の脚力も加えられたその踏み出しは速く、メンマは一瞬後にはすでに長門の間合いへと入っていた。迎え撃つ長門は、動かず。不敵な笑みを浮かべたまま両手を上げて、迎撃の構えを取る。

 

相対する二人。一瞬速く長門の拳が放たれ、僅かに遅れてメンマが拳を放つ。

 

リーチは互角で、先手を取るのが条理。拳と拳が交差し――――

 

「ぐあっ」

 

"長門"が、うめき声を上げた。そのまま、吹き飛ばされていく。走る痛みから顔を殴られたのだと察知した長門は、不可思議な考えにとらわれる。

 

少し離れて映っている、拳を振り切った相手の姿。長門は放たれたのは拳だと思ったが、すぐに否定した。

 

(こちらの方が早かった、ということはただの拳打じゃない)

 

体術はあちらの方が上だが、拳の速度でいえば互角。こうも一方的に殴り飛ばされるはずがないと、長門は警戒を強めた。

 

(探ってみるか)

 

得体のしれない攻撃を見極めるべく、長門はまず遠距離にて攻撃をしかける。手元で印を組み、結びを虎の印にして、大きく息を吸い込んだ。

 

吐き出すと同時、術の名前を声に出さず叫ぶ。

 

術の名を、火遁・火産霊(ほむすび)。

 

その名の通り、わずか握りこぶし大の火の玉がメンマに向けて飛んでいく。明らかに小さく遅いそれにメンマは困惑の顔を見せ、突如はっとした顔になる。そ直後、長門は手と手を合わせ柏手の音を鳴らし、

 

「解!」

 

叫びと共に、炎の球を解答する。同時、超圧縮された火の球が解放される。周囲の酸素を瞬時に喰らい、大爆発を巻き起こした。巻き込み、風を喰らい、やがてそれは炎の渦にまで成長する。

 

その地獄の業火にも似た炎の竜は、周囲20間内にあるもの全てを焼き尽くす。岩が焼かれ大地が焼かれ水が蒸発した。気化した水蒸気が、周囲に立ち上る。数秒後、その炎はむせ返るような熱気を残して消えた。

 

だが、そこにメンマの姿はなかった。

 

(飛雷神の術で逃げたのか、いや………)

 

長門は自問し、だがすぐに否定した。時空間忍術が使われた場所は、空間がわずかに歪む。だが、見回しても空間に歪はない。そして、視線の先。40間ほど離れた場所に、メンマは居た。

 

(飛雷神の術で跳ばず、一瞬であんなところに!?)

 

炎が解放される寸前までは、確かにそこに居た。目視し、炎に巻き込まれるまでの時間は、一秒も満たなかったはずなのに、何故。

 

長門の疑問は、次の瞬間に晴れた。メンマの周囲に舞い散る雪が乱れ、びゅう、と風の鳴く音が聞こえた直後、長門は目前で地面が踏まれる音を聞いた。

 

(な、に!?)

 

目前には、踏み込んできた敵の姿。それでも輪廻眼の恩恵によりその踏み込みが見えていた長門は、カウンターの拳を繰りださんとする。

 

先ほどより速いタイミングで、力を入れ、引き絞り、拳を前に出す。それは腕を引き絞り最小限の動作で打つ、カウンター狙いの一撃。

 

しかし、突然の豪風が吹いた直後、長門は殴り飛ばされていた。まったく同じ光景。だがひとつだけ、違うことがあった。

 

「………そういう事か!」

 

長門は殴られる直前、その目で何が起きているのかをしっかりと見ることができていたのだ。先ほどと同じ手順で体勢を立て直した長門は、メンマに向けてゆっくりと口を開く。

「理解したぞ、お前の術を。言うなれば………超局地的な追い風、といった所か?」

 

「ご名答」

 

手鞠で遊んでいた時に思いついた遊び技だったんだけどね、とメンマが答える。聞かされた長門は、複雑な気分になっていた。

 

「遊びというには高機能すぎると思うが。その術は………お前が守鶴と戦った時に使った、起爆札による加速と似たようなものか」

 

木の葉崩しのことを言っているのだ、と。メンマは理解すると同時、また別の事を理解した。そこまで見られていたのだ、と。

 

ストーカーを見る眼になったメンマに対し、長門はそ知らぬ顔で言葉を続ける。

 

「風の球を肘、または足の裏に置いて発射台にして、解放。その追い風と風圧を利用し、拳や踏み込みの勢いを加速させる術か――――その術の、名前は?」

 

「我輩の秘術であるが、名前はまだない。一人じゃコントロールできない術だし、未完成だったから。でも一応秘術クラスだから………風遁秘術・風蹴鞠とかどうだろう」

 

手鞠にあやかったんだけど、とメンマが言う。俺に言うなよ、と長門が答えた。

 

「しかし、一人では使えないのか………無理もないが」

 

恐らくは五影クラスの使い手で、風を専門に扱うような忍者でも無理だろう。長門の言葉にメンマは頷き、ため息をついた。

 

「例えるなら、"スープひたひたチャーシューましましのラーメンを片手で持ちながら全力疾走して、なおかつスープを零さない"ってぐらい無茶だからなあ」

 

「ラーメンで例える意味がわからんが、そうだろうな」

 

あと何故チャーシューなんだナルトとかメンマとかあるだろう、と長門が言う。悲しいけどそれ添え物扱いなのよね、とメンマが答えた。

 

「添え物だろう。しかし、体術の運用に合わせ、形態変化と性質変化を同時にこなす、か。そんな芸当は並の人間では無理だろうな。それこそ――――複数の思考が必要となる」

「前者は異議あり、後者はご名答」

 

専念できるのは、一人につき一項目。ならば、二人で"丼を持つ手を調整しこぼさないようにする"と、"全力疾走する"、それぞれに専念すればいい。

 

「成程、そのために封印の鍵を緩めたのか。だが、一歩間違えれば死ぬより酷いことになるぞ」

 

「リスクあってこその必殺技だ。生半可な攻撃は通じないとなれば、仕方ないことだね」

「仕方ない、か。普通は思いついても実行しない行為だと思うのだが………十尾の負念にあてられて狂ったか?」

 

「いや、至極真っ当な真人間のつもりだけど?」

 

『分の悪い賭けは嫌いじゃない!』

 

真人間(笑)が、いつもの調子で反応する。長門は、変な顔をした。

 

「いや………そもそも、だ。真人間ならばこういう場所には来ないだろう」

 

「それもそうだな! なら、俺達は狂っているってことか、皮肉だな」

 

互いに死人だし、とメンマが笑う。長門は、笑えなかった。

 

「ああ、理解しているさ。やらなければならないことを。そのためならば――――」

 

「全てを打ち払う、か。同意するよ、その意見。続きを始めようか」

 

継戦の言葉と動じ、メンマは自分の掌を拳で打ち鳴らした。パシン、と甲高い音がなり、風が吹き荒れる。

 

「無理は承知。でも、多少の無茶ならば――――」

 

吠えると同時に足をあげ、性質変化によりチャクラを風にして

 

『承知の上だ!』

 

ミナトが合いの手と共に、風の形態を変化させる。そして、足の裏で風の鞠が生まれ、瞬時に爆発。

 

(三度は通じんぞ!)

 

肉薄する敵。だが読んでいた長門は反応し、メンマから放たれる左の掌打を右手で打ち払った。

 

「オラァ!」

 

メンマにとって今の一撃は"見せ"の虚動。あくまで動じず、実の一撃たる右の掌打を放った。長門は本命の一撃に、雷速で反応。残っている左腕で、掌打を受け止めた。

 

肉と骨のぶつかる鈍い音が鳴る。掌打の威力に圧された長門は一歩だけ後ろへさがり、押し出したメンマは更に踏み込んでいく。前方へと左足を軽く踏み出してそのまま跳躍、空中で全身を捻りながら静止。直後に吐き出す息と共に右の回し蹴りを放った。

 

「っ」

 

長門は後方へ身体を逸らし、側頭部に襲い来る蹴りをかろうじて回避する。

 

「まだ!」

 

メンマは止まらない。右足の振りの勢いそのままに、左の後ろ回し蹴りを放つ。

 

「甘い!」

 

それを読んでいた長門は、その左足を腕で受け止めた。メンマの身体の回転が止まる。長門は宙に浮かんだまま、バランスを崩している無防備なメンマに踏み込んでいき――――その顎をかちあげられた。

 

一瞬遅れて、風が吹く。メンマの左足を押し上げた風鞠の残滓が。

 

「まだだ!」

 

再度、振り上げた足の先に風の鞠を展開し、解放。吹き降ろしの豪風と共にメンマの足が鎌のように振り下ろされ、長門の脳天へめりこんだ。瞬時の間に、上から下からの蹴撃を受けた長門の頭蓋が揺れ、脳が揺れる。メンマは足元がおぼつかなくなる長門を見て、軽度の脳震盪を起こしていることに気づいた。

 

(好機)

 

これを逃す手はないと、メンマはチャクラを一気に練り上げた。今までとは倍する規模での風を生み出し、準備を整え、

 

「行くぜェ!」

 

叫びながら大きく一歩踏み込みんだ。全力の震脚が地面を砕き、

 

『一ぃ!』

 

ミナトにより集められた暴風が鞠となって、爆発。

 

「二のぉ!」

 

"メンマ"が、腰をひねり腕を腰に溜めて引き絞り、抉り込むような掌打を放ち、

 

『『三ッ!』』

 

体内の九那実が天狐のチャクラを体内に駆け巡らせ、クシナがそれをコントロール。

練り上げられたチャクラが合図と同時に、掌の先に収束していく。

 

それは、四心一致の妙技。捻りが加えられた掌打の腕、追い風がそれを更に加速させ、

 

 

『『『「破ぁッ!」』』』

 

都合4人の怒涛の呼気の即後。追い風プラス奥義の掌打プラス天狐のチャクラが一つに集められた渾身の掌打が長門の胴部へと突き刺さった。

 

「グハァッ!?」

 

外部より内部の破壊を、という目的のために練られた掌打の一撃。長門は今までに感じたことのない衝撃を感じ、胃液をまき散らしながら吹き飛んでいった。

 

ゆうに10間の距離を転がった長門。体勢を立て直し、メンマを睨む。

 

「今度は、こちらの番だ!」

 

長門は叫ぶと動じ、修羅道の能力を発現させる。数秒後には、かつて失われた兵器がこの今に蘇っていた。

 

「ってぇ、ミサイルかよッ!?」

 

「行け!」

 

長門は指揮者のような手つきでメンマを指し、見た目ミサイルのようなものを放った。

 

「当たらなければどうということはない!」

 

場違いな兵器群に混乱したメンマはトチ狂った反応を見せるが、正気は保ったまま、飛んでくるミサイルにクナイを投げつけた。だがクナイはミサイルを貫くことなく、かん、というマヌケな音をたてて弾き飛ばされた。

 

「嘘硬ッ!?」

 

嘘、飛燕を使えば良かったと叫ぶメンマ。ひとまずその場を逃れるため、先ほどと同じように、風に乗ってその場を退避した。直後、メンマの居た場所にミサイルが突き刺さり、着弾と同時に爆圧と爆風を撒き散らしながら、四散する。

 

爆風で、砂埃が舞った。

 

「ちょ、自重しろ神様!」

 

爆風止まぬ煙の中。予想の数倍の威力があったミサイルに、メンマは手をわたわたとさせながら慌てた。

 

「これでも自重しているぞ!?」

 

手加減はしないが、と長門は爆風が晴れた後、即座に再度爆撃を。ミサイルを放った直後、印を組んで風遁を発動させた。

 

「風遁・烈風掌!」

 

飛び道具の速度を上げるか、敵を吹き飛ばす風遁のCランク忍術。メンマにならって、追い風でミサイルを加速させたのだ。

 

「ちィ!」

 

メンマは舌打ちをしながら対策を考える。爆圧を回避することは不可能だし、中途半端な距離で撃ち落せばこちらにも爆圧がくる。ならば、と突っ込むより一時的に退避する方を選択。右へ大きく、跳躍する。だがミサイルはそのまま地面へと着弾せず、空中でその向きを変えた。

 

「なっ!?」

 

メンマが驚きの声を上げた。ミサイルはまるで生きているかのように、自分の居る方向へと軌道を変え、更に加速し向かってくるのだ。

 

「ちょ、まず………!」

 

ミサイルが、慌てるメンマのもとへ近づいていく。空中に居るその場所へ、徐々にその距離を詰めていく。

 

そして、その距離が零になる直前。長門は印を組み、爆発させようとする寸前。

 

すっ、と。長門の眼前に、どこからともなくクナイが降ってきた。地面に突き刺さったクナイ、そこにはマーキングの紋が描かれていて、

 

「なんてね」

 

メンマがその場所へと"跳んで"くる。間髪を入れず、隙ありと一歩踏み出しながら大玉螺旋丸を放った。

 

「今更そんなものを!」

 

迫り来る大玉転がし。長門は餓鬼道の力を使い、それを吸収する。端から中央へ、どんどんと吸収されていく螺旋丸。それは身を隠すのには十分で、目眩ましになる。

 

(なっ!?)

 

螺旋を吸収した後。長門は、目前で大きくクナイを振りかぶっているメンマの姿を見た。その後ろに、風の鞠が漂っている事も。

 

(至近距離から!?)

 

風が爆発し、クナイが跳ぶ。捻りも加えられたクナイ、弾丸のようなそれは、長門の眉間へと唸りを上げて大気を切り裂いた。

 

長門は慌て、迎撃の体勢に入る。クナイには風遁の刃がまとわされているのだ。岩をも貫く飛燕の一撃、土遁による防御も効果が薄いと判断した長門は、腕のチャクラを性質変化させて火の性質をまとわせた。相手は風遁だ。雷遁に属する千鳥流し刀には、意味がない。

 

「ぐっ!」

 

火が風を喰らい、飛燕がその効力を減衰させられる。しかしクナイ自体の速度が尋常ではなく、防御した長門の腕には、深々とクナイが突き刺さっていた。

 

そして――――“長門の視界は、自らの腕でふさがっている”。

 

(後ろ!?)

 

腕を下ろし、視界を確保したのと、同時。長門は相手の姿が目の前に無いことと、背後に迫り来る気配を感知した。

 

(肩にマーキングが、後ろに跳んだのか! だが―――)

 

惜しかったな、と。長門は呟くと同時に、両手を広げた。

 

 

「神羅天征!」

 

 

キラービーに使用してから数分が経った今の長門は、神羅天征が使えるまで回復していた。斥力の嵐が、全方向に吹きすさぶ。指定なしの手加減抜きで放たれたそれは、周囲にある全てを吹き飛ばした。岩も土も雪も城壁の破片も調度品の残骸もクナイも。手応えを感じた長門は、振り返る。だが、そこに吹き飛ばされたはずのメンマの姿は無い。

 

あるのは、空間の歪だけ。

 

「時空間跳躍――――なに!?」

 

「レディ―――」

 

メンマは先ほど居た位置で、クラウチングスタートの体勢に入っていた。足元には、マーキングが刻まれたクナイと、風の鞠。

 

「ゴッ!」

 

踏み出すと同時に、爆風が生まれた。滑空するが如く駆け抜けたメンマは、一歩目で30間の距離をつめ、二歩眼にはその倍の距離を踏破する。

 

(速いが、その距離ならば!)

 

十分に迎撃できると、長門は黒い刀を取り出すと同時、刀に風をまとわせた。それはメンマと同じ技、飛燕。黒い刀と風の刃により、長門の間合いが徒手のそれより3倍の距離となる。

 

(見切り、こちらに達するより先に貫く!)

 

拳を見切ることは難しいが、ならば出させなければよい。間合いに入る前に対処すればいいと、長門は輪廻眼でメンマの動きを先読みする。

 

メンマはクナイを放った。走りながら放たれたそれは追い風により加速されておらず、並の速度。弾くまでもないと、長門は首をわずかに傾けるだけで、その一撃を回避する。本命はこの後。長門は構え、洞察眼を最大にする。

 

(今、だ!?)

 

長門が刀を構え、動作を把握し、刀を突き出す―――――それと、同時に。

 

「飛雷神、二ノ段!」

 

メンマが“先ほど放ったクナイ”に跳ぶ。

 

(しまっ――――)

 

誰も居なくなった前を見て、長門は失策を悟った。回避するにも間に合わず、突き出す動作に入ってるから防御もできない。神羅天征も先ほど使ったばかりなので使えない。

 

出来ることといえば、空間の歪の残滓を虚しく貫くことだけ。

 

完全な、死に体となった長門に――――

 

 

「螺旋丸!」

 

 

満を持して放たれたメンマの螺旋丸が、長門の背中に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五影より離れた場所では、五影と同じように捕らえられた護衛の忍び達が居た。そこで、長門の中継による現場の一部始終を見せられているのだ。彼等は目の前に映る光景を見た後、驚愕の表情に染まっていた。

 

「………すごい」

 

呟いたのは、キリハ。五影達と同じく、十尾の泥により全身を束縛されていた。

 

(飛雷神の術を完全に使いこなして………いや、父さん達が手を貸しているのかな?)

 

キリハは画面越しにでも、兄に重なる父と母と九那実の姿とチャクラを感じ、そんな考えを抱いていた。他の者も、何かを感じていたのだろう。戦争を経験したことのあるベテランの忍者達の中には、「木の葉の閃光」と呟く者達も居た。

 

「……これがあいつの本気か。煙に紛れて死角に紛れ、細工を凝らして条件を整える。大味な戦いを好んでいると思っていたが」

 

「木ノ葉崩しの守鶴………我愛羅との戦いのことを言っているなら、違うぞ。あれはあれで理に適ったやり方だ。殺すではなく、ぶっ倒すだけなら」

 

殺すだけなら病院で出会った時にやるのが最善だったろうし、とシカマルが言う。

 

「それは………そうだな。しかし敵の様子も変だ。いくら何でも一方的過ぎる。この程度の動きならば、我愛羅も対処できるだろう。五影全員がやられるまでとは思えない」

 

「あれは………場所が悪かったんだろうな。閉鎖空間で城を吹き飛ばすほどの威力を持つ衝撃波を使われたら、誰でもああなる。自由に動ける広い場所か、外で戦えばまた違った結果になったと思うけど………その場所を整えるのも忍者の能力だ」

 

そうせざるを得なかった理由があるのを知っているシカマルは、その顔を歪めた。里を覆う影だってそうだと呟きながら。

 

「あれも………!?」

 

「いくらなんでも制圧までの時間が早過ぎる。里は完全な防衛体制。外からの攻撃に対する備えは万全だと言ってもいい。それをこの短時間で落とした、ってことは………」

 

「中からの攻撃しかない、というわけか」

 

「恐らくは、最初の襲撃に使われた死体。あれに何かを仕込んだんだろう。ったく、最初の一手からここまで全部つながってやがる。野郎、ずっと前からこの状況を狙っていたに違いない」

 

それでも無傷とはいかなかったようだな、とシカマルが言う。

 

「………そうだね。足の動きに違和感を感じる。チャクラの切れも悪いんじゃないかな。本来の精度を保てていないような気がする」

 

特に左半身の反応が鈍いと、キリハは見ていた。観察眼と勘による判断だが、恐らくは正しいと彼女は思っていた。事実、その考えは正しかった。度重なる激戦に、長門の身体もガタが来ているのである。

 

「足にもキてるな。外傷は無かったから、よほどいい一撃………拳か岩か、なにか重量のある一撃を受けたのか。よほど気合の入った一撃だったんだろう。じっくり芯まで衝撃が残ってる状態だ、あれは」

 

「そこに体術の連撃と螺旋丸が。普通の相手なら終わったと見ていいが………」

 

「何、やったのではないのか?」

 

完全に入っただろ、というテマリ。それに対し、シカマルは見ろ、と首だけで前を示す。指した先、映像の向こうでは緊張した面持ちで深呼吸をするメンマの姿が映っていた。

 

「身体がこわばってる。これは、むしろ…………」

 

ここからが本番なのか、とシカマルが口を開こうとする寸前。

 

忍者達と、五影を含む周辺。

 

 

城を中心とした、付近の空気が一片した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手くいったけど………これからか」

 

メンマは、前もって戦術を決定していた。相手の手札は数えきれなく、その術も強力だ。受けに回っていては、いずれやられるだけ。ならば、それを出させなければいいと考えたのだ。

 

その答えが、唯一相手に勝るであろう、速度。それを活かした機動力と連続攻撃により、主導権を掌握し続けること。息もつかせぬ連続攻撃と、風を駆使した機動戦術を混合させた奇襲で、多彩な戦術を封じる。一人では無理だっただろう。しかし、今は4人居る。最後に仕上げも、飛雷神の術あってこそだ。

 

一番の壁である神羅天征を“出させた”――――否、出さざるをえない状況まで持っていった上で、回避する。だが肝心の回避の術は、少ない。無傷でそれをできるのは、時空間忍術による長距離移動だけなのだ。

 

(それでも、前情報が無ければ無理だったな)

 

戦ったことがあるのも大きいと、メンマは拳を握った。

 

やられた時のことを思い出しているのだ。かつて味わった、完膚無きまでの敗北。

 

(今回は勝つか、負けるか………いや)

 

だが、それもまた終わってはいない。何より、本番は――――“世界そのもの”を相手にするのは、これからなのだから。

 

その時。メンマの思考に呼応したが如くタイミングで、地面が鳴動し始めた。

 

『……来たねー』

 

ミナトがぼそり、と呟く。そこに、余裕の色は一切無かった。

 

『来ちゃったってばね』

 

ようやくスタートラインだけど、とクシナがぼやく。

 

『これにて前菜は終わりだな』

 

随分骨のある濃い前菜だったが、と九那実が実に嫌そうに言う。

 

「五影と護衛とカカシと再不斬と俺でようやく、か。これで前菜ならどんなコースだ」

 

ぼやくメンマに、答える声があった。

 

「――――六道巡り地獄行きだ、閻魔の裁定は厳しいぞ? 善行の貯蔵は十分か、人間」

声は、眼前に立っている者が。全身を黒く染められた、長門が発したものだった。誰とも分からない者が声が重ねられている。気の弱い者が聞けば、悪い夢に現れるような恐ろしい声による回答。対するメンマは、更なる苦笑を返した。

 

「生憎と正道を外れた身なんでね。その自信はないよ、神様」

 

もとより俗人だしと言い切るメンマ。長門は腕を組みながら構わないと続ける。

 

「どちらにせよお前しか居ない。見ている者も多いから、せいぜい死なないように頑張ることだな」

 

「言われずとも――――って、もしかして里の人間も見てるのか、この戦闘を」

 

「絶賛中継中だ。“他の映像”も見せているが――――それが徒労に終わるのかは、これからの戦い次第だ」

 

だから気張れよ、と。長門が告げると同時、地面から黒い泥が大量に飛び出した。

 

 

「さあ、これが防げるか!」

 

 

合図が送られて、間もなく。

 

黄泉が如き黒い泥が鳴動し。波濤となって、メンマに襲いかかった。

 

 

 

 

 


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