Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

50 / 144
お久しぶりニコ・トスカーニです。
すいません、間空きました。
第2部です。
話を進めるうえで特に必要はありませんでしたがなんとなくオリジナル設定を盛ってしまいました。
すいません。でもこのSSは元々オリジナル要素盛り盛りの趣旨で書いてますので……
どうかご容赦ください。
ちなみに今回は久々にオリキャラしか出てきません。


探偵

 私の依頼主は様々だ。魔術協会、聖堂教会、個人、政府機関……

 魔術に対する信念を特に持たない私は自分が遂行可能と判断した依頼はなんでも受ける。

 特定暴力団の両儀家からの依頼も女王陛下からの依頼も私にとっては等価だ。

 

 今回の形式上の依頼主は組織。それも魔術協会でも聖堂教会でもない別の組織だった。

 

 表向きの依頼主のニュー・ソサエティはオックスフォードに本拠を置く中世後期に発足した後発の魔術組織だ。

魔術協会があくまでも魔術自体の発展を目的とするのに対し、ニュー・ソサエティは

魔術を使って利益を生み出すことを目的とする俗世的な発想の魔術集団だ。

 かつてはエドウィン・ハッブルやルイス・キャロルも所属していたと伝えられている。

ニュー・ソサエティ近代科学に強みを持ち、荒事以外の実益的問題に日夜取り組んでいる。

 

両者は相容れず、また、ニュー・ソサエティは魔術協会から軽く見られている。

 

 ニューソサエティは魔術協会と違い、新興の家系やソフィーのような突然変異で魔術回路を得た魔術使いにも寛容だ。

 サマセット・クロウリーの紹介でニュー・ソサエティの会員となったソフィーは

刑事という立場から相談を受けることがあり、私も彼女経由で依頼を受けることがある

 

 今回はソフィーの親戚という個人からの相談が発端だったが、気の利くソフィーは

私が無報酬で仕事をせずに済むよう、手を回してニュー・ソサエティからの依頼という形で仕事にしてくれたらしい。

 やはり持つべきものは友だ。

 

××××××××××××

 

 現場はオックスフォードを構成するカレッジのひとつハートフォードカレッジの寮だった。

 時代を感じさせる古ぼけた木製の門に立ち、ソフィーから預かった連絡先に電話すると20代前半の無垢さを感じさせるほっそりした若い女性が迎えに来てくれた。

 

「マクナイトさん?」

「ああ。ということは君がアレクサンドラだね?」

 

 ニュー・ソサエティはオープンな組織だが、神秘の秘匿にだけは気を使っている。

 ニュー・ソサエティという名前が表に出ることはなく、表面上利益をあげているのはニュー・ソサエティの運営する企業だ。

 

 コンサルタント業を主軸としているが、その中には調査会社も含まれる。

 今回、用意された身分はニュー・ソサエティが運営する調査会社の調査員というものだった。

 念の入ったことに名刺と社員証まで用意されていた。

 

 ソフィーからは友人の私立探偵と紹介されていたようだ。

 私立探偵アンドリュー・マクナイト。

 いい響きだ。

 

「早速だけど部屋を見せてもらえるかな?」

 

 私が問いかけると彼女は期待と不安の混ざった声で言った。

 

「よろしくお願いします」

 

 アレクサンドラは私を寮の部屋に案内してくれた。

 部屋は簡素な作りだった。

 ベッドと机が二つにクローゼットが一つ。

 それに洗面台とヒーター。

 シャワールームとトイレは寮内のものを共有しているらしい。

 

 わが国最古の大学であるオックスフォード大学はもっとも格式の高い大学であり、当然ながら学生生活にかかる費用も高い。

 

 本当に優秀であれば奨学金を得ることもできるが奨学金を勝ち取る競争はきわめて激しく、実際のところオックスフォードに入学を許可されるほどの学力を持つには親の財力は強力な助けになる。

 

 アレクサンドラの父もご他聞にもれずシティで株だか債権だかを転がしているエリートらしい。 

 ルームメイトのジェシカは本物の貴族の家系の出身だそうだ。 

 

 まったく。ポール・ウィリスの言うことはつくづく正しいらしい。

 

 そのルームメイトのジェシカには留守にしてもらっているという。

 彼女はボドリアン図書館で大量の宿題と格闘中だそうだ。

 

 さすがはわが国が誇る最高学府だ。

 

「君のほうは大丈夫なのか?」

 

 私がそう問うと彼女は言った。

 

「大丈夫じゃないですよ、勿論。……でも気になって手につかないんです。よろしくお願いします」

「わかった手早く済ませよう」 

 

 解析は器用貧乏な私が唯一得意と言える魔術だ。

 ベランダに出るといつもの詠唱を不審がられないように小声で口にし魔術回路を起こす。

 ――そして。

 ――私の魔術回路は何も捉えなかった。

 

 オックスフォードは歴史が深くマナの濃い土地だ。

 ニュー・ソサエティが大都市ロンドンではなくこの地を本拠としているのは魔術協会との競合を避けるためでもあるが、この土地が魔術に向いた土地であることも無論関係がある。

 

 オックスフォード自体のマナとこの場所のマナが混ざりあって解析が困難になっているのかもしれない。

 

 私はそう推論をたて、再度解析を実行した。

 

 いつもの解析方法だけでなくフーチにダウジング、さらにはわが友アンナ・ロセッティからの借り物である探知のルーンも試した。

 

 しかし、いくら調べても不審な魔力を探知できなかった。

 

 依頼主アレクサンドラの様子を見やる。

 彼女は明らかな不審物を出した私のことを怪しい者を見る目で見ていた。

 当然の結果だ。

 

 私はあせる気持ちを抑え思考をめぐらせた。

 そして気の進まないプランBに踏み出すことにした。

 

 私はため息と情けない気持ちをないまぜにして彼女に言った。

 

「この事件にはホームズが必要だな」

「あなたがホームズじゃないんですか?マクナイトさん」

「残念ながらね。僕はホームズじゃない。憎たらしいほどハンサムだが凡庸なるワトソンくんだ」

 

××××××××××××

 

「チンカスほどの魔力も感じねえな」

 

 莫大な財産をもつサマセット・クロウリーは何もしなくても生計を立てられるが、中産階級出身のホイルはそうはいかない。

 魔術協会から封印指定を受けているホイルは魔術協会に対する身柄の秘匿と報酬の引き換えにニュー・ソサエティの研究に協力している。

私はニュー・ソサエティ経由でホイルに助手としての協力を依頼した。

 

 報酬は折半ということにした。

 ホイルは自分ひとりで仕事を請け負うことを主張したが、ホイルの人格をよく知るニュー・ソサエティの理事は

女子大生の部屋にホイルのような思考回路の持ち主を一人で入らせることは最悪のアイディアであると判断したらしい。

 あくまでも私の助手としての参画という形で落ち着いた。

 ニュー・ソサエティの理事は常識人ぞろいだ。

 

「確かか?」

「確かだ。男に生理はこねえってのと同じぐらい確かだ」

「もう少しマシなものにたとえられないのか?」

「女は勃起しねえってのと同じぐらい確かだ」

 

 フランスの血がまざるアレクサンドラはフランス語が話せる。

 彼女は目の前にいるブタによく似た二足歩行する謎の生き物を警戒しているらしい。

 私がマルチリンガルであることをソフィーから聞いていたらしく、

内緒話を試みるためにフランス語で言った。

 

「Quel type de professionnel est-il?(この方は何の専門家なんですか?)」

 

 私は迷った。まさかトリュフ探しが得意なブタと紹介するわけにもいかない。

 

「Eh bien……(そうだな)」

「Je suis just un super génie. Mademoiselle(俺はただの超天才だ。お嬢ちゃん)」

 

 アレクサンドラはその発言をどうとったのかわからないがホイルの存在がとりあえず不快だったらしい。

 不快さを抑えた作り笑いを浮かべていた。

 

 当のホイルは珍しく真剣に考えていた。

 そしてしばし沈思黙考した末に行った。

 

「アンディ。隣の部屋も調べるぞ?」

 

 ホイルの表情は真剣そのものだったが安心できない。

 何しろこの生物は底なしの変態だ。

 

「変な目的じゃないだろうな?」

 

 私が最大限の警戒心で問いかけるとホイルは真剣な表情のまま言った。

 

「そう警戒するなよ。隣の部屋のブルネットが中々のかわいこちゃんだったんでな。

ちょいとブラとパンティーを何着か拝借するだけだ」

 

 私はモバイルフォンを取り出すと番号をプッシュした。

 

「おい、どうしたよ。ダチ公」

「この案件のイニシアチブは僕が握っている。理事のミス・フィッツジェラルドに報告して君を案件から外してもらおう」

「まあ、待てよ。冗談だって!

実を言うとな、大体見当がついた」

「本当か?」

「ああ。俺のケツにできたイボ痔に誓って本当だ」

 

 そんなものに誓われて信用できるものかと言おうとしたがこの生き物の発言にいちいち反応するのは純粋なる時間とエネルギーの無駄遣いだ。

 そんなことをしていたら時の翁が激怒するに違いあるまい。

 私はその上品極まりないたとえを無視し、ホイルの次の言葉を待った。

 

「それでな、アンディ。ちょいと聞き込みに行ってくれねえか?」

「君は行かないのか?」

「バカ言え。俺みたいな明らかな不審者が天下のオックスフォードのキャンパスなんかウロウロしてたら

目的を果たす前にセントオルデイツ市警察のごやっかいになっちまうだろうが」

 

 ホイルの口から出たのは意外にも正論だった。

 しかし、自分が明らかな不審者の外見だと分かっているのに直す気がないとはタチが悪い。

 

「自覚があったとは意外だな。だったらそのストリップパブでしこたまウォッカを飲んだ後のサンタクロースみたいな身なりと体型をどうにかしたらどうだ?」

「アンディ。俺は超天才だぜ?超天才は身なりなんて細けえことを気にしてる余裕はねえんだよ。

スティーブ・ジョブズを見てみろ。いつも同じ格好してるだろうが」

 




次回、回答編です。
関係ないですがFate/Grand OrderのFate/Zeroコラボイベント、シナリオ面白かったですね。
同人誌的な展開で胸熱でした。
ちなみに、詫び石が一杯溜まっていたのでガチャを引いたらキリツグが出ました。
非課金なのですがこれで6騎目の金鯖です。(1騎は配布ですが)
クジ運がいいみたいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。