Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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すいません。
だいぶ間が空いちゃいました。
今回はバトルありありで書きました。
あんまりうまくないかもしれませんがご容赦ください。


対決

 私は彼らの逃亡に手を貸すことにした。彼らは驚き、私の正気を疑ったが、最終的には私のことを信用してくれた。

 

「まず、君たちを秘密裏にこの街から逃がす。ホーエンハイムは君たちがロンドンに向かったことまでは知っているが

それ以降の動きを知らない。この街から出て以降は、話の分かる人間に保護してもらう。

準備するから2,3日待ってくれ」

 

 私の提案に彼らは首を縦に振り、礼の言葉を述べた。

 

 「あんたがあんなこと言うなんて思わなかった」

 

 2人の隠れ家からの帰り道、士郎は実に意外という調子で私に言った。

 

「僕の両親は国際結婚だった」

 

 私は言った。

 

「母方の祖父は絵にかいたような昔ながらの日本の頑固親父でね。

当時、国際結婚する日本人は珍しかったら相当反対されたそうだ。

僕の両親と彼ら2人の困難さは比べ物にならないだろうが、

率直に言って両親の姿を2人に投影して同情している。それが僕が彼らを助ける理由だ」

――君が彼らを助ける理由も聞いていいか?」

 

「あの2人は必死の思いで逃げ出して、必死の思いで一緒になろうとしてるんだ。

頑張った奴が報われないなんて間違ってる。

だから俺は2人を助けたい」

 

 私はこの少年に好感を持った理由を思い出していた。

 彼の理想は歪ではあるが美しい。

 私は短く感想を述べた。

 

「良い答えだ」

 

 彼らの元を後にすると、私はまず2人を匿ってくれそうな人物に連絡を取った。

 パリに拠点をもつ1人目の人物は簡単に捕まった。

 

「ジェラール。アンドリューだ」

「アンディ!çava?(元気かい)

 

 まずはギュンターどディアーヌを匿ってくれる人物が必要だ。

 必要なのは話の分かる人間で、尚且つ、事情によっては金銭など気にしないタイプの人種だ。

 

 ジェラール・アントルモンは今回に件についてあらゆる意味でうってつけの人物だ。

 

 まず、この件についての唯一の目撃者だ。

 ギュンターをディアーヌを逃がすには関係する人物を可能な限り限定する必要がある。

 唯一の目撃者である彼は最適だ。

 

 さらに彼は身分を偽装する術を心得ている。

 ギュンターとディアーヌに目立たずに暮らす生活を提供してくれることだろう。

 

 そして、大事な点だが、彼はロマンチストだ。

 ジェラールはそれなりに有名な魔術家系の次男だったが、最愛のガールフレンドにフラれたショックでフランス外人部隊に入隊し、除隊後に荒事を専門にした魔術使いになった。

 そんな人物がこの件の真相を話せば悪いようにするはずがない。

 

「オー!アンディ!なんて悲劇だ!まるで無実の罪で引き裂かれたエドモン・ダンテスとメルセデスじゃないか!

僕にできることならなんでもするよ!2人を匿えと言うなら喜んで引き受けるさ!」 

 

 彼は二つ返事で引き受けてくれた。

 

 次は移動する足の手配だ。

 私は不測の事態に備え、公共交通機関を使わずに陸路で移動するのが最適と判断した。

 私は運転は出来るが地元を留守にしていることが多いため、車を持っていない。

 凛が最近車を購入したと聞いているが、彼女に頼んだら事実を話さざるを得なくなる。

 

 私と士郎はこれから連れ立ってバカな行為をしようとしているところだ。

 素直に事情を話したらお説教程度では済まないだろう。

 数日を要するためレンタカーも避けたい。

 

 私は警察関係者の2人、エミリー・オースティンからソフィー・エヴァンズのどちらかに協力を仰ぐことにし、

ソフィーを選択した。

 

 彼女を選んだ理由は簡単だ。

 ソフィーは半分フランス人でロマンチストだからだ。

 私が事情を話し、車の借用を頼むと彼女は熱のこもった調子で言った。

 

「アンドリュー!あなたは2人を助けなきゃ駄目!

英国人のジェーン・オースティンですら最後はハッピーエンドにしてるんだよ?」

 

 こうして準備は整った。

 私は凛に士郎を連れて2,3日調査のためにスコットランドに行くと最もらしい理由を並べ、

士郎を連れて行く許可を得た。

 彼女は聡明で勘のいい女性だ。正直説明は冷や汗ものだったが、彼女は納得したようだった。

 

 準備を終えた私は貸倉庫から万一に備えた装備をピックアップすると士郎を連れて2人の隠れ潜む廃棄された地下鉄の駅へと向かった。

 

「急ごう。ホーエンハイムには虚偽の調査進捗を伝えているが、本当に信じているか疑問だ。

1秒も早くここを出よう」

 

 私がそうギュンターとディアーヌに言うと、背後から招かれざる客の声が聞こえた。

 

「これはどういう事でしょうか?ヘル・マクナイト」

 

 ホーエハイムのお使いのホムンクルス、アインとツヴァイだった。

 迂闊だった。慎重かつ迅速に行動したつもりだったが後をつけられていたらしい。

 

「英国人は天邪鬼でね。やれと言われたことを放棄したくなり、やらなくていいことをやる気分になってしまう時があるのさ」

 

 私は余裕をもって答えたが、状況はかなりまずい。

 私の隣に佇む士郎が緊迫感を露わにして言った。

 

「アンドリュー。どうする?」

 

 私は、ダッフルバッグから用心のために用意していた装備を取り出し短く答えた。

 

「言うまでもないだろう」

 

 士郎は私の言葉に力強く頷くと、あの詠唱とともに2振りの中華剣を投影して構えた。

 

「どうやら契約は破棄ということのようですね。

承知いたしました。こちらも相応の手段を取らせていただきます」

 

 彼女たちの懐の空間が歪み、2体のホムンクルスの手には彼女たちの身長ほどもあるロングソードが握られていた。

 

「シロウ、奴らは戦闘用ホムンクルスだ。

ホーエンハイムは戦闘用に限ればアインツベルンを上回る精度のホムンクルスを作ることが出来る。

十分に用心してくれ」

「ああ。あんたもな。アンドリュー」

「よし、やるぞ。後でリンからのお叱りを受ける覚悟をしておけ」

「……どっちかっていうとその方がキツいな」

「心配するな。今回は僕も一緒にお叱りを受けてやる」

 

 私はそう言い終わるや否や、FN P90を掃射した。

 

×××××××

 

 明らかに芳しくない状況だった。

 私が髪の長いアインを、士郎が髪の短いツヴァイを相手していたが、

ホーエンハイムの戦闘用ホムンクルスの戦闘能力は想像以上だった。

 

 私は取って置きのFN P90から5.7x28mm弾を派手に先制攻撃でばら撒いていた。

 P90は人体を貫通して真っ二つにすることが出来るほどの強力な兵器だ。

 しかし、弾丸は全て叩きおとされて接近戦にもちこまれ、その度に強化したナイフでギリギリロングソードをかわしては空いた手で殴打を食らうというパターンを繰り返し、私は5ラウンド戦った後のうだつの上がらない3流ボクサーのようにボロボロになっていた。

 

 私が何発目になるかわからない殴打をくらって吹き飛ばされて膝をついていると、士郎が私のそばに吹きとばされてきた。

 

「そっちも状況は芳しく無いようだな」

「あいつ、とんでもない力だ。まるでサーヴァントと打ち合ってるみたいだ」

 

 士郎もやはりボロボロだった。彼の特異な魔術をもってしても相手は難敵らしい。

 

「アンドリュー!シロウ!もうやめてくれ!

私とディアーヌが罰を受ければ済む話だ。

元々私の愚かな行いが起こした結果だ、私が受け入れれば済む」

「そうです。もうやめてください。あなたたちの命には代えられません」

 

 ギュンターとディアーヌの悲痛な叫びが聞こえる。

 私は紳士然とした落ち着きはらった態度で言った。

 

「お断りだ。勝てる見込みがあるのに勝負を捨てるなどごめんだね」

 

 実際に勝機は見えてきていた。

 不利な戦いの中、私は戦術を練りつづけていた。それはようやく形になりつつあった。

 私は治癒魔術を自分と士郎に交互にかけながら思考を巡らせ言った。

 

「シロウ、聞いてくれ。

あの銀髪に赤い眼の美女にさんざん殴られているうちに、

イケない趣味に目覚めてしまいそうになりながら、

ひらめいた」

「聞かせてくれ。アンドリュー」

「まず、僕があの2人組を挑発する。

奴らの思考は画一的だ。挑発すれば2人同時に突っ込んでくるはずだ」

「それから?」

「計算通りにあの2人が突っ込んで来たらあの盾を投影してくれ。

そして、僕の合図と同時に投影を解除する。

上手くいけばこれでまず1体だ」

「もう1人は?」

「もう1人はどうにか僕が動きを止める。

止めている間に、君は弓矢を投影してくれ。

動きの止まったところを狙撃だ」

 

 私は士郎の眼を正面から見据えた。

 彼の眼はまだ死んでいない。いつものまっすぐな眼だった。

 

「僕を信じるか?シロウ」

 

 彼は力強く答えた。

 

「ああ、あんたを信じるよ。アンドリュー」

 

 アインが留守電の応答メッセージのような無機質な口調で言った。

 

「まだ続けるおつもりですか?ヘル・マクナイト、ヘル・エミヤ。

このまま続けてもあなた方に勝機はありません。

戦闘中止が賢明な判断と思いますが」

 

 私は荒い息を押し殺しながら言った。

 

「パーティーの趣向を変えないか?」

「どういう意味でしょうか?」

「いや、なに。

1対1ではなく、2対2で戦うのはどうかと思ってね。

パーティーするなら2人より4人の方が楽しいだろう?」

 

 ホーエンハイムのホムンクルスにはユーモアを解する機能がないらしい。

 彼女は表情一つ変えずに言った。

 

「よく意味は分かりませんが、戦闘続行ということですね。

では、お2人をまとめてお相手いたします」

 

 そう言い終わるや否や、2人の戦乙女は地面を力強く蹴り、

弾丸のような勢いで我々のもとに突っ込んできた。

 

「シロウ!」

 

 私が叫ぶと、背後の士郎から魔力が迸るの感じた。

 

熾天覆う七つの円環!(ローアイアス!)

 

 7つの巨大な花弁が地下道いっぱいに広がる。

 突っ込んできた2体は行く手を突如現れた障害物に遮られ、投影された盾にぶつかって止まった。

 

 計算通りだ。

 そして、そのあとの行動も計算通りだった。

 

 戦闘用に意識を作られた2体は、ロングソードを振り上げて目の前の障害物を破壊しようと試み始めた。

 

 ロングソードを振り下そうとしたその刹那、私は再び叫んだ。

 

「今だ!」

 

 士郎が盾の投影を解除する。

 目の前の障害物が突如消えたことに2体のホムンクルスは思考が追い付かなかったらしい。

 振り下ろそうとしたロングソードは力の行き先を失い、前のめってバランスを崩した。

 

 私は懐から取っておきの礼装を装填したトンプソン・コンテンダー・アンコールを取り出すとバランスを崩して倒れかけたツヴァイに向かって発砲した。

 

 ツヴァイは人間離れした反射神経ですでに事態を把握していた。

 しかし、もう遅い。その体勢から回避は不可能だ。

 ツヴァイ自身もそのことを理解しているに違いない。

 

 彼女は回避行動をとる代わりに瞬時に障壁を展開して防御を選択した。

 

 計算通りだ。

 

 私が放ったのはただの銃弾ではない。

 起源弾。

 衛宮士郎の父で魔術師殺しの異名を取った衛宮切嗣が生前に用いていた礼装。

 被弾者の魔術回路に干渉し、術者の肉体を破壊する。

 

 サマセット・クロウリーから士郎が思い出の品として受け取ったこの礼装を

私は万一の事態に備えて士郎から譲り受けていた。

 

 放たれた起源弾は予想通り、ツヴァイの障壁を通して魔術回路に干渉し、彼女の肉体に影響を及ぼした。

 全身から体液を流した彼女は、やがて機能を停止した。

 

 ――これでまずは1体。

 

 私はツヴァイの機能停止を確認すると、アインの行動に意識を向けた。

 彼女はすでに体勢を立て直し、私をサシミにするためにロングソードを振り上げてこちらに向かってきていた。

 

 私は全魔力を身体強化に回すと、突っ込んでくる彼女に向かってチャージした。

 アインとの距離がゼロになる。

 ロングソードが振り下ろされる。

 私は、空になった銃を投げ捨てると両手でロングソードを振り下ろそうとする彼女の懐につっこみ、

ロングソードをもった両手をがっしりとホールドした。

 

 身体強化に全魔力を回していてもその力の差は明らかだった。

 アインの怪力に私は押し込まれ、膝をつく。

 もう何秒ももたないだろう。

 

 だが、時間稼ぎとしては十分だった。 

 全身に力を込めたまま背後を振り返ると士郎はすでに弓矢の投影を終えていた。

 

 竪琴のような形をした優美な形状の弓だった。

 

痛哭の幻奏!(フェイルノート!)

 

 真名の解放とともに矢が放たれる。

 

 フェイルノート。

 円卓の騎士が1人、トリスタンが担った伝説の武具だ。

 「無駄なしの弓」と呼ばれ、

 人間でも獣でも狙った場所に 必ずあたる言われた伝説の武具だ。

 

 矢は神秘的正確さをもってアインに命中し、アインは機能を停止した。

 私は身震いするほどの完璧なウィットで倒れた彼女に言った。

 

「パーティーはお終いだ。中々楽しかったよ。

だが、愛し合う男女の仲を引き裂こうとするとは無粋すぎるぞ、君たち」

 




最後までお付き合いいただきありがとうございます。
次回でエピソード完結です。

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