Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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あのオリキャラがまた出てきます。
つまりものすごく下品です。
苦手な方はブラウザバックしてください。


捜索

 私が士郎と共に消えた魔術師とホムンクルスを探し始めて1週間。

 すでに我々は彼らを捕らえ、ホーエンハイムに引き渡していた――と言いたいところだが実際のところ経過は思わしくなかった。

 

 私と士郎はロンドン中の高級なエリアを歩き回っていた。

 チェルシー、メイフェア、ナイツブリッジ。

 高級ホテルやフラットを私はフーチを片手に、士郎は魔術回路を全開にして結界の痕跡を探った。

 しかし、結界はおろか魔力のカスすら探知できなかった。

 

 高級エリアばかり回ったのはそれが効率的方法と考えたからだ。

 

 私が伝え聞いた第4次聖杯戦争の話だ。当時、時計塔最高の講師であり名門の一流魔術師だったケイネス・エルメロイ・アーチボルトは

高級ホテルのスイートを貸切り、そこに結界を張って拠点としていた。

 私のような人種からすれば、そのような目立つ場所に隠れるのは実に愚かに思えるがそれが名門魔術師という人種だ。 

 

 ギュンター・フォン・ホーエンハイムの人となりについても私は調査していた。

 ホーエンハイム家の遠縁にあたるドイツの家系からやって来た養子。

 幼いころから魔術がすべての世界でその価値観を調教され、魔術以外の物を凡俗と切り捨てる典型的な魔術師。

 ニューヨークではた迷惑な騒ぎを起こした義兄の快楽主義者ハンスとは対称的な人物。

 

 私が伝え聞いた人物像はほぼその様相で一致していた。

 私は人物像を見誤ったのか?

 

「アンドリュー。さすがにやり方を変えた方がいいんじゃないか?」

 

 午前中の探索がまたしても空振りに終わった私と士郎は、パブでサンドイッチのランチを頬張りながらしばしの休息をとっていた。

 士郎からの提案はもっともだった。

 

「そうだな。午後は少し調べものといこう」

 

 私は鉄道警察のツテから交通局の監視カメラ映像を入手する手配をした。

 幸いにして2人がいつユーロスターに乗ったかは分かっている。

 そして、このロンドンは監視カメラだらけだ。

 高度な魔術師でもその目を欺くのは不可能だったらしい。

 

 パリ北駅発のユーロスターでロンドンのセントパンクラス駅ににたどり着いた2人の姿を監視カメラが捉えていた。

 

 2人はセントパンクラス駅から地下鉄に乗り換え、ウエストミンスター駅発の最終列車に乗った。

 

 しかし、それが2人の姿を捉えた最後だった。

 2人が乗った列車が隣のセントジェームズパークに到着したことは映像で確認できたが、その車両に2人の姿はなかった。

 

 ちょっとした、いや、相当なミステリーだった。

 私はその映像を検め、そして頭を抱えた。

 

 士郎が不安そうな表情で私を見ている。

 私は思考を巡らせ、こう一言、実に気の進まない提案をした。

 

「視点を変えてみよう。奴に協力を仰ぐ」

 

××××××××××××

 

翌日、私は士郎を伴い、ロンドン ユーストン駅初、バーミンガム ニューストリート駅行きの列車に乗っていた。

 

「バーミンガムに何があるんだ?」

 

 彼は私の隣で当然の疑問を口にした。

 私は凛を連れて行ったときと同じ注意、すなわちこれから会いに行く人物が訳ありの人物で彼の居場所は他言無用にしてほしい旨、この世で最も下品な生き物である旨を説明した。

 

××××××××××××

 

 マンチェスターと並ぶ英国第2の都市、バーミンガム。

その市街にたち並ぶ無個性な近代的集合住宅の1室の前に我々はいた。

 

 私は分厚いドアをノックして言った。

 

「ホイル、開けてくれ。アンドリューだ」

「今、取り込み中だ!後にしろ!」

「どういう用だ?碌な理由じゃないことは分かってるが一応聞こう」

 

 すると品の欠片もない返答が品の欠片もない声で返って来た。

 

「隣の女子大生の着替えをピーピング中だ!

ちょうどブラを外したところだ!

いいパイオツしてやがる!」

 

 私は毅然として言った。

 

「いいから開けろ」

「冗談だよ」

 

ドスンドスンといういかにも重たそうな足音が近づき、

目的の人物、アラン・ホイルはドアを開けた。

 

 彼いつものように目ヤニだらけの目を見開き、周囲1フィートに唾をまきちらしながら言った。 

 

「よう。元気か、アンディ?

ダチ公よ!」

「僕の名前はアンドリューだ。

親しい者の中にはアンディと呼ぶのもいるが、

君と友達になった憶えはない」

「つれねえな、親友。

秘密を共有する仲だろうよ」

「秘密の共有などしていない。

僕が君の秘密を一方的に守っているだけだ」

「あ?そうだったけか?」

 

 ホイルはそう言うと、体重250ポンドはあろうその巨体の肩を震わせておどけた。

 

「おい。ところでそっちの坊主は……」

 

 ホイルは士郎を見て言った。

 

「この間来た、嬢ちゃんの男か?」

 

 私は驚きと呆れと共に言った。

 

「君はどうして変なところだけ勘が良いんだ?

その質問にはイエスとだけ言っておこう。彼はエミヤシロウ、僕の友人で時々仕事を手伝ってもらっている。

シロウ、彼はアラン・ホイル。限りなくブタに近いが一応、人類だ」

 

 私が両者を紹介すると士郎は愛想よく手を出し、「よろしく」と言った。

 ホイルは士郎の手を取ると――鼻毛が勢いよく飛び出した鼻に近づけ匂いを嗅ぎ始めた。

 士郎は例によって困惑していた。

 

「おい。何をしている。ついにブタの領域に両足を突っ込んだか?」

 

 私が疑問を呈するとホイルは言った。

 

「駄目だ。石鹸の匂いしかしねえ。

嬢ちゃんの男なら指を突っ込んだ時に嬢ちゃんのアソコの匂いが残ってるんじゃねえかと思ったが

期待外れだったな」

 

 そう残念そうに言うと、彼は私と士郎を部屋の中に招き入れた。

 

 士郎はスラングを多分に含んだホイルの発言が分からなかったらしい。

「一体あの人は何を言ったんだ?」と私に疑問を投げかけた。

 私は「知らなくても何の問題もない。忘れろ」と簡潔に答えた。

 

「それで?俺のピンク色の頭脳に何の用だ?」

 

 ホイルは巨体を簡素な回転椅子に押し込めるとダイエットコークとポテトクリスプをむさぼりながら言った。

 注釈すると「ピンク色の頭脳」は彼なりのユーモアだ。

 

 私は事件のあらましをホーエンハイムの名前を省いて説明し、新たな視点が欲しいとの説明をした。

 

「アンディ、いい考えだな。スティーブ・ジョブスも言ってる。『think different』ってな」

「君がそんなまともな人物の言葉を引用するとは意外だ」

「俺が尊敬してる4人の内の1人だからな」

「参考までに聞こう、あとの3人は誰だ?」

「キャプテンクランチ、ラリー・フリント、それとサタデースポートの編集長だ」

 

 私は交通局から入手した監視映像のフッテージを持参したパソコンでホイルに見せた。

 ホイルは監視映像を見ると言った。

 

「このホムンクルス中々可愛い顔してるな。……パイオツのハリも悪くねえ。

ちょっと待ってろ」

 

 そう言うとホイルの手が下半身に伸びた。

 私は不安と共に当然の疑問を呈した。

 

「おい。ナニをする気だ?」

 

 するとホイルは極めてシリアスな表情で一喝した。

 

「マスカキに決まってんだろ!バカかテメエは!

いい女を見たらズリネタにする!常識だろ!」

「そんな常識は知らん!今すぐ止めろ!」

 

 ホイルは満腹状態のブタのようにおどけて言った。

 

「なーんてな!冗談だよ」

「冗談だったとは意外だ」

 

 士郎はスラングを多分に含んだホイルの発言がよくわからなかったらしくただ困った顔をしていた。

 

 ホイルは再び真剣な表情に戻り、映像に目を戻した。

 2人が地下鉄の車両から忽然と姿を消したところまで確認すると、愛用のサーバーマシンに向かい魔力を解放した。

 どうやらどこかのコンピュータセキュリティを破るつもりらしい。

 ディスプレイにはウィンドウが現れては消え、ホイルは創意工夫に満ちた卑猥な言葉を連発していた。

 

「チンカスみてえなセキュリティだな!テメエの臭えアソコに俺の特大のナニぶちこんでやるぜ!

これでも喰らいな!dick(ズコズコ) dick(ズコズコ) dick(ズコズコ) dick(ズコズコ) dick(ズコズコ) dick(ズコズコ) dick(ズコズコ) dick(ズコズコ) dick(ズコズコ)!!!!!!!」

 

 ホイルが9回目のdick(ズコズコ)を言い終えたところで、何かの図面がウィンドウに現れた。

 

「一体何をしたんだ?」

「交通局のシステムをクラックした。アンディ、こいつを見ろ」

 

 私は改めて図面を見た。

 

「駅の図面のように見えるが?」

「ああ、その通りだ。お前はなかなかお利口なファック野郎だな!

こいつは建設途中で破棄された地下鉄の駅の図面だ。

建設予定地はウエストミンスター駅とセントジェームズパーク駅の間。

いいパイオツしたホムンクルスと魔術師はウエストミンスター駅発の最終電車に乗ったが隣のセントジェームズパーク

につく頃には車両から姿を消してた。

隠れ場所としちゃ絶好だと思わねえか?」

 

 私はホイルの明晰な頭脳に改めて感嘆した。

 この男は底なしの変態だが天才でもある。

 私はその相反するものが同居してしまっているアラン・ホイルという男に世界の複雑さ思い知らされ、何も気の利いた言葉が

思いつかなかった。

 

 なのでただ一言、こう言った。

 

「ありがとう。ホイル」

 

 用が済んだ私は改めてホイルに礼を言い、その場を辞した。

 辞する私と士郎の背にホイルは言った。

 

「おい!坊主!アランおじさんからのアドバイスだ!

マスかく時は右手だけでするな!左手も時々は使えよ!

ナニが曲がってくるぞ!」

 

 士郎はやはりスラングを多分に含んだホイルの発言がよくわからなかったらしい。

 私に「あの人は何を言ってるんだ?」と聞いた。

 私はやはり「知らなくても何の問題もない。忘れろ」とだけ答えた。

 士郎は今一つ納得のいかない顔をしたが、従い、そして別の事を口にした。

 

「よくわからなかったんだけど、つまり破棄された地下鉄の駅を探せばいいんだな?」

 

 私はまたしても簡潔に答えた。 

 

「それだけわかっていれば十分だ」

 

 士郎は再び疑問を呈した。

 

「ところで、あの人が言ってたpeeping tom(覗き魔)とかtoss off(マスカキ)とかwank(マスカキ)って言うのはどういう意味なんだ?」

「君が中学生ぐらいのころに夢中になっていたものだ。

君は中学生の時、何に夢中になっていた?」

「正義の味方になることだ」

「そうか。ではそれでいい」

 




4回で終了予定でしたが5回になりそうです。
今月中には完結させる予定です。
しばしお付き合いください。
また、姉妹編の『magus hunter 紐育魔術探偵事件簿』もご愛顧いただけると望外の喜びです。
次回はまた1週間ぐらい間が空く予定です。

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