設定―英国の風物について5
・アーサー王伝説
この小説を読んでいる方は全員、fateが好きな方だと思いますので、アーサー王について全く知らないという方はいらっしゃらないでしょう。
アーサー王は6世紀の初めごろにケルト系の土着民族であるブルトン人を率いてサクソン人の侵攻を退けたと語られている人物です。
しかし、その存在は眉唾物で実在したかどうかはかなり怪しく、複数の人物をモデルとして創作された人物と一般的には考えられています。
なんていう事は常識だと思いますので、本編の蛇足ついでに一つ。
アーサー王が実在したかどうかは歴史家の間で長年議論の的となっていますが、そのモデルとしてもっとも有力と言われているのが、ルキウス・アルトリウス・カストゥスです。
アルトリウスは古代ローマの軍人でしたが、ハドリアヌスの長城(イングランド北部にあるローマの遺物。現在は世界遺産として観光名所になっている)で警備につき、現在の英国に滞在していた時期があったと考えられています。
比較的近年の学説に「アーサー王=アルトリウス・カストゥスである」というものもあり、アントワーン・フークワ監督の『キング・アーサー』はこの学説に基づいて構成されています。
そのため、アーサー王伝説を下敷きにした映画は、魔術や聖剣の登場するファンタジックなものが多いのですが、『キング・アーサー』は歴史ものっぽい作りになっています。
マーリンも出てきますが、マーリンは魔術を使いません。
ちなみに、セイバーの本名であるアルトリアはアルトリウスをもじったものと考えられます。
・B&B
Bed & Breakfastの略。
文字通り、ベッドと朝食が提供される宿泊施設。
家族経営など小規模で経営されていることが多く、日本で言うとペンションにあたる。
ロンドンなどの都会にはあまりなく、田舎に多いのが特徴。
当たり外れがありますが、あたりを引くと料理自慢のお母さんが作った美味しいイングリッシュ・ブレックファストにありつけることがあります。
・古英語
古英語=Old English
アングロ・サクソン人がかつて操っていた言語で、現在の英語の原型になった言葉。
アングロ・サクソンは6世紀ごろにブリテン島にやって来たアングル、サクソン、ジュードの三民族の総称です。
アングロ・サクソン人は現在のドイツがあるあたりからやって来たゲルマン系の民族で、当然、彼らが操っていた言語もゲルマン系の言語でした。
古英語はもはや失われた言語ですが、古英語で書かれた文書は残っており、現存する最古のものが北欧発祥の伝承を基にした長編叙事詩『ベオウルフ』です。
私は大学院時代に古英語を半年だけかじったことがあります。
授業で『ベオウルフ』の朗読CDを聞いたことがありますが、とても堅い響きで、予備知識なく聴いたらドイツ語と誤認しそうなくらいドイツ語によく似た響きでした。
文法も名詞の性・数一致があるなど英語よりドイツ語に近いです。
その後のノルマン・コンクエスト(1066年)で今度は、フランス系のノルマン人がブリテン島の支配者となり、英国の公用語はフランス語になります。
しかし、情報伝達の遅い中世、一般市民まではフランス語が広まることはなく、やがて古英語とフランス語はまじりあい、中英語(Middle English)へと変化。
さらに時代を経てシェイクスピア(1564-1616)の時代には現代とさほど変わらない近代英語(Modern English)に変化し、ここに英語の原型が完成します。
ちなみに、作中でセイバーが古英語を話したと書いてしまいましたが、よく考えたらアーサー王伝説はウェールズが発祥で、アーサー王はケルト系のブルトン人という言い伝えでした。
ということは、仮にアーサー王が実在したら、古英語ではなくケルト系言語であるウェールズ語を話したはず……
申し訳ない。ここまで書いたところで気づいてしまいました。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
これで『fate/in UK』はいったんお終いにします。
まだネタはありますが、どうにも書くための完璧なモチベーションが起きてこず、少し寝かせることにしました。完結するわけではなく、遅くとも今年中には次のエピソードをアップしたいと考えています。
また、姉妹編にあたる別所掲載中のオリジナルSS『magus hunter 紐育魔術探偵事件簿』ですが、こちらは随時更新します。(姉妹編と言いつつも、平行世界ですらない全く別世界の設定ですが)、設定を変更して『Fate/in UK』のオリキャラが何人か出てきますので、読んでいただけると作者としては望外の喜びです。
では、またお会いしましょう。
いったん失礼します。