Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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今回はシリアス一辺倒です。
そして今回でエピソード完結です。


最期

 ロンドンに戻る車内、凛は研究の空き時間を使って協力することを自ら提案してくれた。

 

「正直、心強い。

士郎では暗示への耐性に疑問が残るが、君なら問題ない。

自分の身を守る術も持ち合わせているしね」

 

 私が素直にその提案を受けると彼女は言った。

 

「あなた、最初からそのつもりだったんじゃない?」

「やはり君は聡明だな」

 

 私はエルバに凛を紹介し、犯人の動機と正体について推理を交えた説明をした。

 

「犯人の名前はケネス・モーティマー。パッとしない家系出身の魔術使いだ。

元SASで、名前は伏せるがとある情報機関に雇われて中東各地で非合法な暗殺活動に従事していた。標的はテロ組織の資金源と目されていたパワーエリートだ。

統合失調症を患って入院していたが、1週間前になぜか失踪している。

入院と共に情報機関をお払い箱になっていたが、精神が摩耗した今もモーティマーは愚直に標的を狙い続けている。

次もまた、身なりの良い中東系の男を狙うはずだ」

 

 私から説明を受けたエルバはすぐに人員を集め、作戦を立案した。

 

 エルバが車両内で監視カメラをモニタリング、

 私と凛に加え、私服捜査員が過去2件の事件が発生したエリアで張り込み。

 私か凛がモーティマーを発見した場合は、そのまま確保。

 捜査員がモーティマーを発見した場合は、暗示に耐性のある私か凛を呼ぶ手筈となった。 

 

 連絡用に警察の通信機を渡された凛はやはり使い方が分からなかった。

 私は代案として用意していた小ぶりな宝石を彼女に渡して言った。

 

「これに君の魔力を込めてくれ」

「込めてどうするの?

……まさか飲み込むつもり?」

「そうだ。簡易的にパスをつないで知覚を共有する。

僕の知覚を通して、捜査員の声も聞こえるはずだ。

できれば宝石を飲み込むのはご免だが、君に通信機の使い方を教えるのは不可能と判断した。やむを得ない」

 

 凛は申し訳なさそうに渡された宝石に魔力をこめ、私に戻した。

 

×××××

 

 作戦は開始された。

 しかし、1日目、2日目とモーティーマーの姿が視認されることはなく、静かな夜が続いた。

 

 そして作戦を開始した3日目の夜。

 深夜のシティは流石にいくらか人通りも少なく、テムズ川から吹き込む夜風と自分の足が石畳を叩くコツコツという乾いた音が心地よかった。

 

 時刻は午前1時を回る。

 深夜のシティは昼間と違い人影はまばらだが、ロイズの高層ビル群は煌々と輝きを放ち、セントポール大聖堂は変わらぬ威光を放ち続けていた。

 今夜も何もなしか。

 

 そろそろ引き上げの合図が来るかと思ったその時、私のインカムにエルバの低くいかつい声が響いて来た。

 

「マクナイト、捜査員の1人がモーティマーを視認した」

「距離と方角を教えてくれ」

「10時の方向。およそ200フィート先の路地裏に入って行った」

 

 指示された方向を見やると、小道にフラフラといかにも高級そうなスーツを着た男が入っていくのが見えた。

 

「エルバ、奴の標的と思しき人物を視認した。

リン、君は来なくていい。後は僕1人で大丈夫だ」

 

 私は全力で駆け出し、男が入って行った路地裏を目指す。

 そこはレンガ造りの建物に囲まれた小道だった。

 私の視界に、がっしりした体型で目深に帽子をかぶった男が手に鋭く光るファイティングナイフを持ち、4000ポンドはしそうなスーツを着た中東系の男にその切っ先を向けている光景が飛び込んできた。

 

「ケネス・モーティマー!」

 

 私はヒップホルスターからH&K USPを引き抜き、モーティマーに銃口を向けて言った。

 モーティマーは振り下ろしかけていたナイフを止めた。

 私は努めて穏やかに言った。

 

「君は十分やった。もう戦わなくていいんだ」

 

 モーティマーの手に光るナイフはまだ動きを止めている。

 私は続けて言った。

 

「ケネス。君は疲れてるんだ。さあ、病院に戻ろう。

――大丈夫、きっと時が癒してくれる」

 

 私がそう言うと、標的に顔を向けていたモーティマーがこちらを振り向いた。

 

×××××

 

「アンドリュー……」

 

 私は背後の凛を振り返ることなく言った。

 

「リン、見ない方が良い」

 

 私の銃口からは硝煙が立ち上り、100フィート先には血に濡れたモーティマーの遺体が横たわっていた。

 4000ポンドのスーツの男は恐怖にガタガタと震えている。

 

「……救いたかった。だが無理だった。

――あれはもう終わった人間の目だった」

 

 捜査員たちと野次馬が近づいてくる音が聞こえる。

 だが、私にはそれがどこか遠くで起きている出来事のように感じた。

 私に確かな感触として残ったのは発砲した銃の反動と、立ち上る硝煙の匂い。

 そして、また血を流してしまったことへの後悔だけだった。




最後までお読みいただきありがとございます。
次回、1度オマケをやった後、本流の同人的展開に戻ります。
完全に趣味に走ってしまい、fateの名前に釣られてきてしまった方はすいません。

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