ほとんどオリキャラしか出てきません。
凛が出てきますが、ほとんど活躍せず。
しかも、自作のmagus hunter 紐育魔術探偵事件簿で1回こすったネタ。
とは言え、ほぼほぼすべての設定を変更したので、別物もといリメイクと思って
読んでいただけると幸いです。
寛大な方は先にお進みいただき、無理という方はそっとブラウザを閉じてください。
では、どうぞ。
殺人
シティ・オブ・ロンドン。
英国経済の中心地。
そして、ニューヨークのウォール街と並ぶ世界経済の中心。
乱立する近代的な高層ビルに交じって、18世紀の遺物であるセント・ポール大聖堂が屹立する
光景は、この街ならではのものだ。
近代的高層ビルが隙間なく立つこのエリアだが、1本路地を入ると、小さな古い建物や、細くて暗い、人通りの少ない場所がある。
夜遅く、私が呼び出されたのはその暗がりの1つだった。
「マクナイト。
急に呼び出して済まない」
シティ警察の警察車両と防護服を着た鑑識員の隙間から、6フィート5インチの巨体を窮屈そうに滑り出させ、40がらみの浅黒い肌をしたスーツの男が歩み寄って来た。
「あなたたち警察の呼び出しが急でなかったことなど1度もない。
別に構わんさ、エルバ」
男の名はジェームズ・エルバ。
シティ警察の刑事で、シエラレオネ移民の父と、没落した魔術家系出身のイングランド人の母を持ち、私が非公式に顧問を務めるシティ警察の窓口となっている人物だ。
エルバは私を立ち入り禁止のテープの内側に招き入れると、血まみれで倒れている1000ポンドはしそうなスーツを着た男について淡々と話し始めた。
「ガイシャはアシフ・アフマド。
パキスタン系英国人で債券のブローカーだ」
私は、血まみれの遺体に一瞥くれて言った。
「せっかくのスーツが台無しだな」
生真面目なエルバは私のユーモアを無視して言った。
「ガイシャは脇の下を複数回にわたって刺されている。
検視官の見立てでは、死因は失血性ショック死。
凶器は刃渡り3インチの刃物だ」
「そうか」とおざなりな返事をしようとしたところで、
私は1つのことに気づいた。
「待て、確か新聞で読んだ。3日前に同じような事件が起きてるな」
「ああ。その通りだ」
3日前、エミールが読み終えたイブニング・スタンダードを貰った私は、
その紙上で同様の手口の犯行が同じくこのシティで、同じ時間帯に起きたことを知っていた。
1件目の被害者はインド系英国人で、株式のブローカー。
首筋を複数回に渡って鋭利な刃物で刺されて失血死していた。
監視カメラには犯人と思しき人物が帽子を目深にかぶっているのが映っていたが、
特定には至らず、こうして2度目の犯行は実現に至ってしまった。
メディアは「Jack The Ripper in 21st Century?(21世紀の切り裂きジャックか?)」
と騒ぎ立てていたが、2件目の犯行が明らかになった今、見出しの最後についたクエスチョンマークは消えることだろう。
「しかし、なぜ僕を呼んだ?
難事件だが、特に神秘は感じない。
これから一緒にソーホーのストリップパブに繰り出して泥酔しようという
お誘いが目的なら大歓迎だが、あなたはそういう事をするタイプじゃないだろ?」
その疑問に対して、エルバはただ一言シンプルに答えた。
「見て欲しいものがある」
×××××
私はビショップスゲートの署にある、エルバのデスクに誘われた。
エルバはデスクのPCを起動させると、私に防犯カメラの映像を見せた。
ロンドンは街中監視カメラだらけだ。
完全な死角に入るのは難しい。
「1件目の犯行の後、現場の監視カメラ映像を徹底的に調べてみた。
こいつを見てくれ」
見せられた映像は、わき目もふらず足早に歩いていた1件目の被害者
――こちらは3000ポンドはしそうなスーツを着ている――が
突如何かに引っ張られるようにフラフラと路地裏に入っていく姿だった。
「どう見ても暗示だな」
「ああ。これは君の管轄だろ。マクナイト」
私は再度、監視映像を検め、思考を巡らせると言った。
「やはりどう見ても暗示だ。
だが、それだけでは難しいな。
暗示は極めてありふれた魔術だ。
3流魔術師でも、一般人に暗示を投げかけて行動を操るのは難しくない。
実際、現場には神秘の痕跡がほぼ感じられなかった」
「他にも分かってることはある。
このホシの手口について調べた。
新聞を読んだのなら君も知っていると思うが、
1件目のガイシャは首筋、今回の被害者は脇の下を集中的に何度も刺されている。
このやり口について調べてみたが、これは特殊工作員が用いるメソッドだそうだ」
「特殊工作員?」
「ああ。
首筋も脇の下も体表近くを太い静脈が流れている個所だ。
何度も刺すと、効果的に大量に出血させることが出来る。
大量に出血させることで見たものに恐怖心を植え付ける演出だ」
私は彼の提供してくれた情報を頭の中で反芻すると言った。
「ということは、魔術を使えるプロの殺し屋、或は元プロの殺し屋を探せばいいということだな?」
「ああ。そうだ。君なら知り合いにそういう分野に詳しい人間もいるだろう?
調べてみてくれないか?」
×××××
エルバから依頼を受けた私は、エミールのホテルに戻ると
この手の分野に詳しい大西洋の向こうの知人に電話をかけた。
現地との時差はマイナス5時間。
こちらは真夜中だが問題ないはずだ。
「Hello<はい>」
地獄の底からサタンが呼びかけるような凶悪なドスの利いた声で目的に人物が電話に出た。
「やあ。マシュー。アンドリューだ」
「おう。アンディか。相変わらずヨークシャープディングだかスターゲイジーパイだか、
よくわからん不味そうなもん食ってるのか?」
「ダイエットと称してダイエットコークを大量摂取してるような連中には言われたくないね」
「違えねえ!」
そう言って、電話の相手、マシュー・ロセッティは麻薬カルテルの親玉が自分を捕まえられない捜査官を
嘲笑うような凶悪な笑い声を響かせた。
マシュー・ロセッティはニューヨークを拠点にするベテランのハンターで、
娘のアンナ・ロセッティと共に荒事を得意とする腕利きとして名を馳せている。
魔術の腕は特別優れているわけではないが、野生のオスゴリラがアームレスリングをしたら悲鳴をあげそうなほどのバカ力を持ち、その特技を生かした荒っぽい手口を好むため、外道魔術師の間では「何が何でも捕まりたくない相手」と恐れられている。
外道魔術師を捕まえるハンターに専念する前は、傭兵として世界各地の紛争地帯を回っていたこともあり、魔術師というよりも、魔術を使う殺し屋と言った方が適当と思われる今回の犯人像に迫るには、アドバイスを受けるに適切な相手だ。
私がエルバから協力を依頼された件についてかいつまんだ情報を伝えると、マシューは言った。
「魔術師と言うより、魔術を使えるプロの殺し屋だな」
「ああ。そうだ。あなたならそういう人物に心当たりがあるんじゃないかと思ってね」
マシューは便秘に悩み続ける野生のオラウータンのような唸り声を上げると言った。
「そういう奴らなら何人か知ってるが、全員、死んだか引退してる。
心当たりはねえな」
「そうか」
「ああ、悪いな。まだ現役で傭兵やってるロバート兄貴なら何か知ってるかもしれねえが、兄貴は今、電波の届かねえ南米の山奥だ」
「タイミングが悪かったな」
「……CIAだかMI6だかのデータベースにアクセスできれば簡単なんだろうがな」
そう言われて、私は1人の人物の存在を思い出した。
「ありがとう。マシュー。助かったよ」
「何?こんな情報でいいのか?」
「ああ、大いに助かった」
そう礼を言うと私は電話を切ろうとしたが、先日、仕事を共にしたマシューの娘のことを思い出し、近況を聞いた。
「実は喧嘩しちまってな」
「今度は何が原因だ?」
「俺の体重が増えすぎて、ついにバスルームの便器を壊しちまった」
「それはあなたが悪いな」
「なあ、アンディ、お前仲裁しに来てくれねえか?
口八丁で人を煙に巻くの、得意技だろ」
「断る。800ポンドのベンチプレスを余裕で成功させるメスゴリラと握力計をクラッシュするオスゴリラの喧嘩に割って入るのは自殺行為だ。
あなたたち2人に殴られたら僕はニューヨークからヨンカーズあたりまで吹き飛ばされる自信があるよ」
私はそう言うと再度の「ありがとう」と共に電話を切った。
そして朝を待ち、2人の人物に電話をかけた。
×××××
翌日、私は若い友人であり、助手として協力してもらったこともある遠坂凛とともに、
ロンドン ユーストン駅初、バーミンガム ニューストリート駅行きの列車に乗っていた。
「バーミンガムに何があるの?」
彼女は私の隣で当然の疑問を口にした。
私はその質問に1人の人物の名前を回答として提示した。
「アラン・ホイルだ」
「アラン・ホイル……って!封印指定の魔術師じゃない!
ちょ、ちょっと!私をそんな人に会わせていいの?」
「問題ないと判断したから連れて来たんだ。
君は魔術の発展を理由に人を売るようなタイプじゃない。
そうだろ?」
「……そうだけど」
彼女の同居人であり、ボーイフレンドで助手でもある衛宮士郎は、封印指定を受けてしかるべき異能の持ち主だ。
まっとうな魔術師ならば、即、魔術協会に引き渡しているところだが、彼女はそうしなかった。
典型的な魔術の世界とは距離を置いている私だが、名家の家督を継ぐ存在でありながら彼女の事を懇意にしている理由はそういった人格にある。
「私を連れてきた理由は?」
「ホイルの魔術は見物だ。
君なら興味を示すのではないかと思ってね」
彼女は少し嬉しそうだった。
やはり、魔術の見分を広めることには興味があるらしい。
「リン。2つ忠告しておくことがある」
「何かしら?」
「まず1つ目。分かっているとは思うが、今日、見聞きしたことは他言無用だ」
「ええ、わかっているわ」
「それともう1つ、こっちはもっと重要だ」
凛の顔に緊張が走った。
相手は封印指定を受けるほどの魔術師だ。
対面するうえで気を付けることとなれば、どんな恐ろしい相手かと想像を巡らせるのも当然だろう。
「奴は僕が知る限りこの世で最も下品な生き物だ」
凛の表情がまた変わった。
彼女はコロコロと表情が変わる。
今度は明らかに拍子抜けした顔だった。
「……えっと、わざわざ忠告するぐらい下品って、どのくらい?」
「君が今までに会ったもっとも下品な人物を思い浮かべてみろ」
「……浮かんだわ」
「思い浮かべたらそれを3倍にしてくれ。
これから会うのはそれぐらい下品な生き物だ」
彼女の表情は、今度は与えられた情報をどう処理していいか困惑している表情に変わっていた。
凛の表情とともに、車窓から見える光景も変化していた。
列車は長閑なイングランドの田園風景を抜け、近代的で無個性な集合住宅が立ち並ぶエリアに差し掛かっていた。
目的地は近い。
あと2回ぐらいで完結します。